福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

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福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

(2022年8月号)

 JR福島駅と言えば、東口で進められている駅前再開発事業が思い浮かぶが、経済界を中心に東西エリアの一体化に向けた協議が行われていることはあまり知られていない。その一体化に伴って必要になるのが、同駅の連続立体交差だ。連続立体交差は巨額の費用と長い年月を要し、実現は簡単ではないが、災害時に西口から東口(あるいはその逆)への避難ルートがほとんどない現状を踏まえると「市民の命を守るため、実現に向け真剣に検討すべき」という声がある。

実現目指す地元経済界との間に〝隙間風〟

福島駅前再開発へ ビル解体に向けた地鎮祭 賑わい創出の新たなランドマークの全容とは<福島県> (22/07/04 19:35)

 2022年7月4日、福島駅東口の駅前再開発事業で、既存の建物を取り壊す解体安全祈願祭が現地で行われた。祈願祭には市や商工関係者など約50人が出席。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤真司理事長、ふくしま未来研究会の佐藤勝三代表理事、木幡浩市長らが玉串をささげた。加藤理事長は「安全最優先で工事を進める」、木幡市長は「完成後は官民一体で中心市街地の賑わい創出に取り組みたい」と挨拶した。

 施工者である同組合のホームページによると《福島駅東口地区市街地再開発事業は再々開発事業で、昭和46年~48年度に市街地再開発事業(辰巳屋ビル・平和ビル)により実施された地区にその周辺の低・未利用地等を含めた地区を対象として、都市機能の更新と高次都市機能の集積を図るため建物の建替え等を再び実施する事業です。本事業は民間が行う商業、業務、宿泊等に加え、公益施設(大ホール、イベント・展示ホール)機能の複合化により、商業や街なか居住等の都市機能の充実、賑わいの創出、交流人口の拡大などを図り》とある。

 計画では、敷地面積1・4㌶に商業、交流・集客施設、オフィス、ホテルからなる12階建ての複合棟、7階建ての駐車場棟、13階建ての分譲マンションを建設。総事業費は492億円で、このうち国・県・市が244億円を補助し、市はさらに公共スペースを190億円で買い取る。7月末から解体工事に入り、2023年度から新築工事に着手、26年度のオープンを目指している。

 この間、本誌でも度々取り上げてきた駅前再開発事業がいよいよ本格始動したわけだが、これとは別に同駅周辺の再開発を模索する動きがあることはあまり知られていない。

 「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。設立は2021年3月、会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体に上る。同協議会の規約によると、目的は《福島市のより良い都市形成と福島駅周辺の円滑な交通体系の根幹となる福島駅周辺関係整備の早期実現に協力し、もって地域経済の発展並びに中心市街地の活性化を図る》。

 同駅周辺を整備し活性化を図るというのだから、前述・駅前再開発事業と目的は変わらない。違うのは、目的ではなく手段。同協議会が念頭に置いているのは、同駅の連続立体交差だ。

 連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。

福島駅東西エリア一体化推進


 全国連続立体交差事業促進協議会のホームページによると、東京都内や大阪府など都市部での実績が目立つが、前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会が参考にするのはJR新潟駅だ。

 新潟駅の連続立体交差は1992年に新潟県と新潟市が共同調査を開始し、2005年に同駅周辺整備計画が都市計画決定。翌年、同駅付近連続立体交差事業として国から認可を受け、正式スタートを切った。

 事業主体は当初県だったが、2007年に新潟市が政令市に移行したことに伴い市に移管。以降、着々と工事が進められ、18年度には同駅高架駅第1期開業および新幹線と在来線の同一乗り換えホームが完成。2022年6月には在来線高架化が完了し、同月5日に全線高架化記念式典が行われた。06年の事業スタートから16年かかったが、関連工事は現在も続いており、駅舎内の商業施設は24年度、駅周辺整備は25年度の完了を目指している。

 事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円で、このうち市が400億円を負担しているというから、連続立体交差が一大プロジェクトであることがご理解いただけるだろう。

少ない東西の避難ルート

「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口)
「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口)
福島駅西口
福島駅西口

 新潟駅に視察に行ったという福島商議所の事務局担当者も

 「新幹線と在来線が同じレベルにあり、乗り換えがスムーズにできるほか、1階にバスターミナルやタクシープールが整備されるなど、雨や雪を凌げるのは雪国にとって便利なつくりだと感じました。市街地が線路に分断されず、一体感が醸成されている点も魅力でした」

 と、連続立体交差がもたらす効果を実感したという。

 「高架化による踏切渋滞の解消というと首都圏の駅や線路を思い浮かべますが、長野新幹線の開通に合わせて長野・富山・金沢の各駅でも連続立体交差が行われているので、地方でも実績は十分あります」(同)

 実際、連続立体交差によりどんな効果が見込まれるのか。新潟市の資料によると①踏切2カ所の除去により遮断時間が2~3時間解消し、一時停止の損失時間も3~5時間解消、②新幹線と在来線の乗り換え移動時間が最大4・6分短縮し、計16㍍の上下移動も解消、③鉄道横断区間の移動時間が半分に短縮し、消防署からの5分間の到達圏域が12%拡大、④鉄道とバスの乗り換え移動時間が平均1・8分短縮、⑤同市の二酸化炭素排出量とガソリン使用量が大きく削減、⑥駅周辺で多くの民間ビルの建設や建て替えが進み、人口増と雇用創出が期待される――等々。

 費用と年月はかかるが、その分の見返りも大きいことが分かる。ではこれを福島駅に置き換えるとどんな効果が考えられるのか。市内の経済人はこのように語る。

 「基本的には新潟駅と同様の効果が見込まれますが、福島駅の場合は東西をつなぐ平和通りのあづま陸橋と県道庭坂福島線の陸橋(西町跨線橋)が築50年を迎え、架け替えの必要があります。この二つを多額の費用をかけて架け替えるなら、併せて同駅も高架化した方が費用対効果は高いと思われます」

 線路によって遠く分断された東西口が一体化すれば、駅周辺の光景が劇的に変化するのは間違いないが、この経済人によると、連続立体交差は経済面だけでなく、防災面からも重要な役割を果たすという。

 「福島駅周辺は東西を行き来するルートが少ない。同駅の地下には東西自由通路があるが狭く、東口の出入口は駅ビル(エスパル福島)内にあって分かりづらい。県外の人は出入口が見つからず、わざわざ入場券を買って改札口から行き来しなければならないのかと勘違いする人も多い。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名で、遮断機が上がると歩行者も自転車も車も一斉に渡り出すので非常に危険。同駅周辺にはアンダーパスもあるが、大雨時には冠水のリスクがある。2019年に福島市で東北絆まつりを開催した時、アンダーパスを封鎖し、来場者にはあづま陸橋と西町跨線橋を通って東西を行き来してもらったが『他にルートはないのか』と大ひんしゅくを買った経緯もあります」(同)

 こうした中で経済人が問題視するのが、同市のハザードマップだ。「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、同駅西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されているのだ。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため西口にも避難できる地域はあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのが自然だろう。

 「しかし、浸水するということは東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると、駅周辺の人たちは曽根田踏切、あづま陸橋、西町跨線橋しか避難ルートがないわけです」(同)

 もし災害が発生し、何千もの人がこの限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。

 これは火山に限らず、大雨の場合でも同駅南側には荒川が流れていることから東西口どちらも50㌢から最大5㍍の浸水リスクがあり、東西自由通路やアンダーパスは水没の恐れがある。災害が頻発する昨今、東西の避難ルートが極めて少ないことは駅周辺に暮らす市民にとって不安要素となっているのだ。

 「火山泥流や大雨は、現在の福島駅をも水没させる恐れがある。そうなれば交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。すなわち連続立体交差は、そういったリスクの解消にも役立つのです」(同)

二階氏から知事に指示

二階俊博前幹事長(自民党HPより)
二階俊博前幹事長(自民党HPより)
内堀雅雄知事
内堀雅雄知事

 前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会は設立から1年5カ月しか経っていないが、この間、活発な活動を展開している。同会発足前の2018年11月には、福島商議所中小企業振興委員会で新潟駅を視察。21年10月には一般市民や高校生を対象に東西の往来に関するアンケート調査を実施。2022年に入ってからは、1月に木幡浩市長に同駅連続立体交差の推進を陳情、3月に専門家を招いた講演会や福島商議所女性会を対象とした研修会を開催、4月には自民党国土強靭化推進本部と地方創生実行統合本部を訪ね、同駅連続立体交差に関する要望書を提出した。7月末には総会も開催予定だ。

 地元経済界の事情通によると、同協議会が4月に自民党本部を訪ねた際にはサプライズも起きたという。

 「同協議会の渡邊会長が国土強靭化推進本部長の二階俊博前幹事長に要望書を手渡すと、二階氏はおもむろに電話をかけ出した。驚いたことに電話の相手は内堀雅雄知事で、二階氏が内堀知事に『福島から地元の方々が連続立体交差の要望でお見えになっているので対応してほしい』と言うと、内堀知事は『分かりました』と応じたというのです。さらにそこには二階氏の側近で、地方創生実行統合本部長の林幹雄元経済産業大臣も同席していて、林氏も県幹部に電話し『すぐに計画を練って国に上げるように』と指示したそうだ」

 自民党の中枢から内堀知事や県幹部に直接指示する光景を目の当たりにして、同協議会は実現に強い手ごたえを感じたはずだ。

 事情通によると、2020年12月に福島市で平沢勝栄衆院議員(福島高卒)の復興大臣就任祝賀会を開いた際、平沢氏から同商議所幹部たちに「福島駅の連続立体交差を検討してはどうか」との誘いがあったという。ちょうど同商議所内で検討を始めたころで、平沢氏に全く相談していないタイミングでそのような打診を受けたため、真剣に検討するきっかけになったようだ。ちなみに、平沢氏は二階派所属。

 誤解されては困るが、連続立体交差は有力国会議員がこぞって後押ししているからやろう、ということではない。同協議会が市民や高校生に行ったアンケートでは「鉄道が高架化した下を車や歩行者が自由に通行できるようになったらどう思うか」という質問に、市民の53%が「非常に良い」、32%が「良い」と回答、高校生も「非常に良い」25%、「良い」52%という結果が得られている。また自由記述欄も、費用負担への心配や駅前の魅力向上につながるのか疑問視する声が散見されたが、多くは歓迎の意見で占められていた。市民のニーズの高さも、実現に向けた原動力になっている。

 とはいえ同協議会が自民党本部を訪ねてから3カ月以上経つが、駅前再開発事業の解体安全祈願祭は行われたものの、連続立体交差をめぐる具体的な動きは何一つ見られない。

「検討の予定はない」

「検討の予定はない」【木幡浩】福島市長
【木幡浩】福島市長

 前出・事情通によると、原因は木幡市長の消極姿勢にあるという。

 「木幡市長は駅前再開発事業に専念したい考えで、連続立体交差には関心を示していません。2022年1月、同協議会が木幡市長に陳情した際も素っ気ない態度だったそうで、温厚で知られる渡邊会長が『ああいう態度は政治家としていかがなものか』と不快感を示したとか。木幡市長からは『一応検討します』という言葉さえなかったようです」

 こうした状況を受け、同協議会関係者の間ではこんな見立てが浮上している。

 「二階氏と林氏から内堀知事に指示があったものの、地元自治体の意向は無視できない。そこで、内堀知事が木幡市長に打診すると『駅前再開発事業に専念したい』と言われたため『地元市長にそう言われたら、県は手出しできない』と静観する構えになったようだ」

 それを二人が話し合った場が、内堀知事が新型コロナウイルスに感染した「5月16日、福島市内での4人の会食」(地元紙報道)とのウワサまで出ている。ただ、確かに木幡市長も同時期、濃厚接触者になっているが、そのきっかけは「5月17日、福島市内での4人の会食」(同)と1日遅いのだ。

 報道通りなら二人は異なる会食に参加していたことになるが、「福島市内」「4人」と状況が一致していたため「感染対策が行われた別々の会食に参加していたはずなのに、同時に感染者と濃厚接触者になるのは不自然だ」として「実際は同じ会食に参加していたのではないか」という説まで囁かれている。

 「木幡市長は1984年に東大経済学部卒―自治省入省、内堀知事は86年に東大経済学部卒―自治省入省と、二人は全く同じルートを辿った先輩・後輩の間柄なのです。だから、木幡市長がノーと言えば内堀知事は逆らえない」(前出・事情通)

 そうなると、今度は内堀知事に直接電話をかけた二階氏の立つ瀬がない。このまま動きがなければ「オレの顔を潰す気か」と二階氏が激怒するのは必至。二階氏に「分かりました」と返事はしたものの、先輩の木幡市長から了承が得られない〝板挟み状態〟に、内堀知事は肝を冷やしているかもしれない。

 同市都市計画課に同駅の連続立体交差を検討する考えがあるか尋ねると、担当者は次のように答えた。

 「商工会議所を中心に設立された福島駅東西エリア一体化推進協議会で連続立体交差に関する協議を進めていることは承知しており、東西エリアの一体化が重要であることも認識しています。ただ、実現には費用と時間がかかり、市では公共施設の再編に向け駅前再開発事業に注力しているのが現状で、連続立体交差の具体的な検討は行っていません」

 木幡市長にも連続立体交差への見解を聞くため取材を申し込んだところ、文書(7月22日付)で次のような回答が寄せられた。

   ×  ×  ×  ×

 ――福島駅の連続立体交差を検討する考えはあるか。

 「2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では、公会堂や市民会館、消防本部など耐震性の不足する建物を再編統合も図りながら整備するとともに、その一環で整備するコンベンション施設は中心市街地活性化のため、駅前の再開発ビルに統合することとしました。これ以外の事業は中長期的課題とされ、整備コストなどの課題を踏まえ調査研究を続けるとしています。なお、福島駅連続立体交差事業はこの構想に含まれていません。

 他都市の事例を参考にすると、連続立体交差事業はこれら以上の膨大な事業費(千数百億円規模)を要するうえに、20~30年の長期に及ぶ事業期間、JR各線と私鉄2線との複雑な軌道形状、既存のあづま陸橋や西町跨線橋の取り扱いなど課題が多いことから、市としては慎重な対応が必要と考えています。現時点で連続立体交差を検討していく予定はありません」

 ――2022年1月、「福島駅東西エリア一体化推進協議会」が陳情を行った際、木幡市長の反応は鈍かったとのことですが。

 「ご指摘の協議会から陳情を受けたことはありませんが、考え方は前述の通りです」

 ――連続立体交差を行わないとするなら、吾妻山噴火など災害時における西口から東口への避難ルートはどのように確保していく考えか。

 「災害時の各地域の避難ルートは2019年9月公表の『火山活動が活発化した場合の避難計画』の中に避難対象地域の主な避難ルートや指定避難所が示されています。地震などで東口と西口をつなぐあづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保し、迅速に市民への周知を図ります」

 ――木幡市長が新型コロナの濃厚積極者になったのは、内堀知事と会食しながら連続立体交差に関する話し合いをしていたことがきっかけと聞いたが、事実か。

 「すでに公表しているように、私が濃厚接触者となった会食は5月17日に行いました。『内堀知事と会食しながら連続立体交差について協議した』ということはありません」

   ×  ×  ×  ×

 やはり内堀知事との会食は否定したが、同協議会からの陳情を受けていないとか、避難ルートの確保に向けた施策がないなど、要領を得ない回答が目立った印象だ。

 前出・市内の経済人は連続立体交差に無関心な木幡市長にこんな苦言を呈した。

 「駅前再開発事業に専念したい気持ちは分かるが、市民の命を守る観点から言うと、連続立体交差を検討すらしない姿勢は疑問だ。そもそも火山泥流や水害で駅周辺に被害が及べば、駅前再開発事業にも多大な影響が及ぶ。492億円もの事業費を投じて東口だけを整備するなら、国の補助金を活用して西口も含めた駅一帯を整備した方が効果的だ。こうした提案をすると、県や市は口を揃えて『金がない』と言うが、金がないからやらないのではなく『面倒くさいからやりたくない』という風にしか見えない」

 連続立体交差の実現は簡単ではないが、「市民の命を守る」ことを考えた時、木幡市長の「あづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保する」という発言は場当たり的で不安だ。

 駅前再開発事業をめぐっては、ホテルや商業施設の詳細が明らかにならず、市が運営するホールに対しても「このつくりで大丈夫か」と心配する声が少なくない。既に走り出している計画を大きく変更するのは現実的ではないかもしれないが、連続立体交差を望む経済界と溝ができたまま建設―開業へと進む状況は、一大プロジェクトの姿として残念と言わなければならない。

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