甲子道路暴走男の「おらが道」運転【ふくしまの事件簿#20】

甲子道路暴走男の「おらが道」運転【ふくしまの事件簿#20】

 西郷村で2023年9月、高齢夫婦2人が乗った軽ワゴンが、対向車線をはみ出してきたミニバンに衝突され死傷した。この事故で自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪に問われた男の裁判員裁判で、地裁郡山支部は3月11日、懲役8年(求刑懲役9年)の判決を言い渡した。暴走した男は、予約していた白河市の鍼灸院の施術時間に間に合わせようと雨でぬれた路面を南会津町から同市に向かって時速104~150㌔超で走行し、カーブを曲がり切れずに事故を起こした。

衝突された車の老夫婦死傷で実刑


 被告人の男は南会津町の農業大竹康夫(53)。裁判では罪を認め、量刑が焦点だった。

 検察官が読み上げた起訴状や証拠によると、大竹被告は23年9月4日午前10時ごろに自宅を発ち、自家用車のミニバンを運転して11時に予約していた白河市の鍼灸院に向かった。国道289号(甲子道路)を制限速度(時速40~50㌔)を超過して走り、西郷村真船の左カーブに差し掛かったところで車を制御できず対向車線にはみ出した。棚倉町の男性Aさん(82)が運転し、妻のBさん(76)らが同乗する軽ワゴンに衝突、Aさんは死亡、Bさんは骨折するなどの重傷を負った(年齢は事故当時)。

 「犠牲者」には勘定されていないが、Aさんの車には愛犬も乗っており、事故が原因で死んだ。Aさんたちはドライブが趣味で、棚倉町から南会津町特産のトマトを買いに行く予定だった。大竹被告の弁護人によると、大竹被告は腰と左膝に慢性的な痛みを抱え、白河市の鍼灸院に月1回のペースで通院していた。

 法律家ではない一般市民が参加する裁判員裁判では、証拠が分かりやすくまとめられ、法廷内に2カ所掲げられたモニターに証拠画像が映し出される。裁判はAさんの遺族が傍聴しており、モニターには捜査報告書や大竹被告が運転していた黒いミニバンのドライブレコーダー映像が流された。

 甲子道路は山間部を突き抜ける国道で、整備されて走りやすいとはいえ片側1車線。走行速度は時速40~50㌔に制限されており、追い越し禁止を示すオレンジ色の中央線も引かれている。

 大竹被告の視点から見た走行映像はさながらレースのゲーム画面のようだった。ワイパーが左右に動き、雨が降っていることが分かる。前方に車両が見えない時はアクセルを踏み続け、追い付くと対向車線にはみ出して追い越す。対向車を確認してというよりは、たまたま衝突せず追い越せたとの表現が正しい。

 トンネル内では一気に3台も追い越した。トンネルを抜けると2台抜き、驚いた対向車線の観光バスがパッシングして警告した。衝突寸前だった。西郷村の左カーブに差し掛かると、大竹被告のミニバンは対向車線に横滑りし、軽ワゴンにぶつかる直前で映像は暗転

した。

 法廷では残された妻Bさんの供述が読み上げられた。

 「気づいた時には病院のベッドにいて、見舞いに来た長男から夫が事故のけがが原因で亡くなったことを聞きました。けがのため葬儀に参列できませんでした」

 大竹被告やその家族が謝罪に来たが、事故の原因については、はっきりと答えてくれなかったという。「夫はこれと言った持病もなかったのに事故に巻き込まれて亡くなったのは無念です」。自身はランドセルを手縫いする内職をしていたが、けがが原因で続けられなくなり、介助に通う長女にも負担を掛けた。大竹被告には実刑を求めた。

 大竹被告は最初から最後まで甲子道路を暴走しており、いつ事故が起こってもおかしくなかった。南会津町や下郷町は甲子道路を通じて白河市の商圏に組み込まれている。衆議院選挙小選挙区では福島3区に再編され、会津地方と白河地方は移動距離を度外視した一体化が進められている。この流れはますます進むだろう。大竹被告にとって、甲子道路は体がハンドルの切り方を覚えている「おらが道」だったかもしれないが、過信は禁物だ。

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