【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】

 先月号に「丸峰観光ホテル『民事再生』を阻む諸課題」という記事を掲載したところ、それを読んだ元従業員たちが、在職中に目撃した星保洋社長の杜撰な経営を明かしてくれた。元従業員たちは「あんな社長のもとでは自主再建なんて絶対無理」と断言する。

スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員

スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員【再建を目指す丸峰観光ホテル】
再建を目指す丸峰観光ホテル

 会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵が福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは2月26日。負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。

 両社の経営状態が分かる資料は少ないが、東京商工リサーチ発行『東商信用録福島県版』に別表の決算が載っていた。もっとも、その数値もコロナ禍前のものだから、現在は更に厳しい売り上げ・損益になっているのは間違いない。

丸峰観光ホテルの業績
売上高利益
2012年15億4700万円1億1000万円
2013年14億3100万円14万円
2014年14億9400万円190万円
2015年8億8500万円980万円
2016年9億7300万円5200万円
丸峰庵の業績
売上高利益
2013年4億0800万円16万円
2014年5億0700万円▲1800万円
※決算期は両社とも3月。▲は赤字。



 両社の社長を務める星保洋氏は、3月に開いた債権者説明会で自主再建を目指す方針を明らかにした。債権者が注目していたスポンサーについては「今後の状況によっては(スポンサーから)支援を受けることも検討する」と説明。スポンサー不在で再建を進めようとする星社長のやり方に、多くの債権者が首を傾げていた。

 先代社長で女将の星弘子氏(保洋氏の母、故人)にかつて世話になったという元従業員はこう話す。

 「丸峰観光ホテルは最盛期、土日のみで年13億円を売り上げていた。あの施設規模だと損益分岐点は10億円。しかし、稼働率は震災・原発事故や新型コロナもあり低調で、現在は少しずつ回復しているとしても2022年3月期決算は売上高5億円台、最終赤字2億円超というから、スポンサー不在で再建できるとは思えない。それでも自主再建を目指すというなら、トップが代わらないと無理でしょう」

 このように、社長交代の必要性を指摘する元従業員だが、

 「ただ、私は丸峰を辞めてからだいぶ経つので、現社長の経営手腕はウワサで聞くことはあっても、実際に見たわけではない」(同)

 ならば、会社が傾いていく経過を間近で見ていた元従業員は、星社長の経営手腕をどう評価するのか。

 ここからは、先月号の記事を読んで「ぜひ星社長の真の姿を知ってほしい。そして、この人のもとでは自主再建は絶対無理ということを分かってほしい」と情報を寄せてくれたAさんとBさんの証言を紹介する。ちなみに、ふたりの性別、在職時の勤務先、退職日等々を書いてしまうと、誰が話しているのか特定される恐れがあるため、ここでは触れないことをご了承いただきたい。

 まず驚かされたのが星社長の金銭感覚だ。少ない月で20~30万円、多い月には100万円以上の個人的支出を「これ、処理しておいて」と経理に回していたという。

 一体何に浪費していたのか、その一部は後述するが、

 「要するに、会社の財布を自分の財布のように使っていた」(Aさん)

 そのくせ、取引先への支払いは後回しにすることが多く、口うるさい取引先には10日遅れ、物分かりがいい取引先には1、2カ月遅れで支払うこともザラだった。

 「そういうことをしておいて、自分はレクサスを乗り回し、飲み屋に出入りしていた。取引先はそんな星社長の姿を見て『贅沢する余裕があるならオレたちに払えよ!』といつも怒っていた」(Bさん)

 ふたりによると、星社長は滞っている支払いをめぐり、どこを優先するかを決める会議まで開いていたというから呆れるしかない。

 「こういう無駄な会議が、本来やるべき業務の妨げになっていることを星社長は分かっていない」(同)

 従業員に対しても、会社のために立て替え払いをしても数百円、1000円の精算にさえ応じないケチっぷりだった。

 AさんとBさんが口を揃えて言うのは「本業に注力していれば傾くことはなかった」ということだ。本業とは、言うまでもなく丸峰観光ホテルを指す。ならば経営悪化の要因は丸峰庵が手掛ける「丸峰黒糖まんじゅう」にあったということか。

 「黒糖まんじゅうは、利益は薄かったかもしれないが現金収入として会社に入っていたし、お土産として需要があったという点では本業とリンクしていたと思う」(Aさん)

 問題は、丸峰庵が行っていた飲食店経営にあった。

 前出・かつての従業員によると、そもそも飲食店経営に乗り出したのは星弘子氏が健在のころ、保洋氏の妻が姑との関係に悩み、夫婦で一時期、会津若松市から郡山市に引っ越したことがきっかけという。保洋氏からすると、妻のことを思って弘子氏と距離を置く一方、ホテル経営で実績を上げる母を見返すため、別事業で成果を出したい思惑もあったのかもしれない。

 報道等によると、飲食店経営は2006年ごろから参入し、もともとは「丸峰観光ホテルの外食事業」としてスタート。しかし、2014年にホテル経営に注力するため、まんじゅう製造・販売事業と併せて丸峰庵に移管した。

 現在、丸峰庵が経営しているのはJR郡山駅のエキナカに並んでいる蕎麦店と中華料理店、同駅前に立地するダイワロイネットホテルの飲食テナント(1階)に入っている、エキナカよりグレードの高い蕎麦店。

 「それ以外に郡山駅西口の陣屋では居酒屋とバーを経営している。大町にもかつて居酒屋を出したことがある」(Aさん)

 そのほか東京都内にも飲食店を構えたことがあったが「3年程前に撤退し、今は都内にはない」(同)。

店を出すのが「趣味」

丸峰庵
丸峰庵

 これらの飲食店が繁盛し、グループ全体の売り上げを押し上げていればよかったが、現実は本業の足を引っ張るお荷物になっていたという。

 「駅前は人が来ないのに家賃が高い。そんな場所に、会社にとって中心的な店を三つも出している時点で厳しい。都内から撤退したのは正解でしたが」(同)

 そんな甘い出店戦略もさることながら、従業員の目には星社長の経営感覚も違和感だらけに映った。

 「ちゃんとリサーチして出店しているのかな、と思うことばかりだった。例えば、大町の立地条件が悪い場所に『知り合いから紹介された』と中華料理店を出したが、案の定、客が入らず閉店した。すると、今度は同じ場所でしゃぶしゃぶ店をやると言い出し、店内を改装してオープンしたが、こちらも数カ月で閉店してしまった」(Bさん)

 さらに問題なのは、▽閉店後に完全撤退するのではなく「また店を出すかもしれない」と無駄な家賃を支払い続けた、▽出店に当たり他店から料理人等を引き抜いてきたのに、すぐに閉店させたことで行き場を失わせた、▽店が営業中、経営が厳しいと理解しているのに対策を練らない――等々、先を見据えている様子が一切見られないことだった。

 「要するに、星社長にとっては店を出すことが目的なので、オープンしたら途端に興味を失うのです。もし店を出すことが手段なら、客を増やすにはどうしたらいいか真剣に考えるはず。しかし、星社長は『今月は〇〇円の赤字です』と報告を受けても全く焦らないし悩まない」(同)

 星社長にとっては、店を出すことが「趣味」なのかもしれない。そうなると、飲食店事業で儲けようという考えは出てこないだろう。

 「出店に当たっては、厨房機器等をネット通販で勝手に買い、会社に払わせていた。普通はリースやまとめ買いで揃えると思うが、与信が通らないから個人で揃えるしかなかったのでしょう」(同)

 前述・会社に支払わせていた個人的支出の一部は、ネット通販で購入した厨房機器等とみられる。

 AさんとBさんは「もし飲食店経営をするなら計画的に出店し、店舗数を絞ればグループ全体に寄与したのではないか」とも話す。ところが現状は、星社長による無計画な出店が足を引っ張り、従業員の間に軋轢を起こしていたと指摘する。

 「ホテルやまんじゅう製造・販売に関わる従業員は『儲からない飲食店のおかげでオレたちが稼いだ利益が食われている』と不満に思っていた。飲食店経営に関わる従業員はそれをよく理解していたが、出店が趣味の星社長は意に介さないし、忠告する幹部社員もいない」(Bさん)

 「かつては苦言を呈する幹部社員もいたが、星社長が聞く耳を持たないため嫌気を差して辞めていった。今いる幹部社員は星社長のイエスマンばかり」(Aさん)

 星弘子氏が健在のころは強いブレーキ役を果たしていたが、2019年に弘子氏が亡くなったのを境にタガが外れ、本業から飲食店経営への資金流出が起こっていた可能性も考えられる。

 こうした状況を招いた経営者が民事再生法の適用を申請し、スポンサー不在のまま自主再建を目指すと言い出したから、AさんとBさんは既に退職した立場だが「債権者に失礼だし、従業員も気の毒」として、星社長の真の姿を伝えるべきと決心したという。ふたりとも「そういう経営者のもとで自主再建を目指そうなんてとんでもない」と憤りが収まらなかったわけ。

 AさんとBさんは、最後にこのように語った。

 「SNSで『大好きなホテルなので残念』『再建できるよう応援しています』とのコメントを見かけたが、それは従業員がお客さんに真摯な接客をしたから言われているのであって、星社長を応援しているわけではないことを理解してほしい。私たちは、スポンサーがつくなどして新しい経営者のもとで再建を目指すなら応援するが、星社長が主導する再建は賛成できない」

難しい自主再建

難しい自主再建
渓谷美の宿 川音(HPより

 丸峰観光ホテルは現在も予約を受け付けるなど、傍目には平時と変わらない営業を続けているという。しかし、三つある施設のうち「渓谷美の宿 川音」は古代檜の湯が工事中で男女ともに営業停止。「レストランあいづ五桜」も設備メンテナンスのため休業している。どちらも再開日は未定だ。

 このほか二つの施設「丸峰本館」「離れ山翠」のうち、本館も休館中との話もあり、営業しているのは離れ山翠だけとみられる。客が入らないのに巨大な施設を稼働させても経費の無駄なので、経営資源を集中させるという意味では正解と言える。

 ただ、本誌には4月中旬に起きた出来事として「その日は給料日だったが振り込まれず、従業員がホテルに詰めかける騒動があった」「給料は支払われたが、3月は手渡し、4月は振り込みだったらしい」との話も寄せられており、これが事実なら星社長は当面の資金繰りに窮していることが考えられる。

 今後注目されるのは、これから債権者に示されることになる再生計画の中身だ。以下は『民事再生申立ての実務』(東京弁護士会倒産法部編、ぎょうせい発行)に基づいて書き進める。

 民事再生申し立てに当たり、再生債務者(丸峰観光ホテルと丸峰庵)は裁判所や監督委員から、申し立て前1年間の資金繰り実績表と、申し立て後半年間の資金繰り予定表の提出を求められる。資金繰りができなければ再生計画の策定・認可を待つことなく事業停止に追い込まれるため、再生債務者にとって資金繰り対策は極めて重要になる。

 再生債務者は「申し立てによる相殺」や「申し立て前の差し押さえ」といった難を逃れて確保できた資金をもとに資金計画を立てる。ここで重要なのは、入金・出金の確度を高めることができるかどうかだ。関係者に協力を仰ぎ、既発生の売掛金・未収金・貸付金などの回収を進め、将来発生する売掛金の入金見込みを立てると同時に、支払い条件を一定のルールに基づき決定し、支出の見込みも立てる。併せて棚卸や無担保資産の早期処分を適宜行う。

 問題は、星社長がこのような資金繰りのメドをつけられるかどうかだが、前述した個人的支出、取引先への支払い遅延、給料遅配、さらに飲食店事業をめぐっては家賃滞納のウワサも囁かれる中、取引先・債権者から資金繰りの理解と協力が得られるかは疑問だ。

 メーンバンクの会津商工信組も、民事再生申し立て前に「思うように再建が進まない」と嘆いていたというし、前出・AさんとBさんも「星社長は他人の意見を聞かない」というから、自主再建が見込める資金計画が立てられるとは考えにくい。

 だからこそ、スポンサーの存在が重要になるのだ。スポンサーがつけば信用が補完され、再生債務者の事業価値の毀損(信用不安・資金不足による取引先との取引中止、従業員の退職、顧客離れなど)が最小限に抑えられる。スポンサーによる確実な事業再生が見込まれ、申し立ての前後からスポンサーの人的・資金的協力も得られる。

スポンサー不在の違和感

 全国を見渡しても、鳥取県・皆生温泉の老舗旅館「白扇」は負債16億円を抱えて4月7日に民事再生法の適用を申請したが、同日付で地元の食肉加工会社がスポンサーにつくことが発表された。昨年3月に負債11億円で同法適用を申請した山梨県・湯村温泉の「湯村ホテル」も、スポンサー候補を探すプレパッケージ型民事再生に取り組み、半年後に事業譲渡した。2021年8月に同法適用を申請した北海道・丸駒温泉の「丸駒温泉旅館」は、全国で地域ファンドを運用する企業がスポンサーとな
って再建が図られた。負債は8億3000万円だった。

 ここに挙げた事例より負債額が格段に多い丸峰観光ホテル・丸峰庵がスポンサー不在というのは、やはり違和感がある。今後は3月の債権者説明会で言及がなかったスポンサーを見つけることが、今夏にも債権者に示されるであろう再生計画案の成否を握るのではないか。

 ちなみに再生計画案を実行に移せるかどうかは、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。

 本誌は民事再生の申請代理人を務めるDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士を通じて、星社長に取材を申し込んだ。具体的に15の質問項目を示して回答を待ったが、両者からは期限までに何の返事もなか
った。

 この稿の主人公は丸峰観光ホテルだったが、星社長のような経営者は他にもいるはずで、そこにコロナ禍が重なり、青息吐息のホテル・旅館は少なくないと思われる。杜撰な経営を改めなければ早晩、手痛いしっぺ返しに遭うことを経営者は肝に銘じるべきだ。

 最後に余談になるが、4月中旬、本誌編集部に会津商工信組と取り引きがあるとする匿名事業者から「今回の民事再生で信組の損失がどれくらいになるか心配」「役員が責任を取って辞める話が出ている」「これを機に新体制のもとで以前のような活気ある組織に戻ってほしい」などと綴られた投書が届いた。組合員は丸峰観光ホテル・丸峰庵の再生の行方と同時に、メーンバンクの同信組が今後どうなるのかについても強い関心を向けている。


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