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  • 岐路に立つ真夏の相馬野馬追

    岐路に立つ真夏の相馬野馬追

     相馬地方の伝統行事で国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程変更が現実味を帯びてきた。今年も例年通り7月最終土・日・月曜日(29・30・31日)に行われたが、連日の暑さで多くの観客、騎馬武者が熱中症の疑いで搬送され、馬2頭が死ぬ事態となった。もはや涼しい時期に日程が変わるのは避けられない情勢だが、変更の「障壁」とされる文化庁の許可がすぐに得られるのかという指摘もある。 歴史的根拠に乏しい「5月開催」方針 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  行事を取り仕切る「相馬野馬追執行委員会」の門馬和夫委員長(南相馬市長)が、8月7日に開かれた市の定例会見で発表した数字は衝撃的だった。  7月29、30、31日に開かれた今年の相馬野馬追。その実績は、出場騎馬数361騎(前年比24騎増)。観覧者数は、3日間の総入込数12万1400人(同1万8000人増)。30日の本祭りに限ると、雲雀ケ原祭場地に2万8000人(同8000人増)、騎馬武者行列の沿道に3万8000人(同3000人増)が訪れ、いずれもコロナ禍だった昨年より増えていた。  一方、同じく前年より増えたのが救護件数である。  救護所対応件数(鹿島・小高を含む)は95件(前年比57件増)。内訳は、熱中症および熱中症前兆が83件(同62件増)、打撲、外傷などが12件(同6件減)。このほか救急搬送も13件(同12件増)に上り、うち11件は熱中症によるものだった。  当日がどれくらいの暑さだったかは、データを示せば一目瞭然だ。以下は気象庁の観測所がある相馬市の気象データ。  29日  最高気温34・1度  最低気温24・0度  30日  最高気温35・2度  最低気温24・6度  31日  最高気温34・9度  最低気温26・0度  3日間とも猛暑日(35度以上)と言っていい暑さ。そうした中を騎馬武者は重い甲冑をまとい、馬を操っていたわけだから、体感温度は軽く40度を超えていたに違いない。  出場10回未満の騎馬武者は「今年は今まで経験した中で一番きつかった。とにかく尋常じゃない暑さで、周りの人たちも口を揃えて辛いと言っていました」。  これに対し、ベテランの騎馬武者は「昔から出ていると『野馬追は暑いもの』という考えがあるから、何とも思わない」と平然と言うが、多くの騎馬武者があまりの暑さに音を上げたのは事実だろう。  ベテランの騎馬武者がむしろ心配していたのは観客の体調だ。  「甲冑競馬と神旗争奪戦が行われる雲雀ケ原祭場地は日差しを遮る場所がないから、観客はかなりきつかったと思う。その場でじっと見ているのは厳しかったんじゃないか」 もちろん、執行委員会でも暑さ対策は行っていた。例えば南北2カ所に涼み所としてテントを張り、ミスト扇風機を置いたり、行列観覧席の後ろにテントを設置したり、南北2カ所の救護所にも大型扇風機と冷風機を設置したが、熱中症の救護件数が前年比で62件増えたことからも十分な対策とは言えなかったようだ。  暑さの影響が及んだのは人だけではない。馬も2頭死んだ。門馬市長が8月7日の定例会見で明かしたところによると、熱中症で倒れた1頭が安楽死となり、もう1頭は原因不明で死んだが、暑さが原因なのは疑いようがない。  騎馬救護所での馬の診療件数も112件(前年比41件増)に上り、うち111件が日射病。出場騎馬数は361騎だったので、約3分の1の馬が救護を受けたことになる。  「私の馬は大丈夫だったが、とにかく水を飲ませ、体にかけてやることはずっと意識していた。今年はやらなかったけど、過去には予防措置として点滴をしたこともある。馬の様子を見極めるには、ある程度の経験が必要なので、経験の少ない騎馬武者ほど馬を日射病にしてしまったのではないか」(前出・ベテランの騎馬武者)  とはいえ、馬はもともと暑さに弱い。そうした中で、重い甲冑をまとった人間を背中に乗せて走れば、馬体に相当な負担がかかることは容易に想像できる。  地元紙は記事中で触れただけだったが、全国紙は「馬2頭が死ぬ」と見出しでも大きく取り上げたため、ネット上では「真夏の野馬追は、いくら伝統行事とはいえ動物虐待」「息遣いや発汗を見れば、馬の異変に気付くはず」「死んだのが人間ではなく馬でよかった、ということにはならない」といった厳しい書き込みが散見された。 三重県の伝統行事に勧告  こうした事態に、執行委員会は8月8日、ホームページ上で「馬の救護事案に係る対応について」という発表を行った。  《相馬野馬追執行委員会では、熱中症(日射病と表記したものも含みます)により、人馬とも例年を大きく上回る要救護事案が発生したことを重く受け止めております。  特に亡くなられた2頭の馬に対し御冥福をお祈りするとともに、馬と共に継承してきた伝統行事の主催者としての責任を以て、今後の対応を速やかに整えてまいります》  今年は例年以上に暑くなることが予想されていたため、執行委員会では馬への熱中症対策として①騎馬武者行列の前に散水車2台を使って打ち水を実施、②騎馬救護所に給水車とホースを設置、③山頂に給水用のホース(シャワー)を設置、④馬殿に補給用として大型バケツ5個を設置するなどしていた。  「ただ、馬が死んだのは今回が初めてじゃない。単にここ数年は死んでいなかっただけ」(前出・ベテランの騎馬武者)  それが今回、ここまでクローズアップされたのは▽今年の野馬追開催前に、近年の異常気象を受け、日程を変えてはどうかという話が浮上していた、▽騎馬会を対象に行ったアンケートでも、馬の命と健康を心配する意見が挙がっていた、▽昔は馬が死んでも深刻に受け止める気配が薄かったが、令和の時代になり「動物福祉」が重んじられるようになった、▽今までは馬が死んでも報じなかったマスコミが、今回は大きく報じたことで世間の関心を集めた――等々が影響したとみられる。  市では昨年12月、五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行ったが、回答の自由記述欄を見ると、馬の命と健康についてこんな意見が寄せられていた。  「暑さにより愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、今回の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうになり、来年夏も暑いようなら出場しない方向で考えていた」(20代男性)  「乗馬クラブは野馬追で馬を貸すと暑さで10~20日休養させることになるので貸すのを渋っている」(70代男性)  騎馬武者たちは自分で飼育している馬に乗るか、乗馬クラブや知人などから馬を借りている。しかし、熱中症で救護を受けたり、死ぬかもしれないリスクがある状況では、来年以降、愛馬を出場させるのをためらったり、貸すのを拒む乗馬クラブが増える可能性もある。それでなくても、もともと乗馬クラブからは「乗り方が粗っぽく、野馬追から帰ってくると馬がかなり疲弊している」という不満が漏れていた。  他地域では、こんな出来事も起きている。  《三重県桑名市の多度大社で毎年5月に行われる伝統行事「上げ馬神事」が動物虐待に当たると批判されている問題で、県教育委員会は(8月)17日、県文化財保護条例に基づき多度大社に勧告を出した》(共同通信8月17日配信)  報道によると、上げ馬神事は南北朝時代から続く三重県の無形民俗文化財で、馬が坂の上に設置された高さ約2㍍の土壁を越えた回数で農作物の豊凶などを占う。これまでに複数の馬が骨折し、最近十数年で計4頭が安楽死となっていた。勧告は2011年以来二度目だという。  「伝統行事と馬」という関係性は野馬追と同じだ。上げ馬神事のように高い土壁を越えさせるような危険な行為はなくても「動物虐待」を持ち出されれば、伝統を大切にしながら馬をいたわる方向に祭りが変わっていくのは避けられそうもない。 旧暦「五月中の申」  感情論ばかりを振りかざすのではなく、冷静にデータも押さえておきたい。別掲の図は2012年から今年までの人と馬の救護件数と本祭り(2日目)の最高気温を示したものだ。20、21年は新型コロナの影響で神事のみが行われたため、救護件数はゼロだった。  それを見ると気温が30度以下の2013、16、17、18年は救護件数が少ないが、30度以上の12、14、15、19年は救護件数が多い。猛暑日だった今年はとりわけ件数が多かったことも分かる。また、17年までは人の救護件数が多い傾向にあったが、18年以降は人より馬の救護件数が上回っている。  気温が高ければ、人も馬も救護件数が増えていることがはっきり見て取れる。今後、地球温暖化で異常気象がさらに進めば、救護件数はますます増えていくだろう。  本誌6月号「相馬野馬追『日程変更』の障壁」という記事で報じたように、野馬追は日程変更の議論が本格化しようとしていた。きっかけは近年の猛暑に対し、今年2月に開かれた執行委員会の会合で立谷秀清副執行委員長(相馬市長)から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出されたことだった。これを受け、門馬委員長が「検討委員会をつくって方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。  こうして設立が決まった「相馬野馬追日程変更検討会」では当初、日程変更は「早くても2025年度から」という方針を示していた。執行委員会による事前協議で、文化庁など関係各所との協議・調整に最低2年は必要という判断から、2年後の2025年度からの変更が現実的とされた。しかし今回の事態を受け、8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合では「来年から5月下旬~6月初旬にする」という方針に改められた。 8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合  なぜ5月下旬~6月初旬かというと、前述・五郷騎馬会を対象に行ったアンケートで「何月が最適な開催日程と思うか」という問いに5月と答えた人が最も多く、6月も3番目に多かったためとみられる。  季節的には涼しさもあり、梅雨入り前なので、騎馬武者にも観客にも馬にも喜ばれる時期には違いない。しかし、ちょうどいい季節という理由だけで簡単に日程を変えられるわけではない。  野馬追は文化財保護法に基づき、昭和53年(1978)に国指定重要無形民俗文化財に指定されたが、これが日程変更の大きな障壁になるのだという。2011年に現在の日程に変わった際、その協議に参加した南相馬市の関係者によると、  「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」  正式決定には、かなりの時間と労力を要したことが分かる。  自らも騎馬武者として参加し、市議会定例会で野馬追に関する質問を続けてきた岡﨑義典議員(3期)もこのように話す。  「文化庁との協議に最低2年かかると言っていたのに、馬2頭が死んだ途端、来年には日程を変えると言い出すのは違和感がある。5月下旬から6月初旬に変えることがさも決定したかのような報じ方も奇妙に感じます。心情的には日程変更は理解できます。しかし、日程変更検討会で5月下旬から6月初旬に変えると決めたとしても『文化財の価値』を判断基準とする文化庁がそれを認めるのか。騎馬会や各神社がどう判断するかも気がかり。その確証がないのに、来年には日程が変わると言い切ってしまうのはいかがなものか」  そもそも中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代から旧暦「五月中の申」の日に行われてきた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。  《旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという》(『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」より)  こうした歴史を踏まえると、文化庁が暑さを理由に日程変更を認めるかどうかは確かに不透明だ。  加えて岡﨑議員が厳しく指摘するのは、この間、執行委員会が本気になって日程変更を考えてこなかったことだ。  「暑さで人が亡くなるかもしれないリスクはこれまでもあった。それなのに、馬2頭が死んだ途端、来年には日程が変わるというんだから、今まではそういうリスクがあっても執行委員会は真剣に受け止めてこなかったのではないか」(同) 来年からの日程変更は一見すると日程変更検討会の英断にも映るが、見方を変えると、問題が起こらないと本腰を入れない役所の姿勢を表しているわけ。 文化財としての価値 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  5月下旬から6月初旬への変更が既成事実化する中、文化庁との協議をどのように進めていくのか、執行委員会事務局に聞いてみた。  「日程変更には文化庁のほか、相馬野馬追保存会の中の専門委員会、県文化財課との協議が必要になる。来年5月下旬から6月初旬という日程は日程変更検討会で決定され、背景には人と馬の命には変えられないという判断があるが、同時に野馬追の文化財としての価値を引き継ぐことが大前提になる。そこを軽視して日程が変わることはありません」  8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合には本誌をはじめ多くのマスコミが取材に駆け付けたが、冒頭、門馬市長がメンバーに「マスコミの方にはこの場にいてもらっていいか、出てもらうか」と問いかけると、立谷市長が低い声で「出てもらってください」と言い、協議は非公開で行われた経緯がある。公開しても何ら不都合なことはないと思うのだが、過程をオープンにせず、密室で決める役所の姿勢はこんなところにも表れている。  暑さを理由に日程を変える必要性は誰もが認めているが、同時に、文化財としての価値をどう担保するのか。日程変更検討会には、文化庁をはじめ騎馬会、各神社など関係者が納得する結論を、スピード感を持って出すことが求められる。 ※日程変更検討会の第2回会合は8月27日に開かれ、来年から「5月最終土、日、月曜日」に変更することを決めた。今後、文化庁に上申し、了解が得られれば正式決定する。 あわせて読みたい 相馬野馬追「日程変更」の障壁

  • コロナ「5類」移行後の【会津若松市】観光事情

     5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。これに伴い、法律に基づく外出自粛や行動制限などが発せられることがなくなり、イベントや観光などの機運が高まっている。「5類」移行の影響はどうなのか、会津若松市観光業の状況を探った。 夏休み、秋のシーズンに期待 東山温泉  会津若松市を取材対象にした理由は、1つはデータの取りまとめが非常に早いこと。速報値ではあるものの、7月中旬に同市観光課に問い合わせると、すでに市内観光各所の6月分のデータがまとめられていた。 それだけ、行政の観光セクションがしっかりしており、行政と観光関連施設などの連携が図れている証拠だろう。見方を変えると、同市において観光業はそれだけ大きな産業で、観光業の浮沈が市内経済に大きな影響を及ぼすということでもある。それが同市を取材対象にしたもう1つの理由だ。 別表はコロナ前の2019年、コロナの感染拡大が顕著になった2020年、昨年、今年の上半期(1〜6月)の同市内の主な観光地の入り込み数・利用者数をまとめたもの(市観光課調べのデータを基に本誌作成、2023年は速報値)。 鶴ヶ城天守閣 2019年2020年2022年2023年1月1万8387人2万4751人1万0174人7205人2月2万0880人2万6234人7144人6537人3月2万9821人2万0491人1万4766人1万1370人4月7万9325人4170人3万5654人5万0713人5月7万5462人1130人4万8486人6万5887人6月5万1127人9672人4万0344人5万2626人計27万5002人8万6376人15万6568人19万4338人 麟閣(※鶴ヶ城公園内の茶室) 2019年2020年2022年2023年1月1万1900人1万4287人6962人4755人2月1万0835人1万2529人5064人4161人3月2万0285人1万4943人1万0477人8577人4月4万8042人3419人2万4150人3万2038人5月4万5159人827人3万0558人3万7735人6月2万2326人7706人1万6832人2万1800人計15万8547人5万3711人9万4043人10万9066人 御薬園 2019年2020年2022年2023年1月1261人2213人594人908人2月2593人2607人470人2153人3月2308人1500人1136人2191人4月5181人389人3010人3895人5月6512人155人4488人5235人6月4633人1466人3379人4101人計2万2488人8330人1万3077人1万8483人 県立博物館 2019年2020年2022年2023年1月1179人1659人1377人1942人2月2336人2967人3660人4167人3月3825人2291人2806人4162人4月6134人551人4082人4227人5月9892人609人1万2169人1万0687人6月1万0159人2546人1万2071人未集計計3万3525人1万0623人3万6165人2万5185人 東山温泉 2019年2020年2022年2023年1月3万4278人3万7793人2万8225人2万6311人2月3万3921人3万0388人1万5224人2万5665人3月5万2957人2万9279人2万6612人4万3381人4月4万1440人7512人3万6629人3万7387人5月3万9746人3482人4万1143人4万1203人6月4万3744人1万1884人3万3535人4万4489人計24万6086人12万0338人18万1368人21万8436人 芦ノ牧温泉 2019年2020年2022年2023年1月1万4238人1万6680人8625人9455人2月1万7638人1万9828人4952人1万0936人3月1万7064人1万1310人8785人1万3185人4月1万9578人3629人1万1306人1万1481人5月1万7727人80人1万1805人1万3545人6月1万8876人3732人9607人1万1449人計10万5121人5万5259人5万5080人7万0051人 民間施設 2019年2020年2022年2023年1月1万0884人1万2945人6480人7555人2月1万4400人1万4332人5366人9545人3月2万1821人1万3104人1万1366人2万2551人4月4万6851人3915人2万3504人3万0787人5月5万9000人268人4万2305人4万8743人6月5万3130人6498人4万2789人4万7319人計20万6086人5万1062人13万1810人16万6500人※武家屋敷、白虎隊記念館、駅cafe、日新館、 飯盛山スロープコンベア、会津ブランド館、会津村の合計  コロナの感染拡大が顕著になった2020年は前年比(コロナ前)で大幅なマイナスになっている。コロナ感染が国内で初めて確認されたのが2020年1月、本格的に影響が出てきたのが2月末ごろ。それを裏付けるように、同年3月は前年同月比で30〜40%減、4月は80〜90%減、5月は90%以上の減少となっている。 同年4月17日、全国に緊急事態宣言が出され、鶴ヶ城天守閣、茶室麟閣、御薬園の主要観光施設は4月18日から5月27日まで休館した。例年同時期に開催されていた「鶴ヶ城さくらまつり」も中止になった。ゴールデンウイークの書き入れ時がゼロになったのだ。 観光客の激減は、その分だけマーケットが縮小したことになり、観光業を生業としている関係者は大きな影響を受けた。それはすなわち、収入減にほかならず、結果、あらゆる分野において地域内の消費が減るといった事態を招く。そうした点からも、同市にとって重要な産業である観光業の立て直しは、大きな課題になっていた。 そんな中、昨年はコロナ直後からだいぶ回復しており、さらに今年はコロナ前には及ばないまでも、かなり戻っていることがうかがえる。施設にもよるが、少ないところで70%程度、多いところでは90%近くまで戻っている。 コロナ前以上の鶴ヶ城 5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣  月別に見ると、5類移行後の今年5、6月はコロナ前に近い数字か、施設によってはコロナ前を上回っている。これは5類移行の影響と見ていいのか。 「『5類』に移行したのはゴールデンウイーク明けで、その後は観光地にとって〝平時〟だったこともあり、正直、よく分からないですね。一昨年、昨年よりは良くなったのは間違いありませんが、徐々に戻ってきている延長線上と捉えるべきなのか、5類移行の影響なのかは測りがたい。これから夏休み、秋の観光シーズンになってどう動くかでしょうね」(市内の観光業関係者) こうした見方がある一方で、「やはり、5類移行の影響は大なり小なりあると思いますよ。『いままでは旅行を控えていたけど、制約がなくなったことだし、出かけてみようか』という気になるでしょうから」(別の観光業関係者)との声もあった。 さらにはこんな見方も。 「いい意味で、5類移行の影響はあると思います。ただ、それによって、海外旅行への制限・制約もなくなりますから、『これまでは近場、国内で我慢していたけど、せっかくだから海外に行こうか』という人も今後は増えてくると思います。もっとも、5類移行とは関係なく、いつの時代も、海外を含めたほかの観光地との競争があることは変わりませんけどね。その中で、どうやって人を呼び込むかということです」(温泉地の関係者) 共同通信配信のネット記事(7月11日配信)によると、海外旅行については、まだまだ不安が大きいとのアンケート結果が出ているという。以下は同記事より。 《調査会社インテージ(東京)が(7月)11日発表した夏休みの意識調査によると、半数が海外旅行に「不安」があると答えた。今夏に海外旅行を予定しているのは2・0%。昨夏(0・8%)より増えたが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行しても渡航に慎重な人が多いようだ。全国の15~79歳のモニターを対象にインターネットで6月26~28日にアンケートを実施。2513人から回答を得た。海外旅行に関し、27・7%が「不安がある」、23・2%は「やや不安がある」とした。「不安はない」は9・5%、「あまり不安はない」が11・1%だった》 こうしたアンケートを見ると、5類移行後、すぐに海外旅行に行く人は少なそうだが、今後はそういった需要も増えてくるだろう。逆に海外から来る人も増えるから、温泉地の関係者が語っていたように、「海外を含めたほかの観光地との競争の中で、どうやって人を呼び込むか」に尽きよう。 鶴ヶ城天守閣、麟閣、御薬園を運営する会津若松観光ビューローによると、「(5類移行で)やはり雰囲気的に違う」としつつ、「その中でも、以前とは様相が変わってきている」という。 「鶴ヶ城天守閣は、5類移行後の今年6月と7月途中(本誌取材時の7月中旬)までは、2019年同月比で来場者数が100%を超えています。詳細を見ると、教育旅行は例年並みで、それ以外の団体ツアー客はコロナ前には戻っていません。その分、個人客が増えています。外国人も増えていますが、それについても以前のような団体ツアーではなく、数人でレンタカーを借りて、といった形が増えています」(同ビューローの担当者) 鶴ヶ城天守閣は昨年10月から今年4月27日まで、リニューアル工事を行っており、4月末からの大型連休に合わせて再オープンした。そのため、「新しくなった鶴ヶ城に行ってみよう」と、地元・近場の人の来場があったようだ。そういった事情から、6月、7月途中(本誌取材時)まではコロナ前(2019年)より来場者が増えた背景もあるが、①団体ツアー客が減り個人客が増えた、②その傾向は外国人も同様――といった状況だという。 ほかの観光施設の関係者などに聞いても、似たような傾向にあるようで、それがこれからしばらくの観光の主流になってくるのだろう。「ウィズコロナ的観光需要」といったところか。 夏以降の感染拡大に注意  こうして聞くと、5類移行後は多少なりとも状況が変わっていると言えそうだが、夏休みや秋の観光シーズンの動きはどうか。 「コロナ禍以降は、(観光客のコロナ感染や濃厚接触の疑いなどで)突然のキャンセルのリスクがあるため、あまり先の予約を取らないようになっています。そのため、各施設の夏休みや秋の観光シーズンの動き、予約状況などはつかめていません」(市観光課) 「鶴ヶ城は予約して来られる方は少ないので、夏休みや秋の観光シーズンの見通しはまだ何とも言えませんが、5類移行後はコロナ前(2019年)と同等かそれ以上の方に来ていただいているので、期待はしています」(前出・会津若松観光ビューローの担当者) 「予約してくる人は少ないので、まだ何とも分からないが、少なくとも夏休みの出だしとしては、昨年よりはいいと思います」(観光施設近くの土産店) 「だいぶ戻っているのは間違いありませんが、5類移行後、夏休みに向けては普通に推移している、といったところでしょうか。コロナ禍で受けたダメージが大きいので、それを補うにはまだまだ時間がかかると思います」(東山温泉観光協会) 観光業界関係者の多くが今後に向けて、期待を抱いていることがうかがえた。 一方で、温泉旅館・ホテルではこんな問題も抱えている。温泉旅館・ホテルでは、コロナ禍に従業員を整理したところが多い。その後、ある程度、宿泊客が戻ってきた段階で再度、従業員の募集をかけたが、なかなか応募がない、といった状況に陥っているという。当然、従業員にも生活があるから、温泉旅館・ホテルで仕事がないとなれば、別の業種に就くだろう。そんな事情もあって、人手が足らずキャパいっぱいまで宿泊客を入れられないところもあるというのだ。 コロナの後遺症とも言える状況だが、今後は受け入れる側も、コロナで崩れた体制を整え、平常運転ができるようにしていく必要があるということだろう。 一方で、感染症法上の位置付けが変わったとしても、コロナがなくなったわけではない。 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の7月7日の会合では、「新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している」と報告された。 そのうえで、「今後の見通し」として次のように指摘している。 ○過去の状況等を踏まえると、新規患者数の増加傾向が継続し、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。 ○自然感染やワクチン接種による免疫の減衰や、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加、また、夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。 「夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」、「夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要」と指摘しており、夏休みシーズン後のコロナの感染状況にも注意が必要だ。

  • 写真【フクロウ】神社で会える森のアイドル

    【フクロウ】神社で会える森のアイドル

     伊達市梁川町の梁川八幡神社(關根誠宮司)に、今年もフクロウの幼鳥が姿を現した。毎年境内のケヤキの〝うろ〟に巣を作り、大型連休近くになると、そこから巣立った幼鳥が親鳥と飛ぶ練習を繰り返す。 5月8日、同神社境内に足を運ぶと、近隣の住民や写真愛好家が、我が子を見守るような目で、巣の近くに立つスギの木を見上げていた。わずかな期間で高いところまで飛べるようになったようだ。 夫婦で訪れていた女性は「毎年見に来ている。昨年はカラスに追われたヒナが田んぼに落ちて、氏子の方に救出されていた。心配でつい見に来てしまう」と笑いながら話した。 伊達市在住の写真愛好家・Nさんは「2021年から訪れている。簡単には撮影できないが、フワフワでかわいらしいのが被写体として魅力」と語った。 禰宜の關根亘さんによると、昔からフクロウの鳴き声は聞こえていたが、2019年、修復工事中の本殿の建設養生ネット内に幼鳥が迷い込み、救出したのを機に、毎年姿が見られるようになった。遠くから足を運ぶ人がいるのを受け、拝殿にフクロウの石像を設置したり、ホームページやSNSでフクロウについて情報発信している。 福島市小鳥の森のレンジャー・増渕翔太さんによると、「個体差があるので一概には言えないが、秋ぐらいまでは巣の近くで親鳥とともに行動するのではないか」とのこと。ただ、近隣住民によると目視できるのは巣立ってから2、3週間程度だとか。わずかな時期しか見ることができない〝森のアイドル〟が今年も多くの人を魅了した。 今年最初に巣立ったフクロウの幼鳥。下を覗き込む表情がかわいらしい(5月3日、伊達市の写真愛好家・Nさん撮影) 巣立ち後の2、3週間は連日、地元住民や写真愛好家が梁川八幡神社境内に足を運ぶ(5月8日、編集部撮影) 今年2番目に巣立った幼鳥(5月4日、伊達市の写真愛好家・Nさん撮影) フクロウの巣があるケヤキの木(5月8日、編集部撮影) フクロウ人気に負けじと大きな声で鳴くキジバト(5月4日、福島市在住・Sさん撮影) 杉の木に寄りかかるフクロウの幼鳥(5月4日、福島市在住・Sさん撮影) 伊達氏の氏神として崇拝され、今年、国史跡に追加指定された梁川八幡神社の本殿(5月8日、編集部撮影) 拝殿にはフクロウをかたどった石象があった(5月8日、編集部撮影)

  • 【只見線】全線再開通フィーバーから8カ月

    【只見線】全線再開通フィーバーから8カ月

     6月1日で全線再開通から8カ月となるJR只見線。再開通直後は盛況で車内は満席だったが、現在はどういう状況なのか。記者が実際に乗って確認してみた。 只見線〝日帰り旅〟で見えた課題  JR只見線は2011年の新潟・福島豪雨で被災し、会津川口(金山町)―只見(只見町)間が不通となった。1日当たり利用者数49人(2010年)の赤字区間ということもあり、当初、JR東日本は代行バスへの移行を検討していた。 だが、県や沿線自治体からの要望を踏まえ、県が線路や駅舎を保有し、JR東日本が運行する「上下分離方式」で復旧することになった。不通区間の復旧費用は約90億円(県・市町村負担分約54億円)。毎年約3億円の維持管理費は県と沿線自治体など17市町村が負担する。 昨年10月1日に全線再開通すると、秋の紅葉シーズンや政府の観光振興策である全国旅行支援も重なって、大盛況となった。新聞報道によると、車内は混雑して座れないほどで「通勤時の山手線のようで景色を見る余裕がない」との嘆きが聞かれるほどだったという。半年以上経過して、現在はどういう状況なのか、記者が実際に只見線に乗ってみた。 大型連休前半の4月30日、会津若松(会津若松市)7時41分発の列車に乗り込んだ。2両編成で乗客は十数人。そのうち、半分は大きいバッグを抱えた観光客だった。6時8分発の始発にも毎日10人ほどの乗客がいるようだ。 出発後、七日町(同)、西若松(同)から、会津西陵高校(旧大沼高校、旧坂下高校)の生徒が乗り込み、あっという間に満席になった。だが、同高校がある会津高田(会津美里町)でぞろぞろ降り、車内に残ったのは数人。全線再開通フィーバーは完全に終息したようだ。 代わり映えしない水田の風景にうとうとしていると、いつの間にか奥会津に入っていた。只見川に差し掛かるところで景色を見せるために減速運転したので、スマホを取り出して撮影した。エメラルドグリーンの川面が美しく、席から立ち上がって眺める乗客もいた。  只見川の風景を撮影する乗客  感動したのは、只見線を見かけた近隣住民がみな手を振ってくれること。地域全体で盛り上げようとしている思いが伝わって来た。 一方で、いわゆる〝撮り鉄〟が山の中にいる姿には何度かギョッとさせられた。離れたところから撮っているのだろうが、車内から見ると、目の前に突然現れたように感じる。 会津若松を出発してから約3時間後の10時45分、目的地の只見駅に到着。降車客が多いと勝手に思い込んでいたが、大半が終点・小出(新潟県魚沼市)行きの列車に乗り換えた。 記者がまず足を運ぼうと考えたのは田子倉ダム。というのも、只見町は、只見線乗客向けの観光周遊バス「自然首都・只見号」の実証実験(乗車1回200円、土、日、祝日のみ運行)を4月29日からスタートしていた。それをフル活用して、ダムの絶景をスマホに収め、弊誌のツイッターで投稿しようと考えていたのだ。 観光周遊バス「自然首都・只見号」時刻表  ところが、駅で時刻表を確認すると、田子倉ダム行きのバスは10時発と14時35分発のみ。会津若松発6時8分の始発に乗らないと間に合わないことになる。自分の詰めの甘さと、シビアすぎる時刻表設定に泣いた。 時間が空いたので、全線再開通に合わせて駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」に足を運んだ。会津ただみ振興公社が運営する土産コーナーや軽食コーナー、同施設を運営する只見町インフォメーションセンターが入っている。 只見駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」  別棟には、同町のご当地B級グルメ「味付けマトンケバブ」が味わえるカフェ、同町に立地する米焼酎メーカーで、国内外から高い評価を受ける「合同会社ねっか」の只見駅前醸造所も入居している。 同センターによると、昨年10月は月間5000人以上が利用し、その後減少したものの、今年4月は月間1210人が訪れたとのこと。約30分の停車時間に、乗客が土産物を買い求める姿も見られた。 とりあえずカフェで味付けマトンケバブとホットコーヒーを頼んで時間を潰す。店員に利用状況を尋ねると、最近は落ち着きつつあるが、それでも利用客は多いとのこと。 隣の席でどぶろく(合同会社ねっか只見駅前醸造所で販売している)を飲んでいた年配男性に声をかけると首都圏から来た人だった。 「只見と会津田島(会津鉄道会津線=南会津町)を結ぶ定期路線ワゴン『自然首都・只見号』でここまで来た。不通区間がある頃に来て以来、毎年訪れている」(年配男性) 定期路線ワゴンは意外と利用者が多いようで、全線再開通直後の混雑時には、「終点まで立ちっぱなしは嫌だ」と会津田島駅経由で帰る人が続出し、2台運行するほどだったとか。このほか、北東北へのドライブ旅行中に立ち寄った北陸地方在住の夫婦もおり、只見線全線再開通の報道を機に、興味を持って足を運ぶ人が増えたことがうかがえた。 使い勝手が悪い周遊バス  田子倉ダム行きのバスが発車する14時35分までの待ち時間で何かできないか。タクシー会社に電話したが運転手が出払っているのかつながらなかった。4時間5500円のレンタカーには手が出ない。 やむなく観光周遊バスの時刻表とにらめっこしていたところ、駅12時発の便に乗れば、町の第三セクターが運営する温泉宿泊施設「季の郷湯ら里」で日帰り入浴して、駅まで戻ってこられることが判明した。 風呂に浸かって、旅の疲れを取るのも悪くない。意気揚々とマイクロバスに乗り込むと、乗客は自分1人だった。同バスは今年12月3日まで運行予定とのことだが、来年以降継続できるのか不安になった。 「湯ら里」の温泉はナトリウム塩化物硫酸塩温泉。適応症は神経痛、筋肉痛、関節痛など。利用料700円。源泉かけ流しの日帰り専用温泉施設「深沢温泉むら湯」も隣接しており、赤褐色の湯を求めて訪れる人が多い。こちらは利用料600円。食堂の看板メニューは手打ちそば。 昼時で混雑している「むら湯」を避け、「湯ら里」を利用することにした。ところどころ老朽化が目立ったが、広い大浴場や露天風呂でゆっくり体を温めることができた。 帰り道のバスで運転手に田子倉ダムの様子を尋ねたところ、「午前中唯一の乗客がダムで降りたが、『霧で何も見えなかった』と帰り道こぼしていた」と教えられた。只見駅で話を聞いた町民からは「ダムのふもとの施設・田子倉レイクビューは現在営業していない」と聞かされた。 午後出発する会津若松行きの列車は14時35分発と18時発。田子倉ダム行きのバスは前述の通り14時35分発。田子倉ダムに行って収穫ゼロに終わり、駅近くで再び18時まで時間を潰すのはさすがに厳しい。スマホの充電も少なくなってきた。ずいぶん迷った結果、14時35分発の只見線で帰途に就くことにした。 小出方面からの乗客は20人ほど。一度見た風景なので退屈な帰り道になるのを覚悟していたところ、地元NPO法人「そらとぶ教室」のメンバーが同乗し、車窓の見どころをガイドしてくれた。乗客が多い週末午後の便に乗り込み、ボランティアでガイド活動をしているのだという。 会津川口からは別の観光関係者が引き続きガイドをしてくれた。併せて地元の土産品を販売し、複数の乗客が買い求めていた。漫然と乗っているよりも観光気分が高まったし、沿線自治体に関心を持った人が多いのではないか。 17時24分、会津若松に到着すると、乗客の大半がホームの反対側の磐越西線(郡山行き)に乗り込んだ。おそらく郡山駅から新幹線を使って居住地まで帰るのだろう。 鍵を握る二次交通整備  福島市の自宅からの移動時間を含め、約13時間の日帰り旅(うち只見町に滞在したのは約4時間)。痛感したのは、便数が少ないので気軽に途中下車しづらいことだ。現在、週末には臨時列車が運行しているが、それでも2、3時間に1本のペース。 そもそも只見線の乗客の大半にとって、「乗ること」そのものが目的になっており、途中下車しない傾向がうかがえた。これでは沿線自治体にお金は落ちない。 もちろんそうした中でも恩恵を受けている事業者はいる。同町内のレンタカー業者・エスネットレンタカーの担当者は「只見線で旅行に来た家族・グループの方によく利用してもらうようになった」と語り、只見町旅館業組合長の菅家和人さんは「冬の閑散期を除き、週末は満室になっている」と話す。いかに幅広い業種に経済効果をもたらすことができるかが今後の課題となる。 県が4月25日に発表した第二期只見線利活用計画では、観光列車の定期運行実現、ビューポイント整備、体験学習提供、インバウンド強化、魅力発信など10の重点プロジェクトが掲げられている。こうしたプロジェクトで、地元にお金が落ちる仕組みを構築できるだろうか。 今後の鍵を握るのは二次交通の整備だろう。県や沿線自治体では今後5年間で二次交通を充実させる方針で、6月には鉄道と駐車場・バスを組み合わせて観光しやすくする「パークアンドライドバス」の導入を検討しているという。「少しの区間なら只見線に乗ってみたい」、「沿線自治体をいろいろ巡りたい」など、さまざまな需要に応えられるように環境整備していくことで、途中下車して沿線自治体に立ち寄る乗客も増えていくのではないか。 仮に再び災害が起きて線路や鉄橋が流失したときは県や沿線自治体で全額負担することになる。今後は老朽化の問題も出てくるだろう。税金をかけるのにふさわしい経済効果を生み出しているのか、常に問われ続けることになる。 県の平成31年度包括外部監査報告書 (県包括外部監査人・橋本寿氏ら公認会計士が作成)では只見線復旧事業についてこう述べていた。 《会津川口駅―只見駅間の鉄路復旧、只見線の全線開通それ自体が、特に経済的価値を生む訳ではなく、過疎、人口減少に対する地域振興策でもない。それを望むのであれば、不通になる以前に達成できていたはずである。只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。約 54億円は別の事業で有効活用できたのではないか》(141ページ) 県只見線管理事務所の担当者は「乗客の中には途中下車して沿線自治体で宿泊する人もいる。沿線自治体ととともに、引き続き利活用促進に取り組んでいく」と述べる。 全線再開通フィーバーがひと段落したここからが只見線(県、沿線自治体)にとって正念場となる。

  • 相馬野馬追「日程変更」の障壁

    相馬野馬追「日程変更」の障壁

     相馬地方の伝統行事で国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程が見直されようとしている。現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、厳しい暑さで人馬への負担が大きく、観客や準備に携わる人も熱中症のリスクが高いとして、日程が大幅に変わる可能性が出ている。さらに、出場するための高額費用負担や女性の出場条件緩和といった課題もあり、参加騎馬武者が減少する野馬追は過渡期を迎えている。 〝酷暑開催〟に騎馬会員から賛否両論 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  300~400騎の騎馬武者が甲冑をまとい、太刀を帯し、先祖伝来の旗指物を風になびかせながら野原を疾走する。そんな時代絵巻のような光景が繰り広げられる相馬野馬追は、伝説によると今から1000年以上も昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(現在の千葉県北西部)に放した野馬を敵兵に見立て、軍事演習に応用したことが始まりとされる。捕らえた馬は神馬として氏神である妙見に奉納した(相馬野馬追公式ホームページより)。 今年も間もなく、野馬追の時期がやって来る。2020、21年は新型コロナウイルスの影響で神事中心の小規模な実施にとどまったが、昨年は3年ぶりに通常開催され、コロナ前の6割に当たる10万3400人が来場した。今年はコロナ感染が落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが5類に引き下げられたこともあり、昨年以上の観客数になることが予想される。 そんな野馬追の日程が今、大きな議論になりつつある。 現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、近年の猛暑で「人も馬もリスクが高い」「観客や準備に携わる人も大変」という声が以前から高まっていた。酷暑の中で甲冑をまとうのは辛いし、馬はもともと暑さが苦手。観客からも「日差しを遮る場所が全くない」と不満が漏れていた。昨年の野馬追では熱中症などの事例が21件あり、コロナ前の2019年も36件に上っていた。 こうした事態に「相馬野馬追執行委員会」(2月20日に任意団体から一般社団法人に移行、以下執行委員会と略)では、2月に開いた会合で副執行委員長の立谷秀清・相馬市長から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出された。これに執行委員長の門馬和夫・南相馬市長が「検討委員会を立ち上げて方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。 実はこれより前、南相馬市では昨年12月に五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行っていた。2019年度と22年度に出場した騎馬会員461人に質問書を発送し、今年1月、55%に当たる256人から回答を得た。 集計結果は3月に公表されたが、それによると、 質問=日程変更についてどのように思うか。 「賛成」135人(53%) 「反対」50人(19%) 「どちらでもない」71人(28%) 質問=(変更に「賛成」と答えた135人に)なぜ賛成と思うか。(以下複数回答) 「暑さによる人馬への体力的な負担が大きいため」127件 「全ての行事が休日または祝日の方がよいため」46件 「その他」14件 質問=何月が最適な日程と思うか。 「5月」116件 「7月」53件 「6月」「10月」40件 「9月」31件 質問=(変更に「反対」と答えた50人に)なぜ反対と思うか。 「頻繁に変更するものではない」33件 「現在の日程が『東北の夏祭りの先陣を切る、夏の伝統行事』と認知されているため」22件 「神社の祭礼のため、例大祭に合わせるべき」13件 「その他」7件 回答者の過半数が日程変更に賛成し、その理由に暑さを挙げる。新たな開催月は5月を望む回答が多い。逆に反対の人は2011年に現在の日程に変更したことを踏まえ、簡単に変えるべきではないとしている。 そもそも、野馬追の日程はどのようにして決められたのか。 中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代を通じて旧暦「五月中の申」の日に行われていた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。 その後、日程はどう変わっていったか『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」から抜粋する。 《明治6年(1873)の改暦を受け、翌7年(1874)には旧暦「五月中の申」の日にあたった7月2日をもって野馬追が行われるようになった。そして、翌8年(1875)からは日程が7月2日に正式に固定化され、その日を中心とした7月1日~3日の3日間行われるようになった。旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという。なお、明治37年(1904)以降には、7月11日~13日に変わっている》 日程を10日繰り延べたのは梅雨を避けるため。それから約半世紀が経過した昭和36年(1961)に7月16日~19日という4日間に変更されたが、変則日程は定着せず、5年後の昭和41年(1966)にはさらに1週間繰り延べて7月23日~25日となった。 《変更理由は、梅雨明けを待つこと、学校の夏季休暇を利用して、より多くの観覧者を見込んでのものであった。近代から幾度かあったこれらの日程変更は、いずれも野馬追を観光資源として意識したものといえよう》(同抜粋) その後、7月23日~25日という日程は40年以上続いたが、3日間とも平日に重なってしまうと出場が難しい騎馬武者も多く、観客数にも影響が出るため、2011年から7月最終土・日・月曜日に変更され、現在に至っている。 このように、7月開催は旧暦に基づく深い意味を帯びている半面、細かい日程は「梅雨を避ける」「騎馬武者を出場し易くする」「観客数を増やす」などの理由で変更されてきた歴史があるのだ。 難しい文化庁との調整 南相馬市が行ったアンケートの結果と情報開示請求で入手した「自由記述欄」  とはいえ、今回の日程変更は過去のものとは意味合いが異なる。これまで一貫して守ってきた「旧暦五月中の申の日」から大きく変えることを視野に入れているのだから、そう簡単に決断できるものではない。 ただ現実に目を向けると、騎馬武者、馬、観光客は酷暑に四苦八苦している。地球温暖化で、今後も気温上昇は避けられない。万が一、熱中症で命を落とす人が現れたら取り返しのつかないことになる。 本誌は前述・南相馬市が行ったアンケートの「自由記述欄」に、回答者(騎馬会員)がどのようなことを書いたのか確認するため、同市に情報開示請求を行った。 開示された自由記述欄には計142件の意見が書かれており、そのうち「暑さ」に関するものは2割に当たる28件に上った。主だった意見を掲載したのでご覧いただきたいが、人の命と健康を心配する意見だけでなく、馬への負担を指摘する意見も目立った。個人的には「馬に点滴をしながら頑張ってもらった」「乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので貸すのを渋っている」という意見に衝撃を受けた。ストレートに「動物虐待」と書いた回答者もいたが、点滴までして駆り出されている馬がいることを踏まえれば決して大袈裟ではない。 暑さに対する意見 ・日程変更は早急にすべき。今の時期では人馬に対して虐待行為だ。(70代男性)・中学生から鎧で出場するのは体力的に負担が大きい。(10代男性)・暑さで愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、昨年の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうで、今年の夏も暑いようなら出場しない方向で考えている。(20代男性)・各郷の陣屋の後ろに家族用のテントを張り、日陰をつくるなどの暑さ対策をしないと命に関わることも起こり得ると思う。(40代男性)・出場者や観光客の負担をなくすため、猛暑を避けての開催を希望する。(10代女性)・猛暑の中での開催は動物虐待だ。(60代男性)・乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので、馬を貸すのを渋っている。(70代男性) 費用負担に対する意見 ・馬を借りるのに20~40万円払っており、家族の負担も大変。現実的に新しく野馬追を始めようとしたら100万円近くかかる。(20代男性)・奨励金は20年以上変わっていないのに、馬代は数年前の倍以上になっている。道具なども傷むので、その都度修理すれば負担は大変だ。(40代男性)・馬を飼育する人への援助がない。馬を飼うと1頭40~50万円かかる。自馬でないと競馬や旗取りに出られない。馬が身近にいる環境をつくることが大事だ。(70代男性)・道具類を揃えるだけでも費用がかかるので、参加枠を設け、野馬追を体験してもらうのもありではないか。(30代男性)・乗馬の練習が有料なのは仕方がないが1回3000円前後の回数券を発行してほしい。(60代男性) 女性の出場条件緩和に対する意見 ・年齢制限をなくし、既婚者も出場できるようにすれば騎馬武者の数も多くなる。(70代男性)・流鏑馬の女性騎馬も認められている。昔のきまりを大事にしすぎて伝統がなくなるより、多少きまりが変わっても伝統を残す方が大事だと思う。(10代女性)・20歳を過ぎてからも野馬追に出場したいと思っている女性は多いはずだ。(10代女性)・男性より女性の方が出場意欲のある人は多い。私は4年出られるはずが3年しか出られなかった。毎日馬の世話と手入れもして、伝統を残すためにやっていたのに、運営の対応にがっかりさせられたことがある。もっと女性の意見に耳を傾けてほしい。(20代女性)  半面、意外だったのは前述のアンケート結果にあるように、日程変更に「反対」「どちらでもない」を合わせると計47%に上ったことだ。酷暑を考えれば「賛成」がもっと多くなると思われただけに、大差がつかなかった理由が気になる。 筆者は数人の騎馬会員に話を聞いたが、多くが日程変更に反対していた。その人たちが口を揃えて言ったのは「暑かろうが何だろうが、出たい人は出る」というものだった。 一方、自由記述欄を見ていくと、2011年に現在の日程に変更されたため「伝統を重んじる野馬追の日程をころころ変えるべきではない」という意見とともに、国重要無形民俗文化財に指定されていることから「(日程を変えると)指定が取り消しになるのではないか」と心配する意見も目に付いた。 野馬追は昭和27年(1952)、文化財保護法に基づき国の無形文化財に選定されたが、同29年(1954)の同法改正で選定解除となった。その後、同50年(1975)の同法改正で重要無形民俗文化財の指定制度が設けられ、翌年、相馬地方に派遣された文化庁調査官が野馬追の指定に向けた調査を行い、同53年(1978)に同文化財に指定された。 この指定が、日程変更に当たって障壁になるのだという。 2011年に現在の日程に変更された際、その協議に参加した南相馬市の関係者は当時を振り返る。 「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」 正式決定には、かなりの時間と労力が要ることが分かる。 さらに突っ込んだ話をしてくれたのは地元の研究者。 「地域が野馬追の『文化財としての価値』をどう保存していくのか、そのうえで、現在の日程では文化財としての価値を担保できないことが説明されないと、文化庁は日程変更を許可しないと思います」 研究者によると、暑さを理由に日程を大幅に変えるかどうかは2011年当時も出ていた話で、有識者からは「むやみに日程を変えるべきではないが、五月中の申の日になぞらえるなら5月開催も一つの案」との提案もあったという。しかし、執行委員会などは「騎馬武者の参加し易さ」と「観光客の集め易さ」を重視し、7月最終土・日・月曜日に決めた経緯がある。 「この時、文化庁は文化財としての価値の保存とは関係ない『騎馬武者の参加し易さ』と『観光客の集め易さ』が前面に出たことに難色を示した。最終的には『騎馬武者に参加してもらわないと文化財としての価値の保存が難しくなる』との理由付けで同庁から日程変更を許可されたが、国重要無形民俗文化財に指定されると、それくらい調整が難航するということです」(同) こうした状況を踏まえると、もし7月以外に開催することが決まったとしても実施されるのは数年先で、文化庁が許可しなければ実現しない可能性もある。 さらに研究者は、別の心配事として「野馬追2日目(相馬太田神社)と3日目(相馬小高神社)に執り行われる例大祭の日程を変えることができるのか」という点も挙げた。 ただ、相馬太田神社の佐藤左内宮司に確認すると「日程が変わればそれに合わせて例大祭も変えるだけ。これまでの日程変更でもそうしてきたと思います」と話し、難しいとは考えていない様子。むしろ佐藤宮司が心配していたのは、例大祭当日に行われる祭りの担い手が確保できるかどうかだった。 「カネの問題ではない」  「祭りでは神輿の担ぎ手が50人、旗持ちや準備をする人などが50人必要です。例年、地元企業の若手社員や中学・高校生、専門学校生に手伝ってもらっているが、子どもたちは夏休みだから参加できるので、これがもし7月以外の開催になったら100人確保できるのか。正直『自前で確保してほしい』と言われても無理。日程変更するなら祭りの支援も約束してくれないと困る」(同) 佐藤宮司は、詳しいアンケート結果は把握していなかったが「酷暑の中で行うのは人馬にとって負担」と日程変更に一定の理解を示しているようだった。 自らも騎馬武者として出場する岡﨑義典・南相馬市議(3期)は同市議会昨年9月定例会で、現在の日程では人馬だけでなく観光客も熱中症などのリスクが高いとして「開催時期について騎馬会などと協議すべきではないか」と質問している。 岡﨑義典・南相馬市議(南相馬市議会HPより)  「私は、絶対に日程を変えるべきと言っているのではない。出場者はこの日程でやると言われればどこだって出る。しかし観光客は別です。毎年、熱中症で手当てを受ける人は一定数おり『こんな暑い中で見るならもう来なくていい』という不満も聞いたことがある。時代の変遷に合わせ、より良い方向に変えるための話し合いはすべきです。あとは結果に従い、変更する・しないを決めればいい」(岡﨑議員) 賛否両論ある日程変更は、6月にも執行委員会内に検討委員会が設けられ、本格的な協議がスタートする見通しだが、前述・情報公開請求で入手した自由記述欄を見ていくと、暑さに関する意見のほか、出場するための高額費用負担と女性の出場条件緩和に触れている意見も目に付いた。具体的にどのような意見が寄せられていたかは別掲をご覧いただきたいが、野馬追は今、この三つが大きな課題になっていることがうかがえる。 高額費用負担については、金銭的な支援を求める声が少なくない。別掲にもあるように、野馬追に出場するにはかなりの出費を要するが、これに対し行政からは「出場奨励金」が支給されている。奨励金は執行委員会→各騎馬会→騎馬会員に支給され、金額は騎馬会によって若干差があるが、1人当たり10~12万円。 金銭的な支援があれば持ち出しが減るので、出場者は助かる。ただ本誌が取材した騎馬会員の多くは「カネの問題ではない」「初期投資はかかるかもしれないが、奨励金を数年もらえばペイする」「一部に派手な甲冑や馬具を揃える人がおり、見栄っ張り合戦になっていることが問題」と支援増に否定的だ。 前出・岡﨑議員も同様の意見だったが「ただし」と付け加える。 「馬の飼料代が高騰し、それが馬代(借り賃)に跳ね返っている。私が最初に出場した2014年は10~12万円だったが、昨年は30万円という人もいた。例年、乗馬クラブからは馬代の目安になる奨励金がいくらになるか市に問い合わせがあるが、馬代高騰の流れはますます進んでいくように感じる。しかし、だからと言って市が馬代を税金から負担するのは市民の理解を得にくい。であれば市内には通年で馬を飼育している人が多いので、飼料代の支援は緊急的に行ってもいいと思います。実際、もう飼料代を負担できないと馬を手放した人もいますからね」 年々減る参加騎馬武者 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  もう一つの女性の出場条件緩和については、本誌が取材した騎馬会員からも「現行の出場条件である『20歳までの未婚女性』は変えていいと思う」「男女平等やLGBTが当たり前の昨今、性別や年齢で出場を制限するのは時代に馴染まない」との意見が多く聞かれた。 野馬追に女性の参加が認められたのは昭和22年(1947)で、同59年には騎馬会に「未成年の未婚者で化粧をしてはならない」との条文ができたという。未成年や未婚が条件となったのは、月経や出産などが血を連想させ、不浄とされたためとみられる。 騎馬会員の中には女性の参加に難色を示す人もいるようだ。武家行事の野馬追は女性が参加できなかった歴史があり、その点を重んじる気持ちも分かるが、時代の変遷に合わせた変化は必要だろう。そもそも女性の出場条件を緩和したところで、女性の出場者が劇的に増えるとは思えない。むしろ別掲にあるように、男性より野馬追のことを思う女性がいるなら、柔軟な対応で出場の間口を広げるべきではないか。 野馬追はここに挙げた三つの課題のほか、参加騎馬武者の減少にも直面している。ピークは1995年の614人、震災・原発事故以降は400人前後で推移し、昨年は337人だった。 日程変更、金銭的な支援、女性の出場条件緩和が実行されれば参加騎馬武者が増えるかどうかは分からない。騎馬武者の数にとらわれるのではなく、歴史と伝統を継承していくことを大事にすべきという意見もある。数を維持したいがために闇雲に税金を投入したり、野馬追の意味を理解せず、単に「カネがあるので出たい」という意識の低い騎馬武者が増えるようでは本末転倒だ。  「野馬追はこれまで首長、執行委員会、騎馬会など上層部だけで物事を決めてきた。そういう意味では、今回のアンケートで騎馬会員の本音を聞こうとしたことは今まで見られなかった姿勢であり、評価できると思います」(ある騎馬会員) 過渡期を迎える野馬追を未来にどうつないでいくのか。三つの課題と合わせて考える必要がある。

  • 観光地の評価を左右するトイレ事情

    (2022年8月号)  観光地の評価を左右するのが、誰もがお世話になるトイレだ。古く汚いトイレしかない場所では自ずと滞在時間が短くなるし、再訪する気も失せる。福島県の観光地のトイレ事情はどうなっているのか。観光客入込数が多いスポットに足を運び、独自調査をしてみた。 道の駅はどこもキレイ、最悪は「開成山公園」  県観光交流課が発表している2020年分の「福島県観光客入込状況」によると、観光客入込数が多かった観光地上位は別表の通り。 2020年の観光客入込数上位 順位 地名・施設名観光客入込数伸び率1磐梯高原161万人△ 14.62道の駅国見あつかしの郷137万人△ 10.73道の駅伊達の郷りょうぜん120万人△ 4.94道の駅あいづ 湯川・会津坂下104万人△ 13.05あづま総合運動公園100万人△ 39.96いわき・ら・ら・ミュウ97万人△ 33.97セデッテかしま81万人△ 37.38道の駅猪苗代80万人△ 16.29道の駅「安達」下り線78万人△ 12.610道の駅ばんだい73万人△ 21.811伊佐須美神社71万人△ 32.912道の駅「安達」上り線68万人△ 12.913喜多方市街65万人△ 39.114郡山カルチャーパーク61万人△ 55.815スパリゾートハワイアンズ60万人△ 63.316大内宿55万人36.117磐梯吾妻スカイライン54万人158.818はたけんぼ52万人△ 3.319ゴルフ場51万人△ 8.620磐梯熱海温泉51万人△ 36.3※△はマイナス  同年は新型コロナウイルスが感染拡大した年であり、特に1回目の緊急事態宣言が出された春先・大型連休では不要不急の外出を控える人が多かった。そのため、観光客入込数は3619万人(前年比35・8%減)と大幅に減少した。 磐梯吾妻スカイラインのみ伸びているのは、前年吾妻山の噴火警戒レベルが引き上げられ、全面通行止めが続いたため。 気になるのはそうした観光地のトイレ事情だ。 観光地に出かけるときは日常と異なる生活リズムとなるうえ、ご当地グルメやスイーツなどを飲食する機会も増えるため、腹を下して思いがけないタイミングでトイレに駆け込むことがある。そうした際、古い・汚い・臭いトイレだったときの落胆は大きい。 和式の個室しか空いていないときもテンションは下がる。「うちは和式でないとだめだ」という高齢者が多かったのは昔の話。「久しぶりに和式で用を足したら足の踏ん張りがきかなくて、後ろに転びそうになった。洋式に統一してほしい」という声が聞かれる。 逆に期待しないで入ったトイレが、温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)が整備された綺麗なトイレで、上機嫌になることもある。7月10日、国見町にオープンした「あつかし千年公園」は阿津賀志山防塁がある田園地帯に整備された公園(イベント広場、駐車場)だが、その一角に整備されたトイレが思いがけず最新のつくりで感動した(写真)。 あつかし千年公園のトイレ① あつかし千年公園のトイレ②  コンビニや飲食店、土産物店などのトイレは比較的きれいだが、ただで借りるわけにもいかないので、食事や買い物のついでに用を足す。むしろトイレを借りるため何かを買っている人も多いだろう。 その点、公衆トイレは〝無料〟で気軽に利用できるが、清潔度で疑問符が付くことも少なくない。 特定非営利法人・日本トイレ研究所(東京都)は2018年から2019年にかけて、外出時に利用したくなる「お気に入りトイレ」についてのインターネットアンケート調査を実施した(有効回答数226、複数回答あり)。その結果、最も重視するポイントとして挙げられたのは健常者、要配慮者(障害者や妊産婦など)ともに、「きれい・清潔」だった。 健常者と要配慮者で分かれたのが、手すりや温水洗浄便座、おむつ交換台、オストメイト(人工膀胱保有者)対応トイレといった「設備がある」という項目。健常者では24・2%だったのに対し、要配慮者は43・8%に上った。最近では女性トイレで生理用品を無料提供するサービスなども始まっており、トイレの設備の重要性に注目が集まっている。 同研究所代表理事の加藤篤さんはこのように語る。 「トイレに一番重要なのは『安心』だと考えています。きれい・清潔なのはもちろん、多様な人の利用を想定した設備が整っていて、誰もが安心して利用できるトイレが望ましい。例えば、トイレの入り口に段差があるだけでも、車いすの人や足が不自由な人は利用できないわけです。観光地においても、安心して使えるトイレがなければ、その場所を訪れる人は限られるし、『飲食や宿泊は控えてトイレを使わないようにしよう』と考えるので、滞在時間も自ずと短くなるでしょう。そういう意味では、観光の満足度を左右する存在がトイレだと言えます。『安心』という意味では、自然災害により停電や断水などが発生したとき、公衆衛生を保つ役割も観光地のトイレには求められています」 裏磐梯のトイレを点検 桧原湖畔の古びたトイレ  県内観光地のトイレは安心して利用できるのか。6月から7月にかけて、前出の観光客入込数が多い地点を中心に、県内の観光地や公園、公共施設などを回って、トイレの状況をチェックした。 チェックしたのは、男性トイレ個室の①便器の種類(和式、洋式、ウォシュレット)、②施設・設備の新しさ(3段階)、③清潔さ(3段階)。記者(42歳、男性)が、家族や友人などとプライベートで訪れた際に利用したいトイレかどうか、という視点でジャッジした。 県内トイレの本誌採点一覧 ‐場所名 自治体名便器の種類新しさ清潔さ➀福島交通飯坂線 飯坂温泉駅福島市洗浄23➁エスパル福島1階福島市洋式33③福島駅前公衆トイレ福島市洗浄22④浄土平公衆トイレ福島市洋32⑤県営あづま球場福島市洋33⑥あづま総合運動公園大駐車場福島市洋21⑦道の駅りょうぜん伊達市洗浄33⑧やながわ希望の杜公園伊達市和12⑨あつかし千年公園国見町洗浄33⑩観月台公園国見町和11⑪半田山自然公園入口桑折町洋22⑫JR郡山駅1階郡山市洋+和33⑬郡山カルチャーパークドリームランド郡山市洗浄13⑭開成山公園市役所側駐車場トイレ郡山市和11⑮開成山公園自由広場前トイレ郡山市洋+和21⑯道の駅「安達」上り二本松市洗浄+和22⑰小峰城白河市洋+和23⑱白河駅前駐輪場白河市洗浄33⑲JR新白河駅前白河市洋32⑳南湖公園菅生舘駐車場白河市洋22㉑はたけんぼ須賀川市洗浄23㉒裏磐梯物産館(北塩原村)北塩原村洗浄+和33㉓裏磐梯ビジターセンター北塩原村洋+和22㉔桧原湖南岸駐車場公衆便所北塩原村洋12㉕第一ゴールドハウス目黒 桧原湖店北塩原村洗浄23㉖第二ゴールドハウス目黒 磐梯店北塩原村洗浄12㉗桧原湖第2駐車場公衆トイレ北塩原村洋+和22㉘道の駅あつかしの郷国見町洗浄33㉙JR会津若松駅会津若松市洗浄23㉚鶴ヶ城西出丸トイレ会津若松市洋22㉛鶴ヶ城喫茶脇トイレ会津若松市洋22㉜JR喜多方駅喜多方市洋+和23㉝道の駅猪苗代猪苗代町洗浄33㉞世界のガラス館猪苗代店猪苗代町洗浄+和22㉟長浜公衆トイレ猪苗代町洗浄+和22㊱道の駅ばんだい磐梯町洗浄+和33㊲塔のへつり公衆トイレ下郷町洗浄22㊳道の駅下郷下郷町洗浄+和23㊴JR会津柳津駅柳津町洗浄33㊵JR会津宮下駅三島町洗浄33㊶三島町観光交流館からんころん三島町洋33㊷JR会津川口駅金山町洋23㊸会津川口駅前「みんなのトイレ」金山町洗浄33㊹道の駅番屋南会津町洋+和22㊺JR田島駅南会津町洗浄33㊻JR只見駅只見町洗浄33㊼道の駅尾瀬檜枝岐檜枝岐村洗浄33㊽ミニ尾瀬公園檜枝岐村洗浄22㊾道の駅ならは楢葉町洗浄33㊿道の駅そうま相馬市洗浄3151原釜尾浜海水浴場相馬市洋式2252セデッテかしま南相馬市洗浄3353JRいわき駅いわき市洋+和3354いわき・ら・ら・ミュウいわき市洗浄33※便器の種類は洋=洋式、和=和式、洗浄=温水洗浄便座。※「新しさ」の基準は以下の通り3=新しい施設・充実した設備で万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=古い施設・設備、暗い雰囲気で使いたくない※「清潔さ」の基準は以下の通り3=きれいな環境が維持されており、万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=汚れや臭い、ゴミ、故障便器が目立ち、使いたくない トイレ調査トピックス ○温水洗浄便座は多目的トイレに1台だけ設置し、男子トイレの方には洋式・和式しかないケースも多かった。設置費用節約のためか。○道の駅のトイレは清潔だが、調理場から出る油などの影響で、水回りから悪臭が漂うところも。○道の駅そうまは指定管理者が変更となり、改装中のためか、敷地内からごみ箱が撤去されており、トイレの中に空き缶が捨てられていた。  まず向かったのは、観光客入込数1位の磐梯高原(裏磐梯=北塩原村)。 最初に訪れた裏磐梯物産館は五色沼自然探勝路(約4㌔、徒歩約1時間20分)の出入り口に立地している。ハイキング客が多いトイレを覗くと、温水洗浄便座と和式が設けられていた。比較的新しく清潔感があるので使いやすそう。 探勝路のもう一つの出入り口、裏磐梯ビジターセンターの脇にもトイレが設けられている。こちらは屋外のトイレで、便座はいずれも和式。少し暗い雰囲気だが「ビジターセンター脇のトイレは24時間利用可能で、冬は暖房が付いているので、使い勝手がいい」(裏磐梯をよく訪れる男性)と評価する声もある。 2018年には同センター西側に、裏磐梯観光協会事務所などが入る五色沼入口観光プラザがオープンした。こちらのトイレはすべて温水洗浄便座で、多目的トイレも設けられているが、9時から17時までしか利用できないのが難点。 桧原湖畔には県が設置したトイレがあった。洋式で車いすも入れる広さがあったが、設備自体が古い。不気味な雰囲気が漂う。 同じ桧原湖畔に立地するドライブイン「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のトイレも古さを感じる造りだが、個室はすべて温水洗浄便座。これには正直驚かされた。 「ドライブインは団体客を受け入れることが多く、トイレを利用する方が多いので、快適に利用してもらえるように気を使っています」(同施設の関係者) このような施設がある一方で、本誌2018年8月号では、五色沼周辺の観光施設「レストハウス五色沼」が修学旅行生にトイレを貸さず、観光エージェントから県観光物産交流協会に対し〝問い合わせ〟が寄せられた件を取り上げた。当時の本誌取材に対し、同施設の関係者は「修学旅行生は全く買い物をしないのに、声もかけずぞろぞろと入ってきてトイレを使おうとする」と本音をこぼしていた。これも観光施設の本音だろう。観光施設にとって維持管理の負担は小さくない。そうした中で「どこまでトイレを貸し出すか」という問題に頭を悩ませている。 ただ、安心して利用できるトイレがある観光地は、拠点としても使いやすいので人が集まりやすくなり、再訪する人も増えるだろう。例えば、前出「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のように、温水洗浄便座を整備するのも一つの手段。〝おもてなし〟の視点で整備を進めていってはどうだろうか。 県内観光地をめぐると、温水洗浄便座が設置されているトイレは割とあったが、和式トイレと併設されているところ、もしくは多目的トイレにのみ温水洗浄便座が設置されており、男性トイレは洋式・和式というケースが多かった。そうしたトイレの場合、問題なのは、混雑していて和式しか空いていないときがあること。実際、ある道の駅のトイレを訪れた際、和式しか空いていないのを確認して踵を返した人がいた。和式なら利用したくない、と。 一般家庭用で和式から温水洗浄便座に改修する際の費用は約30万円。それほど高い金額ではないのだから、すべて温水洗浄便座に変えても問題ないように思えるが、なぜ普及が進まないのか。 ある観光施設の責任者は「高齢者の中には和式がいいという人もいるので、一部残している」と明かす。 過去の新聞・雑誌を探ったところ「第三者が座った後の洋式便座に座りたくない。和式は残してほしい」、「不特定多数の尻を洗った温水洗浄便座を使用するのに抵抗がある」という意見もあると報じられている。ごく少数派になりつつあるが、さまざまな理由から和式を希望する人がいるので、残しているわけ。 前出・日本トイレ研究所代表理事の加藤さんは「温水洗浄便座を広く整備すべき」という意見に釘を刺す。 「確かに温水洗浄便座の導入により快適にトイレを利用できる人が増えるのはいいことです。ただ、山の上など水がない場所のトイレに整備するのは現実的に難しいし、『設備さえ整えればいい』という考え方は危うい面があります。たとえ温水洗浄便座が整備されていても、掃除が行き届いていない不衛生なトイレは使いたくありませんよね? あくまで求められるのはきれい・清潔なトイレであり、空間や設備がバリアフリーであることが安心感を生み出すのです」 インバウンド需要が注目されたとき、象徴的な受け入れ施策として国が力を入れたのがトイレの洋式化だった。補助金メニューが設けられ、予算が付きやすくなり、全国各地で洋式化が進んだ。だが、むしろ重視すべきはその後の維持管理・運用であり、設備の有無を注目すべきでないと加藤さんは主張しているわけ。 ネックは維持管理費用 福島駅近くの公衆トイレ  複数の自治体に確認したところ、公衆トイレの維持管理は業者に委託すると、毎月数万円~10万円かかる。温水洗浄便座を導入すると、維持管理費用が跳ね上がるようで、郡山市公園緑地課の担当者は「開成山公園内のトイレ6カ所への温水洗浄便座導入を検討したことがあったが、改修費用もさることながら、維持管理費用に年間200万円かかることが分かり、断念しました」と語った。 別の自治体担当者は「不特定多数が利用する公衆便所なのでいたずらされて破損することもたまにある。そのときの改修費用も考えると、温水洗浄便座の全面的導入に二の足を踏む面もある」と述べた。 それならば、せめて県内を代表する観光地や道の駅だけでも温水洗浄便座を充実させるべきだ。 さまざまなトイレを回っていて意外だったのは、首都圏からの電車利用客にとっての玄関口となるJR福島駅、郡山駅、いわき駅は意外とトイレが少なく、温水洗浄便座も配置されていなかったこと。 福島市の市民からはこのような不満が聞かれた。 「駅前の飲食店で飲んだ後、バスで帰る前にトイレに寄りたいと思ったが、駅ビルは20時で閉まっており、どこにトイレがあるのかさっぱり分からず難儀しました。結局、駅の端っこの交番の脇にある市の公衆トイレを発見して、難を逃れましたが、夜間は近づいたときだけ照明が付くようになっており、遠目にはさっぱり分からなかった。観光客には全く優しくないと思いますよ」 コロナ禍前は、酔っぱらった男性がトイレまで我慢できず、福島駅の東西をつなぐ地下道「東西自由通路」で立ち小便をしていた――という恐ろしい話も聞いた。 福島市ではこうした状況を改善するため、7月31日、街なか広場北側のパセオ通り沿いに駐輪場や倉庫と併設する形で、24時間利用可能なトイレを整備した。総事業費は約1億4000万円。さらに、福島駅東口再開発の動向を見ながら、既存のトイレの改修も検討していく考えだ。 中心市街地のトイレ不足はどこも共通している。7月13、14日に喜多方市中心市街地の商店街で行われた「喜多方レトロ横丁」。3年ぶりの開催となり、多くの人でにぎわったが、公衆トイレなどが近くにないため、メーン会場に近いリオン・ドール喜多方仲町店のトイレには長蛇の列ができていた。 同イベントを主催した会津喜多方商工会議所の担当者は、「会場には3カ所の仮設トイレを設置したが、和式タイプということもあり、女性や若い世代には敬遠されがちです。一部の飲食店や土産店で頼んで借りることもできるだろうが、気軽に使いづらい。そのため、どうしてもリオン・ドールのトイレに集中したようです」と悩みを語った。結局、安心して利用できるトイレに集中するということだ。 不気味な開成山公園トイレ 開成山公園のトイレ  そういう意味で、県内のトイレを回ってみて「ここは安心して利用できない」と感じたのは郡山市の「開成山公園」だ。和式便所が多いうえ、壊れて使用できない便器もあった。 同公園内には人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター・ラッキーをモチーフにした「ラッキー公園inこおりやまし」が開園しているが、ここで用を足したいと考える人は少ないのではないか。 園内で自転車を止めて話し込んでいた2人の女性にトイレについて話を聞いたところ、年配女性は「清潔さはそれほど気にならないが、和式トイレだと足が痛くなるので、洋式にしてほしい」、中年女性は「園内のトイレで自ら命を絶った人がいるというウワサを聞いて、不気味なのでしばらく利用していない」と話した。 市によると、現在トイレのリニューアルも含めた「開成山公園等Park―PFI事業」の事業者公募中で、2023年度からの事業開始に向けて手続きが進められているという。 2021年、五輪競技の会場になったあづま総合運動公園のトイレは、温水洗浄便座を導入しているところがあったが、全般的に施設が古くて狭く、暗い雰囲気が漂う。 ちなみに、県内には汲み取り式トイレもあるのではないかと予想していたが、今回訪れた中では一つもなく、水洗化が進んていることを実感した。ただ、登山道にあるトイレなどはそういったところも多い。微生物を利用して排泄物を分解する「バイオトイレ」であれば悪臭は抑えられるので、状況が変わっている可能性もある。そうしたトイレ事情に関しては、稿を改めて取り上げたい。 時間の都合で回れなかった観光施設も多いが、総じて県内観光地のトイレは洋式化が進んでおり、温水洗浄便座も普及していると感じた。ただ、一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページによると、温水洗浄便座の一般世帯への普及率は80・3%。それを考えると、観光地においても、もっと積極的に普及に取り組んでもいいのではないか。 今後の課題は日本トイレ研究所の加藤氏が話していた通り、いかにすべての人が安心して使えるトイレを整備していくか、という点であり、そのための維持管理費用をどう確保していくかということになる。そこに関しては、いかに県や市町村がトイレの維持管理の重要性を理解し、観光客への〝おもてなし〟の意識を持って、「安心して利用できるトイレ」を作っていけるか、ということになろう。

  • 春のふくしまを巡る

    春のふくしまを巡る

    いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市) あわせて読みたい ふくしま書棚百景 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

    「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影)

    【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

     福島市在住のアマチュアカメラマン・渡部良寛さん(63)は鉄道写真を中心に、県内の絶景を撮影し続けている。 桜に紅葉、雪景色。その美しさから、福島県宅地建物取引業協会(宅建協会)の広報誌の表紙に採用されていたほか、JR福島駅の駅ビル「S-PAL(エスパル福島)」1階でも常設展示されている。 渡部さんの作品群の中から、思わず心を奪われる県内の〝感動絶景〟を紹介してもらった。 観音寺川の桜並木(猪苗代町、2021年撮影) 水郡線の脇で咲き誇る「戸津辺の桜」(矢祭町、2014年撮影) 二本松の提灯祭り(二本松市、2014年撮影) 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影) 二井屋公園に咲くポピー(伊達市、2016年撮影) ハート形に見えるため、「ハートレイク」とも呼ばれている半田沼(桑折町、2017年撮影) 只見川沿いの大志集落(金山町、2020年撮影) 国の重要無形民族文化財「サイノカミ」が再現され、花火も打ち上げられた「雪と火のまつり」(三島町、2020年撮影) 波立海岸沿いのJR常磐線を走るE657系「特急ひたち」(いわき市、2022年撮影) あわせて読みたい 春のふくしまを巡る ふくしま書棚百景

  • 岐路に立つ真夏の相馬野馬追

     相馬地方の伝統行事で国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程変更が現実味を帯びてきた。今年も例年通り7月最終土・日・月曜日(29・30・31日)に行われたが、連日の暑さで多くの観客、騎馬武者が熱中症の疑いで搬送され、馬2頭が死ぬ事態となった。もはや涼しい時期に日程が変わるのは避けられない情勢だが、変更の「障壁」とされる文化庁の許可がすぐに得られるのかという指摘もある。 歴史的根拠に乏しい「5月開催」方針 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  行事を取り仕切る「相馬野馬追執行委員会」の門馬和夫委員長(南相馬市長)が、8月7日に開かれた市の定例会見で発表した数字は衝撃的だった。  7月29、30、31日に開かれた今年の相馬野馬追。その実績は、出場騎馬数361騎(前年比24騎増)。観覧者数は、3日間の総入込数12万1400人(同1万8000人増)。30日の本祭りに限ると、雲雀ケ原祭場地に2万8000人(同8000人増)、騎馬武者行列の沿道に3万8000人(同3000人増)が訪れ、いずれもコロナ禍だった昨年より増えていた。  一方、同じく前年より増えたのが救護件数である。  救護所対応件数(鹿島・小高を含む)は95件(前年比57件増)。内訳は、熱中症および熱中症前兆が83件(同62件増)、打撲、外傷などが12件(同6件減)。このほか救急搬送も13件(同12件増)に上り、うち11件は熱中症によるものだった。  当日がどれくらいの暑さだったかは、データを示せば一目瞭然だ。以下は気象庁の観測所がある相馬市の気象データ。  29日  最高気温34・1度  最低気温24・0度  30日  最高気温35・2度  最低気温24・6度  31日  最高気温34・9度  最低気温26・0度  3日間とも猛暑日(35度以上)と言っていい暑さ。そうした中を騎馬武者は重い甲冑をまとい、馬を操っていたわけだから、体感温度は軽く40度を超えていたに違いない。  出場10回未満の騎馬武者は「今年は今まで経験した中で一番きつかった。とにかく尋常じゃない暑さで、周りの人たちも口を揃えて辛いと言っていました」。  これに対し、ベテランの騎馬武者は「昔から出ていると『野馬追は暑いもの』という考えがあるから、何とも思わない」と平然と言うが、多くの騎馬武者があまりの暑さに音を上げたのは事実だろう。  ベテランの騎馬武者がむしろ心配していたのは観客の体調だ。  「甲冑競馬と神旗争奪戦が行われる雲雀ケ原祭場地は日差しを遮る場所がないから、観客はかなりきつかったと思う。その場でじっと見ているのは厳しかったんじゃないか」 もちろん、執行委員会でも暑さ対策は行っていた。例えば南北2カ所に涼み所としてテントを張り、ミスト扇風機を置いたり、行列観覧席の後ろにテントを設置したり、南北2カ所の救護所にも大型扇風機と冷風機を設置したが、熱中症の救護件数が前年比で62件増えたことからも十分な対策とは言えなかったようだ。  暑さの影響が及んだのは人だけではない。馬も2頭死んだ。門馬市長が8月7日の定例会見で明かしたところによると、熱中症で倒れた1頭が安楽死となり、もう1頭は原因不明で死んだが、暑さが原因なのは疑いようがない。  騎馬救護所での馬の診療件数も112件(前年比41件増)に上り、うち111件が日射病。出場騎馬数は361騎だったので、約3分の1の馬が救護を受けたことになる。  「私の馬は大丈夫だったが、とにかく水を飲ませ、体にかけてやることはずっと意識していた。今年はやらなかったけど、過去には予防措置として点滴をしたこともある。馬の様子を見極めるには、ある程度の経験が必要なので、経験の少ない騎馬武者ほど馬を日射病にしてしまったのではないか」(前出・ベテランの騎馬武者)  とはいえ、馬はもともと暑さに弱い。そうした中で、重い甲冑をまとった人間を背中に乗せて走れば、馬体に相当な負担がかかることは容易に想像できる。  地元紙は記事中で触れただけだったが、全国紙は「馬2頭が死ぬ」と見出しでも大きく取り上げたため、ネット上では「真夏の野馬追は、いくら伝統行事とはいえ動物虐待」「息遣いや発汗を見れば、馬の異変に気付くはず」「死んだのが人間ではなく馬でよかった、ということにはならない」といった厳しい書き込みが散見された。 三重県の伝統行事に勧告  こうした事態に、執行委員会は8月8日、ホームページ上で「馬の救護事案に係る対応について」という発表を行った。  《相馬野馬追執行委員会では、熱中症(日射病と表記したものも含みます)により、人馬とも例年を大きく上回る要救護事案が発生したことを重く受け止めております。  特に亡くなられた2頭の馬に対し御冥福をお祈りするとともに、馬と共に継承してきた伝統行事の主催者としての責任を以て、今後の対応を速やかに整えてまいります》  今年は例年以上に暑くなることが予想されていたため、執行委員会では馬への熱中症対策として①騎馬武者行列の前に散水車2台を使って打ち水を実施、②騎馬救護所に給水車とホースを設置、③山頂に給水用のホース(シャワー)を設置、④馬殿に補給用として大型バケツ5個を設置するなどしていた。  「ただ、馬が死んだのは今回が初めてじゃない。単にここ数年は死んでいなかっただけ」(前出・ベテランの騎馬武者)  それが今回、ここまでクローズアップされたのは▽今年の野馬追開催前に、近年の異常気象を受け、日程を変えてはどうかという話が浮上していた、▽騎馬会を対象に行ったアンケートでも、馬の命と健康を心配する意見が挙がっていた、▽昔は馬が死んでも深刻に受け止める気配が薄かったが、令和の時代になり「動物福祉」が重んじられるようになった、▽今までは馬が死んでも報じなかったマスコミが、今回は大きく報じたことで世間の関心を集めた――等々が影響したとみられる。  市では昨年12月、五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行ったが、回答の自由記述欄を見ると、馬の命と健康についてこんな意見が寄せられていた。  「暑さにより愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、今回の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうになり、来年夏も暑いようなら出場しない方向で考えていた」(20代男性)  「乗馬クラブは野馬追で馬を貸すと暑さで10~20日休養させることになるので貸すのを渋っている」(70代男性)  騎馬武者たちは自分で飼育している馬に乗るか、乗馬クラブや知人などから馬を借りている。しかし、熱中症で救護を受けたり、死ぬかもしれないリスクがある状況では、来年以降、愛馬を出場させるのをためらったり、貸すのを拒む乗馬クラブが増える可能性もある。それでなくても、もともと乗馬クラブからは「乗り方が粗っぽく、野馬追から帰ってくると馬がかなり疲弊している」という不満が漏れていた。  他地域では、こんな出来事も起きている。  《三重県桑名市の多度大社で毎年5月に行われる伝統行事「上げ馬神事」が動物虐待に当たると批判されている問題で、県教育委員会は(8月)17日、県文化財保護条例に基づき多度大社に勧告を出した》(共同通信8月17日配信)  報道によると、上げ馬神事は南北朝時代から続く三重県の無形民俗文化財で、馬が坂の上に設置された高さ約2㍍の土壁を越えた回数で農作物の豊凶などを占う。これまでに複数の馬が骨折し、最近十数年で計4頭が安楽死となっていた。勧告は2011年以来二度目だという。  「伝統行事と馬」という関係性は野馬追と同じだ。上げ馬神事のように高い土壁を越えさせるような危険な行為はなくても「動物虐待」を持ち出されれば、伝統を大切にしながら馬をいたわる方向に祭りが変わっていくのは避けられそうもない。 旧暦「五月中の申」  感情論ばかりを振りかざすのではなく、冷静にデータも押さえておきたい。別掲の図は2012年から今年までの人と馬の救護件数と本祭り(2日目)の最高気温を示したものだ。20、21年は新型コロナの影響で神事のみが行われたため、救護件数はゼロだった。  それを見ると気温が30度以下の2013、16、17、18年は救護件数が少ないが、30度以上の12、14、15、19年は救護件数が多い。猛暑日だった今年はとりわけ件数が多かったことも分かる。また、17年までは人の救護件数が多い傾向にあったが、18年以降は人より馬の救護件数が上回っている。  気温が高ければ、人も馬も救護件数が増えていることがはっきり見て取れる。今後、地球温暖化で異常気象がさらに進めば、救護件数はますます増えていくだろう。  本誌6月号「相馬野馬追『日程変更』の障壁」という記事で報じたように、野馬追は日程変更の議論が本格化しようとしていた。きっかけは近年の猛暑に対し、今年2月に開かれた執行委員会の会合で立谷秀清副執行委員長(相馬市長)から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出されたことだった。これを受け、門馬委員長が「検討委員会をつくって方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。  こうして設立が決まった「相馬野馬追日程変更検討会」では当初、日程変更は「早くても2025年度から」という方針を示していた。執行委員会による事前協議で、文化庁など関係各所との協議・調整に最低2年は必要という判断から、2年後の2025年度からの変更が現実的とされた。しかし今回の事態を受け、8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合では「来年から5月下旬~6月初旬にする」という方針に改められた。 8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合  なぜ5月下旬~6月初旬かというと、前述・五郷騎馬会を対象に行ったアンケートで「何月が最適な開催日程と思うか」という問いに5月と答えた人が最も多く、6月も3番目に多かったためとみられる。  季節的には涼しさもあり、梅雨入り前なので、騎馬武者にも観客にも馬にも喜ばれる時期には違いない。しかし、ちょうどいい季節という理由だけで簡単に日程を変えられるわけではない。  野馬追は文化財保護法に基づき、昭和53年(1978)に国指定重要無形民俗文化財に指定されたが、これが日程変更の大きな障壁になるのだという。2011年に現在の日程に変わった際、その協議に参加した南相馬市の関係者によると、  「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」  正式決定には、かなりの時間と労力を要したことが分かる。  自らも騎馬武者として参加し、市議会定例会で野馬追に関する質問を続けてきた岡﨑義典議員(3期)もこのように話す。  「文化庁との協議に最低2年かかると言っていたのに、馬2頭が死んだ途端、来年には日程を変えると言い出すのは違和感がある。5月下旬から6月初旬に変えることがさも決定したかのような報じ方も奇妙に感じます。心情的には日程変更は理解できます。しかし、日程変更検討会で5月下旬から6月初旬に変えると決めたとしても『文化財の価値』を判断基準とする文化庁がそれを認めるのか。騎馬会や各神社がどう判断するかも気がかり。その確証がないのに、来年には日程が変わると言い切ってしまうのはいかがなものか」  そもそも中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代から旧暦「五月中の申」の日に行われてきた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。  《旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという》(『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」より)  こうした歴史を踏まえると、文化庁が暑さを理由に日程変更を認めるかどうかは確かに不透明だ。  加えて岡﨑議員が厳しく指摘するのは、この間、執行委員会が本気になって日程変更を考えてこなかったことだ。  「暑さで人が亡くなるかもしれないリスクはこれまでもあった。それなのに、馬2頭が死んだ途端、来年には日程が変わるというんだから、今まではそういうリスクがあっても執行委員会は真剣に受け止めてこなかったのではないか」(同) 来年からの日程変更は一見すると日程変更検討会の英断にも映るが、見方を変えると、問題が起こらないと本腰を入れない役所の姿勢を表しているわけ。 文化財としての価値 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  5月下旬から6月初旬への変更が既成事実化する中、文化庁との協議をどのように進めていくのか、執行委員会事務局に聞いてみた。  「日程変更には文化庁のほか、相馬野馬追保存会の中の専門委員会、県文化財課との協議が必要になる。来年5月下旬から6月初旬という日程は日程変更検討会で決定され、背景には人と馬の命には変えられないという判断があるが、同時に野馬追の文化財としての価値を引き継ぐことが大前提になる。そこを軽視して日程が変わることはありません」  8月10日に開かれた日程変更検討会の初会合には本誌をはじめ多くのマスコミが取材に駆け付けたが、冒頭、門馬市長がメンバーに「マスコミの方にはこの場にいてもらっていいか、出てもらうか」と問いかけると、立谷市長が低い声で「出てもらってください」と言い、協議は非公開で行われた経緯がある。公開しても何ら不都合なことはないと思うのだが、過程をオープンにせず、密室で決める役所の姿勢はこんなところにも表れている。  暑さを理由に日程を変える必要性は誰もが認めているが、同時に、文化財としての価値をどう担保するのか。日程変更検討会には、文化庁をはじめ騎馬会、各神社など関係者が納得する結論を、スピード感を持って出すことが求められる。 ※日程変更検討会の第2回会合は8月27日に開かれ、来年から「5月最終土、日、月曜日」に変更することを決めた。今後、文化庁に上申し、了解が得られれば正式決定する。 あわせて読みたい 相馬野馬追「日程変更」の障壁

  • コロナ「5類」移行後の【会津若松市】観光事情

     5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。これに伴い、法律に基づく外出自粛や行動制限などが発せられることがなくなり、イベントや観光などの機運が高まっている。「5類」移行の影響はどうなのか、会津若松市観光業の状況を探った。 夏休み、秋のシーズンに期待 東山温泉  会津若松市を取材対象にした理由は、1つはデータの取りまとめが非常に早いこと。速報値ではあるものの、7月中旬に同市観光課に問い合わせると、すでに市内観光各所の6月分のデータがまとめられていた。 それだけ、行政の観光セクションがしっかりしており、行政と観光関連施設などの連携が図れている証拠だろう。見方を変えると、同市において観光業はそれだけ大きな産業で、観光業の浮沈が市内経済に大きな影響を及ぼすということでもある。それが同市を取材対象にしたもう1つの理由だ。 別表はコロナ前の2019年、コロナの感染拡大が顕著になった2020年、昨年、今年の上半期(1〜6月)の同市内の主な観光地の入り込み数・利用者数をまとめたもの(市観光課調べのデータを基に本誌作成、2023年は速報値)。 鶴ヶ城天守閣 2019年2020年2022年2023年1月1万8387人2万4751人1万0174人7205人2月2万0880人2万6234人7144人6537人3月2万9821人2万0491人1万4766人1万1370人4月7万9325人4170人3万5654人5万0713人5月7万5462人1130人4万8486人6万5887人6月5万1127人9672人4万0344人5万2626人計27万5002人8万6376人15万6568人19万4338人 麟閣(※鶴ヶ城公園内の茶室) 2019年2020年2022年2023年1月1万1900人1万4287人6962人4755人2月1万0835人1万2529人5064人4161人3月2万0285人1万4943人1万0477人8577人4月4万8042人3419人2万4150人3万2038人5月4万5159人827人3万0558人3万7735人6月2万2326人7706人1万6832人2万1800人計15万8547人5万3711人9万4043人10万9066人 御薬園 2019年2020年2022年2023年1月1261人2213人594人908人2月2593人2607人470人2153人3月2308人1500人1136人2191人4月5181人389人3010人3895人5月6512人155人4488人5235人6月4633人1466人3379人4101人計2万2488人8330人1万3077人1万8483人 県立博物館 2019年2020年2022年2023年1月1179人1659人1377人1942人2月2336人2967人3660人4167人3月3825人2291人2806人4162人4月6134人551人4082人4227人5月9892人609人1万2169人1万0687人6月1万0159人2546人1万2071人未集計計3万3525人1万0623人3万6165人2万5185人 東山温泉 2019年2020年2022年2023年1月3万4278人3万7793人2万8225人2万6311人2月3万3921人3万0388人1万5224人2万5665人3月5万2957人2万9279人2万6612人4万3381人4月4万1440人7512人3万6629人3万7387人5月3万9746人3482人4万1143人4万1203人6月4万3744人1万1884人3万3535人4万4489人計24万6086人12万0338人18万1368人21万8436人 芦ノ牧温泉 2019年2020年2022年2023年1月1万4238人1万6680人8625人9455人2月1万7638人1万9828人4952人1万0936人3月1万7064人1万1310人8785人1万3185人4月1万9578人3629人1万1306人1万1481人5月1万7727人80人1万1805人1万3545人6月1万8876人3732人9607人1万1449人計10万5121人5万5259人5万5080人7万0051人 民間施設 2019年2020年2022年2023年1月1万0884人1万2945人6480人7555人2月1万4400人1万4332人5366人9545人3月2万1821人1万3104人1万1366人2万2551人4月4万6851人3915人2万3504人3万0787人5月5万9000人268人4万2305人4万8743人6月5万3130人6498人4万2789人4万7319人計20万6086人5万1062人13万1810人16万6500人※武家屋敷、白虎隊記念館、駅cafe、日新館、 飯盛山スロープコンベア、会津ブランド館、会津村の合計  コロナの感染拡大が顕著になった2020年は前年比(コロナ前)で大幅なマイナスになっている。コロナ感染が国内で初めて確認されたのが2020年1月、本格的に影響が出てきたのが2月末ごろ。それを裏付けるように、同年3月は前年同月比で30〜40%減、4月は80〜90%減、5月は90%以上の減少となっている。 同年4月17日、全国に緊急事態宣言が出され、鶴ヶ城天守閣、茶室麟閣、御薬園の主要観光施設は4月18日から5月27日まで休館した。例年同時期に開催されていた「鶴ヶ城さくらまつり」も中止になった。ゴールデンウイークの書き入れ時がゼロになったのだ。 観光客の激減は、その分だけマーケットが縮小したことになり、観光業を生業としている関係者は大きな影響を受けた。それはすなわち、収入減にほかならず、結果、あらゆる分野において地域内の消費が減るといった事態を招く。そうした点からも、同市にとって重要な産業である観光業の立て直しは、大きな課題になっていた。 そんな中、昨年はコロナ直後からだいぶ回復しており、さらに今年はコロナ前には及ばないまでも、かなり戻っていることがうかがえる。施設にもよるが、少ないところで70%程度、多いところでは90%近くまで戻っている。 コロナ前以上の鶴ヶ城 5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣  月別に見ると、5類移行後の今年5、6月はコロナ前に近い数字か、施設によってはコロナ前を上回っている。これは5類移行の影響と見ていいのか。 「『5類』に移行したのはゴールデンウイーク明けで、その後は観光地にとって〝平時〟だったこともあり、正直、よく分からないですね。一昨年、昨年よりは良くなったのは間違いありませんが、徐々に戻ってきている延長線上と捉えるべきなのか、5類移行の影響なのかは測りがたい。これから夏休み、秋の観光シーズンになってどう動くかでしょうね」(市内の観光業関係者) こうした見方がある一方で、「やはり、5類移行の影響は大なり小なりあると思いますよ。『いままでは旅行を控えていたけど、制約がなくなったことだし、出かけてみようか』という気になるでしょうから」(別の観光業関係者)との声もあった。 さらにはこんな見方も。 「いい意味で、5類移行の影響はあると思います。ただ、それによって、海外旅行への制限・制約もなくなりますから、『これまでは近場、国内で我慢していたけど、せっかくだから海外に行こうか』という人も今後は増えてくると思います。もっとも、5類移行とは関係なく、いつの時代も、海外を含めたほかの観光地との競争があることは変わりませんけどね。その中で、どうやって人を呼び込むかということです」(温泉地の関係者) 共同通信配信のネット記事(7月11日配信)によると、海外旅行については、まだまだ不安が大きいとのアンケート結果が出ているという。以下は同記事より。 《調査会社インテージ(東京)が(7月)11日発表した夏休みの意識調査によると、半数が海外旅行に「不安」があると答えた。今夏に海外旅行を予定しているのは2・0%。昨夏(0・8%)より増えたが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行しても渡航に慎重な人が多いようだ。全国の15~79歳のモニターを対象にインターネットで6月26~28日にアンケートを実施。2513人から回答を得た。海外旅行に関し、27・7%が「不安がある」、23・2%は「やや不安がある」とした。「不安はない」は9・5%、「あまり不安はない」が11・1%だった》 こうしたアンケートを見ると、5類移行後、すぐに海外旅行に行く人は少なそうだが、今後はそういった需要も増えてくるだろう。逆に海外から来る人も増えるから、温泉地の関係者が語っていたように、「海外を含めたほかの観光地との競争の中で、どうやって人を呼び込むか」に尽きよう。 鶴ヶ城天守閣、麟閣、御薬園を運営する会津若松観光ビューローによると、「(5類移行で)やはり雰囲気的に違う」としつつ、「その中でも、以前とは様相が変わってきている」という。 「鶴ヶ城天守閣は、5類移行後の今年6月と7月途中(本誌取材時の7月中旬)までは、2019年同月比で来場者数が100%を超えています。詳細を見ると、教育旅行は例年並みで、それ以外の団体ツアー客はコロナ前には戻っていません。その分、個人客が増えています。外国人も増えていますが、それについても以前のような団体ツアーではなく、数人でレンタカーを借りて、といった形が増えています」(同ビューローの担当者) 鶴ヶ城天守閣は昨年10月から今年4月27日まで、リニューアル工事を行っており、4月末からの大型連休に合わせて再オープンした。そのため、「新しくなった鶴ヶ城に行ってみよう」と、地元・近場の人の来場があったようだ。そういった事情から、6月、7月途中(本誌取材時)まではコロナ前(2019年)より来場者が増えた背景もあるが、①団体ツアー客が減り個人客が増えた、②その傾向は外国人も同様――といった状況だという。 ほかの観光施設の関係者などに聞いても、似たような傾向にあるようで、それがこれからしばらくの観光の主流になってくるのだろう。「ウィズコロナ的観光需要」といったところか。 夏以降の感染拡大に注意  こうして聞くと、5類移行後は多少なりとも状況が変わっていると言えそうだが、夏休みや秋の観光シーズンの動きはどうか。 「コロナ禍以降は、(観光客のコロナ感染や濃厚接触の疑いなどで)突然のキャンセルのリスクがあるため、あまり先の予約を取らないようになっています。そのため、各施設の夏休みや秋の観光シーズンの動き、予約状況などはつかめていません」(市観光課) 「鶴ヶ城は予約して来られる方は少ないので、夏休みや秋の観光シーズンの見通しはまだ何とも言えませんが、5類移行後はコロナ前(2019年)と同等かそれ以上の方に来ていただいているので、期待はしています」(前出・会津若松観光ビューローの担当者) 「予約してくる人は少ないので、まだ何とも分からないが、少なくとも夏休みの出だしとしては、昨年よりはいいと思います」(観光施設近くの土産店) 「だいぶ戻っているのは間違いありませんが、5類移行後、夏休みに向けては普通に推移している、といったところでしょうか。コロナ禍で受けたダメージが大きいので、それを補うにはまだまだ時間がかかると思います」(東山温泉観光協会) 観光業界関係者の多くが今後に向けて、期待を抱いていることがうかがえた。 一方で、温泉旅館・ホテルではこんな問題も抱えている。温泉旅館・ホテルでは、コロナ禍に従業員を整理したところが多い。その後、ある程度、宿泊客が戻ってきた段階で再度、従業員の募集をかけたが、なかなか応募がない、といった状況に陥っているという。当然、従業員にも生活があるから、温泉旅館・ホテルで仕事がないとなれば、別の業種に就くだろう。そんな事情もあって、人手が足らずキャパいっぱいまで宿泊客を入れられないところもあるというのだ。 コロナの後遺症とも言える状況だが、今後は受け入れる側も、コロナで崩れた体制を整え、平常運転ができるようにしていく必要があるということだろう。 一方で、感染症法上の位置付けが変わったとしても、コロナがなくなったわけではない。 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の7月7日の会合では、「新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している」と報告された。 そのうえで、「今後の見通し」として次のように指摘している。 ○過去の状況等を踏まえると、新規患者数の増加傾向が継続し、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。 ○自然感染やワクチン接種による免疫の減衰や、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加、また、夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。 「夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」、「夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要」と指摘しており、夏休みシーズン後のコロナの感染状況にも注意が必要だ。

  • 【フクロウ】神社で会える森のアイドル

     伊達市梁川町の梁川八幡神社(關根誠宮司)に、今年もフクロウの幼鳥が姿を現した。毎年境内のケヤキの〝うろ〟に巣を作り、大型連休近くになると、そこから巣立った幼鳥が親鳥と飛ぶ練習を繰り返す。 5月8日、同神社境内に足を運ぶと、近隣の住民や写真愛好家が、我が子を見守るような目で、巣の近くに立つスギの木を見上げていた。わずかな期間で高いところまで飛べるようになったようだ。 夫婦で訪れていた女性は「毎年見に来ている。昨年はカラスに追われたヒナが田んぼに落ちて、氏子の方に救出されていた。心配でつい見に来てしまう」と笑いながら話した。 伊達市在住の写真愛好家・Nさんは「2021年から訪れている。簡単には撮影できないが、フワフワでかわいらしいのが被写体として魅力」と語った。 禰宜の關根亘さんによると、昔からフクロウの鳴き声は聞こえていたが、2019年、修復工事中の本殿の建設養生ネット内に幼鳥が迷い込み、救出したのを機に、毎年姿が見られるようになった。遠くから足を運ぶ人がいるのを受け、拝殿にフクロウの石像を設置したり、ホームページやSNSでフクロウについて情報発信している。 福島市小鳥の森のレンジャー・増渕翔太さんによると、「個体差があるので一概には言えないが、秋ぐらいまでは巣の近くで親鳥とともに行動するのではないか」とのこと。ただ、近隣住民によると目視できるのは巣立ってから2、3週間程度だとか。わずかな時期しか見ることができない〝森のアイドル〟が今年も多くの人を魅了した。 今年最初に巣立ったフクロウの幼鳥。下を覗き込む表情がかわいらしい(5月3日、伊達市の写真愛好家・Nさん撮影) 巣立ち後の2、3週間は連日、地元住民や写真愛好家が梁川八幡神社境内に足を運ぶ(5月8日、編集部撮影) 今年2番目に巣立った幼鳥(5月4日、伊達市の写真愛好家・Nさん撮影) フクロウの巣があるケヤキの木(5月8日、編集部撮影) フクロウ人気に負けじと大きな声で鳴くキジバト(5月4日、福島市在住・Sさん撮影) 杉の木に寄りかかるフクロウの幼鳥(5月4日、福島市在住・Sさん撮影) 伊達氏の氏神として崇拝され、今年、国史跡に追加指定された梁川八幡神社の本殿(5月8日、編集部撮影) 拝殿にはフクロウをかたどった石象があった(5月8日、編集部撮影)

  • 【只見線】全線再開通フィーバーから8カ月

     6月1日で全線再開通から8カ月となるJR只見線。再開通直後は盛況で車内は満席だったが、現在はどういう状況なのか。記者が実際に乗って確認してみた。 只見線〝日帰り旅〟で見えた課題  JR只見線は2011年の新潟・福島豪雨で被災し、会津川口(金山町)―只見(只見町)間が不通となった。1日当たり利用者数49人(2010年)の赤字区間ということもあり、当初、JR東日本は代行バスへの移行を検討していた。 だが、県や沿線自治体からの要望を踏まえ、県が線路や駅舎を保有し、JR東日本が運行する「上下分離方式」で復旧することになった。不通区間の復旧費用は約90億円(県・市町村負担分約54億円)。毎年約3億円の維持管理費は県と沿線自治体など17市町村が負担する。 昨年10月1日に全線再開通すると、秋の紅葉シーズンや政府の観光振興策である全国旅行支援も重なって、大盛況となった。新聞報道によると、車内は混雑して座れないほどで「通勤時の山手線のようで景色を見る余裕がない」との嘆きが聞かれるほどだったという。半年以上経過して、現在はどういう状況なのか、記者が実際に只見線に乗ってみた。 大型連休前半の4月30日、会津若松(会津若松市)7時41分発の列車に乗り込んだ。2両編成で乗客は十数人。そのうち、半分は大きいバッグを抱えた観光客だった。6時8分発の始発にも毎日10人ほどの乗客がいるようだ。 出発後、七日町(同)、西若松(同)から、会津西陵高校(旧大沼高校、旧坂下高校)の生徒が乗り込み、あっという間に満席になった。だが、同高校がある会津高田(会津美里町)でぞろぞろ降り、車内に残ったのは数人。全線再開通フィーバーは完全に終息したようだ。 代わり映えしない水田の風景にうとうとしていると、いつの間にか奥会津に入っていた。只見川に差し掛かるところで景色を見せるために減速運転したので、スマホを取り出して撮影した。エメラルドグリーンの川面が美しく、席から立ち上がって眺める乗客もいた。  只見川の風景を撮影する乗客  感動したのは、只見線を見かけた近隣住民がみな手を振ってくれること。地域全体で盛り上げようとしている思いが伝わって来た。 一方で、いわゆる〝撮り鉄〟が山の中にいる姿には何度かギョッとさせられた。離れたところから撮っているのだろうが、車内から見ると、目の前に突然現れたように感じる。 会津若松を出発してから約3時間後の10時45分、目的地の只見駅に到着。降車客が多いと勝手に思い込んでいたが、大半が終点・小出(新潟県魚沼市)行きの列車に乗り換えた。 記者がまず足を運ぼうと考えたのは田子倉ダム。というのも、只見町は、只見線乗客向けの観光周遊バス「自然首都・只見号」の実証実験(乗車1回200円、土、日、祝日のみ運行)を4月29日からスタートしていた。それをフル活用して、ダムの絶景をスマホに収め、弊誌のツイッターで投稿しようと考えていたのだ。 観光周遊バス「自然首都・只見号」時刻表  ところが、駅で時刻表を確認すると、田子倉ダム行きのバスは10時発と14時35分発のみ。会津若松発6時8分の始発に乗らないと間に合わないことになる。自分の詰めの甘さと、シビアすぎる時刻表設定に泣いた。 時間が空いたので、全線再開通に合わせて駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」に足を運んだ。会津ただみ振興公社が運営する土産コーナーや軽食コーナー、同施設を運営する只見町インフォメーションセンターが入っている。 只見駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」  別棟には、同町のご当地B級グルメ「味付けマトンケバブ」が味わえるカフェ、同町に立地する米焼酎メーカーで、国内外から高い評価を受ける「合同会社ねっか」の只見駅前醸造所も入居している。 同センターによると、昨年10月は月間5000人以上が利用し、その後減少したものの、今年4月は月間1210人が訪れたとのこと。約30分の停車時間に、乗客が土産物を買い求める姿も見られた。 とりあえずカフェで味付けマトンケバブとホットコーヒーを頼んで時間を潰す。店員に利用状況を尋ねると、最近は落ち着きつつあるが、それでも利用客は多いとのこと。 隣の席でどぶろく(合同会社ねっか只見駅前醸造所で販売している)を飲んでいた年配男性に声をかけると首都圏から来た人だった。 「只見と会津田島(会津鉄道会津線=南会津町)を結ぶ定期路線ワゴン『自然首都・只見号』でここまで来た。不通区間がある頃に来て以来、毎年訪れている」(年配男性) 定期路線ワゴンは意外と利用者が多いようで、全線再開通直後の混雑時には、「終点まで立ちっぱなしは嫌だ」と会津田島駅経由で帰る人が続出し、2台運行するほどだったとか。このほか、北東北へのドライブ旅行中に立ち寄った北陸地方在住の夫婦もおり、只見線全線再開通の報道を機に、興味を持って足を運ぶ人が増えたことがうかがえた。 使い勝手が悪い周遊バス  田子倉ダム行きのバスが発車する14時35分までの待ち時間で何かできないか。タクシー会社に電話したが運転手が出払っているのかつながらなかった。4時間5500円のレンタカーには手が出ない。 やむなく観光周遊バスの時刻表とにらめっこしていたところ、駅12時発の便に乗れば、町の第三セクターが運営する温泉宿泊施設「季の郷湯ら里」で日帰り入浴して、駅まで戻ってこられることが判明した。 風呂に浸かって、旅の疲れを取るのも悪くない。意気揚々とマイクロバスに乗り込むと、乗客は自分1人だった。同バスは今年12月3日まで運行予定とのことだが、来年以降継続できるのか不安になった。 「湯ら里」の温泉はナトリウム塩化物硫酸塩温泉。適応症は神経痛、筋肉痛、関節痛など。利用料700円。源泉かけ流しの日帰り専用温泉施設「深沢温泉むら湯」も隣接しており、赤褐色の湯を求めて訪れる人が多い。こちらは利用料600円。食堂の看板メニューは手打ちそば。 昼時で混雑している「むら湯」を避け、「湯ら里」を利用することにした。ところどころ老朽化が目立ったが、広い大浴場や露天風呂でゆっくり体を温めることができた。 帰り道のバスで運転手に田子倉ダムの様子を尋ねたところ、「午前中唯一の乗客がダムで降りたが、『霧で何も見えなかった』と帰り道こぼしていた」と教えられた。只見駅で話を聞いた町民からは「ダムのふもとの施設・田子倉レイクビューは現在営業していない」と聞かされた。 午後出発する会津若松行きの列車は14時35分発と18時発。田子倉ダム行きのバスは前述の通り14時35分発。田子倉ダムに行って収穫ゼロに終わり、駅近くで再び18時まで時間を潰すのはさすがに厳しい。スマホの充電も少なくなってきた。ずいぶん迷った結果、14時35分発の只見線で帰途に就くことにした。 小出方面からの乗客は20人ほど。一度見た風景なので退屈な帰り道になるのを覚悟していたところ、地元NPO法人「そらとぶ教室」のメンバーが同乗し、車窓の見どころをガイドしてくれた。乗客が多い週末午後の便に乗り込み、ボランティアでガイド活動をしているのだという。 会津川口からは別の観光関係者が引き続きガイドをしてくれた。併せて地元の土産品を販売し、複数の乗客が買い求めていた。漫然と乗っているよりも観光気分が高まったし、沿線自治体に関心を持った人が多いのではないか。 17時24分、会津若松に到着すると、乗客の大半がホームの反対側の磐越西線(郡山行き)に乗り込んだ。おそらく郡山駅から新幹線を使って居住地まで帰るのだろう。 鍵を握る二次交通整備  福島市の自宅からの移動時間を含め、約13時間の日帰り旅(うち只見町に滞在したのは約4時間)。痛感したのは、便数が少ないので気軽に途中下車しづらいことだ。現在、週末には臨時列車が運行しているが、それでも2、3時間に1本のペース。 そもそも只見線の乗客の大半にとって、「乗ること」そのものが目的になっており、途中下車しない傾向がうかがえた。これでは沿線自治体にお金は落ちない。 もちろんそうした中でも恩恵を受けている事業者はいる。同町内のレンタカー業者・エスネットレンタカーの担当者は「只見線で旅行に来た家族・グループの方によく利用してもらうようになった」と語り、只見町旅館業組合長の菅家和人さんは「冬の閑散期を除き、週末は満室になっている」と話す。いかに幅広い業種に経済効果をもたらすことができるかが今後の課題となる。 県が4月25日に発表した第二期只見線利活用計画では、観光列車の定期運行実現、ビューポイント整備、体験学習提供、インバウンド強化、魅力発信など10の重点プロジェクトが掲げられている。こうしたプロジェクトで、地元にお金が落ちる仕組みを構築できるだろうか。 今後の鍵を握るのは二次交通の整備だろう。県や沿線自治体では今後5年間で二次交通を充実させる方針で、6月には鉄道と駐車場・バスを組み合わせて観光しやすくする「パークアンドライドバス」の導入を検討しているという。「少しの区間なら只見線に乗ってみたい」、「沿線自治体をいろいろ巡りたい」など、さまざまな需要に応えられるように環境整備していくことで、途中下車して沿線自治体に立ち寄る乗客も増えていくのではないか。 仮に再び災害が起きて線路や鉄橋が流失したときは県や沿線自治体で全額負担することになる。今後は老朽化の問題も出てくるだろう。税金をかけるのにふさわしい経済効果を生み出しているのか、常に問われ続けることになる。 県の平成31年度包括外部監査報告書 (県包括外部監査人・橋本寿氏ら公認会計士が作成)では只見線復旧事業についてこう述べていた。 《会津川口駅―只見駅間の鉄路復旧、只見線の全線開通それ自体が、特に経済的価値を生む訳ではなく、過疎、人口減少に対する地域振興策でもない。それを望むのであれば、不通になる以前に達成できていたはずである。只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。約 54億円は別の事業で有効活用できたのではないか》(141ページ) 県只見線管理事務所の担当者は「乗客の中には途中下車して沿線自治体で宿泊する人もいる。沿線自治体ととともに、引き続き利活用促進に取り組んでいく」と述べる。 全線再開通フィーバーがひと段落したここからが只見線(県、沿線自治体)にとって正念場となる。

  • 相馬野馬追「日程変更」の障壁

     相馬地方の伝統行事で国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程が見直されようとしている。現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、厳しい暑さで人馬への負担が大きく、観客や準備に携わる人も熱中症のリスクが高いとして、日程が大幅に変わる可能性が出ている。さらに、出場するための高額費用負担や女性の出場条件緩和といった課題もあり、参加騎馬武者が減少する野馬追は過渡期を迎えている。 〝酷暑開催〟に騎馬会員から賛否両論 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  300~400騎の騎馬武者が甲冑をまとい、太刀を帯し、先祖伝来の旗指物を風になびかせながら野原を疾走する。そんな時代絵巻のような光景が繰り広げられる相馬野馬追は、伝説によると今から1000年以上も昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(現在の千葉県北西部)に放した野馬を敵兵に見立て、軍事演習に応用したことが始まりとされる。捕らえた馬は神馬として氏神である妙見に奉納した(相馬野馬追公式ホームページより)。 今年も間もなく、野馬追の時期がやって来る。2020、21年は新型コロナウイルスの影響で神事中心の小規模な実施にとどまったが、昨年は3年ぶりに通常開催され、コロナ前の6割に当たる10万3400人が来場した。今年はコロナ感染が落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが5類に引き下げられたこともあり、昨年以上の観客数になることが予想される。 そんな野馬追の日程が今、大きな議論になりつつある。 現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、近年の猛暑で「人も馬もリスクが高い」「観客や準備に携わる人も大変」という声が以前から高まっていた。酷暑の中で甲冑をまとうのは辛いし、馬はもともと暑さが苦手。観客からも「日差しを遮る場所が全くない」と不満が漏れていた。昨年の野馬追では熱中症などの事例が21件あり、コロナ前の2019年も36件に上っていた。 こうした事態に「相馬野馬追執行委員会」(2月20日に任意団体から一般社団法人に移行、以下執行委員会と略)では、2月に開いた会合で副執行委員長の立谷秀清・相馬市長から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出された。これに執行委員長の門馬和夫・南相馬市長が「検討委員会を立ち上げて方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。 実はこれより前、南相馬市では昨年12月に五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行っていた。2019年度と22年度に出場した騎馬会員461人に質問書を発送し、今年1月、55%に当たる256人から回答を得た。 集計結果は3月に公表されたが、それによると、 質問=日程変更についてどのように思うか。 「賛成」135人(53%) 「反対」50人(19%) 「どちらでもない」71人(28%) 質問=(変更に「賛成」と答えた135人に)なぜ賛成と思うか。(以下複数回答) 「暑さによる人馬への体力的な負担が大きいため」127件 「全ての行事が休日または祝日の方がよいため」46件 「その他」14件 質問=何月が最適な日程と思うか。 「5月」116件 「7月」53件 「6月」「10月」40件 「9月」31件 質問=(変更に「反対」と答えた50人に)なぜ反対と思うか。 「頻繁に変更するものではない」33件 「現在の日程が『東北の夏祭りの先陣を切る、夏の伝統行事』と認知されているため」22件 「神社の祭礼のため、例大祭に合わせるべき」13件 「その他」7件 回答者の過半数が日程変更に賛成し、その理由に暑さを挙げる。新たな開催月は5月を望む回答が多い。逆に反対の人は2011年に現在の日程に変更したことを踏まえ、簡単に変えるべきではないとしている。 そもそも、野馬追の日程はどのようにして決められたのか。 中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代を通じて旧暦「五月中の申」の日に行われていた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。 その後、日程はどう変わっていったか『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」から抜粋する。 《明治6年(1873)の改暦を受け、翌7年(1874)には旧暦「五月中の申」の日にあたった7月2日をもって野馬追が行われるようになった。そして、翌8年(1875)からは日程が7月2日に正式に固定化され、その日を中心とした7月1日~3日の3日間行われるようになった。旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという。なお、明治37年(1904)以降には、7月11日~13日に変わっている》 日程を10日繰り延べたのは梅雨を避けるため。それから約半世紀が経過した昭和36年(1961)に7月16日~19日という4日間に変更されたが、変則日程は定着せず、5年後の昭和41年(1966)にはさらに1週間繰り延べて7月23日~25日となった。 《変更理由は、梅雨明けを待つこと、学校の夏季休暇を利用して、より多くの観覧者を見込んでのものであった。近代から幾度かあったこれらの日程変更は、いずれも野馬追を観光資源として意識したものといえよう》(同抜粋) その後、7月23日~25日という日程は40年以上続いたが、3日間とも平日に重なってしまうと出場が難しい騎馬武者も多く、観客数にも影響が出るため、2011年から7月最終土・日・月曜日に変更され、現在に至っている。 このように、7月開催は旧暦に基づく深い意味を帯びている半面、細かい日程は「梅雨を避ける」「騎馬武者を出場し易くする」「観客数を増やす」などの理由で変更されてきた歴史があるのだ。 難しい文化庁との調整 南相馬市が行ったアンケートの結果と情報開示請求で入手した「自由記述欄」  とはいえ、今回の日程変更は過去のものとは意味合いが異なる。これまで一貫して守ってきた「旧暦五月中の申の日」から大きく変えることを視野に入れているのだから、そう簡単に決断できるものではない。 ただ現実に目を向けると、騎馬武者、馬、観光客は酷暑に四苦八苦している。地球温暖化で、今後も気温上昇は避けられない。万が一、熱中症で命を落とす人が現れたら取り返しのつかないことになる。 本誌は前述・南相馬市が行ったアンケートの「自由記述欄」に、回答者(騎馬会員)がどのようなことを書いたのか確認するため、同市に情報開示請求を行った。 開示された自由記述欄には計142件の意見が書かれており、そのうち「暑さ」に関するものは2割に当たる28件に上った。主だった意見を掲載したのでご覧いただきたいが、人の命と健康を心配する意見だけでなく、馬への負担を指摘する意見も目立った。個人的には「馬に点滴をしながら頑張ってもらった」「乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので貸すのを渋っている」という意見に衝撃を受けた。ストレートに「動物虐待」と書いた回答者もいたが、点滴までして駆り出されている馬がいることを踏まえれば決して大袈裟ではない。 暑さに対する意見 ・日程変更は早急にすべき。今の時期では人馬に対して虐待行為だ。(70代男性)・中学生から鎧で出場するのは体力的に負担が大きい。(10代男性)・暑さで愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、昨年の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうで、今年の夏も暑いようなら出場しない方向で考えている。(20代男性)・各郷の陣屋の後ろに家族用のテントを張り、日陰をつくるなどの暑さ対策をしないと命に関わることも起こり得ると思う。(40代男性)・出場者や観光客の負担をなくすため、猛暑を避けての開催を希望する。(10代女性)・猛暑の中での開催は動物虐待だ。(60代男性)・乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので、馬を貸すのを渋っている。(70代男性) 費用負担に対する意見 ・馬を借りるのに20~40万円払っており、家族の負担も大変。現実的に新しく野馬追を始めようとしたら100万円近くかかる。(20代男性)・奨励金は20年以上変わっていないのに、馬代は数年前の倍以上になっている。道具なども傷むので、その都度修理すれば負担は大変だ。(40代男性)・馬を飼育する人への援助がない。馬を飼うと1頭40~50万円かかる。自馬でないと競馬や旗取りに出られない。馬が身近にいる環境をつくることが大事だ。(70代男性)・道具類を揃えるだけでも費用がかかるので、参加枠を設け、野馬追を体験してもらうのもありではないか。(30代男性)・乗馬の練習が有料なのは仕方がないが1回3000円前後の回数券を発行してほしい。(60代男性) 女性の出場条件緩和に対する意見 ・年齢制限をなくし、既婚者も出場できるようにすれば騎馬武者の数も多くなる。(70代男性)・流鏑馬の女性騎馬も認められている。昔のきまりを大事にしすぎて伝統がなくなるより、多少きまりが変わっても伝統を残す方が大事だと思う。(10代女性)・20歳を過ぎてからも野馬追に出場したいと思っている女性は多いはずだ。(10代女性)・男性より女性の方が出場意欲のある人は多い。私は4年出られるはずが3年しか出られなかった。毎日馬の世話と手入れもして、伝統を残すためにやっていたのに、運営の対応にがっかりさせられたことがある。もっと女性の意見に耳を傾けてほしい。(20代女性)  半面、意外だったのは前述のアンケート結果にあるように、日程変更に「反対」「どちらでもない」を合わせると計47%に上ったことだ。酷暑を考えれば「賛成」がもっと多くなると思われただけに、大差がつかなかった理由が気になる。 筆者は数人の騎馬会員に話を聞いたが、多くが日程変更に反対していた。その人たちが口を揃えて言ったのは「暑かろうが何だろうが、出たい人は出る」というものだった。 一方、自由記述欄を見ていくと、2011年に現在の日程に変更されたため「伝統を重んじる野馬追の日程をころころ変えるべきではない」という意見とともに、国重要無形民俗文化財に指定されていることから「(日程を変えると)指定が取り消しになるのではないか」と心配する意見も目に付いた。 野馬追は昭和27年(1952)、文化財保護法に基づき国の無形文化財に選定されたが、同29年(1954)の同法改正で選定解除となった。その後、同50年(1975)の同法改正で重要無形民俗文化財の指定制度が設けられ、翌年、相馬地方に派遣された文化庁調査官が野馬追の指定に向けた調査を行い、同53年(1978)に同文化財に指定された。 この指定が、日程変更に当たって障壁になるのだという。 2011年に現在の日程に変更された際、その協議に参加した南相馬市の関係者は当時を振り返る。 「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」 正式決定には、かなりの時間と労力が要ることが分かる。 さらに突っ込んだ話をしてくれたのは地元の研究者。 「地域が野馬追の『文化財としての価値』をどう保存していくのか、そのうえで、現在の日程では文化財としての価値を担保できないことが説明されないと、文化庁は日程変更を許可しないと思います」 研究者によると、暑さを理由に日程を大幅に変えるかどうかは2011年当時も出ていた話で、有識者からは「むやみに日程を変えるべきではないが、五月中の申の日になぞらえるなら5月開催も一つの案」との提案もあったという。しかし、執行委員会などは「騎馬武者の参加し易さ」と「観光客の集め易さ」を重視し、7月最終土・日・月曜日に決めた経緯がある。 「この時、文化庁は文化財としての価値の保存とは関係ない『騎馬武者の参加し易さ』と『観光客の集め易さ』が前面に出たことに難色を示した。最終的には『騎馬武者に参加してもらわないと文化財としての価値の保存が難しくなる』との理由付けで同庁から日程変更を許可されたが、国重要無形民俗文化財に指定されると、それくらい調整が難航するということです」(同) こうした状況を踏まえると、もし7月以外に開催することが決まったとしても実施されるのは数年先で、文化庁が許可しなければ実現しない可能性もある。 さらに研究者は、別の心配事として「野馬追2日目(相馬太田神社)と3日目(相馬小高神社)に執り行われる例大祭の日程を変えることができるのか」という点も挙げた。 ただ、相馬太田神社の佐藤左内宮司に確認すると「日程が変わればそれに合わせて例大祭も変えるだけ。これまでの日程変更でもそうしてきたと思います」と話し、難しいとは考えていない様子。むしろ佐藤宮司が心配していたのは、例大祭当日に行われる祭りの担い手が確保できるかどうかだった。 「カネの問題ではない」  「祭りでは神輿の担ぎ手が50人、旗持ちや準備をする人などが50人必要です。例年、地元企業の若手社員や中学・高校生、専門学校生に手伝ってもらっているが、子どもたちは夏休みだから参加できるので、これがもし7月以外の開催になったら100人確保できるのか。正直『自前で確保してほしい』と言われても無理。日程変更するなら祭りの支援も約束してくれないと困る」(同) 佐藤宮司は、詳しいアンケート結果は把握していなかったが「酷暑の中で行うのは人馬にとって負担」と日程変更に一定の理解を示しているようだった。 自らも騎馬武者として出場する岡﨑義典・南相馬市議(3期)は同市議会昨年9月定例会で、現在の日程では人馬だけでなく観光客も熱中症などのリスクが高いとして「開催時期について騎馬会などと協議すべきではないか」と質問している。 岡﨑義典・南相馬市議(南相馬市議会HPより)  「私は、絶対に日程を変えるべきと言っているのではない。出場者はこの日程でやると言われればどこだって出る。しかし観光客は別です。毎年、熱中症で手当てを受ける人は一定数おり『こんな暑い中で見るならもう来なくていい』という不満も聞いたことがある。時代の変遷に合わせ、より良い方向に変えるための話し合いはすべきです。あとは結果に従い、変更する・しないを決めればいい」(岡﨑議員) 賛否両論ある日程変更は、6月にも執行委員会内に検討委員会が設けられ、本格的な協議がスタートする見通しだが、前述・情報公開請求で入手した自由記述欄を見ていくと、暑さに関する意見のほか、出場するための高額費用負担と女性の出場条件緩和に触れている意見も目に付いた。具体的にどのような意見が寄せられていたかは別掲をご覧いただきたいが、野馬追は今、この三つが大きな課題になっていることがうかがえる。 高額費用負担については、金銭的な支援を求める声が少なくない。別掲にもあるように、野馬追に出場するにはかなりの出費を要するが、これに対し行政からは「出場奨励金」が支給されている。奨励金は執行委員会→各騎馬会→騎馬会員に支給され、金額は騎馬会によって若干差があるが、1人当たり10~12万円。 金銭的な支援があれば持ち出しが減るので、出場者は助かる。ただ本誌が取材した騎馬会員の多くは「カネの問題ではない」「初期投資はかかるかもしれないが、奨励金を数年もらえばペイする」「一部に派手な甲冑や馬具を揃える人がおり、見栄っ張り合戦になっていることが問題」と支援増に否定的だ。 前出・岡﨑議員も同様の意見だったが「ただし」と付け加える。 「馬の飼料代が高騰し、それが馬代(借り賃)に跳ね返っている。私が最初に出場した2014年は10~12万円だったが、昨年は30万円という人もいた。例年、乗馬クラブからは馬代の目安になる奨励金がいくらになるか市に問い合わせがあるが、馬代高騰の流れはますます進んでいくように感じる。しかし、だからと言って市が馬代を税金から負担するのは市民の理解を得にくい。であれば市内には通年で馬を飼育している人が多いので、飼料代の支援は緊急的に行ってもいいと思います。実際、もう飼料代を負担できないと馬を手放した人もいますからね」 年々減る参加騎馬武者 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  もう一つの女性の出場条件緩和については、本誌が取材した騎馬会員からも「現行の出場条件である『20歳までの未婚女性』は変えていいと思う」「男女平等やLGBTが当たり前の昨今、性別や年齢で出場を制限するのは時代に馴染まない」との意見が多く聞かれた。 野馬追に女性の参加が認められたのは昭和22年(1947)で、同59年には騎馬会に「未成年の未婚者で化粧をしてはならない」との条文ができたという。未成年や未婚が条件となったのは、月経や出産などが血を連想させ、不浄とされたためとみられる。 騎馬会員の中には女性の参加に難色を示す人もいるようだ。武家行事の野馬追は女性が参加できなかった歴史があり、その点を重んじる気持ちも分かるが、時代の変遷に合わせた変化は必要だろう。そもそも女性の出場条件を緩和したところで、女性の出場者が劇的に増えるとは思えない。むしろ別掲にあるように、男性より野馬追のことを思う女性がいるなら、柔軟な対応で出場の間口を広げるべきではないか。 野馬追はここに挙げた三つの課題のほか、参加騎馬武者の減少にも直面している。ピークは1995年の614人、震災・原発事故以降は400人前後で推移し、昨年は337人だった。 日程変更、金銭的な支援、女性の出場条件緩和が実行されれば参加騎馬武者が増えるかどうかは分からない。騎馬武者の数にとらわれるのではなく、歴史と伝統を継承していくことを大事にすべきという意見もある。数を維持したいがために闇雲に税金を投入したり、野馬追の意味を理解せず、単に「カネがあるので出たい」という意識の低い騎馬武者が増えるようでは本末転倒だ。  「野馬追はこれまで首長、執行委員会、騎馬会など上層部だけで物事を決めてきた。そういう意味では、今回のアンケートで騎馬会員の本音を聞こうとしたことは今まで見られなかった姿勢であり、評価できると思います」(ある騎馬会員) 過渡期を迎える野馬追を未来にどうつないでいくのか。三つの課題と合わせて考える必要がある。

  • 観光地の評価を左右するトイレ事情

    (2022年8月号)  観光地の評価を左右するのが、誰もがお世話になるトイレだ。古く汚いトイレしかない場所では自ずと滞在時間が短くなるし、再訪する気も失せる。福島県の観光地のトイレ事情はどうなっているのか。観光客入込数が多いスポットに足を運び、独自調査をしてみた。 道の駅はどこもキレイ、最悪は「開成山公園」  県観光交流課が発表している2020年分の「福島県観光客入込状況」によると、観光客入込数が多かった観光地上位は別表の通り。 2020年の観光客入込数上位 順位 地名・施設名観光客入込数伸び率1磐梯高原161万人△ 14.62道の駅国見あつかしの郷137万人△ 10.73道の駅伊達の郷りょうぜん120万人△ 4.94道の駅あいづ 湯川・会津坂下104万人△ 13.05あづま総合運動公園100万人△ 39.96いわき・ら・ら・ミュウ97万人△ 33.97セデッテかしま81万人△ 37.38道の駅猪苗代80万人△ 16.29道の駅「安達」下り線78万人△ 12.610道の駅ばんだい73万人△ 21.811伊佐須美神社71万人△ 32.912道の駅「安達」上り線68万人△ 12.913喜多方市街65万人△ 39.114郡山カルチャーパーク61万人△ 55.815スパリゾートハワイアンズ60万人△ 63.316大内宿55万人36.117磐梯吾妻スカイライン54万人158.818はたけんぼ52万人△ 3.319ゴルフ場51万人△ 8.620磐梯熱海温泉51万人△ 36.3※△はマイナス  同年は新型コロナウイルスが感染拡大した年であり、特に1回目の緊急事態宣言が出された春先・大型連休では不要不急の外出を控える人が多かった。そのため、観光客入込数は3619万人(前年比35・8%減)と大幅に減少した。 磐梯吾妻スカイラインのみ伸びているのは、前年吾妻山の噴火警戒レベルが引き上げられ、全面通行止めが続いたため。 気になるのはそうした観光地のトイレ事情だ。 観光地に出かけるときは日常と異なる生活リズムとなるうえ、ご当地グルメやスイーツなどを飲食する機会も増えるため、腹を下して思いがけないタイミングでトイレに駆け込むことがある。そうした際、古い・汚い・臭いトイレだったときの落胆は大きい。 和式の個室しか空いていないときもテンションは下がる。「うちは和式でないとだめだ」という高齢者が多かったのは昔の話。「久しぶりに和式で用を足したら足の踏ん張りがきかなくて、後ろに転びそうになった。洋式に統一してほしい」という声が聞かれる。 逆に期待しないで入ったトイレが、温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)が整備された綺麗なトイレで、上機嫌になることもある。7月10日、国見町にオープンした「あつかし千年公園」は阿津賀志山防塁がある田園地帯に整備された公園(イベント広場、駐車場)だが、その一角に整備されたトイレが思いがけず最新のつくりで感動した(写真)。 あつかし千年公園のトイレ① あつかし千年公園のトイレ②  コンビニや飲食店、土産物店などのトイレは比較的きれいだが、ただで借りるわけにもいかないので、食事や買い物のついでに用を足す。むしろトイレを借りるため何かを買っている人も多いだろう。 その点、公衆トイレは〝無料〟で気軽に利用できるが、清潔度で疑問符が付くことも少なくない。 特定非営利法人・日本トイレ研究所(東京都)は2018年から2019年にかけて、外出時に利用したくなる「お気に入りトイレ」についてのインターネットアンケート調査を実施した(有効回答数226、複数回答あり)。その結果、最も重視するポイントとして挙げられたのは健常者、要配慮者(障害者や妊産婦など)ともに、「きれい・清潔」だった。 健常者と要配慮者で分かれたのが、手すりや温水洗浄便座、おむつ交換台、オストメイト(人工膀胱保有者)対応トイレといった「設備がある」という項目。健常者では24・2%だったのに対し、要配慮者は43・8%に上った。最近では女性トイレで生理用品を無料提供するサービスなども始まっており、トイレの設備の重要性に注目が集まっている。 同研究所代表理事の加藤篤さんはこのように語る。 「トイレに一番重要なのは『安心』だと考えています。きれい・清潔なのはもちろん、多様な人の利用を想定した設備が整っていて、誰もが安心して利用できるトイレが望ましい。例えば、トイレの入り口に段差があるだけでも、車いすの人や足が不自由な人は利用できないわけです。観光地においても、安心して使えるトイレがなければ、その場所を訪れる人は限られるし、『飲食や宿泊は控えてトイレを使わないようにしよう』と考えるので、滞在時間も自ずと短くなるでしょう。そういう意味では、観光の満足度を左右する存在がトイレだと言えます。『安心』という意味では、自然災害により停電や断水などが発生したとき、公衆衛生を保つ役割も観光地のトイレには求められています」 裏磐梯のトイレを点検 桧原湖畔の古びたトイレ  県内観光地のトイレは安心して利用できるのか。6月から7月にかけて、前出の観光客入込数が多い地点を中心に、県内の観光地や公園、公共施設などを回って、トイレの状況をチェックした。 チェックしたのは、男性トイレ個室の①便器の種類(和式、洋式、ウォシュレット)、②施設・設備の新しさ(3段階)、③清潔さ(3段階)。記者(42歳、男性)が、家族や友人などとプライベートで訪れた際に利用したいトイレかどうか、という視点でジャッジした。 県内トイレの本誌採点一覧 ‐場所名 自治体名便器の種類新しさ清潔さ➀福島交通飯坂線 飯坂温泉駅福島市洗浄23➁エスパル福島1階福島市洋式33③福島駅前公衆トイレ福島市洗浄22④浄土平公衆トイレ福島市洋32⑤県営あづま球場福島市洋33⑥あづま総合運動公園大駐車場福島市洋21⑦道の駅りょうぜん伊達市洗浄33⑧やながわ希望の杜公園伊達市和12⑨あつかし千年公園国見町洗浄33⑩観月台公園国見町和11⑪半田山自然公園入口桑折町洋22⑫JR郡山駅1階郡山市洋+和33⑬郡山カルチャーパークドリームランド郡山市洗浄13⑭開成山公園市役所側駐車場トイレ郡山市和11⑮開成山公園自由広場前トイレ郡山市洋+和21⑯道の駅「安達」上り二本松市洗浄+和22⑰小峰城白河市洋+和23⑱白河駅前駐輪場白河市洗浄33⑲JR新白河駅前白河市洋32⑳南湖公園菅生舘駐車場白河市洋22㉑はたけんぼ須賀川市洗浄23㉒裏磐梯物産館(北塩原村)北塩原村洗浄+和33㉓裏磐梯ビジターセンター北塩原村洋+和22㉔桧原湖南岸駐車場公衆便所北塩原村洋12㉕第一ゴールドハウス目黒 桧原湖店北塩原村洗浄23㉖第二ゴールドハウス目黒 磐梯店北塩原村洗浄12㉗桧原湖第2駐車場公衆トイレ北塩原村洋+和22㉘道の駅あつかしの郷国見町洗浄33㉙JR会津若松駅会津若松市洗浄23㉚鶴ヶ城西出丸トイレ会津若松市洋22㉛鶴ヶ城喫茶脇トイレ会津若松市洋22㉜JR喜多方駅喜多方市洋+和23㉝道の駅猪苗代猪苗代町洗浄33㉞世界のガラス館猪苗代店猪苗代町洗浄+和22㉟長浜公衆トイレ猪苗代町洗浄+和22㊱道の駅ばんだい磐梯町洗浄+和33㊲塔のへつり公衆トイレ下郷町洗浄22㊳道の駅下郷下郷町洗浄+和23㊴JR会津柳津駅柳津町洗浄33㊵JR会津宮下駅三島町洗浄33㊶三島町観光交流館からんころん三島町洋33㊷JR会津川口駅金山町洋23㊸会津川口駅前「みんなのトイレ」金山町洗浄33㊹道の駅番屋南会津町洋+和22㊺JR田島駅南会津町洗浄33㊻JR只見駅只見町洗浄33㊼道の駅尾瀬檜枝岐檜枝岐村洗浄33㊽ミニ尾瀬公園檜枝岐村洗浄22㊾道の駅ならは楢葉町洗浄33㊿道の駅そうま相馬市洗浄3151原釜尾浜海水浴場相馬市洋式2252セデッテかしま南相馬市洗浄3353JRいわき駅いわき市洋+和3354いわき・ら・ら・ミュウいわき市洗浄33※便器の種類は洋=洋式、和=和式、洗浄=温水洗浄便座。※「新しさ」の基準は以下の通り3=新しい施設・充実した設備で万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=古い施設・設備、暗い雰囲気で使いたくない※「清潔さ」の基準は以下の通り3=きれいな環境が維持されており、万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=汚れや臭い、ゴミ、故障便器が目立ち、使いたくない トイレ調査トピックス ○温水洗浄便座は多目的トイレに1台だけ設置し、男子トイレの方には洋式・和式しかないケースも多かった。設置費用節約のためか。○道の駅のトイレは清潔だが、調理場から出る油などの影響で、水回りから悪臭が漂うところも。○道の駅そうまは指定管理者が変更となり、改装中のためか、敷地内からごみ箱が撤去されており、トイレの中に空き缶が捨てられていた。  まず向かったのは、観光客入込数1位の磐梯高原(裏磐梯=北塩原村)。 最初に訪れた裏磐梯物産館は五色沼自然探勝路(約4㌔、徒歩約1時間20分)の出入り口に立地している。ハイキング客が多いトイレを覗くと、温水洗浄便座と和式が設けられていた。比較的新しく清潔感があるので使いやすそう。 探勝路のもう一つの出入り口、裏磐梯ビジターセンターの脇にもトイレが設けられている。こちらは屋外のトイレで、便座はいずれも和式。少し暗い雰囲気だが「ビジターセンター脇のトイレは24時間利用可能で、冬は暖房が付いているので、使い勝手がいい」(裏磐梯をよく訪れる男性)と評価する声もある。 2018年には同センター西側に、裏磐梯観光協会事務所などが入る五色沼入口観光プラザがオープンした。こちらのトイレはすべて温水洗浄便座で、多目的トイレも設けられているが、9時から17時までしか利用できないのが難点。 桧原湖畔には県が設置したトイレがあった。洋式で車いすも入れる広さがあったが、設備自体が古い。不気味な雰囲気が漂う。 同じ桧原湖畔に立地するドライブイン「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のトイレも古さを感じる造りだが、個室はすべて温水洗浄便座。これには正直驚かされた。 「ドライブインは団体客を受け入れることが多く、トイレを利用する方が多いので、快適に利用してもらえるように気を使っています」(同施設の関係者) このような施設がある一方で、本誌2018年8月号では、五色沼周辺の観光施設「レストハウス五色沼」が修学旅行生にトイレを貸さず、観光エージェントから県観光物産交流協会に対し〝問い合わせ〟が寄せられた件を取り上げた。当時の本誌取材に対し、同施設の関係者は「修学旅行生は全く買い物をしないのに、声もかけずぞろぞろと入ってきてトイレを使おうとする」と本音をこぼしていた。これも観光施設の本音だろう。観光施設にとって維持管理の負担は小さくない。そうした中で「どこまでトイレを貸し出すか」という問題に頭を悩ませている。 ただ、安心して利用できるトイレがある観光地は、拠点としても使いやすいので人が集まりやすくなり、再訪する人も増えるだろう。例えば、前出「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のように、温水洗浄便座を整備するのも一つの手段。〝おもてなし〟の視点で整備を進めていってはどうだろうか。 県内観光地をめぐると、温水洗浄便座が設置されているトイレは割とあったが、和式トイレと併設されているところ、もしくは多目的トイレにのみ温水洗浄便座が設置されており、男性トイレは洋式・和式というケースが多かった。そうしたトイレの場合、問題なのは、混雑していて和式しか空いていないときがあること。実際、ある道の駅のトイレを訪れた際、和式しか空いていないのを確認して踵を返した人がいた。和式なら利用したくない、と。 一般家庭用で和式から温水洗浄便座に改修する際の費用は約30万円。それほど高い金額ではないのだから、すべて温水洗浄便座に変えても問題ないように思えるが、なぜ普及が進まないのか。 ある観光施設の責任者は「高齢者の中には和式がいいという人もいるので、一部残している」と明かす。 過去の新聞・雑誌を探ったところ「第三者が座った後の洋式便座に座りたくない。和式は残してほしい」、「不特定多数の尻を洗った温水洗浄便座を使用するのに抵抗がある」という意見もあると報じられている。ごく少数派になりつつあるが、さまざまな理由から和式を希望する人がいるので、残しているわけ。 前出・日本トイレ研究所代表理事の加藤さんは「温水洗浄便座を広く整備すべき」という意見に釘を刺す。 「確かに温水洗浄便座の導入により快適にトイレを利用できる人が増えるのはいいことです。ただ、山の上など水がない場所のトイレに整備するのは現実的に難しいし、『設備さえ整えればいい』という考え方は危うい面があります。たとえ温水洗浄便座が整備されていても、掃除が行き届いていない不衛生なトイレは使いたくありませんよね? あくまで求められるのはきれい・清潔なトイレであり、空間や設備がバリアフリーであることが安心感を生み出すのです」 インバウンド需要が注目されたとき、象徴的な受け入れ施策として国が力を入れたのがトイレの洋式化だった。補助金メニューが設けられ、予算が付きやすくなり、全国各地で洋式化が進んだ。だが、むしろ重視すべきはその後の維持管理・運用であり、設備の有無を注目すべきでないと加藤さんは主張しているわけ。 ネックは維持管理費用 福島駅近くの公衆トイレ  複数の自治体に確認したところ、公衆トイレの維持管理は業者に委託すると、毎月数万円~10万円かかる。温水洗浄便座を導入すると、維持管理費用が跳ね上がるようで、郡山市公園緑地課の担当者は「開成山公園内のトイレ6カ所への温水洗浄便座導入を検討したことがあったが、改修費用もさることながら、維持管理費用に年間200万円かかることが分かり、断念しました」と語った。 別の自治体担当者は「不特定多数が利用する公衆便所なのでいたずらされて破損することもたまにある。そのときの改修費用も考えると、温水洗浄便座の全面的導入に二の足を踏む面もある」と述べた。 それならば、せめて県内を代表する観光地や道の駅だけでも温水洗浄便座を充実させるべきだ。 さまざまなトイレを回っていて意外だったのは、首都圏からの電車利用客にとっての玄関口となるJR福島駅、郡山駅、いわき駅は意外とトイレが少なく、温水洗浄便座も配置されていなかったこと。 福島市の市民からはこのような不満が聞かれた。 「駅前の飲食店で飲んだ後、バスで帰る前にトイレに寄りたいと思ったが、駅ビルは20時で閉まっており、どこにトイレがあるのかさっぱり分からず難儀しました。結局、駅の端っこの交番の脇にある市の公衆トイレを発見して、難を逃れましたが、夜間は近づいたときだけ照明が付くようになっており、遠目にはさっぱり分からなかった。観光客には全く優しくないと思いますよ」 コロナ禍前は、酔っぱらった男性がトイレまで我慢できず、福島駅の東西をつなぐ地下道「東西自由通路」で立ち小便をしていた――という恐ろしい話も聞いた。 福島市ではこうした状況を改善するため、7月31日、街なか広場北側のパセオ通り沿いに駐輪場や倉庫と併設する形で、24時間利用可能なトイレを整備した。総事業費は約1億4000万円。さらに、福島駅東口再開発の動向を見ながら、既存のトイレの改修も検討していく考えだ。 中心市街地のトイレ不足はどこも共通している。7月13、14日に喜多方市中心市街地の商店街で行われた「喜多方レトロ横丁」。3年ぶりの開催となり、多くの人でにぎわったが、公衆トイレなどが近くにないため、メーン会場に近いリオン・ドール喜多方仲町店のトイレには長蛇の列ができていた。 同イベントを主催した会津喜多方商工会議所の担当者は、「会場には3カ所の仮設トイレを設置したが、和式タイプということもあり、女性や若い世代には敬遠されがちです。一部の飲食店や土産店で頼んで借りることもできるだろうが、気軽に使いづらい。そのため、どうしてもリオン・ドールのトイレに集中したようです」と悩みを語った。結局、安心して利用できるトイレに集中するということだ。 不気味な開成山公園トイレ 開成山公園のトイレ  そういう意味で、県内のトイレを回ってみて「ここは安心して利用できない」と感じたのは郡山市の「開成山公園」だ。和式便所が多いうえ、壊れて使用できない便器もあった。 同公園内には人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター・ラッキーをモチーフにした「ラッキー公園inこおりやまし」が開園しているが、ここで用を足したいと考える人は少ないのではないか。 園内で自転車を止めて話し込んでいた2人の女性にトイレについて話を聞いたところ、年配女性は「清潔さはそれほど気にならないが、和式トイレだと足が痛くなるので、洋式にしてほしい」、中年女性は「園内のトイレで自ら命を絶った人がいるというウワサを聞いて、不気味なのでしばらく利用していない」と話した。 市によると、現在トイレのリニューアルも含めた「開成山公園等Park―PFI事業」の事業者公募中で、2023年度からの事業開始に向けて手続きが進められているという。 2021年、五輪競技の会場になったあづま総合運動公園のトイレは、温水洗浄便座を導入しているところがあったが、全般的に施設が古くて狭く、暗い雰囲気が漂う。 ちなみに、県内には汲み取り式トイレもあるのではないかと予想していたが、今回訪れた中では一つもなく、水洗化が進んていることを実感した。ただ、登山道にあるトイレなどはそういったところも多い。微生物を利用して排泄物を分解する「バイオトイレ」であれば悪臭は抑えられるので、状況が変わっている可能性もある。そうしたトイレ事情に関しては、稿を改めて取り上げたい。 時間の都合で回れなかった観光施設も多いが、総じて県内観光地のトイレは洋式化が進んでおり、温水洗浄便座も普及していると感じた。ただ、一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページによると、温水洗浄便座の一般世帯への普及率は80・3%。それを考えると、観光地においても、もっと積極的に普及に取り組んでもいいのではないか。 今後の課題は日本トイレ研究所の加藤氏が話していた通り、いかにすべての人が安心して使えるトイレを整備していくか、という点であり、そのための維持管理費用をどう確保していくかということになる。そこに関しては、いかに県や市町村がトイレの維持管理の重要性を理解し、観光客への〝おもてなし〟の意識を持って、「安心して利用できるトイレ」を作っていけるか、ということになろう。

  • 春のふくしまを巡る

    いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市) あわせて読みたい ふくしま書棚百景 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

     福島市在住のアマチュアカメラマン・渡部良寛さん(63)は鉄道写真を中心に、県内の絶景を撮影し続けている。 桜に紅葉、雪景色。その美しさから、福島県宅地建物取引業協会(宅建協会)の広報誌の表紙に採用されていたほか、JR福島駅の駅ビル「S-PAL(エスパル福島)」1階でも常設展示されている。 渡部さんの作品群の中から、思わず心を奪われる県内の〝感動絶景〟を紹介してもらった。 観音寺川の桜並木(猪苗代町、2021年撮影) 水郡線の脇で咲き誇る「戸津辺の桜」(矢祭町、2014年撮影) 二本松の提灯祭り(二本松市、2014年撮影) 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影) 二井屋公園に咲くポピー(伊達市、2016年撮影) ハート形に見えるため、「ハートレイク」とも呼ばれている半田沼(桑折町、2017年撮影) 只見川沿いの大志集落(金山町、2020年撮影) 国の重要無形民族文化財「サイノカミ」が再現され、花火も打ち上げられた「雪と火のまつり」(三島町、2020年撮影) 波立海岸沿いのJR常磐線を走るE657系「特急ひたち」(いわき市、2022年撮影) あわせて読みたい 春のふくしまを巡る ふくしま書棚百景