昨年8月にパチンコ店「ビックつばめ会津若松店」で従業員の男が犯行グループと内通して強盗被害を装い、約2700万円の現金を盗んだ事件の裁判が地裁会津若松支部で行われている。犯行には福島に加え、東京、宮城の男たちが関わり、現金の運搬先に東京・JR品川駅のトイレが使われるなど舞台は広範囲に及んでいる。彼らをつないだのは人気トレーディングカードの転売、そして、パチンコ店従業員の男が「勝てる遊技機」を紹介して報酬をもらう背任行為だった(敬称略)。
【会津若松パチンコ店の狂言窃盗】犯人をつないだ「トレカ転売業」
犯行はSNSを通じて集まる匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)によるものとみられ、これまでに13人が窃盗や建造物侵入、あるいは組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕された。うち10人が起訴され、裁判が審理中だ。グループは指示役を中心に実行役、現金回収役、マネーロンダリング(資金洗浄)役からなる(相関図参照)。

法廷での証言から、計画を考えたのはパチンコ店従業員で内通者だった真鍋一皐(24)=会津美里町文殊西甲=、そして秋田市出身で、東京都内で会社を営む佐々木綾哉(25)=東京都豊島区=の2人とみられる。
佐々木が知人に声を掛けたりSNSで告知するなどして仲間を集め、犯行の指示を出していた。実行役だった専門学生の男A(逮捕当時19)=桑折町=は少年法に守られ、起訴されず少年院送致の処分で済んだ。相関図に記されていない2人は「嫌疑不十分」で不起訴となった。
起訴された10人のうち、これまでに6人の公判が開かれている。真鍋、佐々木に加え送迎役の村山廉(22)=宮城県多賀城市=、村山を勧誘した菅井陽(22)=同名取市=、そして現金回収役の鈴木大(39)=東京都世田谷区=と山口裕介(33)=住所不定、本籍同港区=だ。真鍋と佐々木は罪を認めているが、計画者という重要な役割を果たしているため、審理は長期化する見込み。菅井は「勧誘はしたが共謀してはいない」と起訴内容の一部を否認して争っている。犯行に実際に手を下し、グループの末端に位置する村山、鈴木、山口は罪を全面的に認めている。法廷では、自分に不利な事情も隠さず、すらすらと証言した。末端3人の裁判が最も先行しており、判決も今年初めに言い渡される見込みだ。
ふくしまの事件簿#32、33(11月号、12月号)ではパチンコ店従業員の真鍋が犯行グループと通じて、自身が強盗被害者を装って実行役Aに現金を盗ませた手口を書いた。Aは送迎役の村山が運転する車で東京に向かい、盗んだ現金2668万4000円をJR品川駅の個室トイレに隠した。すぐさま都内在住の鈴木と山口が入れ替わりで個室に入り現金を回収。東京都豊島区南大塚にある佐々木が経営する合同会社エーシーに運び込んだ。登記簿によると、同社は2023年に設立し、通信販売業、各種商品の輸出入、卸売及び販売、コンサルティングを業務とする。
現金運搬役の鈴木と山口は年下の佐々木を「りょうさん」と呼んで慕っており、上司と部下のような関係にあった。2人とも本業は会社員だが、投資の失敗などで借金の返済に追われていたという。「副業」を探す中で、佐々木が人気トレーディングカード「ポケモンカード」の転売事業に従事者を募集している情報にたどり着いた。行列に並んで人気カードを購入する業務だ。池袋にたむろするホームレスを雇うこともあったという。鈴木は「1回の仕事で3000~5000円の報酬を得ていた」と語る。転売に加わったのを見て、佐々木は鈴木と山口が金に困っていると把握し、犯行メンバーの候補にしたのだろう。
佐々木と運搬役の村山がつながるまでには2人の人間を介した。佐々木の次に住所不定無職の辰柳康平(逮捕時24)=本籍秋田市=、その次に宮城県在住の菅井だ。辰柳と佐々木の本籍地が共に秋田市であることから、同郷であると推察できる。辰柳と菅井のつながりは、まだ証言が明らかになっていないので不明。菅井と村山のつながりは、地元の付き合いということが分かった。宮城県出身で地元も近い2人は、一緒にゲームセンターに行ったり会食したりする仲だった。村山によると、菅井から「これで返せばいいじゃん」と犯行を持ち掛けられたという。菅井には借金があった。村山は「車内で菅井ら地元の先輩たちに囲まれて勧誘された」と法廷で話した。
最も気になるのが、犯行を計画したパチンコ店従業員真鍋と東京の会社経営者佐々木のつながりだ。2人をつないだのは、会津若松市在住の知人男性だった。ここでは「M」としておく。
Mは検察側の証人として、12月12日、真鍋が被告人の公判で証人に立った。検察側は、Mを「犯行には加担していないが事前に計画を知った人物」とみて証言を引き出した。
当たるパチスロ台
Mの証言によると、真鍋とは2024年8月ごろに知り合った。後に事件現場となる「ビックつばめ会津若松店」に客として来ていたところ、従業員の真鍋から次のように声を掛けられたという。
「君のこと知ってるよ。前に対戦ゲームを一緒にやったよね」
Mは真鍋を思い出せなかったが、後で振り返ると確かに対戦ゲームをやっていた。連絡先を交換し、LINEのやり取りを始める。一緒に会食したりスロット(パチスロ)を打つ仲になった。昨年1、2月ごろに当たりやすいスロットはどこかという設定情報を教えてもらうようになったという。Mによると、スロットの勝率は6段階で台ごとに違い、6が一番当たりやすい設定という。Mは真鍋から設定6の台を教えてもらったと証言した。「ハイエナ」という手法も教わった。客が当たりを出す直前に席を離れた台を見つけ、おいしいところだけさらっていく点から、そう名付けられたという。
これらの情報は無料ではなかった。「席代」として1万5000円を真鍋に支払った。勝った場合は約15%の「バック」、つまり成功報酬を真鍋に支払う必要があったという。
検察官が「結果はどうだった」と聞くと、Mはこともなげに言った。
「大負けしました」
Mの証言が事実とするなら、真鍋が得ていた報酬は不正な利益で、遊技のギャンブル性を歪め、パチンコ店に損害を与える行為だ。Mは法廷で真鍋の印象を語った。
「私にもいい思いをさせてもらおうという考えがあったことは否めない。一方で、(真鍋は)やってはいけないことをやってしまう人だと思った。信用して何でも話せる人ではないとの印象を持った」
ポケモンカード転売
警察や検察の捜査によると、Mは犯行には関わっていない。加わるように持ち掛けられたが断り、逆にその供述は真鍋と佐々木を首謀者と示す証拠として提出されている。
真鍋とMの関係は分かった。ではMと佐々木はどのように知り合い、なぜ真鍋とつながったのか。
Mは2023年春に佐々木と知り合った。ポケモンカードの転売事業をやりたくて佐々木が主催するLINEグループに入ったという。Mは佐々木の仕事を人気グッズの転売と捉えていた。
Mは2025年4月に佐々木からポケモンカードの人気シリーズを手に入れるために並んでほしいと言われた。3日間の稼働で報酬は11万円になったという。
狂言強盗の計画者と目される真鍋と佐々木が出会ったのは昨年4、5月ごろ。Mは自身が引き合わせた経緯を振り返った。
「(佐々木)綾哉はスロット好きだった。自分が大負けし、資金がない時に金が豊富にあった綾哉を(真鍋)一皐に紹介した」
Mは「スロットの設定を教えてくれるし席代も安いよ」と佐々木に真鍋を紹介した。真鍋と佐々木は昨年6月初旬に初めて対面した。場所は会津若松市内のラーメン店。Mが2人をつなぐ形で夜の会食に同席し、酒を飲みながら語った。
真鍋は、パチンコ店での仕事を2025年中に辞めたいこと、辞めるまでにスロットの設定を抜いて(=勝率の良い台の情報を売り渡して)金を稼いで辞めることを打ち明けたという。
次に法廷でのMの証言を抜粋する。検察官が質問した。
――真鍋に店を辞められると台の情報が得られなくなる。ほかの従業員への引き継ぎなどの話はなかったのか。
「そんな話があった気がする」
――真鍋は辞めた後、どうしたいと言っていたか。
「綾哉が経営する会社に入ると言っていたが、酒を飲んでいたので詳しく覚えていない」
Mの自宅には東京から佐々木が8~10回泊まりに来ていたという。2人だけで過ごすことが多かったが、2025年7月1日は珍しく真鍋も来ることになった。Mがビデオゲームに興じている中で、佐々木と真鍋が何やら笑い声を上げて話している。何を話しているのかと聞くと「タタキ」と答えた。強盗のことだ。真鍋の勤めるパチンコ店には現金が2000~3000万円ほどあり、それを2人で山分けするという。実行役は池袋を根城にする知り合いのホームレスに頼むと聞いた。実行役の潜伏先として家を貸す役をやらないかと誘われたが、Mは断った。
計画書を書いていたので見ようとしたが、佐々木たちから「やらないんだったら見るな」と言われたという。その日は真鍋が帰り、佐々木だけが泊まった。佐々木の犯行動機は損失の埋め合わせだった。次のように打ち明けたという。「3年間一緒に仕事をしていた奴から不動産投資を持ち掛けられた。4000~5000万円ぼられた」。Mは「絶対に(強盗を)やらないで」と1時間掛けて説得し、佐々木は「分かった。やらない」と答えたという。
結局、佐々木はMの忠告を聞かずに実行した。佐々木の次回公判は1月14日午前11時から開かれる。

























