【小松理虔】いわきの縮退を、いかに生きるか(WEB拡大版)

【小松理虔】いわきの縮退を、いかに生きるか(WEB拡大版)

地方自治体における人口減少・少子高齢化は深刻だ。30万人都市であるいわき市も例外ではない。いわき市小名浜在住のローカルアクティビスト(地域活動家)・小松理虔さんにいわき市から見た地方の現実と課題について執筆してもらった。

地域活動家・ライター 小松理虔

こまつ・りけん 1979年、いわき市小名浜生まれ。ローカルアクティビスト(地域活動家)として、地域に根差したさまざまな活動を展開している。『新復興論』(ゲンロン叢書)で第18回大佛次郎論壇賞を受賞。編集・ライターとして関わる「いわきの地域包括ケアigoku」で2019年グッドデザイン金賞受賞。

今年5月末、地方の「縮退」を象徴するような、あるニュースがいわき市を駆け巡った。2060年までに、いわき市内の公共施設が、現在のおよそ半分の673箇所まで縮小される可能性を示す「個別施設計画」が市から発表されたのだ。簡単に説明すると、いわき市は今後さらなる人口減や少子高齢化が進み、財政規模が縮小するのに加え、老朽化した大量の施設の更新時期が重なることで維持管理・更新の経費が増大し、現在の規模では公共施設の運営はできなくなります。計画通り最適化を図れば2060年までには半分ほどになりますから、施設のあり方について市民の皆さんも考えていきましょう、というものである。

現在、いわき市には公共施設が1281カ所あり、主に支所や学校、市営住宅、集会所などが該当する。地元の夕刊紙「いわき民報」の報道によれば、公共施設の数は県内の自治体で最も多く、ただでさえ維持費がかさんでいるのに加え、その4割が1981年以前の旧耐震基準で整備されているため老朽化が著しいのだという。いわき市は今から58年前に14市町村が大合併してできた。このため、もともとは別の市町だった各地に似たような機能の公共施設が存在し、各地の住民の拠り所となっていたものの、「一つの市」の規模から言えば過剰であり、また、建て替えなどが進まないまま老朽化しているものが多いことから、人口や税収に合わせた規模に「最適化」するということのようだ。

いわきは広大だ。あちこちに合併前から使われている市民会館や図書館があるし、どれも古い建物ばかり。映画『フラガール』の中で、結成されたフラガールたちがキャラバン隊となって各地を巡るシーンがあるのだが、小名浜市民会館と小名浜公民館がロケ地になっている。昭和40年代、炭鉱末期の時代を再現できる場所が今なお市民の憩いの場所として使われていると思うと妙に感慨深い。我が地元の市民会館と公民館も、廃止の対象になっているのかもしれない。いやそれ以前に、いわき市各地にどのような公共施設あるのか、いわき市の民の私もほとんど把握できていない。そこで、市が公開しているリストをざっくりチェックしてみた。

まずはわかりやすいところでスポーツ施設。「体育館」にカテゴライズされるものは12カ所ある。いわき市平にある総合体育館に加え、内郷コミュニティセンター、常磐地区の関船体育館、小名浜体育館(武道館)、勿来体育館など旧市の市街地に散らばるように分布している。「グラウンド」にカテゴライズされる施設も、いわきグリーンフィールドのような大きなスポーツ施設から小規模の市民運動場まで17カ所。これに加えて野球場が4カ所、弓道場が3カ所、テニスコートや陸上競技場もある。

いわき市と比較するため、同じ人口規模の郡山市の公式ウェブサイトを見てみると、市の直営の体育施設として紹介されている施設は12カ所あった。野球場、スポーツ広場、運動場などをすべて入れてこの数である。ただ、郡山市の場合は、市の直営ではなく指定管理施設が15か所ほど追加される。郡山市との極めて単純な比較だが、いわき市は、施設が単純に多いだけでなく民間への移譲も進んでいない、ということが見て取れる。

市民の交流や暮らしの拠点となる「文化施設・ホール」はどうだろうか。「貸しスペース」にカテゴライズされているものが46カ所。文化センターや労働福祉会館のような施設に加え、各地の公民館も含まれている。公民館は、郊外エリアの豊間、高久、神谷、磐崎、山田といった地区にもバランスよく配置されていた。「集会所」にカテゴライズされるのは45カ所。集会所は、災害時の避難場所になるケースもあれば、地域の高齢者に対するレクリエーション、地区の子ども会のイベント、あるいは地域の伝統芸能の稽古などでも活用されていて、市民にとってはご近所の人たちと顔を合わせる貴重なインフラだ。これに加え、市民会館などのホールが4カ所、図書館が6カ所ある。

ちなみに、今も元気に稼働している小名浜公民館は「あり方見直し」と書かれていて、来年度末までに対策を検討すると記されている。中学校の合唱大会で『大地讃頌』を歌った小名浜市民会館も「あり方見直し」。こちらは利用状況を分析し、代替手法を検討。大規模改修が必要になった場合は廃止と書かれていた。

もちろん、これらの施設以外にも、保健福祉施設、幼稚園・保育所、公営住宅や庁舎、公衆トイレや公園など幅広いカテゴリの公共施設があり、市はそれぞれの施設ごとに、複合化・廃止・譲渡・現状維持・あり方見直しなどの方向性を示している。市としては、廃止と方向づけられた施設のすべてを予定通り廃止するのではなく、あくまでこの計画を叩き台にして市民と議論し、そのうえで結論を出す立場を表明しているが、対象となった地域住民や施設のユーザーにしてみれば、自分の暮らしに直結する大きな問題だけに、はいわかりました、とはいかないだろう。

いわき市の「深刻な」未来予想

この報道が出た5月末から、筆者の周りでもこの話がよく出てくるようになった。「平に行くには車で30分もかかって不便」とか、「子どもたちの居場所になっていたところをなくすのはかわいそうだ」というような否定的なコメントが多い。筆者のような子育て世代にとっては、ただでさえ遊ぶ場所が少ないとされるいわき市で、図書館や体育館、公民館などで開かれる小さな催しは、同世代の子どもたちと一緒に遊べる機会になるし、子どもがイベントに参加している時間は、ほんの束の間の休息になる。

また、いわき市は市民活動が盛んな地域で、各地の公民館ではさまざまな趣味の活動、勉強会やセミナー、趣味のサークルなどがそれこそ毎日のように開催されている。人口減少や税収減について頭では理解しつつも、施設の最適化によって、これまで続けられてきた文化活動が続けられなくなってしまうのではないかと考える市民は少なくないし、市民活動が衰退してしまえば、暮らしの満足度はさらに下がり、他地域への流出や、地域の基盤となるコミュニティの弱体化にもつながってしまう。市と住民とで慎重に対話を重ね、やはり地域の人たちの手で粘り強く運営できる方策を見つけていかなければならないだろう。

一方で、市の言い分もよくわかる。いわき市の総合計画によれば、ほんの15年後の2040年代には、いわき市の人口は25万人ほどに減り、2060年には、なんと現在の半分ほどの17万人にまで減少すると予想されている。高齢者の割合はさらに増え、すでに高齢化が進んでいる中山間地域では、地域コミュニティの存続自体が難しくなっていくだろう。総合計画によれば、2060年台の中山間地区の人口は、2015年の人口を100とした場合、川前地区で12・2、田人地区で16・0、三和地区で21・8という衝撃的な数字が並んでいた。

いわき市は14もの市町村が合併したということもあり、大きく強い「中心」が存在しない。かつて市や町だったそれぞれの地区に市街地が点在し、それぞれの中心から郊外に広がるようにして住宅地が広がる様からもよくわかる。人口が30万人もいるわりに、同規模の他都市のような大きな中心市街地がない。いわき駅や市役所のある平地区が中心といえば中心だが、観光は常磐や小名浜に集中しているし、小名浜や勿来には大規模な工業地帯もあってそこで働きながら暮らしている人も少なくない。駅前が発展しているかといえばそうではなく、むしろ、駅から郊外へと向かうロードサイドに商店が立ち並んでいる地区も少なくない。中心がないゆえに、それぞれの地域の独自性が強く働き、それゆえ地域に点在する公共施設も長く維持されてきたのだろう。

規模が中途半端ゆえに、点在するそれぞれの地域経済圏内では生活が完結しない。筆者は小名浜在住だが、医療や介護、通勤・通学、買い物などまでふまえると、なかなか小名浜地区内だけで完結できない(ましてや徒歩圏内では無理)。多くの市民が、各地に点在する都市機能を移動しながら使いこなしていかなければならないのが現実だ。つまり、車なしでは生活が維持できない。実際、市民の自動車への依存度は高く、令和2年度の国勢調査に記された「自動車依存度の高い中核市ランキング」によれば、いわき市は堂々の1位(依存度は79・2%)だ。

自動車依存度が高まると、当然、公共交通を利用する市民は減っていく。いわき市ではこの春に、路線バスを運営する「新常磐交通」の15路線廃止が発表されたばかりだが、運転手確保が難しいという事情に加え、そもそも市民がバスに乗らないという自動車依存の問題が強く関係している。バスがなくてもいいや、という意見はあるだろう。ただ、車に乗れるうちはよいが、自分たちが高齢化して車の運転が難しい時期になって初めて公共交通のありがたみを感じる市民が多いのではないだろうか。だが、このまま自動車依存が進み、かつ人口が減少していけば、自分たちが歳をとったときに公共交通網が存在しないという状況になりかねない。いわきに暮らしていると当たり前すぎて深く考えないが、ただでさえ多くない収入で1家庭で2台以上の自動車を維持するのは経済的な負担が大きい。自動車依存を是正していくには、広い範囲にバラバラに薄く住むのではなく、複数の拠点に集中して濃く集まって住んでもらうような、計画的な「集住」を促す必要があるようにも思う。

市の総合計画の中に、2040年ごろまでに目指す未来図とも言うべき「立地適正化計画」というものがある。その計画が、まさに「多核集住」を謳っているのだ。計画によれば、平を「都市拠点」、小名浜、勿来、四倉の3地域を「広域拠点」、泉、常磐、内郷、いわきニュータウンの4地域を「地区拠点」に位置づけ、これらの拠点地区にさまざまな都市機能を集約。さらに、この地区内にU・Iターンなど移住を促進することで拠点地域の人口密度を維持していくのだという。もちろん、中山間地域を切り捨てるということではなく、中山間地区も同様に、それぞれの地区の中心部に機能や住まいを集約させるようなまちづくりを行なっていくことになるようだ。

そのうえで、各拠点地域を、公共交通や今後の普及が期待される「ライドシェア(一般ドライバーが行う相乗りや配車のサービス)」などを活用してつなぎ合わせていく。そんなネットワーク型の都市を目指していくのだという。コロナ禍で普及したオンライン用のデバイスを使えば、わざわざその場所に移動しなくても用が済み、車での移動も最小限に抑えられる。そもそも、自動車の免許がなければ暮らせないという状況は、都市部からの移住のハードルになっているし、自動車依存社会は環境面での弊害も多い。それぞれの地域拠点に散らばりつつ集住する「多核集住」、そして、公共交通やデジタル技術などを活用した「ネットワーク」を掛け合わせることでさまざまな課題に向き合おうというのが、この立地適正化計画の要諦だ。

平と小名浜の、危うい「自動車依存」

先ほど、川前地区や三和地区など、いわき市の中山間地域の人口減少に関するデータを紹介したが、中心市街地の人口は今後どの程度になると予想されているのだろうか。

2015年の人口を100として2060年の人口を数値化すると、最も多いのが小名浜で66・7、平で51・3。さらに常磐の45・8、好間の45・1と続く。小名浜と平以外は、この40年間ほどで人口が少なくとも半分以下になるという試算だ。なぜ平ではなく小名浜の人口減少が最も低いレベルで食い止められる予想になっているかというと、人口が増えている泉地区が入っているからだ。泉は、原発事故後の数年間、土地価格の上昇率が全国トップクラスになった「もえぎ台」など新興住宅地を抱えていて、子どもたちの数も含めていわきで数少ない人口増大地域だ。小中学校はどこもマンモス校。今、いわき市内で最も活力のある地域と言っていいかもしれない。

だが、泉を抱えた小名浜や平が磐石だというわけでもない。平では、今後の人口減社会を見越した再開発がいわき駅前を中心に進められ、駅ビルに直結したホテルが開業し、お城山のそばには都市型のマンションを造成すべく工事が進められている。イトーヨーカドーのあった場所には、新たな商業施設「Paix Paix(ペッペ)」も開業するなど、明るい話題が続いているように見える。だが、平に住む知人たちに話を聞くと、「お客の入りは期待されたほどではない」「全国チェーンばかりで店舗の顔ぶれに珍しさがない」「商業施設ばかりをつくっても、お客がいないので供給過多になってしまう」という声が聞こえてくる。

先ほど紹介した「自動車依存」を解決すべき課題に設定すれば、車で来られる大型商業施設ではなく、ウォーカブル、つまり歩いて楽しめるようなまちを目指すべきだろう。平には歴史ある商店街があり、夏場の「七夕まつり」など地域に定着したイベントもある。個性豊かな路面店・個人店を盛り立てながら、高齢者や子どもたち、子育て中の親世代などが集まりやすい居場所を駅前に整備することで、自転車や徒歩で楽しめる平を目指していくことができるはずだ。若い世代の店主たちがチームを組み、歩道を有効活用したまちづくりを模索する動きもすでに始まっているが、まだ大きなうねりにはなっていない。大きくて立派な施設をつくれば人が来てくれるはずだという考え方ではなく、縮退の時代の課題を踏まえた、地域コミュニティを意識したまちづくりにシフトするタイミングのようにも思える。

一方の小名浜も、平以上に「車で楽しむまち」になっている。心配なのが「イオンモールいわき小名浜」の一極集中だ。イオンモールができる前には、買い物客が地元の商店を利用することでもたらされる「トリクルダウン」を期待する向きもあったが、実際に蓋を開けてみれば、多くの買い物客はイオンモールのみで用を済ませて帰っていく。当然だろう。ショッピングモールは、そもそもがモータリゼーションと強く結びついたものであり、車で楽しむものだからだ。だからこそ日本のモールは「郊外に」できてきた。ところが、小名浜は、郊外ではなく、まちのほぼ中心部に店がある。

批評家の速水健朗は、著書『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』中で「ショッピングモーライゼーション」という言葉を提案し、都市のショッピングモール化について論じたが、小名浜も高度にショッピングモーライゼーションが進んだ地区だと捉えられるかもしれない。今後は、イオンモールとますます一蓮托生のような関係になるのではないだろうか。じつは、地元のお祭りである「いわきおどり大会」も、これまで小名浜支所前からイオンモール前の道路に会場が移された。今後は、支所機能やクリニック、学習塾やデイサービスなども、イオンモールあるいはその周辺に入店するような状況になっていくのではないだろうか。小名浜は、名実ともに「イオンモールのまち」になっていくのだろう。

いわきのような自動車依存地域は、チェーン店にとっては都合がいい。郊外のロードサイドに比較的大きな店を建設できるし、駐車場の確保も容易だからだ。昨年、いわき市内の2カ所に全国チェーンの菓子店が相次いで店を構えた。味の良さと低価格が評判の店である。その影響もあったのだろうか。開店から数ヶ月の間に、いわき市内の複数の菓子店が相次いで店じまいするということが続いている。原料の高騰や店主の高齢化など複数の要因が絡んだものだとは思うが、量販店の出店によって売り上げの影響があったことは想像できる。もちろん、量販店イコール「悪者」ではない。量販店も地域の小規模店も両方あるからこそ、買い物客である私たちの選択肢が増えていくからだ。だが、こうも量販店の開業、小規模店の廃業が続くと心配にもなる。量販店は、人口減少の進んだいわきに見切りをつけて撤退できるが、その時、地域の小売店は生き残っていてくれるのだろうか。

このまま全国チェーンにシェアを奪われるような状況が続くと、いわきはますます「どこにでもありそうな地方都市」になりかねず、観光的な側面から見ても損失が大きい。今残っている店舗の事業承継、個人の開業支援などを通じて地域の中心市街地の活性化を図らなければならないし、私たち住民もまた、地域の店を買い支え、守っていくという意識を少しくらいは持っていてもいいはずだ。あえて車を乗らない日や、家族や友人とバスに乗って出かける日をつくる。個人店縛りでランチを楽しむ。そんな小さな行動変容でもいい。地域の経済圏を自分たちで支えていくような自発的な動きを促したいところだ。県外の事例だが、宮崎県宮崎市では、自動車依存を是正するため自転車購入者に対して助成を行う政策に着手したそうだ。新たな魅力創出を図ったり、ライフスタイルを変える行動変容をポジティブに促したりするなかで、「適正化」も図られるべきだろう。

浜を照らす光、いわきFC

ここまで暗い話題ばかりが続いてしまったが、いわきに明るい話題がないわけではない。数少ないポジティブな話題が、サッカー「J2」に所属するいわきFCの快進撃だろう。昨年こそ、初参戦のJ2で17位と苦しみを味わったが、今季は序盤から強さを見せ、J1昇格を目指せるプレーオフ圏内を狙える位置に止まっている。上位チームに善戦を見せる試合も増え、ホームスタジアムである「ハワイアンズスタジアムいわき」には連日5000人近くのサポーターが集まるようになった。

ただ、この「ハワスタ」、J2の基準を満たしておらず、いわきFCには「将来的にJ1基準を満たすスタジアムの新設」を条件にライセンスが付与されている。2025年6月までに新たなスタジアムの計画を提示しなければならず、このためいわきFCでは、いわき市内や双葉郡内で活動する経営者や教育者などからなる「新スタジアム検討会」を組織し、どのようなスタジアムがこの地にふさわしいかのビジョンメイキングをおよそ1年にわたって行ってきた。昨今のスタジアムは、単にスポーツの開催会場としてでも、ライブイベントなどを含めたエンタメ会場としてでもなく、地域の経済的・社会的機能まで含んだ「エリアマネジメント」のプロジェクトとして捉えられるようになっている。新スタジアムの建設は、縮退のなかにあるいわき市にとって、おそらく今後100年先を見ても最大クラスのビッグプロジェクトになる。スタジアムを含めた地域の未来のデザインが期待されているわけだ。

筆者は、このいわきFCの新スタジアム検討委員会のメンバーに入っており、昨年秋から十数回に及ぶ検討会に参加してきた。この検討会の役割は、スタジアムのコンセプトメイキング。具体的な意匠、設備、収容人数などを考える手前の、スタジアムの方向性を考えてきた。1年ほどの議論の末、「まちの構造を変える」「教育・学びを支える」など4つのビジョンにまとめ、いわきFCに提言したところだ。コンセプトを考えるにあたって重要視したのが、意外かもしれないがロケーションを頭から外すことだった。スタジアムをどこにつくるかだけが関心事になってしまうと、コンセプトが薄くなってしまうばかりか、市民にある種の分断をもたらすことになる。たとえば「湯本につくる」と先に決まってしまったら、湯本以外の住民は関心を持ちにくくなってしまうだろう。「いわき」を冠したクラブであり、スタジアムの機能はもはやスポーツ観戦だけでなく「まちづくり」と深く関わることになるのだから、市民が自分ごととして考えられるようにしようというわけだ。

一方で、一人のいわき市民として、いわき市にスタジアムをつくることを想定すると、先ほど紹介した「立地適正化計画」のことも頭に入れておきたくなる。いわき市は今後、拠点地域にさまざまな都市機能を集約させたいと考えている。もちろん、スタジアムの母体は民間企業であり、自治体の計画なんて無視してもいいのだろうが、民間と言っても半ば公共的な場所になるし、いくら景観がいいからといって、拠点地域からも、公共交通機関のハブからも離れた海沿いにスタジアムを建設してしまっては、集客もエリアマネジメントもうまくいかない。今後の人口動態などを見据え、持続可能なスタジアムを目指すため、検討委員会でも、いわき市幹部に今後の都市設計を聞くレクチャーの時間を設け、地域課題を見据えたスタジアムを考えてきた。

実際のスタジアムはどうなるのだろう。個人的には、アウェイサポーターに喜んでもらうためにも、いわき市や双葉郡らしい風景が見える場所に建てられてほしいし、今後は、いわき市中の集会所や市民会館などが整理される時代に入るわけだから、スタジアムが日常的に集まれるような場にしてほしい。スタジアムを中心とした地域に人の流れが生まれ、新たな賑わいやコミュニティの創出にもつながるだろう。スタジアムとは「入れもの」だ。なかに何を入れるか、どのようなアクションを起こすかは市民次第と言える。どうか、スタジアムが完成する前だけでなく、完成した後も、スタジアムにたくさんの人たちが集まり、スタジアムをどのように使い倒すか、「スタジアムのあるどんな地域に暮らしたいのか」の議論を続けられるようにしてほしい。スタジアムを、スポーツだけでなく「まちづくり」の入り口にできれば、スタジアムから草の根の民主主義も育まれ、縮退の途上にあるいわきで、さらに光り輝く存在になるのではないだろうか。

身近にある政治への興味を育てる

草の根の民主主義を育てるのはもちろんスタジアムだけではない。私たちは投票という権利を有している。ちょうど今年の9月には、いわき市の市議会議員選挙が行われる予定だ。自分の意思を表明するまたとない機会である。そこで最後に、本稿で考えてきた縮退に紐づけながら市議会議員選挙について考え、本稿を閉じたいと思う。

個人的には、今年の市議会議員選挙は、近年では珍しく盛り上がりのある選挙戦になると期待している。漏れ伝わってくる情報を総合すると、新人候補、とりわけいわき市職員を退職した若手の候補が複数人立候補するようなのだ。すでにSNSを立ち上げたり、公式ウェブサイトで市政ビジョンを紹介している候補者も確認できた。思い出すのは、今年すでに行われた双葉郡富岡町で行われた町議会議員選挙だ。「まさか」と思える知人二人が立候補し二人とも当選。まちづくりの現場で長く活動してきた人たちが政治家となって議会に新しい風を吹き込む様を羨ましく感じた。いわきにも必要なものだろう。

正直なところ、これまでの市議会議員選挙は盛り上がりを感じられなかった。顔ぶれに変化がないからだ。議員は男性ばかり。多くは60歳以上で、同じ地域に暮らしているのでもなければ、人柄も政策も、普段の活動ぶりもよくわからない人たちばかり(勉強不足と言われればそれまでだが)。しかもそういう「よくわからない人」ほど多選している。若い世代もいないわけではないが、青年会議所や商工会青年部など既存の団体からステップアップして立候補する人が多く、候補の多くは自民党系の会派に所属するから、よく言えば安定性があるものの、変化に乏しい。

今回の市議会議員の争点は、まさに「縮退」だと思う。2040年、2060年、近い未来にこれだけネガティブな予測がなされているなか、候補者たちは、どのようないわき市の未来を提示できるのか。非現実的な成長論や楽観的な賑わい創出を掲げても現実的ではない。厳しい現実を地盤となる地域に突きつければ支持を得られないと考える候補も多いかもしれないが、政治は言葉だ。この縮退の現実を踏まえ、どのようないわきにしたいと考えているのかを言葉にしてほしい。私たちも、候補者がこの危機感をどのような言葉にするか。注目してみていきたい。

課題は山積している。子育て、教育、医療・福祉、産業振興、労働、さらには防災など幅広い個別のイシューがあるうえ、しかも、それらを人口減少や少子化をベースに考えなければならない。これからの時代を担う、しかも年々数が減っている若者世代に対する支援の目線は欠かせないだろう。また、この記事でも取り上げた地域の公共施設の再編についても、地域住民とのシビアな対話が求められる。他の地区よりも課題が深刻なのだ。候補者には、専門性、ビジョンの先見性、それを地域の住民と共に実践していく実行力など、さまざまな力が求められていくことになると思う。

問われているのは政治家だけではない。私たちももちろん問われている。気になるのは投票率だ。年々下がっていて、前回の市議選の投票率は44・77%。子どもたちに対する主権者教育、SNSなどを通じた投票の呼びかけなど、私たちにもできることはあるし、気になる候補の選挙事務所に顔を出してみたりするのも、意外とおもしろいかもしれない。市議会議員選挙は、自分たちの声が政治に反映され、それによって暮らしが変化する実感が得やすい政治の入り口だ。この基盤が崩れ、地域に関心を持つ人が減ってしまえば、縮退のスピードはさらに早まってしまうかもしれない。どうせ成長できない、お先真っ暗だと悲観するのではなく、自分の関わりしろを自分で開いていくことができれば、「縮退」は、「適正化」とも違う、もっとポジティブな響きのある別の言葉に置き換えられるかもしれない。人が減っているのだ。お世辞抜きで、私たちのアクションが地域にダイレクトに響いていくことになる。それは決して悪いことではないと、私には思えるのである。

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