公設の温浴施設が過渡期を迎えている。本誌1月号で既報の通り、北塩原村は「ラビスパ裏磐梯」を年度末で廃止する方針を示している。実は、近隣町村でも温浴施設を廃止したり、民間譲渡して存続を図ったりといった事例が増えている。会津美里町の事例を中心に、近隣の公設温浴施設の状況をリポートする。
会津美里町は民間譲渡で存続

本誌1月号に「北塩原村 ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情」という記事を掲載した。同施設はウオータースライダーを備えたプール、天然温泉、食事・休憩スペース、フィットネスジム、山塩などの同村の名産品を扱うショップがある健康増進複合施設で1996年にオープンした。村の所有で、運営は第三セクターの㈱ラビスパが担っている。同施設はオープンから30年近くが経ち、建物や内部設備の老朽化が課題となっていた。ただ、改修には10億円規模の予算が必要になるため、議会を交えて慎重に協議してきた。
そんな中、昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に行われた全員協議会で、遠藤和夫村長から「廃止」の方針が示された。その理由として、①この間の経費増、営業収支のマイナス拡大から、判断を先延ばしにすることはできないこと、②人口減少対策として、子育て対策、住環境向上、福祉の充実、観光人口拡大を最優先して実施するため、③老朽化した建物設備の修繕に多額の費用を要するため、④将来を見据えたとき、営業収支を維持するのが難しいこと――等々の説明があった。
同施設は1月31日で閉館し、同日に開かれた臨時議会では、「温泉健康増進施設条例」の廃止案が提出された。ある村民によると「赤字続きだったのは間違いないから、おそらく議会も廃止に反対しないだろう」と話していたが、採決の結果、同条例廃止案は賛成ゼロ(全員反対)で否決された。理由は、臨時議会前にラビスパ裏磐梯の指定管理者になっている第三セクター㈱ラビスパの株主総会が行われ、そこでラビスパ裏磐梯廃止の方針を伝え、理解を得たこと。
同日の臨時議会を傍聴した村民によると、議員から「ラビスパ裏磐梯は村の施設であり、㈱ラビスパの施設ではない。なのになぜ、議会に諮る前に㈱ラビスパ(の取締役会や株主総会)で廃止を決めたのか。議会軽視ではないのか」といった指摘があり、議会の猛反発を招いたのだという。その結果、条例廃止案は否決されたのだ。
今後、再度条例廃止案を提出する見込みで、不透明な部分はあるものの、実際問題として施設は閉鎖されており、「廃止」の方針に変わりはないようだ。
実は、同村の近隣町村でも、公設温浴施設を廃止したり、民間譲渡して存続を図った事例がある。その主なものをまとめたのが別表。このうち、会津美里町の事例を中心に公設温浴施設の状況を見ていきたい。
主な公設温浴施設のオープン年と近年の動き
施設名 | オープン年 | 対応 | |
北塩原村 | ラビスパ裏磐梯 | 1996年 | 廃止方針 |
西会津町 | 温泉健康保養センターロータスイン | 1992年 | 改修予定 |
会津坂下町 | 糸桜里の湯 ばんげ | 1995年 | 廃止済み |
会津美里町 | 高田温泉あやめの湯 | 1995年 | 廃止済み |
本郷温泉湯陶里 | 1995年 | 民間譲渡 | |
新鶴温泉んだ | 1990年 | 民間譲渡 |
会津美里町は、2005年に大沼郡の会津高田町、会津本郷町、新鶴村の3町村が合併して誕生した。合併前の各町村では、会津高田町に「高田温泉あやめの湯」、会津本郷町に「本郷温泉湯陶里」、新鶴村に「新鶴温泉健康センター」と、それぞれ公設温浴施設があったことから、合併後は1つの町で3つの公設温浴施設を抱えることになった。なお、運営は町振興公社が担った。
廃止と民間譲渡

そんな中、総務省は2014年に全国の自治体に対して「公共施設等総合管理計画」の策定を求めた。人口減少や少子高齢化の進行などによって社会構造や住民ニーズが大きく変化していること、高度経済成長期に整備された公共施設が老朽化・耐震性不足に伴う改修・更新を迫られていること、財政的な部分から公共施設の維持管理のあり方を整理すること――等々が目的。
これに基づき、同町は2016年3月に「会津美里町公共施設等総合管理計画」を策定した(2022年3月改定)。その中で、温浴施設については、「温泉施設としての設置目的や意義が希薄化し、人口の減少等により将来的な利用が見込めない施設について整理し、統廃合や解体、売却等を行うことにより、温泉施設の保有総量縮小を推進する」と記載されている。
個別の施設に対する基本方針は以下の通り。
○新鶴温泉健康センターの整理・統合▽新鶴温泉健康センターは、耐用年数を迎える2021年度までに、民間への貸付、譲渡又は売却を推進する。2021年度までに、民間への貸付、譲渡又は売却ができない場合は、新鶴温泉健康センターを「ほっとぴあ新鶴」(※編集部注・新鶴温泉健康センターに隣接する会議室やレストランを備えた宿泊施設)に統合し整備する。
○ほっとぴあ新鶴の整備▽「ほっとぴあ新鶴」は、2031年度までの耐用年数となっているが、個室を希望する顧客に対応できないなど、現在の利用者ニーズに対応できていない状況であり、また、施設・設備が老朽化しており、修繕費等維持管理に要する経費の増大も見込まれ、宿泊施設の少ない本町にとって、大変重要な施設であるので、真に必要な施設として位置づける。ただし、他施設と同様に2021年度までは、民間への貸付、譲渡又は売却を推進し、民間活用ができない場合は、隣接する「新鶴温泉健康センター」と統合し、新たな付加価値を持たせた観光型温泉施設として2022年度以降に整備を行う。なお、施設整備にあたっては、民間活用も含めて検討することとし、施設運営については、指定管理制度を活用する。
○高田温泉あやめの湯及び本郷温泉湯陶里の整理・廃止▽2025年度に耐用年数を迎える「高田温泉あやめの湯」及び「本郷温泉湯陶里」は、老朽化により修繕費等維持管理に要する経費が増大し、財政負担が懸念されるため、民間への貸付、譲渡又は売却を推進する。民間活用ができない場合は、2025年度をもって廃止する。また、2021年度までに民間への貸付、譲渡又は売却ができない場合は、「ほっとぴあ新鶴」の温泉施設工事の完成までの補完施設として位置づけ、利用料金の改定、営業日数・時間やサービス業務内容などを大きく見直し、経費の削減を図りながら、2025年度まで運営する。
こうした基本方針に従い、町は温浴施設の整理・廃止に向けた協議を行い、最初に2021年3月に、本郷温泉湯陶里を民営化した。その前年に買い手を公募し、3社の応募があった中から、町選考委員会が経営能力などを踏まえて、売却先を「ニューデジタルケーブル」(岩手県花巻市)に決定した。売却価格は1600万円。同年4月、新しい運営会社のもとでリニューアルオープンした。
ニューデジタルケーブルのHPを確認したところ、同社はケーブルテレビの運営会社。その同社が温浴施設運営に携わるようになったきっかけは何だったのか。HPに記載された電話番号にかけてみたところ、岡山県の「Tikiナビトラベル」という会社に転送された。
どうやら、Tikiナビトラベルが親会社で、ニューデジタルケーブルはその関連会社に当たるようだ。Tikiナビトラベルは旅行業で、岡山県内で温泉・宿泊施設を運営しているほか、公設温浴施設の指定管理委託を受けている。
本郷温泉湯陶里については、施設所有者はニューデジタルケーブルだが、運営はもともと他所で温浴施設運営の実績があるTikiナビトラベルが担っていることが分かった。
本郷温泉湯陶里に問い合わせたところ、「町の運営から離れてもうすぐ3年になりますが、以前と変わらず町民・近隣住民の方をはじめ、旅行者の方などに利用してもらっています」とのこと。
一方、高田温泉あやめの湯は昨年3月末で廃止となった。
町産業振興課によると、「オープンから30年近くが経ち、湯量の問題が出ていました。そんな中、町公共施設等総合管理計画に基づき、廃止することになりました」という。現在は、検討委員会で跡地利用について検討している。
新鶴温泉の買い手に聞く

もう1つの新鶴温泉健康センターは、隣接するほっとぴあ新鶴と合わせて、本郷温泉湯陶里と同様、2021年に買い手を公募した。応募があったのは1社で、これも本郷温泉湯陶里のときと同様、経営能力などを踏まえて、唯一の応募者への売却を決めた。売却先は共生(会津若松市)で、売却価格は400万円。
昨年4月、温泉棟と宿泊棟を一体化し、ラウンジや売店、宴会場、レストランなどをリニューアルし、「新鶴温泉んだ」に名称を変更してオープンした。

新運営会社の共生は、2002年設立。資本金2000万円。送電鉄塔・電線など建設・保守業務が主な業務。そんな同社がなぜ、温浴・宿泊施設を買い受けたのか。
同社の菅家薫社長はこう話す。
「よく、『どうして、温泉の運営をやってみようと思ったの?』と聞かれますが、『やってみよう』というのとは少し違います。まず、町が民間の引き受け手を探してもなかなか見つからないという現実があります。実際、ここ(新鶴温泉の公募)もウチしか手を挙げませんでしたから。一方で、人口減少が顕著な中で、これからの地方行政のあり方を考えたときに、こういう人が集まる場所、住民の憩いの場所をなくしてはいけないと思いました。ですから、地域づくりの助けになりたいという思いの方が強いですね。同時に、行政はどうしたら税収が上がり、必要な事業ができるかを考えていかなければならないと思います」
菅家社長によると、「同施設は会社からクルマで5分くらいで、もともと利用者だった」という。そんな中で、「何とか続けて、つなげていきたいと考えた」というのだ。

一方で、菅家社長はこうも話した。
「買い取りとリフォームで相応の費用がかかりましたし、建物が古いので予想していないこと(修繕等が必要な部分)もありました。また、源泉は42度で100㍍くらい離れていますが、冬期は施設に引っ張ってくるまでに2〜3度下がってしまうため、再加熱が必要です。いまは燃料高でその費用も大変です。金額は伏せますが、相当な初期投資がかかったのと、思いの外、経費がかかるなというのが正直なところです」
記者が「間もなく、1年になるがやっていけそうという手応えは?」と尋ねると、菅家社長は「やっていけるかどうかより、やっていかないといけないと思っています」と明かした。
本誌が取材で訪ねたのは平日の午前中だったが、年配者を中心に結構な利用者がいた。以前からよく来ているという女性利用者に話を聞くと、「(運営が町から民間に変わったが)町(振興公社)が運営していたころと、特に変わったところはないですね」とのこと。別の利用者にも聞いてみたが、「入口が変わったくらいで、以前と同様に利用させてもらっているよ」と話した。
菅家社長によると、「平日の夕方以降や土日は家族連れも多い。中でも、サウナが人気」とのこと。
引き継ぎに当たり、支配人は新たに配置したが、従業員はそのまま継続して雇用した。
今後に向けては「会津人参を使った料理等を提供したい」という。
会津人参は、別名「おたねにんじん」とも呼ばれる薬用人参。会津地方では江戸時代から栽培され、滋養強壮や疲労回復などの効果があることから、漢方薬の原材料として利用されてきたほか、会津人参を使った創作料理も提供されてきた。
「近年はだいぶ生産が少なくなり、消えつつありますが、地元の農業高校と連携して、栽培・活用していきます。今後は、温泉んだのレストランで会津人参を使った料理等を提供したいと思っています」(菅家社長)
こうして、会津美里町では、3施設のうち1つは廃止、2つは民間譲渡によって存続させた。民間譲渡された2施設は、民間ならでは新たな仕掛けが生み出されることが期待されている。
そのほかの事例

以下は、表に示したそのほかの公設温浴施設の状況について述べていきたい。
会津坂下町は2022年3月末で「糸桜里の湯 ばんげ」を閉鎖した。同施設は1995年にオープンし、町民や近隣住民に親しまれてきた。ただ、建物が老朽化し、場所によっては雨漏りなどがあったことや、ボイラー更新など、多額の修繕費用を要することから閉鎖を決めた。2022年3月議会で、「糸桜里の湯ばんげの設置及び管理に関する条例を廃止する条例」が提出され可決。これにより、正式に廃止となった。
町政策財務課によると、「昨年1月、民間事業者を対象に、公募型プロポーザルを実施しましたが、応募はありませんでした」という。
昨年12月議会では、糸桜里の湯ばんげ跡地の利活用に関する一般質問があり、その中で町当局からは「(2023年)夏に首都圏で飲食店を展開する事業者から問い合わせがあり、施設内覧、関連資料提供をしたが、その後返事はない」との答弁があった。なかなか譲渡先が見つからないのが現状のようだ。町では今後も譲渡先を探していく、としている。
西会津町は改修して存続
一方、これまで見てきた事例では廃止のほか、民間譲渡によって完全に行政から運営が離れたケースを紹介したが、今後も行政として温浴施設を運営していく方針を示しているところもある。それが西会津町だ。
同町には「温泉健康保養センター ロータスイン」があり、町振興公社が運営を担っている。同施設は現在、沸かし湯での運営となっている。同施設のお知らせでは、「(2023年)7月31日から当面の間、源泉の復旧工事対応のため、沸かし湯での運営となります」と告知されている。
一方で、同町の「公共施設等総合管理計画」(2017年策定、2022年改定)には次のように記されている。
「(温泉健康保養センター ロータスインは)源泉かけ流しの温泉を有する宿泊施設で、健康増進と福祉向上及び地域の振興を目的とした重要な施設であることから、周辺施設であるさゆりオートパークなどと一体的に、親しみやすく気軽に利用できる施設づくりを進めています。また、レクリエーション施設・観光施設と同様、指定管理者制度の導入などによりコストの縮減に努めています。今後も施設の安全を維持していくため、老朽箇所の修繕・改修を計画的に実施するとともに、機能強化・長寿命化を図っていきます」
健康増進、福祉向上、地域振興のために必要な施設で、修繕・改修を計画的に実施して、機能強化・長寿命化を図ると明記されている。
こうした方針に基づき、昨年12月議会では、温泉井掘削工事の設計委託業務に関する補正予算案が提出され可決された。事業費は約305万円。
町商工観光課によると、オープンから30年超が経ち、温泉が出にくくなっているのだという。そこで、公共施設等総合管理計画に基づき、新たな温泉井掘削工事のための、積算を行い、それを経て、掘削工事に入ることになるようだ。事業完了は2025年度の見込み。
ある町民からは、「温泉井掘削工事を含めた改修費用は数億円規模になると思われるが、近隣では廃止や民間譲渡した事例もある中、西会津町でもそういったことを検討すべきだったのではないか」との声も聞かれたが、町の方針は前述の通り。議会での関連予算の審議でも、特に疑義は出なかったようだ。もっとも、昨年12月議会で審議された補正予算は設計委託業務で、それによって実際にどのくらいの予算がかかるかが示される。その金額によっては、この町民が話したような議論も出てくるかもしれない。
以上、近年動きがあった会津地方の公設温浴施設の現状を見てきたが、ある識者はこんな見解を述べる。
「昭和から平成にかけて、竹下登内閣の時代に『ふるさと創生事業』として、地域振興のために使ってほしいということで、各市町村に一律1億円が交付されました。その使い道として1つの流行りだったのが温泉掘削だった。同事業(交付金)以降、各地に公設温浴施設が増えたのです。それから30年ほどが経ち、施設老朽化、温泉枯渇などの問題が出てきたということです」
今回紹介したすべてがこれに当てはまるわけではないが、いま一斉に公設温浴施設が過渡期を迎えている背景には、そんな事情があるということだ。