福島県に維新旋風は吹くか

福島県に維新旋風は吹くか

 5月27日、日本維新の会は福島県総支部の初めてとなる総会を開き、衆院議員の馬場伸幸代表(58、4期、大阪17区)が講演を行った。福島でも「維新旋風」が吹き荒れるのか。当日の様子をリポートする。

馬場代表講演会で感じた〝温度差〟

 本誌6月号で元県議の鳥居作弥氏の現状について触れた。

 鳥居氏は1974年3月生まれ。磐城高校、獨協大学経済学部卒。県議1期を務めた後、立憲民主党に入党。2021年10月の衆院選では小選挙区で立候補する予定となっていたが、野党共闘で候補者を一本化することになり、共産党候補に譲る形で小選挙区からの立候補を見合わせた経緯がある(比例代表での立候補に切り替えたが結局落選した)。

鳥居作弥氏
鳥居作弥氏

 立憲民主党を離党し、沈黙を守っていた鳥居氏がどんなことを考えていたかについては6月号で読んでほしいが、次なる所属団体として選んだのが日本維新の会(以下、維新と表記)だった。

 維新と言えば、大阪府を中心に支持を集める政党で、ルーツは橋下徹元大阪府知事・元大阪市長が立ち上げた地域政党「大阪維新の会」だ。「日本維新の会(旧)」、「維新の党」と離合集散を繰り返し、2015年に設立された「おおさか維新の会」が現在の党の母体となる。翌2016年に現在の党名に変更された。

 同党ホームページには馬場代表のメッセージがこう書かれている。

 《大阪府において、議員定数を3割削減(109→79)、議員報酬を3割カットし、役所に対して改革の覚悟を示してきました。そして役所の中の改革(公務員の天下り先である外郭団体の大幅削減、無駄な施策・事業の見直し)を断行し生まれた新たな財源で、次世代への投資(幼児教育無償化、小・中学校の給食費の無償化、塾代助成、私立高校の授業料実質無償化、大阪公立大学の入学金・授業料の実質無償化)を実現致しました》

 このほか、国民投票による憲法改正を実現すべきと主張し、「教育無償化」、「統治機構改革」、「憲法裁判所の設置」、「自衛隊明記」、「緊急事態条項」を5つの柱に掲げている。

 所属議員は衆院議員41人、参院議員21人。4月の統一地方選では神奈川、福岡両県議選でも初めて議席を獲得。地方議員と首長の合計が774人に達し、事前に掲げていた目標600人をクリアした。党員数は3万9914人(2022年12月現在、内閣府男女共同参画局の調査より)。

 本誌で連載中の選挙ライター・畠山理仁さんは取材経験から維新の強さの理由を次のように分析する。

 「選挙の現場においては、ボランティアが積極的に活動するのが特徴です。関西の選挙では、選挙区外からも多数の現職地方議員、国会議員、ボランティアが駆けつけて経験値を積んでいきます。他所の地域から駆けつけることで、選挙の経験をどんどん積んでいく。その際、選挙区内にはまだ少数しかいないボランティアたちに、外から来たボランティアが『選挙の上手な戦い方』を実際に見せることで、一人ひとりのボランティアの戦闘力を高めています。短い選挙戦をともに戦うボランティアは結束が強く、また他の選挙現場で再会するなどして結束を強めています。一人ひとりのボランティアが自立した活動をできるのが維新の会の強さを支えています」

 5月11日には福島県総支部を設立したことを発表した。維新が東北地方で県総支部を立ち上げたのは、宮城、秋田に続き3県目。

 総支部長は衆院議員の井上英孝氏(4期、大阪1区)、幹事長は元参院議員の山口和之氏。復興最前線であるいわき市を重点地区に据え、事務所も同市に設置した。

 6月号取材の時点では今後の方針について明言を避けた鳥居氏だったが、5月27日にいわき市で行われた県総支部総会と馬場代表による県総支部設立記念講演会では、11月12日投開票の県議選に同党公認で立候補する考えであることが明かされた。

 講演会は福島県民に対する同党の「自己紹介」のような内容で、これまでの歩みを説明した。

 一方で、自民党政権については「異次元の少子化対策を掲げながら具体的な内容が示されず、負担ばかり増える」と疑問を呈し、「国会議員の定数を従来の半分ぐらいに減らすなど〝身を切る改革〟をやれば、新たな行政サービスができるようになるのではないか」と提言した。

 国政での目標に関しては「解散がいつあるか分からないが、次の衆議院選挙で野党第一党の議席をお預かりするというのが第三ステップ(=次)の我々の目標」としたうえで、立憲民主党に対し「予算委員会でスキャンダルを追及したり揚げ足を取ることを野党第一党の仕事だと思っている」と批判した。

 会場には支持者・マスコミなど数十人が足を運び、保護者と足を運んでいた女子高生が選択的夫婦別姓について馬場代表に質問するシーンも見られた。

 もっとも、ニュース映像などでよく見る関西方面での熱い雰囲気の演説とは程遠く、ジョークを織り交ぜて話をしても会場から何の反応もないということが目立った。

 温度差を最も強く感じたのは、会場から出た福島第一原発の汚染水についての質問に対する回答だ。

 馬場代表は「日本人全員が考えなければならない課題」としたうえで、「結論から申し上げると、世界で原発を持つ国々は処理水を海洋放出している。福島第一原発でも一刻も早く放出すべき」と述べた。

馬場伸幸代表
馬場伸幸代表

 いわゆる風評被害をめぐり、簡単に結論が出せないセンシティブな状態となっているのに、そうした現状を無視したような回答だったため、少しシラケた雰囲気となった。

汚染水問題への〝温度差〟

県総支部設立記念講演会の様子
県総支部設立記念講演会の様子

 その後、過去に吉村洋文知事が「要請があれば処理水の大阪湾放出を真摯に検討する」と話したことを踏まえ、「福島県にばかり負担をかけるのではなく、放出については全国(の原発関連施設)でともに進めていくことも考えるべきではないか」と若干〝軌道修正〟を図った。

 馬場代表は「関西地方では大阪を核に、周辺の県の知事、首長、議員の誕生をサポートしてきた経緯がある。福島県内においても県議選はもちろん、首長選や市議選への候補者擁立を見据えていきたい」と意欲を見せた。それならば、今後は汚染水問題のような福島県固有の課題に対し、いかに向き合っていくかが重要になるのではないか。

 県総支部幹事長の山口氏は「まず県内で維新が活動しているという認識を持ってもらうことが重要」と話し、「是々非々で福島のためになる政策を進めていきたい。かつて所属していた党とかは関係なしに、選りすぐりの良い人材を擁立していきたい」と決意を述べた。

 実際、野党系の現職県議や元県議、市町村議員について、「維新が接触している」というウワサが流れており、近いうちに公認候補として立候補する議員もいると思われる。

 もっとも、維新支持者がほぼ皆無の福島県内で、維新の公認を受けたところで、どれだけ票を伸ばせるかは未知数だ。とりわけ鳥居氏が立候補する県議選いわき市選挙区に関しては、8000票が当選ラインとなっており、前回6595票だった鳥居氏は苦戦が予想される。

 「福島県内の選挙は既存政党の支持者でガチガチの構図。せめてもう少し投票率が上がって浮動票が増えないと、維新の勢力拡大は難しいのではないか」(県内の選挙通)という指摘もあるが、国政での動きと併せて今後注目の存在となりそうだ。

福島維新の会のホームページ

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