会津美里町議会は11月13日、通年議会第2回11月会議を開き、議長に大竹惣氏(41)を選任した。41歳の議長は県内の市町村議会では最年少。全国でも40歳未満は2人しかいないという。ただ若さ以上に驚かされたのは、大竹氏が2021年に初当選したばかりということだ。議員歴2年の1期生が、いきなり議会トップに就いた背景には何があったのか。
相次ぐ議会の不祥事に町民から変化を求める声
「今日はお世話になります」
そう言って筆者を議長室に迎え入れてくれた大竹氏は、見た目ももちろん若いが議員然としておらず、どこか初々しさを感じさせる。
議長になる人は議会の大小を問わず風格や威厳を醸し出すものだが、大竹氏の場合は自然体という表現が正しい。失礼かもしれないが、それくらい議長らしく見えない。それもそのはず、大竹氏は1期目。初当選からまだ2年しか経っていない。
「期せずして議長になり、分からないことだらけですが、もともとポジティブな性格で、今までも悩むならまずはチャレンジしようとやってきたので、議長職も何とか務まるんじゃないかと思っています」(以下、コメントは大竹氏)
笑顔を浮かべながら話す大竹氏に気負った様子はない。
1982年生まれ。会津本郷町立第二小学校、本郷中学校を卒業し、会津高校に進学。いわき明星大学を経て社会に出た大竹氏は農業の道に進んだ。父親がコメ農家で、仲間と農業法人を立ち上げていた。その手伝いをしていく中で、国やJAから園芸作物による複合経営の勧めがあり、大竹氏はトマト栽培をやってみようと独立した。
2011年、農業法人大竹産商㈱を設立し、代表取締役に就任。トマトの大規模栽培に乗り出し、設立から12年経った現在は50㌃以上の土地にハウスを建て、年間90~100㌧を収穫するまでになった。
「自分で作ったトマトを、付加価値を付けて自分で売る方法もありますが、私は大量生産してJAに出荷する方法を選びました」
どうやって農業で飯を食うか、会社をどう軌道に乗せるか――そんなことばかり考えていた大竹氏は
「正直、政治には全く関心がありませんでした。投票したって、どうせ何も変わらないだろうって」
そんな考え方がガラリと変わったきっかけは、JAの生産者部会での活動だった。
「JAには栽培作物ごとに部会があり、私はトマト部会長や各地区の部会長で構成される連合部会長を務めていました。トマト農家の経営が少しでも潤うようにJAにさまざまな提案をしていましたが、そうした中で国が2014年に打ち出した農協改革に大きな疑問を抱きました。これって農家のためにならない改革なのではないか、と」
こうした状況を変えることはできないのか。当時会津若松市議を務めていたおじに相談すると「だったら政治に関心を持つべきだ」とアドバイスされた。今まで政治に見向きもしてこなかった大竹氏が、目を向けるようになった瞬間だった。
38歳の時、自民党のふくしま未来政治塾に入塾。政治のイロハを学ぶ中で、現職の市町村議や県議などと知り合った。次第に「自分も政治家になって農業分野を専門に活動したい」と考えるようになった。
会津美里町では、当時の町長が官製談合防止法違反の疑いで2021年2月に逮捕され、同町出身の杉山純一県議が後任の町長に就任した。杉山氏の県議辞職に伴う県議補選は同年4月に行われたが、町内では「補選に大竹氏を立候補させるべき」という声が上がった。しかし「いきなり県議ではなく段階を踏むべき」という指摘を受け、同年10月の同町議選に立候補することを決めた。
結果は別掲の通りで、大竹氏は1620票を獲得しトップ当選を果たした。
◎2021年10月31日投開票
当 | 1620 | 大竹 惣 | 39 | 無新 |
当 | 1119 | 渡辺 葉月 | 27 | 無新 |
当 | 813 | 根本 謙一 | 73 | 無現 |
当 | 643 | 小島 裕子 | 62 | 公現 |
当 | 628 | 横山知世志 | 68 | 無現 |
当 | 626 | 桜井 幹夫 | 54 | 無新 |
当 | 614 | 星 次 | 70 | 無現 |
当 | 611 | 鈴木 繁明 | 73 | 無現 |
当 | 591 | 渋井 清隆 | 70 | 無現 |
当 | 587 | 堤 信也 | 63 | 無現 |
当 | 575 | 長嶺 一也 | 61 | 無新 |
当 | 543 | 荒川 佳一 | 61 | 無新 |
当 | 503 | 山内 豪 | 70 | 無新 |
当 | 493 | 村松 尚 | 46 | 無現 |
当 | 467 | 根本 剛 | 64 | 無現 |
当 | 445 | 横山 義博 | 72 | 無現 |
398 | 山内須加美 | 74 | 無現 | |
300 | 石橋 史敏 | 66 | 無元 | |
267 | 野中 寿勝 | 65 | 無現 |
それから2年、大竹氏は議会トップの議長に選任された。11月13日に行われた議長選には大竹氏と星次氏が立候補し、投票の結果、大竹氏9票、星氏3票、横山知世志氏1票、無効3票となった。大竹氏には自身も含む1期生6人のほか、ベテラン議員3人が投票してくれた。
「経験の浅い1期生6人で勉強会を開いており、そこに理解あるベテラン議員がアドバイスをしてくれています。その仲間内で『次の議長にふさわしい人は誰か』と話しているうちに私を推す声が上がり、悩んだ末に挑もうと決心しました」
背景には、町や議会を取り巻く不祥事があった。
前述した当時の町長による官製談合事件では、議会のチェック機能が働いていたのかと町民から疑問視された。2022年7月には当時の議会運営委員長が会津若松市議の一般質問を盗用していたことが判明。辞職勧告決議が可決されたが、同委員長は応じず今も議員を続けている。今年8月には5期目のベテラン議員が出張先で、同行した議会事務局職員の服装をめぐりパワハラと受け取れる言動を執拗に行っていたことが分かった。パワハラをした議員もさることながら、一緒にいた数人の議員がその場にいながら見過ごしていたことも問題視された。
町民を代表する人たちがそういうことを繰り返して恥ずかしい――町内からはそんな声が多く聞かれるようになっていた。
「町長とは是々非々で」
「私の耳にもそういう声は直接届いていました。『1期生では何かやろうとしても難しいかもしれないが頑張って』とも言われました」
そうした変化を望む町民の思いに接するうちに、停滞する議会を変えるには1期生が議長を務めるのもアリなのではないかと考えるようになった。それは大竹氏だけではなく、他の1期生や支えてくれるベテラン議員たちも同じ考えだったようだ。
「そうすれば町民にも町外の方にも『会津美里町議会は変わった』と分かり易く伝わるんじゃないかと思いました。ここは思い切って変化を起こそうじゃないか、と」
副議長には5期目の根本謙一氏が選任されたが「私たちと同じく議会改革の必要性を訴えており、とても頼りになる方。副議長として私を支えると言ってくださり、心強く思っています」。
議長は執行部と議会の調整役を求められる。杉山町長との関係は1期生全般に良好というが、
「だからと言って何でもイエスではなく、是々非々の立場を取っていきたい。杉山町長からも『良いものは良い、悪いものは悪いと言ってほしい』と直接言われています」
当面はハラスメント防止条例の制定や議会へのタブレット端末導入などに取り組みたいという。
「若さや1期生という点だけが注目されるのは避けたい。町民に『変わって良かった』と実感していただけるよう、議長として行動で示していくのみです」
大竹氏が関心を持つ農業政策は、町議の立場でできることは少ない。本腰を入れて取り組むには上のステージ、すなわち県議や国会議員を目指す必要があるが
「上を見据えたらキリがありません。今は自分の与えられたポジションを全うするだけです」
異色の議長がどんな新風を吹き込むのか、期待したい。