【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

 観光庁が実施している「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という補助制度がある。2020年から毎年実施(募集)しており、2023年度は、会津磐梯地域が県内で唯一、事業採択された。それによって何が変わるのか。

インバウンドの足かせになる処理水放出

アルツ磐梯
アルツ磐梯

 「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の事業概要はこうだ。観光地域づくり法人(DMO)や観光関連協議会などが主体となり、スキー場やその周辺の観光施設、宿泊施設などが共同で「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を策定し、観光庁に応募する。それが採択されれば、同計画に基づき、アフタースキーのコンテンツ造成、受け入れ環境の整備、スキー場のインフラ整備などの費用について国から補助が受けられる。これにより、インバウンド需要を取り込む意欲がある地域やポテンシャルが高い地域で、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することを目的としている。同事業の応募要件、補助対象などは別表の通り。

事業の応募要件、補助対象

 2023年度事業は2月から3月にかけて募集があり、県内では会津若松市、磐梯町、北塩原村の「会津磐梯地域」が応募し、事業採択された。計画の名称は「The authentic Japan in powder snow resort AIZU 〜歴史、文化、伝統、自然が織りなす會津の雪旅〜」。

 計画策定者は会津若松観光ビューローで、同団体が事務局のような役割を担う。歴史・文化に特化した観光施設や温泉地などがあり、宿泊施設や飲食店なども多い会津若松市がベースタウンとなり、スキー客の呼び込みが期待できる磐梯町・北塩原村と連携して、長期滞在型の冬季観光を目指す。

 観光庁によると、同事業は単年度事業だが、公募の際は向こう3年くらいのスパンで計画を策定・提出してもらうという。計画には全体計画と個別計画があり、それを実践していくわけだが、全体計画はそのままに、個別計画をブラッシュアップして、翌年、継続して事業採択されるケースもあるようだ。毎年の事業について、観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会」では、成果や課題などが検証される。事業採択された地域ごとに成果や課題などの発表会も行われるという。そうした中で、一定程度の成果が見られなければ、翌年度に再度応募しても、採択されないということもあり得るだろう。

 今年度の事業採択は会津磐梯を含めて14地域。このうち、9地域が前年度も選定されている継続地域。これに対し、会津磐梯地域は今年度が新規だから、ライバルは一歩、二歩、先に進んでいると言っていい。

 もっと言うと、事業名に「国際競争力の高い」という冠が付いていることからも分かるように、インバウンド需要の取り込みが目的の1つ。福島県は、原発事故の影響が残っているほか、最近では処理水海洋放出があり、隣国から非難された。その点でも、福島県はあまり有利な条件とは言えない。

 「スノーリゾート形成事業」だから、当然、事業採択地域は雪国。八幡平(岩手県)、夏油高原(同)、蔵王(山形県)、那須塩原(栃木県)、越後湯沢(新潟県)、妙高(同)など近県が多い。近くでもスノーリゾート事業を促進しているところがある中で、どうやって福島県に来てもらうかが問われる。

処理水放出の影響

 そもそも、処理水海洋放出の影響はどうなのか。会津若松市の観光関係事業者はこう話す。

 「海洋放出直後は、イタズラ電話がひどくて電話線を抜いていたほどですが、しばらくすると落ち着きました。あるエージェントによると、中国、韓国などでは20代、30代くらいの若い世代はあまり気にしていないそうです。ただ、その親世代に『日本に観光に行く』と言うと、あまりいい顔をされなかったり、明確に止められたり、ということがあると話していました」

 一方、会津地方の外国人観光客ツアーガイドは次のように明かした。

 「私のところでは、台湾からの観光客が最も多く次いで中国です。中国人観光客については、嫌がらせの電話が問題になった時期は予約キャンセル等がありましたが、少しするとだいぶ落ち着きました。紅葉シーズンは例年並み、スキーシーズンも例年並みになるのではないかと思います。中国では昨年、冬季北京オリンピックがあり、その開催が決まった2015年ごろから、ウインタースポーツ、特にスキーブームがきているんです。日本では80年代後半から90年代初めにかけてスキーブームが起きましたが、(中国のスキーブームでは)純粋にその10倍の人がスキーを求めていると思っていい。一方で、中国ではまだまだスキー場が十分ではなく、いま盛んに開発が行われていますが、どうしても時間がかかります。ですから、中国からスキー客を呼び込むチャンスであるのは間違いありません」

 一方で、このツアーガイドは「どこまで言っても来ない人は来ない。そういう人に来てもらおうと、例えば『会津地方は原発から離れている』ということを情報発信したとしても意味がないんです。ですから、来てくれる可能性がある人に向けて、気を引くようなコンテンツを用意したり、営業をかけるということに尽きると思います」とも話した。

 スノーリゾート形成事業に話を戻す。計画を策定し、事業事務局の役割を担う会津若松観光ビューローによると、今年度は外国人観光客のための多言語の看板や、スキー場内でのWi―Fi整備、バスやタクシーなどの交通整備を行うという。具体的には、以前からJR会津若松駅とアルツ磐梯を結ぶ冬季限定の直通バスがあるが、それを市内の宿泊施設にも乗り入れるようにするほか、東山温泉街からの直通バスを新設する。

 「初年度ということもあり、手探りの部分はありますが、今後はエリア内のスキー場の共通パスの発行や、さらなる交通整備、ペンションなどではキャッシュレスに対応していないところも多いので、その整備、エリアの拡大など、やれることはまだまだあると思います。今年度はスタートの年で、そのための意識合わせが軸になると思います」(会津若松観光ビューローの担当者)

 ここで2つ疑問が浮かぶ。

 1つは、磐梯町・北塩原村のスキー場と会津若松市の宿泊施設、温泉宿などをつなげるにしても、スキー場によっては自前のホテルを有しているところもある。さらに、磐梯町・北塩原村にはペンションが多数存在している。自前のホテルを有しているスキー場の営業マンや、磐梯町・北塩原村の観光協会関係者などが外国人観光客(スキー客)を呼び込む際、「宿泊には会津若松市の温泉宿がおすすめです」ということになるだろうか。「宿泊は自前のホテル、町内・村内の宿泊施設に」となるのが普通ではないか。

 この疑問に対して、会津若松観光ビューローの担当者は次のように説明した。

 「外国人観光客は1週間とか、ある程度の期間、滞在するケースが多い。当然、毎日スキーをするわけではなく、滑らない日もあるので、その日は会津若松市内の歴史・文化などの観光施設を回ってもらう、と。スキー場が近くて、これだけの観光施設を備えているところはなかなかありませんから、スキーと歴史・文化、温泉などをセットにして売り込んでいこうというのが、この計画の1つです」

猪苗代町は独自路線!?

 もう1つの疑問は、会津磐梯山地域の周辺エリアでは、猪苗代町にもスキー場があるが、同町は同計画のメンバーに入っていない。これはなぜなのか。

 「その辺はよく分かりませんが、宿泊施設や飲食店など、ベースタウンとしての機能が十分でない、ということではないでしょうか。ただ、先ほども話したように、いずれはエリアを拡大できればと思っています。それこそ、猪苗代町もそうですし、喜多方市も『食』(ラーメン)の点で強いコンテンツがありますから、一体となって売り込み、誘客につなげられればと思います」(同)

 猪苗代町の関係者によると、「私の知る限りでは、今回の件(スノーリゾート形成事業)で話(誘い)はなかった」という。

 一方、北塩原村の観光事業関係者はこう話す。

 「猪苗代町は独自路線ということでしょう。遠藤さんのところは資金力もあるでしょうから」

 この関係者が言う「遠藤さん」とは、ISグループ代表の遠藤昭二氏のこと。会津地方の住民によると、「遠藤氏は猪苗代町出身で会津工業高校を卒業後、東京でビジネスに成功し、近年は地元に寄付をしたり、さまざまなビジネス上のプロジェクトを立案・実施しています。それだけ地元に貢献しているのだから、すごいですよね」という。

 ちなみに、本誌は過去に遠藤氏への取材を試みたが、同社広報担当者は「基本的に、当社・遠藤個人へのメディア取材はお断りさせてもらっています」とのことだった。

 猪苗代町にISグループの関連会社「DMC aizu」があり、同社は猪苗代スキー場などを運営しているが、前出・北塩原村の観光事業関係者は、そうした背景から「DMC aizu(猪苗代スキー場)は資金力があるから、独自路線なのだろう」との見解を示したわけ。

アルツ・猫魔が連結

「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)
「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)

 ところで、今回のスノーリゾート形成事業で、1つ目玉となっているのが、磐梯町のアルツ磐梯と北塩原村の猫魔スキー場の連結だ。両スキー場はともに、星野リゾート(本社・長野県軽井沢町)が運営している。同社は2003年からアルツ磐梯を運営しており、2008年に猫魔スキー場を取得した際、両スキー場を尾根をまたいでリフトでつなぐ構想を持っていた。

 ただ、当時の地元住民などの反応は「この地域は国立公園だから規制が厳しい。新たに建造物(リフト)をつくって山をまたいで連結させるなんて本当にできるのか」というものだった。

 夢物語のように見られていたわけだが、ようやく許可が下り、リフトが建設できるようになった。連結計画が浮上してから約15年かかったことになるが、これは今回のスノーリゾート形成事業に選定されたことと関係しているのか。

 アルツ磐梯の広報担当者によると、「許可自体はスノーリゾート形成事業に選ばれる前に下りていた」とのこと。

 ただ、タイミングを考えると、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進」のために、許可された可能性もあるのではないか。だとするならば、同事業採択はすでに大きな意味を持つことになる。

 アルツ磐梯はコースが豊富、猫魔スキー場は営業期間が長いといったそれぞれの利点があり、同社ではこれまでもアルツ磐梯と猫魔スキー場の共通リフト券を発行するなど、同地域内に2つのスキー場を有する強みを生かしてきた。ただ、両スキー場の行き来には、山を迂回しなければならないため、クルマで1時間ほどかかっていた。冬季の路面状況を考えると、もっと時間を要することもあっただろう。

 それが、山の頂上をリフトで数分で行き来できるようになる。これに伴い、アルツ磐梯と猫魔スキー場という2つのスキー場ではなく、「ネコマ マウンテン」という1つのスキー場になる。かつてのアルツ磐梯は「ネコマ マウンテン 南ゲート」、猫魔スキー場は「北ゲート」という名称になる。2つのスキー場が一体化したことで、33コース、総滑走距離39㌔、ペアリフト11基、クワッド2基、スノーエスカレーター1基を備える国内最大規模になるという。


 「予約等が大きく動くのは12月に入ってからですが、現在(本誌取材時の11月中旬時点)のところ、出足としては良好です。今シーズンはコロナ前の水準に戻るのではないかと予測しています。未だに(原発事故関連の)風評被害の影響はありますが、(スノーリゾート形成事業の)エリアとして誘客できればと思っています」(前出・アルツ磐梯の広報担当者)

 前段でも述べたように、今回の事業はインバウンドを取り込み、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することが目的。そんな中、福島県は、処理水海洋放出を含めた原発事故の影響があり、決して有利な条件とは言えない。加えて、近県でもスノーリゾート形成事業の採択地域が複数ありライバルとなる。国内最大級のスキー場や、歴史的・文化的な観光施設、温泉地といったハードは整っているが、難しい条件の中で、どうやって観光客を呼び込むかが問われている。

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