環境省「ごみ屋敷調査」を読み解く

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環境省「ごみ屋敷調査」を読み解く

 環境省は昨年3月、「『ごみ屋敷』に関する調査報告書」を公表した。いわゆる「ごみ屋敷」問題が生じた場合の全国市区町村の対応状況などを調査したもの。同調査によると、県内では、ごみ屋敷に対応し得る条例を定めているのは郡山市と広野町の2つ。両市町が「ごみ屋敷対策条例」を定めた背景に迫る。

郡山市・広野町が関連条例を制定したわけ

広野町役場
広野町役場

 まずは環境省の調査結果について解説したい。

 報告書によると、調査目的は、「ごみなどが屋内や屋外に積まれることにより、悪臭や害虫の発生、崩落や火災等の危険が生じるいわゆる『ごみ屋敷』の事案については、条例等の制定や指導、支援を行うなど、各自治体が生活環境の保全や公衆衛生を害するおそれのある状況に対応している。本調査は、各市区町村における対応事例等の把握を目的として実施したもの」とされている。

環境省「『ごみ屋敷』に関する調査報告書」
環境省「『ごみ屋敷』に関する調査報告書」

 全国1741市区町村を対象に、2022年9月末時点での状況について、アンケート調査を実施し、全市区町村から回答を得た(回答率100%)。それを取りまとめ、公表したのが「『ごみ屋敷』に関する調査報告書」である。なお、環境省がこういった調査をするのは初めて。

 同報告書によると、2018年度から2022年度までの5年間で、「ごみ屋敷事案を認知している」と回答したのは全国に661市区町村(約38・0%)あった。この661市区町村の「ごみ屋敷事案」の件数は5224件。このうち、同期間内で改善した件数は2588件(約49・5%)だった。

 事案が改善した理由は「原因者への助言・指導等」、「原因者の転居・死亡等」、「関係部署・関係機関の連携による包括的支援」、「地縁団体や原因者の親族による清掃」など。

 一方で、改善されていないごみ屋敷は2636件に上る。全国では確認できているだけで、それだけのごみ屋敷が現存していることになる。

 ごみ屋敷の主な認知方法としては、最も多かったものは「市民からの通報」、次いで「パトロールによる把握」、「原因者の親族等からの相談」、「原因者からの相談」だった。「その他」としては、「福祉部署からの相談」、「空き家対策担当部署からの情報提供」、「警察、消防等関係機関からの情報提供」、「ペットの多頭飼育事案で認知」、「民生委員からの相談」、「地域包括支援センターやケアマネジャーからの相談」などの回答があったという。

 県内では、ごみ屋敷の認知件数が58件、うち改善件数が20件、現存件数が38件となっている。ただし、市町村別の状況などの詳細は公表されていない。

 ごみ屋敷への対応としては、最も多かったのは「現地確認」、次いで「原因者に対する直接指導」、「関係部署と連携した包括的サポート」だった。「その他」としては、「ごみ出しや分別に関する案内や業者の紹介」、「土地所有者や管理会社等への報告・相談」などの回答があったという。

 このほか、「敷地内のごみを撤去」と回答したのが114市区町村あり、このうち原因者等の同意を得て撤去したのは112市区町村(98・2%)。「敷地外に散乱したごみを撤去」と回答したのが96市区町村あり、このうち原因者等の同意を得て撤去したのは78市区町村(81・3%)だった。

 本来であれば、「原因者(家主)等の同意なし」では対処できないが、それを可能としているのは、条例の制定によるところが大きい。ごみ屋敷に対応することを目的とした条例が制定されているのは101市区町村(全体の5・8%)。このほか、5市区町村が「制定予定あり」、50市区町村が「検討中」で、1585市区町村が「制定予定なし」だった。

 ごみ屋敷への対応で、条例上で重視している点としては、最も多かったのは「周辺住民等への影響」で、次いで「悪臭・害虫等の有無」、「堆積している廃棄物・物品の量」、「堆積している廃棄物・物品の種類」など。「その他」としては、「火災発生の危険性」、「通行上の危険性」等の回答があったという。

 以上がおおまかな調査結果だが、同調査によると、県内では、ごみ屋敷に対応し得る条例を制定している市町村として、郡山市と広野町が紹介されている。

広野町「環境基本条例」の中身

 このうち、広野町は2022年9月に「環境基本条例」を策定した。

 同町と言えば――東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示区域に指定された。もっとも、同町は広義では「避難指示区域」に指定されたが、実際は「緊急時避難準備区域」で、同じ双葉郡の富岡町や大熊町、双葉町などとは違って、強制的に避難を余儀なくされたわけではない。「緊急時に備えて、避難できる準備をしていてください」といった位置付けで、避難しなくてもよかったのである。

 それでも、情報が錯綜し、生活物資などが入って来にくい状況だったことから、当時町長の判断で、住民に避難を促し、町役場機能も一時的に町外に移転した。

 原発事故発生から約半年後、2011年9月30日に緊急時避難準備区域は解除されたが、その後も町外で避難生活を送る人は多かった。

 一方で、同町はほかの避難指示区域とは違い、法律上は一足早く何の規制もなく、人が住めるエリアとされたことから、原発事故収束作業や復旧・復興作業の最前線基地となった。そのため、新たな住環境が整備されていく半面、もともとは住民が住んでいたが、しばらくはそこには人が戻らず、誰も住んでいない住宅が存在するようになった。当然、人がいない住宅は朽ち果てていった。

 同町の条例制定にはそんな事情もあるのかと推察したが、町環境防災課によると、「環境基本条例は、基本的には町の景観をよくしましょう、というもので、何か特定の事例への対応を意識したものではありません」とのこと。

 現在は、同条例に基づき、町の豊かな環境を持続的に守るため、具体的な施策や町全体としての取り組みを示す「広野町環境基本計画」の策定を進めているという。

 具体的には「広野町環境審議会」を設置し、環境保全や創造に関する施策を総合的・計画的に推進するために必要な調査や協議を行っている。同審議会の会長には早稲田大学環境総合研究センターの永井祐二教授、副会長に広野町公害対策審議会の秋田英博氏が就いている。同審議会は昨年9月に1回目の会合が開かれ、2024年度中の計画策定に向けて協議を進めているという。

 「その中で、ごみ屋敷が発生した場合の対応をどうするかといったことが盛り込まれる可能性はありますが、審議会での話し合い次第になるので、現状では何とも……」(町環境防災課)

 少なくとも、「実際にこういった問題が起きているので、それに対応する根拠が必要」ということでの条例制定、それに基づく基本計画策定ではないようだ。

郡山市の「ごみ屋敷問題」

 一方で、もう1つの関連条例制定自治体であるである郡山市は、明確に「特定の事例への対応」を目的に条例が制定された。

 本誌2005年11月号に「郡山に突如出現したごみ屋敷」という記事を掲載した。同市咲田2丁目、赤木町の徒歩10分圏内に4軒のごみ屋敷があり、所有者は同一人物ということで、かなりの注目を集めた。

 以下は同記事より。

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 A氏(ごみ屋敷の主)は同市赤木町出身で、実家はごみ屋敷のすぐ近くにある。父親は元教員で、母親は自宅でお茶と生花の教室を開いていた。A氏は大学卒業後、NHKに勤務。技術畑を歩んで、数年前に定年退職した。推定するに、年齢は65歳ぐらいか。独身。きょうだいは、千葉県で教員をしている弟と、母親の教室を継いだ妹がいる。父親と母親は2人で市内の別な場所に住んでおり、妹もその近くに家を構えている。

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 4軒のごみ屋敷には、袋に入ったペットボトルや空き缶、紙くず、不燃物、古新聞、古雑誌、段ボール、プラスチック製のかご、棚、木屑の束などが住宅を覆うように散乱していた。

 当時の本誌取材に、家主は「おたくには関係ないことだ」、「(ごみは)私が集めたんじゃない。どこからか人が来て、勝手に不法投棄していくんだ」、「これは私の財産だ」などと語っていた。

 一方、近隣住民は、悪臭や害虫の発生などに加え、「もし、放火でもされたら、延焼は免れないだろう。その怖さがある」、「近隣の賃貸物件はなかなか入居者が埋まらなくて困っている」といった〝被害〟を訴えていた。皆、迷惑していたのだろう。何とかしてほしい、との思いから、本誌取材にいろいろと状況を教えてくれた。

 一方で、前述の記事発売後、テレビ局、週刊誌などから問い合わせが相次いだ。以降、テレビのワイドショーや週刊誌などで連日のように取り上げられた。

 テレビ局の取材班に対して、ごみ屋敷の主は、自分を映すカメラを力づくで押さえ付けようとするなど威圧的な態度を見せることもあった。その一方で、特定のリポーターや記者には徐々に本音で話すようになり、町内会や市の説得に耳を貸すようになった。そうして、少しずつ態度が軟化し、本誌報道から約半年後の2006年6月にはボランティアの協力でごみの一斉撤去が行われた。ごみの量は50㌧に上った。

 ただ、その後もトラブルは絶えなかった。同年9月には4軒のうちの1軒で出火騒動が起こり、木造2階建ての1階台所や居間などを焼いた。ケガ人はいなかったが、一歩間違えたら大参事になっていた。その際、判明したのは、撤去されたのは建物の外にあったもののみで、室内のごみは撤去されていないことだった。

 さらに、撤去からしばらくすると、また敷地内にごみが置かれるようになった。

 そのため、郡山市は2007年4月、ごみ集積所からの持ち去り行為を禁止した「ごみ持ち去り防止条例」を施行し、家主のごみ集め防止策を講じた。

 それでも抑止にはならず、同年7月には、近隣住民がごみを片付けるよう注意したところ、家主が暴行を加え、警察に逮捕された。家主には執行猶予付きの判決が下された。

 こうして、なかなか解決の糸口が見つからない中、郡山市は2015年12月に「建築物等における物品の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」を施行した。いわゆる「ごみ屋敷条例」だ。つまり、この問題に対応するために関連条例を制定したのである。

 結局のところ、はたから見たら、どう考えても「ごみ」でも、家主が「財産」と主張している以上、個人の敷地内のごみを行政がどうこうすることはできない。その問題を条例の制定によって対処したわけ。

ごみ屋敷対応の先進地に

火災にあったごみ屋敷(2016年10月撮影)
火災にあったごみ屋敷 (2016年10月撮影)

 市HPの同条例の紹介文には、「住宅などの敷地に大量のごみ等を溜めて周辺の環境が著しく損なわれている状態にしている者に対して、市が指導などを行いそれでも改善されないときには、最終的に市が本人に代わり強制的に行政代執行を行いごみ等を撤去します。なお、行政代執行にかかった費用については本人に請求されます」と書かれている。

 対象者は「物品(ごみ等)を堆積することにより不良な状態を発生させている者(法人を除く)」で、ここで言う「不良な状態」とは「物品(ごみ等)の堆積によりねずみ、昆虫(害虫)若しくは悪臭が発生すること又は火災発生のおそれがある等のため、当該物品が堆積している土地の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態をいいます」と定義している。

 これにより、庭などの外に置かれたごみは強制的に撤去できるようになった。ただし、住居(建物)の中は対象外。2016年3月には、同条例に基づき、実際に強制撤去(行政代執行)が実行された。ごみ屋敷の行政代執行の事例はそれほど多くないが、同市はその1つとなったのである。

 それから約半年後の同年10月、ごみ屋敷で火災が発生し、家主は焼死した。もし、強制撤去(行政代執行)が行われていなかったら、屋外のごみに燃え広がり、大惨事に発展していたかもしれない。

 市3R推進課によると、同条例に基づく行政代執行はその1例のみ。もっとも、前述したように、問題の家主は、4軒のごみ屋敷を所有していたから、実際には1例4件ということになる。撤去にかかった費用は当人から回収できた。

 一方で、その件以外でもごみに関する相談はいくつかあるという。

 「町内会や賃貸物件の貸主などから、『あの家のゴミを片付けてほしい』といった相談は、この間いくつかあります。ただ、ほとんどの場合は話し合いで解決できています。行政代執行は、悪臭や害虫の発生、火災の危険性、周辺通行への障害などが確認できた場合のみ、本当に最終手段として行うもので、あの件以降は出ていません」(市3R推進課の担当者)

 同市の条例では、調査→指導・勧告→命令→氏名等の公表といった段階があり、それでも改善されない場合は行政代執行となる。相談・苦情などはくだんの「ごみ屋敷問題」以外にもあるようだが、行政代執行に至る前に話し合いで解決できているという。

 条例の制定にあたっては「大阪市の事例を参考にした」(同担当者)とのことだが、前述したようにごみ屋敷の行政代執行(強制撤去)を実行した数少ない事例の1つになったことから、「他県の市町村からの視察・問い合わせなどもありました」(同)という。図らずも、ごみ屋敷対応の先進地になったわけ。

 一方で、物やごみを溜め込む行動、そういった状況に陥ることを「ディオゲネス症候群」(別名・ごみ屋敷症候群)というそうだ。社会的孤立、進行性認知症、日常生活機能の低下と関連しており、一人暮らしの高齢者に多いという。誰にでも起こり得ることで、対策は簡単ではないが、これからの社会では、そういった部分への適切な支援・精神的ケアが必要になってくるのだろう。

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