投書で露呈した【双葉地方消防本部】の混乱

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投書で露呈した【双葉地方消防本部】の混乱

 本誌昨年11月号「問題だらけの県内消防組織」という記事で、双葉地方広域市町村圏組合消防本部のパワハラについて記した匿名の告発文が編集部宛てに届いたことを紹介した。その後、再び同消防本部に関する投書が寄せられた。

今度はパワハラと手当不正告発

本誌に寄せられた告発文
本誌に寄せられた告発文

 双葉地方広域市町村圏組合消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。拠点は消防本部(楢葉町)、浪江消防署、同消防署葛尾出張所、富岡消防署、同消防署楢葉分署、同消防署川内出張所の6カ所。実人員(職員数)は127人。県内の消防本部では小規模な部類に入る。

 昨年届いた告発文には、「2023年2月22日、職員同士の飲み会で、上司が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせていた」など、同消防本部で横行するパワハラの事例が記されていた。若手職員Xは飲み会翌日から病休に入り、その後退職したという。

 併せて加勢信二消防長が各消防所長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容は職員がパワハラで懲戒処分されたのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼び掛けるもの。差出人は匿名だったが、おそらく同消防本部の職員だろう。

 告発文が届いた後、同消防本部の職員3人がパワハラで懲戒処分(減給)となっていたことが10月14日付の地元紙で報じられた。おそらく同じものがマスコミ各社にも送られていたのだろう。本誌が入手した同消防本部の内部文書によると、経緯は以下の通り。

 ▽被害を受けた若手職員Xは24歳(当時5年目)、富岡消防署所属。加害者はXと同じ班に所属していた。

 ▽2022年10月ごろ、消防司令補A(41)が車両清掃作業中、高圧洗浄機で噴射した水をXの手に当てた。夜、ベンチプレスを使ったトレーニング時、Xにバーベルを上げながら声を出したり、彼女の名前を叫ぶように強要した。このほか、Xが兼務している庶務係の仕事をしている際、不機嫌な態度を取ったり、嫌みを言うこともあった。

 ▽2023年1月ごろ、Xが防火衣の着装を拒んだとき、Aが不適切な発言(「風邪をひいたら殺すぞ」)をした。

 ▽2023年2月ごろ、Xがトイレにいて、朝食を知らせる先輩の呼びかけが聞こえず集合に遅れた際、消防司令補B(35)がその状況を理解しないまま叱責した。

 ▽2023年2月22日、同班職員がいわき市内でゴルフを行った後、私的な飲食会を開催。その場で消防士長C(29)がXに「タバスコが入った酒を飲め」と言った。Xはタバスコ入りの酒を飲んだだけでなく、Cからタバスコを直接口の中に入れられた。

 ▽2023年2月23日、Xが当直長に「腹痛と下痢のため休みたい」と連絡。この日は年休で休み、その後3月1日まで休暇とした。

 ▽2月27日、Xの母親が富岡消防署を来訪し、「息子がハラスメントを受けた」と訴えた。

 ▽2月28日、所属長(消防司令長)が本人と面談。3月2日から病気休暇(神経症)を取って通院治療。6月30日付で依願退職した。

 ▽Xへの聞き取り調査を経て、3月31日、A、B、Cに対し、富岡消防署長から口頭厳重注意処分が科された。

 ▽4月25日にハラスメント対策協議委員会、7月3日に懲戒審査委員会が立ち上げられ、9月14日付でA、B、Cに対する懲戒処分書が交付された。懲戒処分内容はAが減給10分の1=6カ月、Bが減給10分の1=2カ月、Cが減給10分の1=1カ月、消防司令長が訓告(管理監督不十分)。同時に、X及びXの母親に処分内容が報告された。

 昨年11月号記事の段階では詳細が分からなかったが、こうして見るとハラスメントが執拗に行われていたことが分かる。おそらく以前から似たようなことがあったのだろう。年下の部下ということもあって、加害者側は軽い気持ちでやっていたのかもしれないが、被害者にとっては大きなストレスとなり、心のダメージとして蓄積されていたことが想像できる。

 2019年から勤務していた職員ということは、復興途上の原発被災地域で防災を担おうと高い志を持っていたはず。それを先輩職員がパワハラ行為で退職に追い込むのだからどうしようもない。

 こうした体質はこの3人ばかりでなく、組織全体に蔓延しているようだ。というのも同組合の懲戒処分等に関する基準では、ハラスメントについて以下のように定めている。

 《職権、情報、技術等を背景として、特定の職員等に対して、人格と尊厳を侵害する言動を繰り返し、相手が強度の心的ストレスを重積させたことによって心身に故障を生じ、勤務に就けない状況を招いたときは、当該職員は免職又は停職とする》

 今回の事例ではパワハラを受けたXが休職を経て依願退職していることを考えると、加害者であるA、B、Cは明らかに免職・停職処分となる。ところが前述の通り、3人は懲戒処分の中でもより軽い減給処分で済まされた。

 11月号記事で、同消防本部の金沢文男次長兼総務部長は「(懲戒処分が基準よりも軽くなった経緯について)公表していない」と述べた。また、9月14日付で懲戒処分したことを公表せず、10月14日付の地元紙が報じて初めて事実が明らかになったことについては「公表の基準が決まっており、それを下回ったので公表しなかった」と説明していた。どうにも組織全体でパワハラを軽視しており、情報公開を極力避けている印象が否めない。

管理職4人がいじめ!?

双葉地方広域市町村圏組合消防本部
双葉地方広域市町村圏組合消防本部

 双葉地方の事情通によると、同消防本部ではX以外にも若い職員が退職しており、その家族らも「若い職員を退職に追い込んだ加害者を減給処分で済ませるのはおかしい」と憤っているという。

 そうした中、本誌編集部宛てに再び同消防本部に関する匿名の投書が届いた。消印は1月6日付、いわき郵便局。内容は概ね以下の通り。なおパワハラの当事者はすべて実名で書かれていたが、ここでは伏せる。

 ▽パワハラが理由で職員Yが退職した。

 ▽D係長はずっと嫌みを言ったり蹴ったり殴ったりしていじめていた。

 ▽E係長は何度もYを消防本部に呼び出して必要以上に怒っていじめていた。

 ▽F分署長はパワハラの事実を知っていたにもかかわらず、指導することなく逆にYを大声で怒鳴りつけていた。

 ▽G係長は表でも裏でもしつこく嫌みを言い、陰湿ないじめを行っていた。

 ▽この4人はY以外の職員にも現在進行形でパワハラを行っており、他にも辞めていった職員がいる。

 ▽加勢消防長もパワハラを知っているはずだが、かわいがっている職員たちをかばい、パワハラをなかったことにしてしまう。

 ▽金沢次長兼総務部長もパワハラを把握しているはずだが、分署長たちと仲良く付き合っていて、パワハラの訴えがあっても知らなかったことにしている。

 ▽(消防の)関係者ではなく第三者が調査してほしい。ほとんどの職員がパワハラの実態を知っているので、Y本人と職員から聞き取りをしてほしい。

 ▽辞めていった人たちは幸せ。辞めることができず、いまもパワハラを受けている私たちは毎日辛い。このままでは最悪な事態に発展することも考えられる。どうか私たちを助けてほしい。

 前に届いた告発文に書かれていたのとは別の職員がパワハラで退職していたことを明かしているわけ。加勢消防長を含めほとんどの職員が把握しているのに上層部で握りつぶしている、という指摘が事実だとすれば、組織ぐるみでパワハラを隠蔽していることになる。

 今回の投書には続きがあり、通勤手当不正についても記されていた。こちらも実名は伏せる。

 ▽通勤手当を不正にもらっている職員がいる。E係長は浪江町にいるのに本宮市から、Hさんは郡山市にいるのに会津若松市から、Iさんは富岡町にいるのに田村市船引町から通っていることにして通勤手当を受け取っている。これは詐欺申告で不正受給ではないか。

 原発被災地域を管轄エリアとしている同消防本部には、管轄エリア外の避難先で暮らしている職員もいる。それを悪用してより遠くから通勤していると申請し、通勤手当を不正受給しているケースがある、と。どれぐらいの金額になるのかは把握できなかったが、少なくとも通勤手当を目当てに異なる現住所を職場に伝えれば、緊急時に対応できないことも増えるはず。消防本部でそんなことが可能なのか、それともチェック体制が〝ザル〟ということなのか。

 特定人物の評価を下げるために書かれた可能性も否定できないが、いずれにしても内部事情に詳しいところを見ると、同消防組合の職員、もしくはその内情に詳しい人物が書いたと見るべきだろう。

 この投書は同組合の構成町村の議会事務局にも1月10日付で送付されたようで(本誌に届いた投書の4日後の消印)、町村議員に写しを配布したところもあるようだ。同組合には議会(定数25人)が設置されており、構成町村議員が3人ずつ(浪江町は4人)名を連ねているので、問題提起の意味で送ったのだろう。本誌以外のマスコミにも投書は届いていると思われる。

「コメントできない」

「コメントできない」

 投書の内容は事実なのか。1月中旬、楢葉町の同消防本部を訪ね、金沢次長兼総務部長にあらためて取材を申し込んだが不在だった。対面取材の時間を取るのは難しいということなので、電話で投書の内容を読み上げコメントを求めたところ、次のように述べた。

 「投書に記されている氏名はいずれも当消防本部に所属している職員、元職員なのは間違いありません。各町村に投書が届いているという話は聞いていますが、内容に関しては確認していないので、パワハラの有無や通勤手当不正受給について現段階でコメントできません。他のマスコミから問い合わせをいただいたこともありません」

 本誌11月号記事では、消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授がこう語っていた。

 「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」

 前出X氏の際は、2月下旬に母親がパワハラを指摘してから調査し公表されるまでに半年以上かかった。今回の投書を受けて同消防本部はどのように調査を進めるのか。またパワハラが事実だった場合、自浄能力を発揮できるのか。2月下旬に開会される同組合議会の行方も含め、その動向を注視していきたい。

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