福島県職員・教員の不祥事が減らないワケ

福島県職員・教員の不祥事が減らないワケ

 県職員の不祥事が相次いでいる。昨年は一般職員と教員が8人逮捕され、有罪となった。内訳は収賄、未成年への強制性交未遂、他人の釣銭ネコババ、盗撮と多種。教員は全員性犯罪だった。逮捕に至らないため注目されないが、警察官の不祥事も依然としてあり、対策は地方公務員全体に波及させる必要がある。

2023年は逮捕者8人

 知事部局職員と教員の逮捕事案は警察の発表順に次の通り。当事者は容疑を認めた後、懲役刑や罰金刑を受けている。(肩書、年齢は逮捕時)

 1月

 ①県中農林事務所の主査(44歳男性)が県会津農林事務所時代にゴルフ接待を受け、見返りに会津地方の土木建築業者に入札情報を漏洩。職務外で利害関係者とゴルフをする時は県の監督者に届け出る必要があるがしていなかった。偽名で参加していた。

 4月

 ②いわき市中央台北中学校の教諭(30歳男性)が同校の女子更衣室に盗撮目的でカメラを設置。教諭は採用されたばかりだった。

 ③県立医大事務局の主任電気技師(39歳男性)が児童買春。性的な写真も送らせていた。在宅勤務の間に外出し、淫行に及んだ。

 5月

 ④県中流域下水道建設事務所の主任主査(59歳男性)が須賀川市の土木建築会社社長に入札情報を漏洩した見返りに現金などを受領。退職後の雇用も約束されていた。

 ⑤出納総務課の主査(52歳男性)がパチンコ店で客が置き忘れた6000円を占有物横領(ネコババ)。この頃、県では相次ぐ不祥事に職員のコンプライアンス意識を高めるための面談を行っていた。男性主査は犯行の8日後に面談を受けていたが申告しなかった。

 対策の効果が薄いと判断した県は「形に残る」再発防止策を考えた。知事部局職員に啓発リーフレットを渡したり、コンプライアンス(法令順守)に関する名刺サイズのハンドブックを携帯するよう義務付けた。リーフレットは懲戒免職の場合、退職金が不支給となることや、氏名の公表で被る社会的制裁、家庭崩壊を記し脅すような異例の内容だ。

 だが、性犯罪は抑えられなかった。

 9月

 ⑥光南高校(矢吹町)の教諭(58歳男性)が東京に出向き、JR埼京線の電車内で女性のスカートに手を入れる痴漢行為をし、警視庁池袋署に逮捕された。後に不起訴。

 10月

 ⑦県総合療育センター(郡山市)の主任医療技師(54歳男性)が本宮市のスーパーで小型カメラを女性のスカートに忍ばせて盗撮しようとした。

 ⑧相馬総合高新地校舎の教頭(52歳男性)が夏休みに未成年の10代女性と淫行し、SNSでわいせつな写真を送らせていた。

 異例の啓発をして間もないうちに教員が罪を犯した。10月13日、県議会最大会派の自民党と県民連合が内堀雅雄知事に緊急要望。内堀知事は「本当に恥ずかしい」と述べ、同16日の会見で「これまでの再発防止策に足りないところがあると思う」と新たな対策を表明。出てきた策は、副知事2人に県の出先機関を回らせ、責任者と面談させることだった。

 教員は3人の逮捕者を出し、全員が性犯罪、うち2人は未成年が相手だった。逮捕はされていないが、2018~19年に複数回にわたって18歳未満の少女にキスをしたり胸を触ったりするなどのわいせつ行為をしたとして、いわき市玉川中の教諭(58歳男性)が12月8日付で懲戒免職されている。大沼博文教育長は自ら県立高校を訪ね、教職員に直接綱紀粛正を訴える方針を示した。

 昨年12月には、再発防止のために立ち上げた外部専門家検討委員会が報告書をまとめ、県が対策を打ち出した。「不祥事の再発防止に向けた取組について」(2023年12月8日付)では不祥事が絶えない理由として①「自分事」として捉えていない。②職員面談のマンネリ化、③管理職が職員の内面を察する力が不十分と分析している。

 対策としては、風通しの良い職場環境をつくるためグループワークの導入、そして懲戒処分の厳格化だ。収賄、わいせつ事案が県民の信頼を著しく害する行為と捉え、収賄、不同意わいせつ、児童ポルノ製造などを原則免職、痴漢や盗撮をした職員を原則懲戒免職か停職と決めた。県教委も基準改定に続いた。

 だが、「撲滅運動で不祥事が撲滅したためしはありません。厳格化で安心せず、風化を避けるために地道な努力を続けなければならない」と不祥事対策の落とし穴を語るのが、元人事院職員で研修や人事評価に携わってきた鵜養幸雄氏だ。退職後は一般財団法人公務人材開発協会の業務執行理事を務める。

 公務員、民間問わず、職業倫理は地域住民やサービス品質への信頼と責任を果たすために不可欠だが、それ自体が仕事の効率化に寄与するわけではない。仕事の結果を優先するあまり、贈収賄や手抜き検査のような不正を招いてしまうという。

 「不祥事は多くの人にとって他人事です。研修を受けるのは当事者ではないので、参加者は『忙しいのに』『不祥事を起こしやがって』と嫌そうな顔をする。そのような中で公務員倫理を話しても、空虚で胡散臭いと思われる。頭では分かっていても納得できていない状態です」(鵜養氏)

 議論を組み合わせたグループワークは有効だが、マンネリ化で意義が風化し、忘れたころに不祥事が再発するという事態を繰り返す。

 不正の自己申告と通報のために「風通しの良い職場」が重要と言われるが内実はどうか。鵜養氏は管理職に責任があると強調する。

 「風通しとは通そうとして通るものではない。普段の行動の積み重ねで自然に通るもの。いざ部下が口にしても、『お前は理解が浅い』と頭ごなしに否定すると、もう部下は話さなくなってしまう。上司は、まずは傾聴して発言者の心理的安全性を確保することが大切です。『これはおかしい』という部下からの突っかかり発言は逆に改善のチャンスと捉えるべきです」

 上に立つ者は耳の痛い意見を聞く姿勢を見せることが肝要だ。内堀知事をはじめ、全部署の管理職が心がける必要がある。

警官が乱倫関係で停職

 最後に、一般の県職員や教員の不祥事は逮捕後に実名が公表されたので注目を集めた。他方で逮捕権を行使する警察はより綱紀粛正を求められる。

 県警は昨年、2人を停職処分とした。1人は昨年3月に後輩の警察官に拳銃の銃口を向けた県警本部災害対策課警備隊の20代男性巡査が停職3カ月。もう1人は「関係者のプライバシー保護のため」として所属や処分理由を非公表だ。

 非公表の1人はおそらく乱倫関係と思われる。読売新聞昨年4月22日付によると、30代の男性巡査長が女性巡査長や女性事務職員と不適切な交際をしたほか、一般女性に不適切な言動をしたとして、停職3カ月の懲戒処分を受けていたことが情報公開請求で分かっている。処分は同3月22日付で、巡査長は同日付で依願退職した。県警は処分の公表基準について、「私的な行為は原則停職以上」としているが、今回は一般女性側の要望を踏まえて非公表にしたという。

 収賄にせよ不適切な関係にせよ、県民に説明できない関係になっていないか内なる目を持ち、職務に当たることが欠かせない。

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