【只見線】全線再開通フィーバーから8カ月

【只見線】全線再開通フィーバーから8カ月

 6月1日で全線再開通から8カ月となるJR只見線。再開通直後は盛況で車内は満席だったが、現在はどういう状況なのか。記者が実際に乗って確認してみた。

只見線〝日帰り旅〟で見えた課題

只見線〝日帰り旅〟で見えた課題【地図】

 JR只見線は2011年の新潟・福島豪雨で被災し、会津川口(金山町)―只見(只見町)間が不通となった。1日当たり利用者数49人(2010年)の赤字区間ということもあり、当初、JR東日本は代行バスへの移行を検討していた。

 だが、県や沿線自治体からの要望を踏まえ、県が線路や駅舎を保有し、JR東日本が運行する「上下分離方式」で復旧することになった。不通区間の復旧費用は約90億円(県・市町村負担分約54億円)。毎年約3億円の維持管理費は県と沿線自治体など17市町村が負担する。

 昨年10月1日に全線再開通すると、秋の紅葉シーズンや政府の観光振興策である全国旅行支援も重なって、大盛況となった。新聞報道によると、車内は混雑して座れないほどで「通勤時の山手線のようで景色を見る余裕がない」との嘆きが聞かれるほどだったという。半年以上経過して、現在はどういう状況なのか、記者が実際に只見線に乗ってみた。

 大型連休前半の4月30日、会津若松(会津若松市)7時41分発の列車に乗り込んだ。2両編成で乗客は十数人。そのうち、半分は大きいバッグを抱えた観光客だった。6時8分発の始発にも毎日10人ほどの乗客がいるようだ。

 出発後、七日町(同)、西若松(同)から、会津西陵高校(旧大沼高校、旧坂下高校)の生徒が乗り込み、あっという間に満席になった。だが、同高校がある会津高田(会津美里町)でぞろぞろ降り、車内に残ったのは数人。全線再開通フィーバーは完全に終息したようだ。

 代わり映えしない水田の風景にうとうとしていると、いつの間にか奥会津に入っていた。只見川に差し掛かるところで景色を見せるために減速運転したので、スマホを取り出して撮影した。エメラルドグリーンの川面が美しく、席から立ち上がって眺める乗客もいた。 

只見川の風景を撮影する乗客
只見川の風景を撮影する乗客

 感動したのは、只見線を見かけた近隣住民がみな手を振ってくれること。地域全体で盛り上げようとしている思いが伝わって来た。

 一方で、いわゆる〝撮り鉄〟が山の中にいる姿には何度かギョッとさせられた。離れたところから撮っているのだろうが、車内から見ると、目の前に突然現れたように感じる。

 会津若松を出発してから約3時間後の10時45分、目的地の只見駅に到着。降車客が多いと勝手に思い込んでいたが、大半が終点・小出(新潟県魚沼市)行きの列車に乗り換えた。

 記者がまず足を運ぼうと考えたのは田子倉ダム。というのも、只見町は、只見線乗客向けの観光周遊バス「自然首都・只見号」の実証実験(乗車1回200円、土、日、祝日のみ運行)を4月29日からスタートしていた。それをフル活用して、ダムの絶景をスマホに収め、弊誌のツイッターで投稿しようと考えていたのだ。

観光周遊バス「自然首都・只見号」時刻表

 ところが、駅で時刻表を確認すると、田子倉ダム行きのバスは10時発と14時35分発のみ。会津若松発6時8分の始発に乗らないと間に合わないことになる。自分の詰めの甘さと、シビアすぎる時刻表設定に泣いた。

 時間が空いたので、全線再開通に合わせて駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」に足を運んだ。会津ただみ振興公社が運営する土産コーナーや軽食コーナー、同施設を運営する只見町インフォメーションセンターが入っている。

只見駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」
只見駅前に整備された賑わい拠点施設「只見線広場」

 別棟には、同町のご当地B級グルメ「味付けマトンケバブ」が味わえるカフェ、同町に立地する米焼酎メーカーで、国内外から高い評価を受ける「合同会社ねっか」の只見駅前醸造所も入居している。

 同センターによると、昨年10月は月間5000人以上が利用し、その後減少したものの、今年4月は月間1210人が訪れたとのこと。約30分の停車時間に、乗客が土産物を買い求める姿も見られた。

 とりあえずカフェで味付けマトンケバブとホットコーヒーを頼んで時間を潰す。店員に利用状況を尋ねると、最近は落ち着きつつあるが、それでも利用客は多いとのこと。

 隣の席でどぶろく(合同会社ねっか只見駅前醸造所で販売している)を飲んでいた年配男性に声をかけると首都圏から来た人だった。

 「只見と会津田島(会津鉄道会津線=南会津町)を結ぶ定期路線ワゴン『自然首都・只見号』でここまで来た。不通区間がある頃に来て以来、毎年訪れている」(年配男性)

 定期路線ワゴンは意外と利用者が多いようで、全線再開通直後の混雑時には、「終点まで立ちっぱなしは嫌だ」と会津田島駅経由で帰る人が続出し、2台運行するほどだったとか。このほか、北東北へのドライブ旅行中に立ち寄った北陸地方在住の夫婦もおり、只見線全線再開通の報道を機に、興味を持って足を運ぶ人が増えたことがうかがえた。

使い勝手が悪い周遊バス

使い勝手が悪い周遊バス

 田子倉ダム行きのバスが発車する14時35分までの待ち時間で何かできないか。タクシー会社に電話したが運転手が出払っているのかつながらなかった。4時間5500円のレンタカーには手が出ない。

 やむなく観光周遊バスの時刻表とにらめっこしていたところ、駅12時発の便に乗れば、町の第三セクターが運営する温泉宿泊施設「季の郷湯ら里」で日帰り入浴して、駅まで戻ってこられることが判明した。

 風呂に浸かって、旅の疲れを取るのも悪くない。意気揚々とマイクロバスに乗り込むと、乗客は自分1人だった。同バスは今年12月3日まで運行予定とのことだが、来年以降継続できるのか不安になった。

 「湯ら里」の温泉はナトリウム塩化物硫酸塩温泉。適応症は神経痛、筋肉痛、関節痛など。利用料700円。源泉かけ流しの日帰り専用温泉施設「深沢温泉むら湯」も隣接しており、赤褐色の湯を求めて訪れる人が多い。こちらは利用料600円。食堂の看板メニューは手打ちそば。

 昼時で混雑している「むら湯」を避け、「湯ら里」を利用することにした。ところどころ老朽化が目立ったが、広い大浴場や露天風呂でゆっくり体を温めることができた。

 帰り道のバスで運転手に田子倉ダムの様子を尋ねたところ、「午前中唯一の乗客がダムで降りたが、『霧で何も見えなかった』と帰り道こぼしていた」と教えられた。只見駅で話を聞いた町民からは「ダムのふもとの施設・田子倉レイクビューは現在営業していない」と聞かされた。

 午後出発する会津若松行きの列車は14時35分発と18時発。田子倉ダム行きのバスは前述の通り14時35分発。田子倉ダムに行って収穫ゼロに終わり、駅近くで再び18時まで時間を潰すのはさすがに厳しい。スマホの充電も少なくなってきた。ずいぶん迷った結果、14時35分発の只見線で帰途に就くことにした。

 小出方面からの乗客は20人ほど。一度見た風景なので退屈な帰り道になるのを覚悟していたところ、地元NPO法人「そらとぶ教室」のメンバーが同乗し、車窓の見どころをガイドしてくれた。乗客が多い週末午後の便に乗り込み、ボランティアでガイド活動をしているのだという。

 会津川口からは別の観光関係者が引き続きガイドをしてくれた。併せて地元の土産品を販売し、複数の乗客が買い求めていた。漫然と乗っているよりも観光気分が高まったし、沿線自治体に関心を持った人が多いのではないか。

 17時24分、会津若松に到着すると、乗客の大半がホームの反対側の磐越西線(郡山行き)に乗り込んだ。おそらく郡山駅から新幹線を使って居住地まで帰るのだろう。

鍵を握る二次交通整備

鍵を握る二次交通整備

 福島市の自宅からの移動時間を含め、約13時間の日帰り旅(うち只見町に滞在したのは約4時間)。痛感したのは、便数が少ないので気軽に途中下車しづらいことだ。現在、週末には臨時列車が運行しているが、それでも2、3時間に1本のペース。

 そもそも只見線の乗客の大半にとって、「乗ること」そのものが目的になっており、途中下車しない傾向がうかがえた。これでは沿線自治体にお金は落ちない。

 もちろんそうした中でも恩恵を受けている事業者はいる。同町内のレンタカー業者・エスネットレンタカーの担当者は「只見線で旅行に来た家族・グループの方によく利用してもらうようになった」と語り、只見町旅館業組合長の菅家和人さんは「冬の閑散期を除き、週末は満室になっている」と話す。いかに幅広い業種に経済効果をもたらすことができるかが今後の課題となる。

 県が4月25日に発表した第二期只見線利活用計画では、観光列車の定期運行実現、ビューポイント整備、体験学習提供、インバウンド強化、魅力発信など10の重点プロジェクトが掲げられている。こうしたプロジェクトで、地元にお金が落ちる仕組みを構築できるだろうか。

 今後の鍵を握るのは二次交通の整備だろう。県や沿線自治体では今後5年間で二次交通を充実させる方針で、6月には鉄道と駐車場・バスを組み合わせて観光しやすくする「パークアンドライドバス」の導入を検討しているという。「少しの区間なら只見線に乗ってみたい」、「沿線自治体をいろいろ巡りたい」など、さまざまな需要に応えられるように環境整備していくことで、途中下車して沿線自治体に立ち寄る乗客も増えていくのではないか。

 仮に再び災害が起きて線路や鉄橋が流失したときは県や沿線自治体で全額負担することになる。今後は老朽化の問題も出てくるだろう。税金をかけるのにふさわしい経済効果を生み出しているのか、常に問われ続けることになる。

 県の平成31年度包括外部監査報告書 (県包括外部監査人・橋本寿氏ら公認会計士が作成)では只見線復旧事業についてこう述べていた。

 《会津川口駅―只見駅間の鉄路復旧、只見線の全線開通それ自体が、特に経済的価値を生む訳ではなく、過疎、人口減少に対する地域振興策でもない。それを望むのであれば、不通になる以前に達成できていたはずである。只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。約 54億円は別の事業で有効活用できたのではないか》(141ページ)

 県只見線管理事務所の担当者は「乗客の中には途中下車して沿線自治体で宿泊する人もいる。沿線自治体ととともに、引き続き利活用促進に取り組んでいく」と述べる。

 全線再開通フィーバーがひと段落したここからが只見線(県、沿線自治体)にとって正念場となる。

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