過渡期を迎えた公設温浴施設【いわき編】

過渡期を迎えた公設温浴施設【いわき編】

 いわき市は、いわき湯本温泉の温泉給湯事業や公衆浴場事業の収支均衡を図り、サービス提供を安定的に継続することを目的に、「いわき市温泉事業等経営戦略」を策定し、3月26日に公表した。それによると、3つある公衆浴場について、廃止や民間譲渡を検討しているという。(末永)

湯本温泉の給湯設備更新も課題

過渡期を迎えた公設温浴施設【いわき編】地図

 本誌3月号に「過渡期を迎えた公設温浴施設 会津編」という記事を掲載した。近年は温浴施設を廃止したり、民間譲渡して存続を図ったりといった事例が増えていることから、会津地方各町村の状況をリポートした。具体的には、北塩原村の「ラビスパ裏磐梯」が廃止方針、会津美里町の「高田温泉あやめの湯」が廃止、同町の「本郷温泉湯陶里」と「新鶴温泉健康センター」が民間譲渡、会津坂下町の「糸桜里の湯 ばんげ」が廃止――といった具合。一方で、西会津町の「温泉健康保養センター ロータスイン」は老朽化が進んでいるが、「健康増進と福祉向上、地域振興を目的とした重要な施設である」として改修する方針を示している。各町村で対応が分かれる公設温浴施設の現状についてリポートしたのが同記事である。

 その際、ある識者はこんな見解を述べていた。

 「昭和から平成にかけて、竹下登内閣の時代に『ふるさと創生事業』として、地域振興のために使ってほしいということで、各市町村に一律1億円が交付されました。その使い道として1つの流行りだったのが温泉掘削だった。同事業(交付金)以降、各地に公設温浴施設が増えたのです。それから30年ほどが経ち、施設老朽化、温泉枯渇などの問題が出てきたということです」

 同記事で紹介した施設のすべてがこれに当てはまるわけではないが、いま一斉に公設温浴施設が過渡期を迎えている背景には、そんな事情がある――と指摘した。

 一方、いわき市は、いわき湯本温泉にある「上の湯」、「さはこの湯」、「みゆきの湯」の3つの公衆浴場について、廃止や民間譲渡を検討している。「会津編」で紹介した施設は、健康ランドやスーパー銭湯のような「娯楽施設」の要素があるのに対し、いわき市の場合は純粋な「銭湯」のような形態。その点では「会津編」でリポートした事例とは少し異なるが、行政所有の温浴施設のあり方を検討している、という点では共通している。

公衆浴場所有の経緯

上の湯
上の湯

 市観光振興課によると、3つの公衆浴場のうち、上の湯とみゆきの湯の2つは、旧湯本町が設置・運営しており、合併時に新市に引き継がず、「常磐湯本財産区」を設立して、同財産区で運営してきたのだという。そのほか、同財産区では温泉給湯事業も担ってきた。だが、公衆浴場の利用者減少などによる収支面の課題や、配湯所・配湯管の老朽化に伴う施設更新費用の問題などから、2021年4月に、それら事業は財産区から市に移管された。もう1つのさはこの湯は、もともとは市の保養所として使われていたが、それが後に公衆浴場に変わった。

 こうした背景から、市では3つの公衆浴場を所有すると同時に、温泉給湯事業を担うことになった。その際、議会から「経営計画をしっかり立てるように」といった注文があり、それを受けて、「いわき市温泉事業等経営戦略」を策定したのである。これは2033年度まで10年間の中長期計画をまとめたもの。

 なお、3つの公衆浴場のうち、上の湯は市直営、さはこの湯とみゆきの湯は指定管理者に運営を委託している。施設が建設されたのは、上の湯が1978年、さはこの湯が1995年、みゆきの湯が2007年となっている。

 別表は3つの公衆浴場の利用者数の推移。おおむね減少傾向にあり、特にコロナ禍の影響もあって、2020年以降は減少幅が大きい。いわき湯本温泉全体で見ても、コロナ禍前の2019年には、約29万1000人の観光客が訪れていたが、2021年は18万6000人まで減少した。

利用者数の推移

上の湯さはこの湯みゆきの湯
2010年5万4225人16万8965人13万9528人
2011年5万0414人16万4740人16万5970人
2012年5万2804人16万8294人14万8770人
2013年5万1024人16万9371人14万4120人
2014年4万7952人17万9047人12万5275人
2015年4万9298人18万6953人7万9834人
2016年4万3660人16万8748人13万5698人
2017年3万8512人16万8521人12万2528人
2018年3万8025人15万4516人11万3025人
2019年3万3266人13万7896人11万7357人
2020年2万5467人10万5405人9万4764人
2021年2万5095人10万1326人8万4560人
※いわき市温泉事業等経営戦略を基に作成


 こうした背景から、経営戦略では、3つ公衆浴場は廃止や民間譲渡を検討することとされているのだ。

 このうち、上の湯は常磐湯本財産区の時代に廃止が決定しており、2028年度まで運営して以降は廃止される。

 これに対し、常連利用者や周辺住民からは「何とか存続できないのか」といった声が聞かれた。

 常連の男性利用者は、記者の「この施設は数年後に廃止になるそうだが」との問いかけに「え? なくなるの? いつ?」と困惑した様子。そのうえで「それは残念だね。無くしてほしくないよね」と話した。

 一方、近隣に住む女性は次のような思いを明かした。

 「当然、家にお風呂はあるけど、結構な頻度で通っています。特に、冬場は時間が経ってもポカポカしてよく眠れる。市内でも、平や小名浜、四倉など、遠くから来る常連客もいて、みんな『なくさないでほしい』と言っています。管理・運営などが大変なのは分かりますが、『温泉のまち』なのだから、こういった施設は存続させてほしかった」

 別の近隣女性によると、「一人暮らしの高齢者にとっては、1日中家に1人でいると良くないからと、談笑目的で来る人もいる。そういう側面もあるのだから、やっぱり存続させてほしい」という。

 こうして聞くと、存続を望む声は少なくないが、前述の通り、市は財産区時代の決定(廃止)を追認する方針だ。

 さはこの湯は、今後、民間譲渡が検討されるという。現在、同施設はキョウワプロテックが指定管理者になっているが、経営戦略策定時の市からのヒアリングに「仮に、公衆浴場施設の譲渡の話があれば、運営権を引き継ぐ意思がある」旨の回答をしている。

 みゆきの湯は、今年度から2030年度に渡り「いわき都市計画事業湯本駅周辺土地区画整理事業」が実施されるが、そのエリアに含まれている。それに伴い、2025年度中に一時解体されることになる。その後についてはまだ決まっていないとのことだが、収支状況などを考えると、再建設するのは現実的ではないと思われる。

 つまり、上の湯は廃止決定、みゆきの湯は土地区画整理事業との兼ね合いで未定、さはこの湯は民間譲渡というのが基本的な方針になる。

 「経営戦略はあらゆる方策を洗い出したもの。その中から、有効な方策を選択・実行していくことになります」(市観光振興課)

課題は給湯設備更新

さはこの湯
さはこの湯

みゆきの湯
みゆきの湯

 一方で、市観光振興課によると、より大きな課題は、公衆浴場のあり方よりも、給湯事業をどうするかだという。もともと、常磐湯本財産区が給湯事業を担っていたが、2021年に市に引き継がれたことは前述した。その大きな理由として、配湯所・配湯管の老朽化に伴う施設更新費用の問題がある。

 給湯の流れとしては、第三セクターの「常磐湯本温泉㈱」が源泉の揚湯を行い、そこから市と常磐興産(スパリゾートハワイアンズ)に給湯される。市はそれを温泉旅館などの各施設に給湯するわけだが、管路が老朽化しているため、更新が必要なのだ。

 「(配湯管などに)不具合があった際に、その都度、修繕や入れ替えをしたことはありましたが、大幅な更新はほとんど初めてと言っていい状況で、過去のデータなどもありません」(市観光振興課)

 いまあるすべての施設・設備を更新した場合、総額40億円超になることから、温泉使用料の値上げや、地方公営企業法の適用とそれに伴う企業債の活用なども検討材料とされている。もっとも、前述の市観光振興課の説明にあったように、経営戦略はあらゆる方策を洗い出したもので、その中から、有効な方策を選択・実行していくことになる。

 いずれにしても、公衆浴場の見直しや給湯設備の更新など、湯本温泉全体が転換期を迎えているのは間違いない。

末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
合併しなかった県内自治体(6回シリーズ)
原発事故追加賠償の全容(2023年3月号)

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