国見町が中断した高規格救急車リース事業に関わる官製談合疑惑を検証する議会の調査特別委員会(百条委員会)が大詰めを迎えている。2月21日には引地真町長と同事業を受注したワンテーブル(宮城県多賀城市)の元社員に対する証人喚問が行われた。元社員は自身が関わった職務なのに「分からない」を連発。官製談合を裏付ける証言は得られず手詰まり感が漂う。百条委が来年度に持ち越せば、引地町長の任期満了(11月26日)が近付き、町民は検証と選挙を結びつける。
百条委が長引けば町長選に影響!?

国見町は官民連携で進めてきた高規格救急車のリース事業を昨年3月に中断した。きっかけは河北新報が2022年秋から始めた同町を追及するキャンペーン報道だ。記事では主に次の2点を追及した。
①同事業を受注したワンテーブルとその委託先の救急車製造ベンチャー、ベンチャーの親会社のDMM.com(東京)を巻き込み、企業版ふるさと納税による寄付を利用してグループ内で資金還流した疑惑。
②同事業は公募であるにもかかわらず、町がワンテーブルから情報提供を受けて、実質同社しか用意できない救急車の仕様書を作成し、他社を排除したとする官製談合疑惑。
構図は複雑で、すぐに理解するのは難しい。町民が危機感を覚えたのは、ワンテーブルの社長(当時)が知人に「行政機能を分捕る」「地方議会は雑魚」などと地方自治を軽視する発言をした音声を河北新報が昨年3月に暴露したからだ。発言は「町はいいように利用されたのでは」と町民の感情を害し、怒りは官民連携で同事業を進めてきた町執行部にも向けられた。同事業を盛り込んだ補正予算案を全会一致で可決した議会も責任重大だった。
執行部は「信頼関係が失われた」と同事業を中断し、ワンテーブルとの包括連携協定を解消。昨年5月には、弁護士らからなる第三者委員会に検証を委嘱した。
一方、同月に改選された議会は執行部の責任を追及する議員が多数派となり、同10月に地方自治法第100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を立ち上げた。以降、執行部と議会の検証が並行する「二重検証状態」が続く。
2月21日に開かれた10回目の百条委では、引地真町長(64)=1期=が証人喚問を受けた。百条委員会委員長を務める佐藤孝議員(68)=2期=は元町職員で、自治労の役員を歴任。同じく元町職員の引地町長とは在籍期間が重なり、佐藤孝氏は2019年の町議選で初当選後、計4人が立候補した20年の前回町長選に議員を辞職して臨み、引地氏に敗れた。
引地町長は今年11月で任期満了を迎えるため、町民の頭の中は次第に誰が立候補するかが関心事になっていく。2月21日の証人喚問は両氏が対峙したため、傍聴した町民は前回町長選で争い、こうしてまた百条委の場でまみえた2人を意識せずにはいられなかっただろう。
証人喚問の抄録

議員たちは同事業の契約がワンテーブルありきの「出来レース」だったことを示す証言を引き出そうと、同じ趣旨の質問を繰り返した。しかし、仕様書作成の経緯などを事細かに追及されたワンテーブル元社員は根幹の質問に及ぶと「分からない」「その認識はない」と答える場面が目立った。
ただ、百条委が見立てる官製談合を示す物的証拠は十分ではなく、思惑通りの証言を引き出すには至っていない。町職員、ワンテーブル関係者の証言を積み重ねて矛盾点を突くしかなく、地道な追及が続く。疑惑の調査は国見町議会にはいささか荷が重い。
以下は証人喚問の主なやり取り。
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佐藤定男議長 高規格救急車の事業計画書は作成されていないのか。
引地町長 事業計画書があったかどうか監査委員会から指摘を受けた。その時点で、担当者が作成していなかったのだと認識した。
佐藤定男議長 企業版ふるさと納税を利用した寄付で得た4億3200万円で事業を進めるに当たり、計画書を作ったかどうかを町長が知らなかったのはいかがなものか。
引地町長 事業計画書はあるものと認識していたが、実際は作成されてなかったとの指摘があったことを述べたまでだ。
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佐藤定男議長 前述の寄付金の使途は寄付者が救急車の研究開発に指定しており、寄付した企業は匿名を希望しているので明かせないと執行部は説明してきた。報道では寄付した企業が救急車を製造したベルリング社のグループ会社DMM.comであることが分かった。同社は、使途指定は町側の希望と話している。執行部の説明と矛盾する。寄付金の使い道はどちらが指定したのか。
引地町長 使途は(寄付者から)救急や災害に関わるもの、高規格救急車製造と聞いていた。
佐藤定男議長 町側から高規格救急車に使うよう寄付金の使途を指定した事実はないということか。
引地町長 お答えした通りだ。
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佐藤定男議長 公文書に当たる資料を作成していない、或いは捨ててしまったことで検証ができないのではないか。
引地町長 書類がまず公文書なのかどうか判断する必要がある。私が町職員の時、先輩からは組織内で共有する物が公文書であり、メモ的な資料、職員個人の業務を補完するための資料は公文書には当たらないと教えられた。破棄した資料は公文書ではないと認識している。公文書を破棄したとの指摘はいかがなものか。
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佐藤定男議長 ワンテーブルの前社長に利用されたと思うか。
引地町長 利用されたとは思っていない。
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佐藤定男議長 委託先決定の公募は仕様書の指定によりワンテーブルに決まるよう有利に仕組まれたのではないか。
引地町長 有利に働いていないと認識している。事務的な手続きに関しては第三者委員会の検証を考慮しなければならないが、現時点で瑕疵はなかったと思う。
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渡辺勝弘議員 事業を短期間で進めようとしてきた印象を受ける。町民は、町長は今年11月で任期満了なので、歴代の町長と同じように功績を残したかったのではないかと勘ぐっている。
引地町長 任期を考えて仕事をしてきたつもりはない。(2022年4月に)町が過疎地域の指定を受け、早く脱したかった。そのような意味での焦りはあった。
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佐藤孝議員 国見町が作成した高規格救急車の仕様書と同じ内容の仕様書が、町がワンテーブルと契約する前に存在していた。ワンテーブルは公募の前に既に製造業者に救急車を発注し、そのまま納入した。
引地町長 認識していない。事実であれば、確認したい。
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検証の行く末はどうなるか。