JR福島駅東口で進む再開発事業に暗雲が立ち込めている。賑わいを生み出す目玉だったシティホテルや商業施設の出店が遠のき、商業と公共の機能を合わせた複合ビルの建設を断念。市の公共施設のみを先行して建設することになった。片や駅西口のイトーヨーカドー福島店は5月に閉店し、後継利用が「未定」。県庁所在地の一等地で大型の商業施設を欠いた状態が続く。(小池 航)
西口のヨーカドー閉店で商業機能喪失

昨年12月、福島市は福島駅東口で民間主体で進む再開発ビルの着工計画見直しを発表した。東口再開発事業は、地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)が建設主体となり進められてきた。2020年に閉店した百貨店中合などの既存建物を解体した後に複合ビルを建て、商業施設やホテルをテナントにする。さらに市のコンベンション施設が入居し、商業スペースと公共スペースを融合した拠点を造る計画だった。

ところが、資材・人件費高騰で工費がかさみ、賃料に反映させなければ複合ビルを維持管理する収支が成り立たない事態に。当然、賃料上昇は入居忌避につながり、賃料を抑えようとすれば地権者である再開発組合の負担が増える。事業継続のため複合ビルの見直しを迫られ、商業スペースと公共スペースが融合する部分をなくし、再開発組合が維持管理する部分を減らすことになった。
賃料を抑えても、テナントが入らなければ商業施設として成り立たない。シティホテルの入居が目玉だったが厳しくなった。2月2日に再開発組合が公表した説明資料によると、複数のシティホテル運営会社に声を掛けて交渉を続け、事業全体の成立目途は立っていたという。しかし、新型コロナ禍で宿泊客数・稼働率の回復が他県より遅れている状況に加え、建設費や水道光熱費の高騰、人手不足でホテルが出店を控えるようになり、交渉が進展しなかった。交渉した事業者100社以上からは「東北では仙台以外は商圏にならない」と言われた。同組合は商業テナントについて「状況を打開するため、さまざまな角度から検討と交渉を継続している」という。
事業継続のためには再開発組合の負担を減らす必要がある。テナント入居が厳しく、商業スペースの見通しが立たないことから、再開発組合と市は複合ビルを商業施設からなる「権利者棟」と市の施設が入居する「公共棟」に分ける案を発表した。案では、建設費用を抑えるため公共棟のダウンサイズが図られている。木幡浩市長は「駅前での賑わい創出のため、先行して公共施設が入居する」と説明する。
総事業費は、2022年6月の事業計画認可時は492億円だったが、工費費などの高騰により23年6月時点で615億円、コスト縮減後589億円と推移。工事費高騰を受け、市は着工を23年度から24年度に、開業を26年度から27年度に1年程度後ろ倒しする見通しを示していたが、設計の大幅見直しでさらにずれ込むことになった。先行する公共棟の開業は早くて28年度だ。
公共棟単独での建設が決まると、市は市民や大学教授らを委員とする「福島駅周辺まちづくり検討会」を開いて中身を議論し直した。2月8日に開かれた第1回検討会では、委員から「いっそ公園に」、「学習スペースを」などさまざまな意見が上がった。だが、再開発組合が運営する「権利者棟」と「住宅棟」に囲まれる位置関係や、市は「公共棟」に老朽化で建て替えが必要な公会堂の機能移転を考えていることから、同検討会で出された意見が新たな設計にどこまで反映されるかは不透明だ。
民間と公共のコスト負担のバランスについて説明が足りないと指摘するのは福島大の今西一男教授(都市計画論)だ。
「再開発事業はあくまで民間事業です。民間が立ち行かなくなりそうだからといって、市が全て肩代わりする事態は避けなければなりません。民間と市が費用を公平に負担しているのでしょうか。説明会や検討委では、野村不動産が敷地南東に計画する住宅棟について、コスト増分を分譲価格に反映したかどうかの説明もありませんでした」
野村不動産(東京都)は再開発組合の組合員であり、2022年6月時点で敷地南東に13階建て、108戸の分譲マンションの建設を計画している(135ページ図参照)。前出の再開発組合の資料によると分譲マンション計画は「需要に合わせた供給」で「現状、大きな変更の予定はない」。
民間主体の事業と言いながら、その姿が見えないのではないかと本誌が木幡市長に問うと、
「民間事業者がどこまで市民の意向を反映させるかはあくまでもビジネスの範囲が基本だと思います。再開発組合には(2月2日に開いた)市議会全員協議会の前に説明の場を設け、議員の質問に直接答えていただきました。同組合には2月8日から始まった検討委員会や市民とのタウンミーティングにも出席していただき、委員や市民からの質問に答えられるよう準備しています。公共と民間セクターの違いはありますが、同組合は市民に対して一定の姿勢を示していると思っています」
民間の活力とノウハウがなければ、再開発事業が形にならなかったのも事実だ。再開発組合のまちづくりへの寄与は大きい。
2017年から地域活性化などの事業を展開する一般財団法人ふくしま未来研究会(佐藤勝三代表理事=元佐藤工業会長)のグループ企業が駅東口周辺の土地・建物を購入して再開発に乗り出し、現在の再開発組合設立につながった。佐藤代表は行動力抜群で、身銭を切ってまちづくりに取り組んできた経済人。同年、木幡氏が「民間活力を導入したコンベンション機能の強化」を公約の一つに掲げ市長に初当選した。佐藤代表と木幡市長がキーマンとなり実現が期待されてきた。
官民タッグで始まった再開発事業だが、商況が悪化し暗雲が立ち込める。ただ、同事業は県庁所在地の駅前という誰もが行き来する玄関口の景観と市街地構造を一変させる事業で、その影響は大きい。公共性の高さは当初から変わらない。主体が民間であれ市であれ、市民への詳細な説明と合意形成は欠かせない。
ヨーカドー撤退後の 利活用方法は「未定」

駅東口再開発事業が遅れる中、追い打ちをかけるように西口のイトーヨーカドー福島店が5月6日に閉店することが発表された。同店は1985年開業。敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て。食料品や日用品、衣料品を販売し、680台分の駐車場(平面・立体)を備える。土地・建物を所有する不動産大手ヒューリック(東京都)の2015年12月期有価証券報告書によると、帳簿価額は約17億円。
ヒューリックに撤退後の利用について問い合わせると「まだ決まっていない」。木幡市長によると、当初は民間の会社が入る話があり、現在も交渉は継続しているようだ。市では別業者に売却されることも想定して情報収集しているが、駅前東西一体のまちづくりの観点から積極関与していくという。
イトーヨーカ堂の親会社セブン&アイホールディングス(HD)は、昨年10月に大都市圏以外で営業するイトーヨーカドー33店舗を閉店する方針を発表した。県内では福島店と郡山店(5月26日閉店)が当てはまるが、郡山店は同HDの子会社ヨークベニマル(郡山市)が引き継ぐことが決まっており、未定の福島店との差が浮かび上がる。
駅東口と西口で商業機能が相次いで失われ、県庁所在地の駅前の空洞化がより進むことになるが、打つ手は見いだせないでいる。