【福島県立喜多方病院】【喜多方東高校】閉鎖に翻弄される喜多方市

【福島県立喜多方病院】【喜多方東高校】閉鎖に翻弄される喜多方市

 喜多方市は、2021年3月に喜多方高校と統合して閉校になった喜多方東高校跡地の利活用について議論を進めている。もっとも、まだたたき台ができ上がった段階で、本格的な議論はこれから。一方で、同市では2013年に閉院となった県立喜多方病院跡地について、2022年4月に交流拠点複合施設「アイデミきたかた」をオープンさせたばかり。ほかにも、昨年4月に会津農林高校と統合して閉校になった耶麻農業高校跡地や、2010年に喜多方工業高校と統合した喜多方商業高校跡地など、「県が閉鎖した施設」があり、その跡地をどうするかが課題となっている。

最初の課題は【喜多方東高】跡地の利活用

喜多方東高校跡地
喜多方東高校跡地

喜多方商業高校跡地
喜多方商業高校跡地

 喜多方市は4月から5月にかけ、3回にわたって「旧県立喜多方東高等学校跡地利活用に関する市民懇談会」を開催した。

 県教委は2019年度から2028年度まで「県立高等学校改革基本計画」として、県立高校の統廃合を進めている。少子化に伴う生徒減少がその理由で、10年間の計画期間のうち、2019年から2023年までを前期、2024年から2028年までを後期と位置付け、最終的には同計画前に全日制88校、定時制・通信制8校だったものを、全日制70校、定時制・通信制7校にする。

 喜多方東高校は前期計画の中で、2021年3月に喜多方高校と統合され閉校した。それから3年超が経ち、跡地利用に向けた議論がスタートしたわけだが、市企画調整課の小野幸一戦略室長によると、「昨年度末に県から跡地利活用に関する補助メニューが示され、それを受け、検討をはじめ、懇談会を開くに至りました」という。

 県が示した補助メニューはおおむね以下のようなもの。

 ①財産(土地・建物)の譲渡
 
○市町村が利活用を希望する場合は無償譲渡。市町村が利活用を希望しない場合は、県が財産処分の手続きを行う。

②解体費用の負担
 
○すべての建物を取り壊して、土地を市町村が利用する場合は県がすべての建物を取り壊して更地にする。

 ○土地とともに建物を市町村が利用する場合は県が市町村に解体費用相当額を交付する。

 ③活用支援補助金

 〇5年間で最大3億円(うちソフト事業の上限額1億円)。

 ④補助率
 
○ハード事業は施設新設の3分の2、既存施設改修の4分の3。

 ○ソフト事業(地域住民との協働で行う利活用に要する事業)は3分の2。

市が作成した案

 補助メニューが示されたことを受け、市では財政的な負担や「公共施設等総合管理計画」に掲げる目標・方針との整合、事業の実現性などを考慮しつつ、「都市計画(まちづくり)の観点から、土地利用や施設整備の方向性を踏まえたもの」、「人口減少抑制や人口定着につながるもの」、「地域活性化や賑わい創出が期待できるもの」、「経済波及効果や税収の増加が期待できるもの」といった観点から検討を行った。

 その結果、商業施設に加え、観光的商業施設、スポーツ施設、多目的広場、保育施設、宿泊施設(ホテル)・コンベンション機能を備えた複合施設整備という案を出した。ただし、ここに挙げたすべてを併設するわけではなく、民間活力の活用を検討することも付け加えられている。

 もっともこれは、「市民の方々と話し合いをするに当たり、何もない状態で『どうしますか?』といっても難しいので、たたき台としてそうした案を出しました」(前出・小野室長)という。

 場所を地図に示したが、市街地にあるため、どのような形であれ、どう使うかは今後の市にとって大きな意味を持つだろう。

 こうした案を踏まえ、4月から5月にかけ、3回にわたって「旧県立喜多方東高等学校跡地利活用に関する市民懇談会」が開催された。そこで出された意見は別掲の通り。

3回の市民懇談会で出された意見

【1回目】
・高齢者居住を中心としたコミュニティーづくりの場
・喜多方市街地の南の玄関口として観光客が立ち寄れる場所
・観光的商業施設
・商工会議所
・「まちの駅」として情報提供のゲートウェイ機能を持った施設
・商業施設に働く人たちのための小規模な保育施設
・防災公園や防災機能を持つ多目的広場
・体育館などを活用したスポーツ施設
・集会スペースや会議室
・総合博物館
・喜多方の歴史と文化を集約した文化芸術の拠点施設

【2回目】
・集会や催しものに使えるスペースや会議室
・全天候型のグラウンド
・スポーツクラブやクラブチームが利用できる施設
・50㍍の温水プール
・複合施設(1階は小さなスーパー、
 2・3階はコンベンション施設や会議室)
・既存の和室を活用した観光客が利用できる施設
・商業施設と併せて、働く人が関わるような機関・組織を集約する
 (ハローワーク、労働基準監督署、テクノアカデミー、
 障がい者訓練施設、外国人雇用実習施設、シルバー人材センター、
 国際交流協会、商工会議所、商工会、労働基準協会、
 保育園、こども園、託児所など)
・大学や専門学校の誘致
・商業施設と併せた災害時の避難場所や受援施設
・郷土資料館
・観光的商業施設
・住宅用地
・保育園
・商工会議所

【3回目】
・緑の空間、緑地公園や子どもの遊び場
・雇用を生み出す宿泊施設と、
 付随するシェアキッチン、農産物加工場、朝市のスペース
・森林環境税を利用し、喜多方産木材を活用したファミリールームや
 カプセルホテルで、薪ボイラーや雨水利用の小水力発電がある建物
・コンテナトイレを備えた災害時の避難場所、防災公園
・雄国根曲り竹細工、伝統工芸や漆器のPRや
 ワークショップができる市ならではの商業施設
・民俗資料館
・部活動の地域移行を見据えたスポーツ施設、文化活動施設

 さまざまな意見が出されたことが分かる。もっとも、懇談会出席者は1回当たり10人程度で、計約30人だった。

 実際、市内で話を聞くと、反応は微妙だった。

 「あー、なんか(懇談会を)やったらしいね。(懇談会が終わった)後で聞いたよ。どうするつもりか分からないけど、実はオレの母校は喜多方商業高校でね。(統合後、解体され)跡形もなくなっちゃった。切ないものだよ。もちろん、建物だけ残っていたらそれでいいかといったら、そういうものでもないけど。何にしても、学校というのは思い入れが強いから、いろいろな意見が出るだろうし、まとめるのは簡単ではないだろうね」(市民男性)

 「へー、そうなんですか。(喜多方東高校の跡地利用の議論が行われていることは)知らなかった。特にどうしてほしいというのは思いつかないけど、とにかく地域のためになるような活用方法を考えてほしいですね」(ある商店主)

 「懇談会が行われたのは知らなかった。建物を壊すのは勿体ないから、残して活用する方法を考えた方がいいように思う。あとは、災害時にも使えるようなものを考えたらどうかな」(市民女性)

 こうした声や、懇談会の出席者数を見ると、全く関心がないわけではないものの、純粋に検討が行われていること自体があまり知られていないのだろう。

団体向けの懇談会を開催

 一方、市では市民懇談会の後、7月1日には商工団体や業界団体・組合などの団体を対象にした懇談会も実施した。そこでは、「喜多方市はホテルが少ないため、宿泊施設をつくってはどうか」、「あそこなら、ソフトボールの球場が4面取れるから、そういった施設にしてはどうか」、「隣接するヨークベニマルが古くなっているため、同店を核とした施設整備はどうか」といった意見が出たという。

 いろいろ聞いてみると、まずは建物を残すかどうか、つまり改修して使うか、それとも解体して別の使い道を考えるかというところが最初の議論になりそう。市民・団体向けの懇談会では残すか解体するかで意見は半々だったようだ。

 なお、校舎は1972年に建てられたもので、2015年に耐震改修工事は実施済みだが、古い建物であることは間違いない。一方で、体育館は2つあり、そのうち第2体育館は2001年に建てられたもので老朽化は進んでいない。

 ある市民によると「コロナワクチンの集団接種の会場に同校が使われ、はじめて中に入りましたが、古い建物だなと感じました」という。

 市民・団体向けの懇談会を終え、市は今後の動きについて次のように説明した。

 「今後は、(前述した市が示した案の)事業パートナーになり得る事業者向けの懇談会を開催すべきかどうかということが検討材料です。その必要がある場合はそれを経て、秋には外部メンバーを交えた検討委員会を立ち上げ、来年3月までに構想をまとめたいと考えています」(前出・小野室長)

 同市は県内外から観光客を呼べる地域で、知名度もブランド力もある。ただ、そのお目当てはほとんどが喜多方ラーメンで、ラーメンを食べたら、会津若松市や山形県米沢市などに行く人が多い。つまり、滞在時間が短く、観光消費単価も低い。こうした状況を打破するための新たな仕掛けが必要であることは、市や各種団体関係者も分かっており、「そのためにあの場所を使えないか」ということが議論の中心になるのかもしれない。

今後の課題

アイデミきたかた
アイデミきたかた

 一方で、ある市民はこんな見解を述べる。

 「市では、県立喜多方病院跡地を取得し、2022年4月に交流拠点複合施設『アイデミきたかた』をオープンさせたばかり。そして今度は喜多方東高校跡地の利活用を考えなければならない状況になった。そのほか、旧市内には喜多方商業高校跡地があり、山都地区には耶麻農業高校跡地もある。それらの利活用も今後課題になるでしょう。つまり、県が廃止した施設の利活用問題に追われている印象です」

 アイデミは屋内子ども遊び場、子育て支援ルーム、子どもの生活学習支援ルーム、相談ルーム、交流スペース、看護人材養成室、介護人材養成室などを備えた複合施設で、2022年4月にオープンした。もともとは県立喜多方病院があったところで、2013年に県立会津総合病院と統合して、県立医大附属の「会津医療センター」(会津若松市河東町)が開所されたのに伴い閉院した。その跡地をどうするかが課題だったが2年前に前述の複合施設をオープンさせるに至った。

 喜多方商業高校は2010年に喜多方工業高校と統合され、閉校となった。現在も県の所有地で、建物は解体され更地になっている。市のさくらまつりや商工会議所のレトロ横丁などのイベントの際に臨時駐車場として使われている。「それはそれで便利」との意見もあるが、普段は封鎖されている。

 前段で閉校となった県立高校跡地の利活用について、県が補助メニューを示したことを紹介した。ただ、これは2019年度から2028年度までの「県立高等学校改革基本計画」に基づくものに限られる。県教委によると、「それ以前に統合となったところは対象外」とのこと。ただ、今回の県立高校改革以前に統合(閉校)となったところについても、同様の補助メニューを検討しているとの情報もあり、正式にそれが決まれば、喜多方商業高校跡地の利活用についても検討材料になるだろう。

 耶麻農業高校は昨年3月に会津農林高校と統合して校舎が使われなくなった。同校は今回の県立高校改革に基づくため、前述の補助メニューの対象になる。

 「一度に全部はできないので、まずは喜多方東高校の跡地利用について検討を進めており、今後は耶麻農業高校跡地についても検討していくことになります」(前出・小野室長)

 前出の市民が話したように、県が閉鎖した施設をどうするかということに翻弄されている状況。その際、改修して使うにしても、建て替えて新たな施設をつくるにしても、その部分への補助はあっても、施設完成後の維持・管理・運営費は市が持たなければならない。かといって相応の土地・建物をそのままにしておくわけには行かない。それだけに難しい問題と言えよう。

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