巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

 田村市常葉地区で整備が進む東部産業団地の敷地から巨大な岩が次々と出土。そのうちの一つは高さ17㍍にもなり、あまりの大きさに市内外から見物客が訪れるほどだ。テレビでも「観光地にしてはどうか」と好意的な声が紹介されているが、半面「あそこに団地をつくるのは最初から無理があった」と否定的な声はクローズアップされていない。巨岩のおかげで工事費は当初予定より増えたが、議会は問題アリと認識しているのに執行部を厳しく批判できない事情を抱える。

議会が市長、業者を追及しないワケ

【田村市・巨岩】議会が市長、業者を追及しないワケ
敷地から出土した巨岩。隣の重機と比べると、その大きさが分かる

 田村市船引地区から都路地区に向かって国道288号を車で走ると、両地区に挟まれた常葉地区で大規模な造成工事が行われている場所が見えてくる。実際の工事は高台で進んでいるため、目に入るのは綺麗に整備された法面だが、それと一緒に気付くのが巨大な岩の存在だ。

 国道沿いにポツンとある一軒家と余平田集会所の向こう側にそびえる巨岩は軽く10㍍を超えている。表面はつるつるしていて、どこか人工物のようにも見える。近付いてみると横で作業する重機がまるでおもちゃのようで、思わず笑ってしまう。

 「今の時間帯は誰もいないけど、結構見物客が来てますよ。先日はテレビ局が来た。その前は新聞記者も来たっけな」

 現場にいた作業員がそう教えてくれた。説明が手馴れていたのは、いろいろな人が来て同じような質問をされるからだろう。

 ここは田村市が整備を進める東部産業団地の敷地内だ。巨岩があるのは、ちょうど調整池を整備する場所に当たる。

 昨年11月22日付の河北新報によると、同所はもともと大きな石が数多く露出する地域で、出土した巨石群は花こう岩の一種。市の試算では体積計1万4000立方㍍以上、総重量3万6400㌧以上。一方、同29日にテレビ朝日が報じたところによれば、巨岩は高さ17㍍、横30㍍、奥行き22㍍と推測され、奈良の大仏の台座を含めた高さ(18㍍)に匹敵するという。

 巨岩は民家に隣接しているため、発破は危険。そこで市は重機で破砕する予定だったが、想定より硬く、そのままにせざるを得なかった。

 これにより、調整池の工事は変更される事態となった。巨岩を動かせないため、そこを避けるようにして調整池の形・深さを変え、予定していた水量を確保できるようにする。

 変更に伴い市は工事費を増額。発注額は2億7100万円だったが、昨年12月定例会で市は6億9900万円に増額する契約変更議案を提出し、議決された。工期も2024年3月末までだったが、同年9月末までに延長された。

 気になるのは、壊すことも動かすこともできない巨岩の今後だ。同団地の担当部署である市商工課に問い合わせると

 「進出企業の工場建設計画もあるので、市としては団地を早期に完成させることを優先したい。巨岩をどうするかはこれから議論していく」(担当者)

 巨岩は市内外から見物客が訪れており、市民からは「あんな立派な巨岩はお目にかかれない。観光地にしてはどうか」との意見が上がっている。市でもそういう意見があることは承知しており、白石高司市長もテレビ局の取材に「地域おこしにつながらないか。巨岩を活用するアイデアを募っていきたい」とコメントしている。

 実は、都路地区にはさまざまな名前の付いた巨石が点在し、ちょっとした観光スポットになっていることをご存知だろうか。

 例えば亀の形をした「古代亀石」は高さ10・7㍍、周囲50・5㍍、重さ2800㌧。近くに立てられた看板にはこんな伝説が書かれている。

「古代亀石」
「古代亀石」

 《古きからの言い伝えによると無病息災鶴は千年亀は万年と言われた亀によく似た石を住民が〆縄張り崇拝したと言う。石の上部に天狗が降りた足跡を残した奇観有りと言う。地区の人々が名石の周りを清掃し関心の想を呼び起して居ます》

 古代亀石のすぐ近くには笠石山の登山口があり、頂上付近に「笠石」や「夫婦石」という巨石がある。登山口から1~2分の場所には綺麗に真っ二つに割れた「笠石山の刃」という巨石もあり、漫画『鬼滅の刃』で主人公・竈門炭次郎が師匠との修行で最終段階に挑んだ岩に似ていると密かに評判になっている。

「笠石山の刃」
「笠石山の刃」

 さらに古代亀石の周辺には、文字通り船の形をした「船石」や「博打石」といった巨石もある。

 これらの巨石群と東部産業団地の巨岩は車で10~15分の距離しか離れておらず、観光ルートとして確立することは十分可能だろう。

 偶然にも巨岩が大々的に報じられる1カ月前には、都路地区と葛尾村にまたがる五十人山の巨石が話題になった。巨石には坂上田村麻呂が50人の家来を座らせて蝦夷平定の戦略を練ったという伝説があり、都路小学校の児童が授業中に「本当に50人座れるの?」と質問したことをきっかけに、市と村が昨年10月に実証体験会を開いた。結果は53人が座り、伝説は本当だったことが証明された。

 ユニークな取り組みだが、正直、巨岩・巨石観光は地味に映る。しかし、市内の観光業関係者は

 「確かに地味だが、どの世界にもマニアは存在する。数は少なくても、マニアは足繁く通い、深い知識を持ってSNSで発信する。それがじわじわと評判を呼び、興味のない人も引き寄せる。そんな好循環が期待できると思います」

 磨けば有益な観光資源になる可能性を秘めている、と。

 実際、巨岩はしめ縄を付ければ神秘性が生まれそう。破砕すれば、なんだかバチが当たりそうな雰囲気もあるから不思議だ。

団地にふさわしくない場所

本田仁一前市長
本田仁一前市長
白石高司市長
白石高司市長

 もっとも、市内には巨岩を明るい話題と捉える人ばかりではない。東部産業団地が抱える本質的な問題を指摘する人もいる。

 もともと同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代の2020年に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、場所については当初から疑問視する向きが多くあった。

 すなわち、同団地は①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならないという二つの大きな労力が要る場所だった。前述の通り大きな石が数多く露出しており、その処理に苦労することも予想された。

 なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。

 加えて、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことも、同団地が歓迎されない要因になっていた。

 こうした疑惑を抱えた同団地の区画セールスを、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から進出企業は見つかるのかという懸念が囁かれた。

 幸い、二つある区画のうち、B区画(9・1㌶)には電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)、A区画(14・3㌶)には道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が進出することが決まった。大成ロテックは昨年11月に地鎮祭を行い、操業は2025年度中。ヒメジ理化も昨年12月に起工式があり、25年3月の操業開始を目指している。

 あとは調整池の工事を終え、工場が稼働し、巨岩の活用方法を考えるだけ――と言いたいところだが、実は、造成工事をめぐり表沙汰になっていない問題がある。

 造成工事を受注したのは富士工業と三和工業のJVであることは前述したが、当初の工事費は45億9800万円だった。それが、昨年3月定例会で61億1600万円に、さらに12月定例会で64億6000万円に契約変更された。当初から18億6200万円も増えたことになる。

 市商工課によると、工事費が増えた理由は

 「工事が始まる前は軟岩と思っていたが、出土した岩を調べると中硬岩であることが分かった。加えて岩が想定以上に分布していたこともあり、造成工、掘削工、法枠工が変更され、それに伴い工事費が増えた」(担当者)

 この話を聞くだけで、最初から産業団地にふさわしくない場所だったことが分かるが、問題は工事費が増えた経緯だ。

進め方の順序が逆

進め方の順序が逆

 土木業界関係者はこう話す。

 「市は昨年3月定例会で46億円から61億円に増額した際、増えるのは今回限りとしていたが、半年後の9月にはあと1回増やす必要があるとの認識を示していたそうです」

 問題は工事費がさらに増えると分かったあと、造成工事がどのように進められたか、である。

 「普通は見積もりをして、工事費がいくら増えると分かってから、市が議会に契約変更の議案を提出します。議案が議決されれば、市と業者は変更契約を交わし、市は増額分の予算を執行、業者は増額分の工事に着手します」(同)

 しかし、61億1600万円から64億6000万円に増額された際はこの順序を踏んでいなかったという。

 「12月定例会の時点で造成工事はほぼ終わっており、その結果、工事費が61億円から64億円に増えたため、あとから市が契約変更の議案を提出したというのです」(同)

 工事費が3億円も増えれば、それに伴って工期も延長されるのが一般的。「土木の現場で1億円の予算を1カ月で消化するのは無理」(同)というから、3カ月延長されてもいいはず。ところが今回の契約変更では、予算は64億6000万円に増えたのに、工期は従前の2024年3月末で変わらなかった。

 そのことを知って「おかしい」と感じていた土木業界関係者の耳に、市役所内から「どうやら造成工事はほぼ終わっており、工事費が予定より3億円オーバーしたため、その分を増額した契約変更の議案があとから議会に提出されたようだ」との話が漏れ伝わってきたという。

 「公共工事の進め方としては順序が逆。もしかすると岩の数量が不確定で工事費を算出できず、いったん仮契約を結んだあと、工事費が確定してから契約変更を議決したのかもしれないが、巨大工事を秘密裏に進めているようで解せない」(同)

 このような進め方が通ってしまったのは、事業費(107億3800万円)が福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出され、市の持ち出しはゼロという点も関係しているのかもしれない。

 「事業費107億円のうち、実際に執行されたのは100億円と聞いています。つまり、まだ7億円余裕があるし、これ以上遅れると進出企業に迷惑がかかるので、工事を先に進めることを優先したのでは。市の財政から出すことになっていたら、順序が逆になるなんてあり得ない」(同)

 この点を市商工課に質すと、担当者はしばらく押し黙ったあと、造成工事が先に進み、変更契約があとになったことを認めた。

 「ちょっと……現場の者とも確認して、今後については……」

 言葉を詰まらせる担当者に「公共工事の進め方としてはおかしいのではないか。どこに問題点があったか上層部と認識を共有すべきだ」と告げると「はい」とだけ答えた。

 本誌はあらためて、市商工課にメールで四つの質問をぶつけた。

 ①増額分の3億円余りの工事は12月定例会で契約変更が議決された時点でどこまで進んでいたのか。それとも、議決された時点で工事は完了していたのか。

 ②工事費が3億円余り増えると市が知った経緯を教えてほしい。

 ③工事費の増額は、業者から「見積もりをしたら増えることが分かったので、その分をみてほしい」と言われたのか。それとも工事が終わってから「かかった金額を調べたところ64億円になったので、オーバーした3億円を市の方でみてほしい」と言われたのか。

 ④市は「工事費が増えるなら契約変更をしなければならないので、関連議案が議決されてから追加の工事に入ってほしい」と業者に注意しなかったのか。もし業者が勝手に工事を進めていたとしたら「なぜ契約変更前に工事を進めたのか」と注意すべきではなかったのか。

 これらは締め切り間際に判明し、担当者の出張等も重なったため、市からは期日までに回答を得られなかった。期日後に返答があれば、あらためて紹介したい(※1)。

※1 今号の締め切りは昨年12月22日だったが、市商工課からは「25日以降に回答したい」と連絡があった。


 富士工業にも問い合わせたが「現場を知る者が出たり入ったりしていていつ戻るか分からない」(事務員)と言うので、市商工課と同じく質問をメールで送った。こちらも締め切り間際だったこともあり期日までに回答がなかったので、期日後に返答があれば紹介したい(※2)。

※2 締め切り直後、猪狩恭典社長から連絡があり「岩量が確定せず正確な工事費が出せない状況で、市といったん仮契約を結んだ。進め方の順序が逆と言われればそうだが、問題があったとは認識していなかった」などといった回答が寄せられたが、「詳細を話すのは御社に対する市の回答を待ってからにしたい」とのことだった。

契約変更前の施工はアウト

今井照・地方自治総合研究所特任研究員
今井照・地方自治総合研究所特任研究員

 自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は次のような見解を示す。

 「契約で工事費が61億円となっているのに、議会で契約変更を議決する前に64億円の工事をしていたらアウトです。一方、見積もりをしたら64億円になることが分かったというなら、まだ施工していないのでセーフです。ポイントは、市が契約変更の議案を提出した時点で工事の進捗率がどれくらいだったのか、だと思います」

 今井氏によると、契約変更の議決を経ずに施工するのは「違法行為」になるという(神戸地判昭和43年2月29日行政事件裁判例集19巻1・2号「違法支出補てん請求事件」)。

 「ただし罰則はないので、業者が市に損害を与えていれば損害賠償を請求できるが、今回の場合はそうとは言い切れない。神戸地裁の判例でも賠償責任は否定されています」(同)

 問題は市と業者だけにあるのではない。一連の出来事を見過ごした議会にも責任がある。

 「本来なら『なぜ順序が逆になったのか』と議会が追及する場面。しかし、白石市長と対峙する議員は本田前市長を支持し、東部産業団地は本田氏が推し進めた事業なので強く言えない。工事を受注しているのが本田氏を応援していた富士工業という点も、追及できない理由なのでは……。一方、白石氏を支持する議員も本来は『おかしい』と言うべきなのに、同団地は本田氏から引き継いだ事業なので、白石氏を責め立てるのは酷と控えめになっている。だから、両者とも騒ぎ立てず『仕方がない』となっているのかもしれない」(議会ウオッチャー)

 それとも、これ以上工事が遅れれば同団地に進出するヒメジ理化と大成ロテックの操業計画にも影響が及ぶので、順序が逆になっても工事を進めることを市政全体が良しとする空気になっていたのだろうか。

 巨岩に沸き立ち、とりわけテレビは面白おかしく報じているが、造成工事が異例の進め方になっていること、もっと言うと、そもそもあの場所は産業団地に不適だったことを認識すべきだ。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

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