郡山【大麻アパート】に見る若者の栽培・密売参入

 全国で若者が大麻栽培に手を染めている。郡山市では20~30代のグループがアパートと一軒家で大規模栽培していた。県警が1度に押収した量としては過去最多。栽培手法をマニュアル化して指南する専門集団が存在し、都会や地方を問わず新規参入が増える。流通量増加の要因には、若年層がネットを介し安易に入手できるようになったことがある。乱用や売買が強盗や傷害事件につながるケースもあり、郡山産の大麻が全国の治安悪化に与えた影響は計り知れない。(一部敬称略)

「電気大量消費」「年中カーテン」の怪しい部屋

 7月14日、郡山市内の公園で通行人が落とし物のバッグを警察に届けると、中に液体大麻0・5㌘が入っていた。液体大麻は大麻リキッドとも呼ばれ、幻覚成分を抽出・濃縮した物。電子タバコで吸入する。

 液体大麻入りのバッグを所持していた20代女の知人を含む男女4人が逮捕されたのは、バッグの発見から約半月後だった。

 7月28日付の福島民友は、福島、愛知の両県警が営利目的で大麻を所持したとして、郡山市内の20~30代の主犯格を含む男女4人を逮捕したと伝えた。押収された乾燥前の大麻草270鉢(末端価格7000万円以上)は、福島県内で一度に押収した量としては過去最多という。両県警は組織的な大麻栽培・密売事件とみて合同捜査しており、主犯格は愛知県警が逮捕した。液体大麻が入っていたバッグを落とした女も栽培に加担した容疑で逮捕された。

 11月中旬までに栽培・譲渡に関与したとみられる県内の男女9人と県外の購入者6人の計15人が逮捕された。主犯格の斉藤聖司(32)と一員の山田一茂(34)、箭内武(28)の郡山市の3人と、白河市の松崎泰大(37)は起訴され、山田と箭内の公判は地裁郡山支部で審理中だ。

 栽培場所は郡山市安積町笹川経蔵のアパートと同市笹川2丁目の一軒家だった。アパートの家賃は月5万9000円。グループの一員が通い、エアコンや扇風機で温度と湿度を常時管理して大麻草を育て、乾燥後にジップロックに詰め発送していた。県警がマスコミを通して公表した現場写真からは、部屋に所狭しと大麻の鉢が置かれ、照明と遮光シートを設置しているのが分かる。裁判では、生育を促すCO2発生装置や脱臭機を使っていたと言及があった。

 過去に薬物事犯で検挙された経験がある元密売人は写真を見て、

 「かなり部屋が狭いし鉢植えも小さいですね。小規模な組織と思われます。大規模組織は広い敷地で水耕栽培するからです。大麻の需要増に応じてここ2、3年は新規栽培者が増えている。都会や地方を問わず、全国で人知れず栽培している事例は多い」と話す。

 大麻押収量と検挙者は格段に増えている。全薬物犯罪の検挙者は過去10年間で1万2000~1万4000人の間を増減。覚醒剤、大麻の順に多い。2022年は全検挙者1万2000人のうち、覚醒剤に絡む者が6000人(50%)、大麻に絡む者が5500人(45%)=出典は警察庁、厚生労働省、海上保安庁の統計を厚労省が集計したもの。以下同。\

 覚醒剤に絡む犯罪は依然として多く見過ごせないものの減少傾向にある。過去10年では2015年の1万1200人をピークに22年に6200人に減った。一方で大麻は13年の1600人から21年には過去最多の5700人と3・5倍も増えている。

 検挙者数は氷山の一角で、乱用者はもっと多いと推測される。全薬物犯罪とその大半を占める覚醒剤犯罪が減少傾向なのに大麻犯罪が急増しているということは、大麻が急速に流行していることを意味する。

 県警刑事部・組織犯罪対策課によると、検挙者の特徴は、覚醒剤は中高年や再犯者が多く、大麻は若者の初犯者が多いという。2022年に県警が検挙した薬物犯罪は大麻が29人中、初犯者は25人で約86%を占めた(県内の過去10年の推移はグラフ参照)。覚醒剤は45人中、初犯者は12人で約27%、大半が再犯者だ。大麻検挙者のうち8割以上が30代以下で、覚醒剤検挙者のうち6割が40代以上だった。若者に流行る大麻と中高年に多い覚醒剤。これは全国・県内とも同じ傾向だ。

福島県内の覚醒剤・大麻事件の検挙者

 関東信越厚生局麻薬取締部の部長を務めた瀬戸晴海氏の著書『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書、2022年)の題名通り、若年層がネットを通じて大麻を手にするようになった。「海外では合法」といったイメージが先行しているためだという。

 注射する覚醒剤に比べ、大麻はタバコのように吸入し乱用方法が簡易。さらに1㌘当たりの末端価格が1万円台の覚醒剤に比べて、大麻は同5000円と安いことも若者が手を出し易い要因だ。

 関西の4大学は共同調査し、大麻や覚醒剤などの危険ドラッグを「手に入る」と考える大学1年生が4割に上るとの結果を11月に発表した。手に入ると答えたうち8割が「SNSやインターネットで探せば見つけることができるから」という理由を挙げた。

栽培指南に特化

 大麻が若者に浸透する中、福島県内でも過去に前例のない規模で栽培されていても不思議ではない。郡山市で違法栽培されていた大麻はアパートで乾燥後、流通を担う個人や組織を通じて全国で売買されていたとみられる。

 「都内への流通やコスト面に限って言えば、福島県が特別栽培地として選ばれているとは思えない。栽培地に地方が有利な点を強いて挙げるとすれば、家賃が安いことと、捜査員の充てられる人数が少ないため摘発リスクが都会に比べて低いことぐらいではないでしょうか」(前出の元密売人)

 新規栽培が増える背景には、育て方を指南する集団・個人の存在がある。栽培手法はマニュアル化され、フランチャイズのように売り上げの何割かを受け取る契約で全国に波及する。指南に特化することで効率化を図り、検挙リスクの高い流通・密売には積極的に関わらない。

 栽培者は自ら顧客に売るか流通担当者に流す。違法な物を売るため、表立って取引はできない。ここで登場するのがSNSと秘匿性の高いアプリだ。先払いが鉄則だという。

 「物を先に渡すと代金を払わないで逃げられてしまう可能性が高い。違法な物を販売しているので、逃げられても通報できない弱みがある。顧客も犯罪傾向が進んでいる者が多いので不払いに躊躇がない。タタキ(強盗)と言って、約束の品を持ってきたところで暴行を受け強奪されることもある」(同)

 福島県のような地方の場合、そもそも若者の割合が少ないので、大麻に関して言えば乱用地というよりも供給地の性格が強くなる。

 「栽培者は隠語で『農家』と呼ばれます。また聞きですが、福島県内のある山間地では、野菜栽培を装ってビニールハウス内で大麻草を栽培している人がいると聞いたことがあります」(同)

 アパートの一室でも農地でも。大麻はそれだけ身近に潜んでいるということだ。部屋の貸主が気づく術はあるのか。

 「空調を常時管理するため電気代が異常に掛かります」(同)

 郡山市の大麻栽培・密売事件の裁判では、栽培場所のアパートや一軒家の電気代が毎月3~7万円掛かっていたことが明かされた。一軒家に至っては「1階の電気を点けたらブレーカーが落ちる」とメンバーが気を使っていたほど。

 もう一つは臭いだ。栽培現場には脱臭機があった。「大麻の苗も乾燥した物も独特の臭いがあり、身近な人もそうでない人も嗅げば異変を感じる。鉢植えで育てれば土の臭いもある。異臭を外に出さないため部屋は常に閉め切っているはず」(同)

 大家は、高額な電気代と年中部屋を締め切っている部屋があったら注意した方がいい。

テレグラムは必須

 前出『スマホで薬物を買う子どもたち』は、非行と無縁だった若者が大麻をスマホで買っている現状を書く。大麻をきっかけに生活や人間関係が破綻し、より幻覚作用が強い薬物に手を出し依存。薬物代を稼ぐため自らも大麻栽培・密売に手を出す事例を紹介している。大麻が「手軽」なイメージとは裏腹に、薬物の入り口を意味する「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれる所以だ。乱用の兆候はあるのか。

 「顧客と売人の取引には必ずと言っていいほどX(旧ツイッター)とテレグラムが使われます。Xで薬物の隠語を使って不特定多数に呼び掛け、通信が暗号化されるテレグラムでのやり取りに誘導する」(同)

 テレグラムは秘匿性の高いアプリの一つ。通信が暗号化され、捜査機関の解析が困難になる。もともとは中国やロシアなど強権国家で人権活動家が当局の監視を避けるために開発されたが、技術は使いようで、日本では薬物の取引や闇バイトの募集などに悪用されている。

 「秘匿性の高いアプリには、他にウィッカー、シグナル、ワイヤーなどがあるが、ウィッカーは近々サービスを終了。シグナルは電話番号の登録が必要で相手にも通知されるので好まれない。もっとセキュリティが高度なアプリもあるが、その分通信性能が落ち、使っている人も少ないから、誰もが使うテレグラムに落ち着く」(同)

 通信の秘密は守られて然るべきだが、これらのアプリが実際に犯罪行為に使われている以上、もし情報セキュリティに無頓着だった家族や知人が突如ダウンロードしていたら警戒する必要がある。

 大麻は凶悪犯罪の「ゲートウェイ」でもある。昨年3月にJR福島駅に停車した新幹線内で起こった傷害事件は、犯人の23歳男が大麻を大阪府の知人から譲り受けようと岩手県から無賃乗車し、車掌に咎められて暴れたのが原因だった。

 裁判には男の大麻依存傾向を診断した医師が出廷し、より強い作用を求めて濃縮した液体大麻を乱用していたこと、優先順位の最上に大麻があり、崇めるような精神世界を築いていたことを証言した。「薬物乱用者に言えることだが、何が悪いか理解できない以上、いま反省するのは難しい」とも。証人として出廷した母親は、涙を流しながら息子が迷惑を掛けたことをひたすら悔いていた。

 家族と言えども、スマホの先で誰とつながっているかは分からない。異変を察知するためにまずできることは、帰省した我が子に「テレグラムやってる?」とカマをかけるぐらいだ。

関連記事

  1. 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図【田村市役所】

    第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  2. 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

    収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  3. 南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和

    南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和

  4. 【大熊町】鉄くず窃盗が象徴する原発被災地の無法ぶり

    【大熊町】鉄くず窃盗が象徴する原発被災地の無法ぶり

  5. 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

    会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  6. 楢葉町土地改良区で横領した【秋田金足農野球部OB】の町職員

    【秋田金足農野球部OB】楢葉町土地改良区で横領した町職員

  7. 元相馬市職員が侵入盗撮

    元相馬市職員が侵入盗撮

  8. 【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

    【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

人気記事

  1. 政経東北【2024年6月号】
  2. 【福島市】メガソーラー事業者の素顔
  3. 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】
  4. 【いわき市鹿島】エブリアを〝取得〟したつばめグループ
  5. 遅すぎた福島市メガソーラー抑制宣言
  6. 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】
  7. 政経東北【2024年5月号】広告
  8. 吉野衆院議員「引退報道」の裏側

最近の記事

  1. 献上桃事件を起こした男の正体【加藤正夫】 【福島市飯坂献上桃詐取】警察を翻弄し続けたニセ東大教授
  2. 【西郷村】県立障害者支援施設の虐待【県けやき荘】 【西郷村】県立障害者支援施設の虐待【県けやき荘】
  3. 【衆院福島新3区最新情勢】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職 【衆院福島新3区最新情勢】未知の県南で奮闘する会津の与野党現職
  4. 政経東北【2024年6月号】 政経東北【2024年6月号】
  5. 政経東北【2024年5月号】広告 政経東北【2024年5月号】
PAGE TOP