コロナ「5類」移行後の【会津若松市】観光事情

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 5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。これに伴い、法律に基づく外出自粛や行動制限などが発せられることがなくなり、イベントや観光などの機運が高まっている。「5類」移行の影響はどうなのか、会津若松市観光業の状況を探った。

夏休み、秋のシーズンに期待

東山温泉
東山温泉

 会津若松市を取材対象にした理由は、1つはデータの取りまとめが非常に早いこと。速報値ではあるものの、7月中旬に同市観光課に問い合わせると、すでに市内観光各所の6月分のデータがまとめられていた。

 それだけ、行政の観光セクションがしっかりしており、行政と観光関連施設などの連携が図れている証拠だろう。見方を変えると、同市において観光業はそれだけ大きな産業で、観光業の浮沈が市内経済に大きな影響を及ぼすということでもある。それが同市を取材対象にしたもう1つの理由だ。

 別表はコロナ前の2019年、コロナの感染拡大が顕著になった2020年、昨年、今年の上半期(1〜6月)の同市内の主な観光地の入り込み数・利用者数をまとめたもの(市観光課調べのデータを基に本誌作成、2023年は速報値)。

鶴ヶ城天守閣

2019年2020年2022年2023年
1月1万8387人2万4751人1万0174人7205人
2月2万0880人2万6234人7144人6537人
3月2万9821人2万0491人1万4766人1万1370人
4月7万9325人4170人3万5654人5万0713人
5月7万5462人1130人4万8486人6万5887人
6月5万1127人9672人4万0344人5万2626人
27万5002人8万6376人15万6568人19万4338人

麟閣(※鶴ヶ城公園内の茶室)

2019年2020年2022年2023年
1月1万1900人1万4287人6962人4755人
2月1万0835人1万2529人5064人4161人
3月2万0285人1万4943人1万0477人8577人
4月4万8042人3419人2万4150人3万2038人
5月4万5159人827人3万0558人3万7735人
6月2万2326人7706人1万6832人2万1800人
15万8547人5万3711人9万4043人10万9066人

御薬園

2019年2020年2022年2023年
1月1261人2213人594人908人
2月2593人2607人470人2153人
3月2308人1500人1136人2191人
4月5181人389人3010人3895人
5月6512人155人4488人5235人
6月4633人1466人3379人4101人
2万2488人8330人1万3077人1万8483人

県立博物館

2019年2020年2022年2023年
1月1179人1659人1377人1942人
2月2336人2967人3660人4167人
3月3825人2291人2806人4162人
4月6134人551人4082人4227人
5月9892人609人1万2169人1万0687人
6月1万0159人2546人1万2071人未集計
3万3525人1万0623人3万6165人2万5185人

東山温泉

2019年2020年2022年2023年
1月3万4278人3万7793人2万8225人2万6311人
2月3万3921人3万0388人1万5224人2万5665人
3月5万2957人2万9279人2万6612人4万3381人
4月4万1440人7512人3万6629人3万7387人
5月3万9746人3482人4万1143人4万1203人
6月4万3744人1万1884人3万3535人4万4489人
24万6086人12万0338人18万1368人21万8436人

芦ノ牧温泉

2019年2020年2022年2023年
1月1万4238人1万6680人8625人9455人
2月1万7638人1万9828人4952人1万0936人
3月1万7064人1万1310人8785人1万3185人
4月1万9578人3629人1万1306人1万1481人
5月1万7727人80人1万1805人1万3545人
6月1万8876人3732人9607人1万1449人
10万5121人5万5259人5万5080人7万0051人

民間施設

2019年2020年2022年2023年
1月1万0884人1万2945人6480人7555人
2月1万4400人1万4332人5366人9545人
3月2万1821人1万3104人1万1366人2万2551人
4月4万6851人3915人2万3504人3万0787人
5月5万9000人268人4万2305人4万8743人
6月5万3130人6498人4万2789人4万7319人
20万6086人5万1062人13万1810人16万6500人
※武家屋敷、白虎隊記念館、駅cafe、日新館、 飯盛山スロープコンベア、会津ブランド館、会津村の合計

 コロナの感染拡大が顕著になった2020年は前年比(コロナ前)で大幅なマイナスになっている。コロナ感染が国内で初めて確認されたのが2020年1月、本格的に影響が出てきたのが2月末ごろ。それを裏付けるように、同年3月は前年同月比で30〜40%減、4月は80〜90%減、5月は90%以上の減少となっている。

 同年4月17日、全国に緊急事態宣言が出され、鶴ヶ城天守閣、茶室麟閣、御薬園の主要観光施設は4月18日から5月27日まで休館した。例年同時期に開催されていた「鶴ヶ城さくらまつり」も中止になった。ゴールデンウイークの書き入れ時がゼロになったのだ。

 観光客の激減は、その分だけマーケットが縮小したことになり、観光業を生業としている関係者は大きな影響を受けた。それはすなわち、収入減にほかならず、結果、あらゆる分野において地域内の消費が減るといった事態を招く。そうした点からも、同市にとって重要な産業である観光業の立て直しは、大きな課題になっていた。

 そんな中、昨年はコロナ直後からだいぶ回復しており、さらに今年はコロナ前には及ばないまでも、かなり戻っていることがうかがえる。施設にもよるが、少ないところで70%程度、多いところでは90%近くまで戻っている。

コロナ前以上の鶴ヶ城

5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣
5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣

 月別に見ると、5類移行後の今年5、6月はコロナ前に近い数字か、施設によってはコロナ前を上回っている。これは5類移行の影響と見ていいのか。

 「『5類』に移行したのはゴールデンウイーク明けで、その後は観光地にとって〝平時〟だったこともあり、正直、よく分からないですね。一昨年、昨年よりは良くなったのは間違いありませんが、徐々に戻ってきている延長線上と捉えるべきなのか、5類移行の影響なのかは測りがたい。これから夏休み、秋の観光シーズンになってどう動くかでしょうね」(市内の観光業関係者)

 こうした見方がある一方で、「やはり、5類移行の影響は大なり小なりあると思いますよ。『いままでは旅行を控えていたけど、制約がなくなったことだし、出かけてみようか』という気になるでしょうから」(別の観光業関係者)との声もあった。

 さらにはこんな見方も。

 「いい意味で、5類移行の影響はあると思います。ただ、それによって、海外旅行への制限・制約もなくなりますから、『これまでは近場、国内で我慢していたけど、せっかくだから海外に行こうか』という人も今後は増えてくると思います。もっとも、5類移行とは関係なく、いつの時代も、海外を含めたほかの観光地との競争があることは変わりませんけどね。その中で、どうやって人を呼び込むかということです」(温泉地の関係者)

 共同通信配信のネット記事(7月11日配信)によると、海外旅行については、まだまだ不安が大きいとのアンケート結果が出ているという。以下は同記事より。

 《調査会社インテージ(東京)が(7月)11日発表した夏休みの意識調査によると、半数が海外旅行に「不安」があると答えた。今夏に海外旅行を予定しているのは2・0%。昨夏(0・8%)より増えたが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行しても渡航に慎重な人が多いようだ。全国の15~79歳のモニターを対象にインターネットで6月26~28日にアンケートを実施。2513人から回答を得た。海外旅行に関し、27・7%が「不安がある」、23・2%は「やや不安がある」とした。「不安はない」は9・5%、「あまり不安はない」が11・1%だった》

 こうしたアンケートを見ると、5類移行後、すぐに海外旅行に行く人は少なそうだが、今後はそういった需要も増えてくるだろう。逆に海外から来る人も増えるから、温泉地の関係者が語っていたように、「海外を含めたほかの観光地との競争の中で、どうやって人を呼び込むか」に尽きよう。

 鶴ヶ城天守閣、麟閣、御薬園を運営する会津若松観光ビューローによると、「(5類移行で)やはり雰囲気的に違う」としつつ、「その中でも、以前とは様相が変わってきている」という。

 「鶴ヶ城天守閣は、5類移行後の今年6月と7月途中(本誌取材時の7月中旬)までは、2019年同月比で来場者数が100%を超えています。詳細を見ると、教育旅行は例年並みで、それ以外の団体ツアー客はコロナ前には戻っていません。その分、個人客が増えています。外国人も増えていますが、それについても以前のような団体ツアーではなく、数人でレンタカーを借りて、といった形が増えています」(同ビューローの担当者)

 鶴ヶ城天守閣は昨年10月から今年4月27日まで、リニューアル工事を行っており、4月末からの大型連休に合わせて再オープンした。そのため、「新しくなった鶴ヶ城に行ってみよう」と、地元・近場の人の来場があったようだ。そういった事情から、6月、7月途中(本誌取材時)まではコロナ前(2019年)より来場者が増えた背景もあるが、①団体ツアー客が減り個人客が増えた、②その傾向は外国人も同様――といった状況だという。

 ほかの観光施設の関係者などに聞いても、似たような傾向にあるようで、それがこれからしばらくの観光の主流になってくるのだろう。「ウィズコロナ的観光需要」といったところか。

夏以降の感染拡大に注意

 こうして聞くと、5類移行後は多少なりとも状況が変わっていると言えそうだが、夏休みや秋の観光シーズンの動きはどうか。

 「コロナ禍以降は、(観光客のコロナ感染や濃厚接触の疑いなどで)突然のキャンセルのリスクがあるため、あまり先の予約を取らないようになっています。そのため、各施設の夏休みや秋の観光シーズンの動き、予約状況などはつかめていません」(市観光課)

 「鶴ヶ城は予約して来られる方は少ないので、夏休みや秋の観光シーズンの見通しはまだ何とも言えませんが、5類移行後はコロナ前(2019年)と同等かそれ以上の方に来ていただいているので、期待はしています」(前出・会津若松観光ビューローの担当者)

 「予約してくる人は少ないので、まだ何とも分からないが、少なくとも夏休みの出だしとしては、昨年よりはいいと思います」(観光施設近くの土産店)

 「だいぶ戻っているのは間違いありませんが、5類移行後、夏休みに向けては普通に推移している、といったところでしょうか。コロナ禍で受けたダメージが大きいので、それを補うにはまだまだ時間がかかると思います」(東山温泉観光協会)

 観光業界関係者の多くが今後に向けて、期待を抱いていることがうかがえた。

 一方で、温泉旅館・ホテルではこんな問題も抱えている。温泉旅館・ホテルでは、コロナ禍に従業員を整理したところが多い。その後、ある程度、宿泊客が戻ってきた段階で再度、従業員の募集をかけたが、なかなか応募がない、といった状況に陥っているという。当然、従業員にも生活があるから、温泉旅館・ホテルで仕事がないとなれば、別の業種に就くだろう。そんな事情もあって、人手が足らずキャパいっぱいまで宿泊客を入れられないところもあるというのだ。

 コロナの後遺症とも言える状況だが、今後は受け入れる側も、コロナで崩れた体制を整え、平常運転ができるようにしていく必要があるということだろう。

 一方で、感染症法上の位置付けが変わったとしても、コロナがなくなったわけではない。

 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の7月7日の会合では、「新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している」と報告された。

 そのうえで、「今後の見通し」として次のように指摘している。

 ○過去の状況等を踏まえると、新規患者数の増加傾向が継続し、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。

 ○自然感染やワクチン接種による免疫の減衰や、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加、また、夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。

 「夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」、「夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要」と指摘しており、夏休みシーズン後のコロナの感染状況にも注意が必要だ。

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