【福男福女競走】恒例イベントとして定着【福島市信夫山】

【福男福女競走】恒例イベントとして定着【福島市信夫山】

 福島市の信夫山にある羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」が毎年2月10、11日に開催される。それに合わせて、2013年から「暁まいり 福男福女競走」が開催され、今年で10回目を迎える。当初は「どこかの真似事のイベントなんて……」といった雰囲気もあったが、気付けば節目の10回目。いまでは一定程度の認知を得たと言っていいだろう。同イベントはどのように育てられてきたのか。

10回目の節目開催を前に振り返る

羽黒神社
羽黒神社
奉納された大わらじ
奉納された大わらじ

 福島市のシンボル「信夫山」。そこに鎮座する羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」は、江戸時代から400年にわたって受け継がれているという。羽黒神社に仁王門があり、安置されていた仁王様の足の大きさにあった大わらじを作って奉納したことが由来とされ、長さ12㍍、幅1・4㍍、重さ2㌧にも及ぶ日本一の大わらじが奉納される。五穀豊穣、家内安全、身体強健などを祈願し、足腰が丈夫になるほか、縁結びの神とも言われ、3年続けてお参りすると、恋愛成就するとの言い伝えもあるという。

 なお、毎年8月に行われる「福島わらじまつり」は、暁まいりで奉納された大わらじと対になる大わらじが奉納される。この2つが揃って一足(両足)分になる。日本一の大わらじの伝統を守り、郷土意識の高揚と東北の短い夏を楽しみ、市民の憩いの場を提供するまつりとして実施されているほか、より一層の健脚を祈願する意味も込められている。

 「暁まいり 福男福女競走」は、2月10日に行われる「信夫三山暁まいり」に合わせて、2013年から開催されている。企画・主催は福島青年会議所で、同会議所まつり委員会が事務局となっている。

 このイベントは、信夫山山麓大鳥居から羽黒神社までの約1・3㌔を駆け登り順位を競う。男女の1位から3位までが表彰され、「福男」「福女」の称号のほか、副賞(景品)が贈られる。

 このほか、「カップル」、「親子」、「コスプレ」の各賞もある。カップルは「縁結びの神」にちなんだもので、男女ペアで参加し、最初に手を繋いでゴールしたペアがカップル賞となる。親子は、原則として小学生以下の子どもとその保護者が対象で、最初に手を繋いでゴールしたペアに親子賞が贈られる。コスプレ賞は、わらじまつりや暁まいり、信夫山に由来したコスプレをした人の中で一番パフォーマンスが高い参加者が表彰される。それぞれ1組(1人)に副賞が贈られる。

 1月中旬、記者は競走コースを歩いてみた(走ってはいない)。登りが続くので、のんびりと歩くだけでも相当な運動になる。特に、羽黒神社に向かう最後の参道は、舗装されておらず、かなりの急勾配になっているため、1㌔以上を走ってきた参加者にとっては〝最後の難関〟になるだろう。それを克服して、より早くゴールした人が「福男」、「福女」になれるのだ。

 ちなみに、主催者(福島青年会議所まつり委員会)によると、「福男福女競走のスタート位置は、抽選で決定する」とのこと。いい位置(最前列)からスタートできるのか、そうでないのか、その時点ですでに「福(運)」が試されることになる。

参加者数は増加傾向

スタート地点の信夫山山麓大鳥居
スタート地点の信夫山山麓大鳥居

 ところで、「福男」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは西宮神社(兵庫県西宮市)の「福男選び」ではないか。以下は、にしのみや観光協会のホームページに掲載された「福男選び」の紹介文より。

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 開門神事と福男選び

昨年の福男福女競走(福島青年会議所まつり委員会提供)
昨年の福男福女競走(福島青年会議所まつり委員会提供)

 1月10日の午前6時に大太鼓が鳴り響き、通称「赤門(あかもん)」と呼ばれる表大門(おもてだいもん)が開かれると同時に本殿を目指して走り出す参拝者たち。テレビや新聞でも報道される迫力あるシーンです。

 この神事は開門神事・福男選びと呼ばれており、西宮神社独特の行事として、江戸時代頃から自然発生的に起こってきたといわれています。

 当日は、本えびすの10日午前0時にすべての門が閉ざされ、神職は居籠りし午前4時からの大祭が厳かに執り行われます。午前6時に赤門が開放され、230㍍離れた本殿へ「走り参り」をし、本殿へ早く到着した順に1番から3番までがその年の「福男」に認定されます。

 先頭に並ぶ108人とその後ろの150人は先着1500人の中から抽選して決められますが、その後ろは一般参加で並んで入れます。また先着5000名には開門神事参拝証が配られます。ちなみに、「福男」とはいえ、女性でも参加できます。

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 古くから神事として行われていた「福男選び」だが、テレビのニュースなどで報じられ、一気に有名になった。

 「暁まいり 福男福女競走」は、これを参考にしたもので、暁まいりをより盛り上げることや、福島市のシンボルである信夫山のPRなどのほか、東日本大震災・福島第一原発事故からの復興祈願や復興PR、風評払拭などの目的もあって実施されるようになった。

 ただ、当初は「どこかの真似事のようなイベントなんて……」といった雰囲気もあったのは否めない。それでも、気付けば今年で節目の10回目を迎える。いまでは恒例イベントとして定着していると言っていい。

 その証拠に、参加者数は年々増えていった(次頁別表参照)。なお、今年でイベント開始から12年目になるが、2021年、2022年は新型コロナウイルスの感染拡大のため中止となった。昨年は、コロナ禍に伴う制限などがあったため、コロナ禍前と比べると少ないが、そうした特殊事情を除けば、恒例イベントとして順調に育っている、と言っていいのではないか。なお、今年は本稿締め切りの1月25日時点で、360人がエントリーしているという。

 主催者によると、参加者は福島市内の人が多いそうだが、市外、県外の人もいる。高校の陸上部に所属している選手が、練習の一環として参加したり、国内各地の同様のイベントに参加している人などもいるようだ。最大の懸念は、事故・怪我などだが、これまで大きな事故・怪我がないのは幸い。

 〝本家〟の西宮神社は、約230㍍の競走だが、「暁まいり 福男福女競走」は約1・3㌔で、登りが続くため、より走力・持久力が問われることになる。

 ちなみに、同様のイベントはほかにもある。その1つが岩手県釜石市の「韋駄天競走」。「暁まいり 福男福女競走」が始まった翌年の2014年から行われている。同市の寺院「仙壽院」の節分行事の一環で、東日本大震災では寺院のふもとに津波が押し寄せ、避難が遅れた多くの人が犠牲になったことから、その時の教訓をもとに避難の大切さを1000年先まで伝えようと始まった。

 昨年で10回目を迎え、「暁まいり 福男福女競走」はコロナ禍で二度中止しているのに対し、「韋駄天競走」は、2021年は市内在住者や市内通勤・通学者に限定し、2022年は競走をしない任意参加の避難訓練として行われたため、開始年は「暁まいり 福男福女競走」より遅いが、開催数は多い。市中心部から高台にある仙壽院までの約290㍍を競走し、性別・年代別の1位が「福男」、「福女」などとして認定される。

 昨年は、全部門合計で41人が参加し、コロナ禍前は100人以上が参加していたという。同時期にスタートしたイベントだが、参加者数は「暁まいり 福男福女競走」の方がだいぶ多い。

佐々木健太まつり委員長に聞く

ポスターを手にPRする佐々木健太まつり委員長
ポスターを手にPRする佐々木健太まつり委員長

 暁まいりの事務局を担う福島市商工観光部商工業振興課によると、「暁まいりの入り込み数は、震災前は約6000人前後で推移していました。そこから数年は、天候等(降雪・積雪の有無)によって、(6000人ベースから)1000人前後の上下があり、2015年以降は約1万人で、ほぼ横ばいです」という。

 福男福女競走の開催に合わせて、暁まいりの入り込み数も増えたことがうかがえる。

 こうした新規イベントは、まず立ち上げにかなりのエネルギーが必要になる。一方で、それを継続させ、認知度を高めていくことも、立ち上げと同等か、あるいはそれ以上に重要になってくる。

 この点について、福男福女競走の主催者である福島青年会議所まつり委員会の佐々木健太委員長に見解を聞くと、次のように述べた。

 「青年会議所の性質上、役員は1期(1年)で変わっていきます。まつり委員会も当然そうです。そんな中で、前年からの引き継ぎはもちろんしっかりとしますが、毎年、(イベント主催者の)メンバーが変わるので、常に新たな視点で、開催に当たれたことが良かったのかもしれません」

 当然、佐々木委員長も今年が初めてで、来年はまた別の人にまつり委員長を引き継ぐことになる。そうして、毎年、新しいメンバー、新しい視点で取り組んできたのが良かったのではないか、ということだ。

今年から婚活イベントも追加

昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)
昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)
昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)
昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)

 新たな試みという点では、今年から「暁まいり福男福女競走de暁まいりコン」というイベントが追加された。福男福女競走と合わせて行われる婚活支援イベントで、男女各10人が福男福女競走のコースを、対話をしたり、途中で軽食を取ったりしながら歩く。

 要項を見ると、「ニックネーム参加」、「前に出ての告白タイムなし」、「カップルになってもお披露目なし」、「カップルになったら自由交際」といったゆるい感じになっており、比較的、気軽に参加できそう。

 「羽黒神社は、縁結びの神様と言われ、恋愛成就を祈願する人も多いので、今年から新たな試みとして、この企画を加えてみました」(佐々木委員長)

 こうした企画も、来年のまつり委員会のメンバーが新たな視点で改良を加えるべきところは改良を加えながら、進化させていくことになるのだろう。

 県外の人や移住者に福島県(県民)の印象を聞くと、「福島県はいいところがたくさんあるのに、そのポテンシャルを生かせていない」、「アピール下手」ということを挙げる人が多い。本誌でも、行政、教育、文化、スポーツなど、さまざまな面で福島県は他県に遅れをとっており、県内の事例がモデルとなり、県外、日本全国に波及したケースはほとんどない、と指摘したことがある。

 今回のイベントは、「自前で創造したもの」ではないかもしれないが、いまでは恒例イベントとして定着したほか、伝統行事(暁まいり)の盛り上げ、信夫山のPRなど、もともとあったものの認知度アップ、ポテンシャルを生かすということに一役買っているのは間違いない。

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