【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

 新潟県新潟市に本拠を置く家庭教師派遣と学習教材販売の㈲興創が、2022年9月7日付で新潟地方裁判所から破産手続の開始決定を受け倒産した。同社は1998年に創業し、「家庭教師のコーソー」(以下、コーソーと表記)として小中学生や高校生を対象に家庭教師による個別指導を手掛けていた。新潟本社のほか秋田市、札幌市、大宮市に営業拠点を開設し、派遣地域は新潟県、秋田県、山形県、青森県、福島県、岩手県、北海道、埼玉県をカバーするなど事業を拡大していた。しかし、競争激化に加え少子化による需要の減少で業績が悪化すると、借入金が資金繰りを圧迫。これ以上の事業継続は困難と判断し、今回の措置に至った。

新潟・家庭教師派遣業「倒産」に見る業界事情

新潟地方裁判所(HPより)

 2022年12月9日、新潟県民会館で興創(榊茂喜代表取締役、資本金800万円)の債権者集会が開かれた。破産管財人は新潟みなと法律事務所の堀田伸吾弁護士。

 債権者集会は裁判所による指揮のもと、破産管財人が破産債権者に対して、破産会社が破産に至った経緯や資産(負債、財産)状況、配当の見込みなどについて情報を提供するもの。破産管財人が行う管財業務に関わる重要事項について意思決定をするため、破産管財人・破産者・破産債権者が一堂に会して開かれる。

 集会の冒頭、榊氏は「従業員ならびに家庭教師の皆様、なにより一番は我々の会社の教材をご購入いただいた、ご入会いただいた会員の皆様には大変申し訳ないと思っております」と謝罪した。興創は2014年2月期には売上高3億7200万円を計上し利益も確保していたが、ここ数年は著しく業績が悪化し、2022年2月期には売上高2億5000万円にまで減少していた。負債額は1・5億円に上る。

 「会社を取り巻く環境が厳しくなり、思うような業績が上がらなくなりまして、非常に苦しんでおりました。メインバンク、その他の銀行から融資を受け、頑張ってまいりましたが、支えきれなくなってしまいました」(榊氏)

 破産管財人の堀田弁護士は破産に至った経緯について「生徒を獲得するための営業活動がうまくいかなくなった」と説明した。

 「コーソーでは会員生徒を獲得するため、自宅の固定電話に架電する営業活動を行ってきましたが、携帯電話の普及に伴う固定電話の利用減少によって思うように業績を伸ばせなくなりました。また、個人情報に対する社会的意識の高まりによって生徒の名簿も入手困難となりました」(堀田弁護士)

 20年ほど前まで、学校では児童・生徒の氏名や住所、電話番号が記載されたクラス名簿が配布されていた。コーソーをはじめとする家庭教師派遣業者が、独自のルートで各学校のクラス名簿を買い取り入手することは容易かったはずだ。しかし、2005年に全面施行された個人情報保護法により、プライバシー保護の観点から名簿が配布されなくなった。現在は児童・生徒の氏名のみのクラス名簿ですら公表しない学校が多いようだ。

 自力でクラス名簿が入手困難となれば、次の手は名簿業者を利用するしかない。1件数円~数十円で個人情報を買い取ることになるが、違法な名簿業者から提供された個人情報を使用して営業すれば当然違法性を問われる可能性が高いことに加え、営業内容と親和性の高い名簿が得られるとは限らない。さらに名簿を入手したとしても、電話を受ける消費者の側が、プライバシーに対するリテラシーが高まっているため、営業活動云々の前に「なぜうちの電話番号を知っているんだ」と話を聞いてもらえず、成約率は以前より低くなっているのが実情だ。

 今の時代、知らない電話番号から電話が掛かってきたときに、すぐに折り返さず、インターネットの検索エンジンで電話番号を入力して調べれば、即座に業者名や口コミが出てくる。

 試しに「コーソー」で検索してみると、複数の電話番号がヒットし多数の口コミが出てきた。

   ×  ×  ×  ×

 口コミ1 

 たった今「夜分恐れ入ります。〇〇様のお宅ですか?」と穏やかな口調の男性から。「はい、そうですけど?」と不機嫌に答えると「家庭教師のコーソーと申しますが、お母様でいらっしゃいますか?」と聞きやがるので「どこでお調べで?」と返すと「名簿でございます」だと。「即消してくださいませ」と答えると「はい。申し訳ございませんでした」と。

 口コミ2

 21時ぐらいに電話してきた。まじで迷惑。聞いた話だと、同じ家に何回も勧誘すると法律違反らしい。

 口コミ3

 さっきこの番号でかかってきました。「断っても何回もかけてくる。そちらと同じ内容のセールス電話にうんざりしてる。いい加減やめて下さい!」と言うと、「それはスミマセンでした~」と感心なさそうな声で言うので、頭に来てそのまま電話を切りました。着信拒否かけても新しい番号でかけてくるので、いたちごっこで腹が立ちます。

   ×  ×  ×  ×

 コーソーはかなり手荒い電話営業を行っていたようだ。「家庭教師のトライ」などの大手家庭教師派遣業であれば、テレビCMやユーチューブなどを利用したインターネット広告にお金をかけられるが、会社の規模が小さくなればなるほど広告費を捻出するのは難しい。お金をかけずにできる宣伝は、チラシをポスティングしたり店舗に置いてもらったりしながら、自社のホームページを充実させ、ツイッターなどのSNSを有効活用するしかない。

明かされた財産目録

明かされた財産目録
財産目録

 債権者集会で配られた財産目録は別図の通り。

財産目録


 「資産の部」の預貯金を見てみると、新潟信用金庫米山支店の33万5576円が最も多い残高となっており、資金繰りに困窮していたことがうかがえる。

 また「資産の部」の貸付金を見てみると、最も高額なのが伊藤修の921万4151円。伊藤氏は埼玉県さいたま市で「家庭教師のハヤテ」を運営していた社長で、榊氏とは二十数年来の友人だった。榊氏は伊藤氏から家庭教師派遣業や教材販売の知識やノウハウのアドバイスをもらっていた間柄だったという。ハヤテが2017年末に倒産した際、榊氏の貸付によって再建されたが、2020年にその資金も尽き、榊氏が会社を引き取ることになった。現在、伊藤氏とは連絡がつかず、貸付金は回収不能の見込みだ。

 事務用品や携帯電話などの備品や車両を現金化し、最終的に残った破産財団(破産手続の手続費用および破産債権者等への弁済原資)は597万4235円となり、諸経費を引いた最終的な破産財団の残高は377万7969円となった。

 「負債の部」を見てみる。財団債権(公租公課)が3330万8272円となっている。財団債権とは最も優先的に弁済を受けることができる債権(別除権を除く)。公租は国税・地方税、公課は社会保険料など。財団債権(公租公課)のうち、2000万円強が公課に当たる社会保険料の滞納分という。

 財団債権(労働債権)は破産手続開始前3カ月の賃金請求権であり、従業員やアルバイトなどの未払い賃金に当たる債権。記載が空欄となっているのは、独立行政法人労働者健康安全機構の立て替え払い制度を利用したため。同制度で未払い賃金の8割相当が保証される(未払い賃金が2万円以下は対象外)。正社員とアポインターのアルバイトは2022年12月中に立て替え払いが完了しており、家庭教師は今後請求を進めていくという(※)。

 ※財団債権(公租公課)と財団債権(労働債権)は同列で、優先順位はない。

 最後に破産債権。記載が空欄なのは、前述・破産財団の残高が財団債権よりも下回っているため、破産債権への配当が見込めないためだ。

 つまり、学習教材を購入した、あるいは家庭教師の指導を受けた消費者の債権は1円も返ってこない状況となっている。多くの会員は教材費として、入会時に30万円を一括かクレジットの分割で支払っている。また、家庭教師の指導を受ける権利が付与された指導券を4回分まとめて購入しており、コーソーが事業停止した8月末以降に指導券が余っていた場合は、ただの紙切れとなる。

 家庭教師は「特定商取引法における特定継続的役務提供契約」に当たり、契約の解除(クーリングオフ)や中途解約が認められている。

 債権者集会では、債権者である生徒の保護者から教材費や指導券の返金に関する質問が集中した。

 ある会員生徒の母親は「教材費31万円をクレジットカードの36回払いで購入しました」と話す。

 「これまで3回クレジットの支払いをしました。クレジット会社とお話しして支払いを止めてもらっていますが、残りの分も払わなければならないのでしょうか。契約の際に教材費だけでなく、3年間の管理料も含まれていると聞いています。教材費はやむを得ないにしても、管理料も払わなければならないのは納得できません」

 これに対して、管財人の堀田弁護士は次のように答えた。

 「あくまでクレジット会社と会員様の契約となりますので、管財人としては助言できる立場にありません。大変心苦しいのですが、消費者センターや弁護士に相談してみてくださいとしか申し上げられません」

 会員の中には興創が倒産する直前に契約したために、教材すら届いていない人もいた。榊氏いわく、事業停止する8月末に初めて従業員に倒産する旨を伝えたため、倒産直前まで会員の勧誘を行っていたことになる。

時代に追いつけず

 厚生労働省によると、2021年の国内の出生数は81万1622人と過去最少を更新している。学習塾や家庭教師派遣などの教育関連業者は、少子化による児童・生徒数の減少や新型コロナウイルスの影響に加え、講師不足や後継者難といった問題を抱えるケースが多く、教育関連業者の倒産が増加している。

 民間信用調査機関の帝国データバンクは、2008年以降の教育関連業者の倒産動向(負債1000万以上、法的整理のみ)について集計・分析している。調査結果要旨は以下の通り。

 ①2018年の倒産件数は91件、2015年から4年連続で増加。

 ②負債合計は27億6300万円となり、過去10年で最小に。

 ③業態別では「各種スクール・家庭教師」が最多。「学習塾」の倒産件数は過去最多を記録した。

 教育関連業者を取り巻く環境は年々厳しくなっていることが分かる。そんな中、生き残りをかけてオンライン個別指導に活路を見いだしているのが「家庭教師のトライ」などを手がけるトライグループだ。2015年7月には完全無料の映像授業サービス「Try IT(トライイット)」をスタート。無料会員登録をするだけですべての映像授業(1本15分程度)が無料で視聴できるという、業界初の画期的なサービスとして注目された。このサービスは、すでに100万人の子どもたちが利用しているという。

 そう考えると、コーソーが行ってきたコンプライアンス無視のテレアポ営業や高額な教材販売というビジネスモデルが終焉を迎えるのは当然の結果だった。

 ちなみに福島県内の教育関連業者は2016年の政府統計(経済センサス―活動調査)によると、学習塾の民営事業所数は266、家庭教師が231となっている。また「都道府県別統計とランキングで見る県民性」によると、本県の小学生通塾率は33・2%(全国平均45・8%)、中学生通塾率は49・2%(同61・4%)となっている。

 子どもを持つ親の身になれば、何とかして我が子の成績を上げたいと思うのは当然だ。塾に通わせてもついていけなければ意味がないと、家庭教師という個別指導に頼るのは自然の流れである。

 今後、家庭教師派遣業に求められるのは明瞭な料金体系の公開や、入会金や教材費に頼らない仕組みだろう。また、消費者である子どもを持つ親も、自分の子どもにとって何が一番良い投資になるのかを吟味するリテラシーが求められる。コーソーの指導を受けていた会員の児童・生徒が、今後も充実した学習ができることを願うばかりだ。

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