【西郷村】県立障害者支援施設の虐待【県けやき荘】【ふくしまの事件簿#1】

【西郷村】県立障害者支援施設の虐待【県けやき荘】

 西郷村の障害者支援施設「県けやき荘」で入所者に熱したスプーンを押し当てて火傷を負わせたとして、同施設の指定管理者を務める団体の元職員の男が傷害罪に問われた。地裁白河支部で4月19日に開かれた初公判で、男は火傷を負わせたことを認め、検察側は懲役2年を求刑、弁護側は執行猶予を求めた。判決は5月17日に言い渡される。

職員が激熱スプーンで入所者傷害

職員が激熱スプーンで入所者傷害

 裁判では、同施設の園長が事件を把握していたにもかかわらず、指定管理取り消しを危惧して上層部に伝えず隠蔽していたと明かされた。被告は「同僚が火傷を負わせる方法を教えた」という趣旨の供述をしており、事実とすれば他の職員も入所者に虐待していた可能性がある。

 傷害罪に問われたのは、社会福祉法人「福島県社会福祉事業団」(太田健三理事長)の元職員竹村和浩被告(43)=西郷村在住・本籍地浪江町。竹村被告は2006年4月に採用され、17年4月から23年3月まで県けやき荘で介護職員として勤務していた。介護を学ぶ専門学校は出ておらず、大学卒業後、アルバイト従業員を経て就いた。仕事を世話してくれた人物から「やっていけば身に付く」と励まされ経験を積んできたという(本人の法廷での供述)。

 昨年12月28日に県が虐待事件を発表したことを受けて、今年2月7日に解雇された。同日に逮捕され、現在は保釈中だ。法廷には紺色のスーツ姿で現れた。目は生気がなく、年齢よりも幼く見える。小さな声で謝罪と後悔をひたすら述べた。被害者の関係者とみられる人物は、そのたびに傍聴席で肩を震わせていた。

 事件は2022年9月11日の午前7時ごろに起こった。被害者の男性=当時(64)=の両太ももに熱した金属製スプーンを押し当てて全治1~2カ月の火傷を負わせた。竹村被告は主任援助員で、知的障害や身体障害を抱える入所者約20人の入浴や排泄の介助をしていた。

 事件には前段がある。前日の夜に竹村被告がトイレで男性が汚した排泄物を洗い流していたところ、男性が現れて放尿し、竹村被告に降りかかった。翌日の午前7時ごろに、職員たちが控える援助員室に裸の状態の男性が現れた。竹村被告は服を着させようと部屋に連れて行こうとしたが、男性は抵抗し動かない。竹村被告は夜勤中に尿を掛けられたことも相まって怒りが湧き、入所者に飲ませるためコップに溜めていた湯を金属製のスプーンですくい、男性に掛けて退室させようとした。それでも男性は動かない。

 すると、竹村被告はスプーンをガスコンロで炙って熱した。コップの湯に1、2秒入れると湯が泡立ち、ジューという音がした。裸のまま動かない男性の上半身に押し当てると「ギャー」と絶叫して出入口に向かったという。竹村被告はなおも追いかけ、逃げる男性の体に複数回押し当てた。男性は入所者が日中過ごすデイルームにたどり着き、長椅子に座った。竹村被告は両ひざの上辺りにまだ熱を持っているスプーンを押し当て、虐待をやめなかった。

 真偽は不明だが虐待に及んだきっかけについて、竹村被告は取り調べで「居合わせた同僚から『スプーンを火で炙る方法もありますよ』と言われ思いついた」と供述している。同僚は発言を否定しているが、事実とすれば虐待に抵抗感がない職場だったのだろう。

 竹村被告によると、「入所者から暴力を振るわれることがあると、施設では身体拘束をする。移動を促す場合は背中を強く押したり、殴ったり足を蹴飛ばしたりした」という。意思疎通が思うようにできないことで、介助者が入所者から暴力を受けるケースは確かにある。だが、報復に及んでいいわけがない。怒りを感じたとしても、感情の暴走を抑えチームで人権に配慮した対応を取るのが必須だ。竹村被告の供述通りなら、県けやき荘は職員の暴走を互いに抑え合う風土にはなっていなかった。

隠蔽につながった保身優先の組織

隠蔽につながった保身優先の組織

 事実、暴走は長期に渡り咎められなかった。県けやき荘では2023年2月に園長が虐待の報告を担当部署から受けていたのに、県社会福祉事業団本部(事務局)に伝えていなかったのだ。同年12月に事業団の定期調査で発覚した。別施設の職員からの情報提供だった。県けやき荘内での完全なる隠蔽だ。

 2022年9月の事件から5日後には、既に別の同僚が火傷跡に気づき、スマートフォンで撮影していたのが発覚の決め手になった。県けやき荘の職員間では噂が広まる。それでも、職員らは「下手に報告すれば竹村被告から罪を擦り付けられるのではないか」、「事業団に隠蔽されてしまうのではないかと恐れ、提出記録に書けなかった」という(供述調書より)。  

 職員たちの予想は当たっていた。事件から5カ月後にようやく虐待防止担当者が園長に報告しても、前述のように揉み消された。事件発覚直後の昨年12月、事業団は園長が報告しなかった理由について「報告する勇気が出なかった」などと説明している。裁判で明らかとなった本当の理由は次の通り。

 「2023年6月に控えていた県けやき荘の新築移転の話がなくなってしまうかもしれないと懸念した。事業団に迷惑を掛けるし、県の指定管理を受けており、県からの補助金を失ってしまうと考え込んだ」(園長の供述調書より)

 勇気は保身の前に砕けた。

 予定通り県けやき荘は数百㍍離れた地に新築移転した。県は今年1月に障害者虐待防止法に基づき立ち入り調査して、報告書をまとめている。焦点は竹村被告が2022年9月に入所者に火傷を負わせた後に施設内で虐待が続いていたかどうかだ。速やかに報告していれば防げたのに、虐待を放置していたことになる。

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