【福島市飯坂献上桃詐取】警察を翻弄し続けたニセ東大教授

献上桃事件を起こした男の正体【加藤正夫】

 昨年7月に発覚した福島市飯坂町の献上桃詐取事件の裁判で、被告の男の供述が信頼できないことが徐々に明らかになっている。4月22日に福島地裁で開かれた第4回公判では、被告が各地で起こした農産物の詐取事件を捜査した福島県警と茨城県警の刑事が、「農産物を宅配便で宮内庁や東大に送った」という被告の主張が虚偽であることを、捜査過程を述べながら示した。警察官が法廷で捜査結果を述べるのは異例。無罪を主張する被告は、裁判開始後に新たに農産物の具体的な発送方法を供述したため、警察官が追加捜査し裁判官の前で証言する必要が出た。

追加捜査で「桃の未発送」を裏付け

追加捜査で「桃の未発送」を裏付け

 昨年7月に発覚した福島市飯坂町の献上桃詐取事件の裁判で、被告の男の供述が信頼できないことが徐々に明らかになっている。4月22日に福島地裁で開かれた第4回公判では、被告が各地で起こした農産物の詐取事件を捜査した福島県警と茨城県警の刑事が、「農産物を宅配便で宮内庁や東大に送った」という被告の主張が虚偽であることを、捜査過程を述べながら示した。警察官が法廷で捜査結果を述べるのは異例。無罪を主張する被告は、裁判開始後に新たに農産物の具体的な発送方法を供述したため、警察官が追加捜査し裁判官の前で証言する必要が出た。

加藤正夫氏による献上詐欺の経緯

2016年加藤氏と農業資材会社の男性社長が知り合う
2019年6月5日ニセの肩書の名刺を作成
2020年8月上旬社長と福島市飯坂の桃農家男性(70代)を訪ねる
2021年5月ごろ福島市飯坂の桃農家らに献上を依頼
7月桃農家から桃を詐取し偽造木札を交付
8月茨城県筑西市のシイタケ農家(70代)に「献上のための検査」を打診
2022年2月19日「献上シイタケ認定」の偽造木札を交付
5月下旬社長と茨城県結城市のトマト農家男性(50代)を訪問
5月下旬~6月上旬「宮内(みやうち)」の印鑑を作成し献上依頼書偽造
8月1日桃農家から2度目の詐取
8月23日シイタケ農家から詐取
2023年2月中旬トマト農家に献上のための検査を打診
3月23日トマト農家から詐取
5月29日桃農家に3度目の献上依頼
7月農業資材会社社長が宮内庁に問い合わせ加藤氏の嘘を確認。桃の詐取は未遂に終わる。

 被告は東京都練馬区の農業園芸コンサルタント加藤正夫氏(75)。本人によると、関東一円でコンサルタント活動をしていた。

 加藤氏は福島市飯坂町の農家から皇室への献上名目として桃をだまし取ろうとしたとして昨年7月に詐欺未遂容疑で逮捕された。以前からだまし取っていたこと、その際に宮内庁の許可を得て発行したとする偽造の「献上品依頼書」を発行していたことから、詐欺や偽造有印公文書行使容疑で再逮捕・起訴された。

 明らかとなった詐欺被害は別表の通り。加藤氏は「東大卒の東大大学院農学部研究員」と「宮内庁で仕事をしていた」と嘘の学歴・職歴を紹介してコンサルタント業務をしたり、農家の勉強会で講演したりして信頼を得ていった。農学の専門知識があったのは本当のようで、検察側の証拠によると加藤氏は日大農獣医学部を卒業した。

全員を煙に巻く

全員を煙に巻く

 3月25日に行われた第3回公判で加藤氏は日大卒を認めつつも、「東大紛争で正式な試験が中止され入学できなかったため、東大から『代わりに4年間、他の大学に通ったらどうか』と勧められ日大に入った。日大から東大に戻り、研究生の身分で修士課程と博士課程に在籍していた」と複雑な事情を法廷で説明した。加藤氏は初公判から、検察が取り調べた自身の学歴の訂正を望んだが、この説明で決着した形。事件の本筋とは無関係なので、弁護士はもちろん裁判官も検察官もそれ以上は突っ込まなかった。

 権威を笠に着て、農学の知識を披瀝し信頼を得る。疑義が生じると、自身の学歴のように複雑な事情を設定し、相手が虚偽を証明するのが困難な状況に持ち込んで煙に巻く。福島市の被害桃農家は取り調べで「加藤氏が本当のことを話すとは思えない。彼は手の込んだ嘘を付く」と忠告している。裁判でもそのやり口は変わらなかった。

 福島市の桃農家をはじめ、茨城県筑西市のシイタケ農家、同県結城市のトマト農家が被害者となった。いずれも研究熱心な農家だ。農業資材会社の社長は農家らに加藤氏を紹介し、加藤氏が架空の献上を持ち掛けた際に一緒に訪れている。「高品質の農産物に皇室献上の機会を与えてブランド化を手伝いたい」という純粋な気持ちを加藤氏に悪用され、メンツを汚された。

 罪に問われているのは証拠が揃った一部に過ぎない。加藤氏の嘘にはめられた農家は、報道で明らかになっただけでも他に、北海道、神奈川県、四国に及んだ。だまし取られた農産物は米やスイカ、ミカンもあった。警察が東京都練馬区にある加藤氏の自宅を捜査したところ、北海道から送られた米があったというから自宅には高品質の農産物が集まっていたのだろう。

 翻弄されたのは農家だけではない。裁判が始まってから、加藤氏は「献上品は首都圏の宅配センターから宮内庁や東大に送った」と証言したので、検察が警察に裏付け捜査を指示した。福島県警と茨城県警が追加捜査を迫られた。

 4月22日の第4回公判では追加捜査をt行った両県警の刑事が1人ずつ出廷し証言した。裁判開始後に検察の指示を受けて警察が行った捜査の書類を、弁護側は証拠として認めず、裁判官の前で加藤氏と弁護人立ち合いのもと説明する必要が出たからだ。

 最初に、刑事歴9年で知能犯を担当する福島県警の男性警部補が証言した。追加捜査は、3月25日の前回公判で加藤氏が「献上桃は埼玉県新座市の配送センターから宮内庁や東大に送った」と明かしてから1週間後の4月2日に行った。

 郡山市にある大手宅配業者の拠点に赴き、捜査員3人が各自に用意された3台の端末で配送伝票の画像を同時に一つずつ見て確認した。端末では、全国の配送伝票の中から、日付と営業所を選んで閲覧できるという。新座市内の3営業所の伝票3日分計748件を確認した。結果は、

 「加藤氏が献上品として発送したと主張する2022年8月1日以降の3日間を調べたが、宮内庁、東大、加藤氏や桃農家の名前や関係する住所の記載は確認できなかった」(福島県警の男性警部補)

 弁護側は裁判開始後の捜査である点に言及したり、多忙なため疲れが溜まり警察官の確認に見落としがあったのではないかという質問を投げた。

 弁護士「4月の捜査の前日は何時まで勤務していたか」

 警部補「平日なら定時の17時15分だ」

 弁護士「印刷して確認した方が見落としがないと思うが、なぜしなかったのか」

 警部補「少しでも疑わしいものがあれば印刷したが、疑わしいものはなく、事件に関わりのない第三者の伝票情報を持つ必要がなかった」

新任裁判長の指摘

新任裁判長の指摘

 年度を持ち越したため、裁判官の人事異動により裁判長が三浦隆昭氏から島田環氏に替わった。島田裁判長は、本来は起訴前に捜査を尽くすべきなのに、福島県警がなぜ裁判開始後に追加捜査をしたのか細かく聞いた。警部補は裁判で、加藤氏が具体的な配送方法を明かしたことを受けての捜査だと説明した。

 続いて、刑事歴8年の茨城県警の男性巡査部長が出廷した。裏付け捜査の手法は福島県警と同じで、加藤氏が宮内庁や東大に農家から詐取したシイタケやトマトを送った事実は確認できなかった。ただ大きく異なるのは、裁判が始まる前の昨年10月に1回目、同11月に2回目の裏付け捜査を行っていた点だ。3回目となった今年4月の捜査は、加藤氏の供述が裁判で変わり、証明が不十分になったことを受けて行ったという。

 両県警の刑事2人が証言した今回の公判では、茨城県警が裁判開始前に先行して、加藤氏の虚偽の疑いが濃い発言を裏付ける捜査を開始していたが、福島県警は裁判開始後に検察の指示で行ったことが明らかになった。裏付けの甲斐あって公開の場で加藤氏の発言が虚偽だと証明されたわけだが、両県警は加藤氏に振り回された形。加藤氏の虚言癖が筋金入りであることが分かる。

 次回公判は5月27日午後1時半から3時で、宮内庁職員の証人尋問がある。その次は6月11日午後1時半から3時の予定。警察官や宮内庁職員の証言を受けて、再び被告人質問を行う。審理はその日に終了する見込みだ。

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