7月14日告示、同21日投票で行われる須賀川市長選の情勢が大きく変化している。
1月5日、立候補確実とみられていた現職の橋本克也氏(60)=4期=が「首長の多選は避けるべき」と今期限りで引退することを表明。これを受け、昨年8月の市議選に立候補せず市長選に向けて準備をしていた元市議会副議長の安藤聡氏(53)と県議の水野透氏(57)=2期=が立候補の意思を示し、副市長の安藤基寛氏(62)を推す声も上がるなど市長選は三つ巴の可能性が囁かれていた(詳細は本誌2月号「無風ムードを一変させた橋本市長『不出馬表明』」を参照されたい)。
もっとも、安藤基寛氏は本誌の取材に「名前が挙がるのは光栄だが自分は市長の器ではない」と明言。待望論とは裏腹に、当人の消極姿勢は時間が経っても変わらなかった。
「市内では、橋本氏に何とか続投してほしいという人たちが説得を試みたが、橋本氏は引退の意思を曲げなかった」(市内の選挙通)
橋本氏は明言していないが、後継者に期待していたのは副市長として支えてくれた安藤基寛氏だった。しかし、安藤氏が固辞し、橋本氏も引退するとなれば、市長選は安藤聡氏と水野氏の一騎打ちになる。
「市内では、その構図を良しとしない空気が広まっていた」
とは前出の選挙通だ。
「安藤聡氏は市議選を三度経験しているが、上位当選はなく地元の評判もイマイチ。一方、水野氏も県議選(須賀川市・岩瀬郡選挙区)は下位当選で、厳しい経営にあった義父の会社を立て直した経験から『容赦ないコストカットをしかねない』と市職員から敬遠されていた。水野氏は元市職員なので、やりづらさを感じる市職員も多いようだ」(同)
こうした見方を受け「そんな二人に一騎打ちをさせて議員は黙っているのか」との〝苦情〟が、市議会にかなり寄せられたというのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、市議会議長の大寺正晃氏(62)=4期=だった。5月18日付の地元紙は1面で「大寺議長が立候補の意思を固めた」と伝えたが、大寺氏擁立の動きが出たのはその数日前。まさに急転直下で立候補が決まったのだ。
地元の政界関係者が裏事情を明かしてくれた。
「水野氏は立候補の意思を示した後、市議会議長経験者に接触を図ったものの拒否された。議長経験者はもともと水野氏を推す気がなく、会って余計な詮索をされるのを避けていた。その議長経験者が『市議会から擁立するなら』と推したのが大寺氏で、同時期には渡辺康平県議と吉田誠県議=共に須賀川・岩瀬郡選挙区=も大寺氏を応援すると約束。大きな勢力がこぞって大寺氏の支援に回ったのです」
大寺氏は数カ月前に自民党に入党したが、渡辺県議が同じ自民党の水野氏ではなく大寺氏を推すことを決め(もっとも、渡辺氏と水野氏の関係はもともと良くない)、さらには立憲民主党の吉田県議まで大寺氏を応援するとなったため、水野氏は孤立無援に陥ったわけ。
大寺氏の立候補が報じられた翌日(5月19日)、地元紙は「水野氏が立候補を見送る意向」と伝えた。
水野氏は現在、県議会で農林水産委員長を務めているが、周囲に「役職を全うすると共に選挙区の発展に力を尽くしていきたい」と話しているという。
大寺氏に聞くと「正直、急な要請だったが、多くの方から後押しがあり決意を固めた。政経東北さんには市勢進展のため、良いことも悪いこともご指摘いただければ幸いです」と立候補の抱負を述べた。