【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

 本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁)

失敗を許さない市役所内の空気

失敗を許さない市役所内の空気【三保恵一二本松市長】
三保恵一二本松市長

 2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。

 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。

 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》

 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。

 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。

 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》

 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。

 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。

 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。

 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。

 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。

 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者)

 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。

 一方、別の見方をするのはある市職員だ。

 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」

 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。

 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。

 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。

 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。

専門家も「異例」と指摘

【専門家も「異例」と指摘】立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授
立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授

 それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。

 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。

 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。

 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」

 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。

 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。

 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」

 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。

 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。

 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員)

 ただ、懸念材料もあるという。

 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同)

求められる上司の姿勢

【求められる上司の姿勢】「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下
「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下

 そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。

 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。

 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。

 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。

 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通)

 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。

 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同)

 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。

 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同)

 こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。

 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。

 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。

最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
ゼビオ「本社移転」の波紋
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