北塩原村のラビスパ裏磐梯が今年1月末で事業停止、3月末で廃止になる。同村昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に開かれた全員協議会で、遠藤和夫村長が明かした。一方で、正式な廃止には関連条例を廃止する必要があり、ある村民は「今後の村の対応次第では、その過程で、一波乱あるかもしれない」との見解を示す。(末永)
不採算施設を切り捨て「村の駅」を整備!?
ラビスパ裏磐梯は、ウオータースライダーを備えたプール、天然温泉、食事・休憩スペース、フィットネスジム、山塩などの同村の名産品を扱うショップがある健康増進複合施設で、1996年にオープンした。それから27年ほどが経ち、建物や内部設備の老朽化が課題となっていた。 顕著なのは、プールゾーンが2022年7月中旬から営業休止していること。同施設HPには以下のお知らせ(2022年7月14日付)が掲載されている。
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現在当館では老朽化に伴う設備修繕の必要から、プールゾーンの営業を休止しています。それに伴いウォータースライダーも運休とさせていただいております。つきましては今期のプール営業は行っておりません。また、再開時期も未定です。
現在は日帰り温泉とお食事コーナーのみの営業を行っております。
なお、プールゾーン再開の見通しがつきましたらこちらでご案内させていただきます。
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2022年の夏休み期間直前から、プールゾーンが使えず、再開のメドが立っていなかったのだ。
当時、ある関係者は次のように話していた。
「ラビスパ裏磐梯のプールが休止している原因は、ボイラーが故障していることに加え、天井部分が劣化によって落下の危険があるためです。もっとも、そうした兆候は以前からありましたが、何ら対策を講じてこなかった。その結果、一番客入りが見込める夏休み期間にプールが営業できなくなったのです」
この関係者によると、2011年の東日本大震災とその1カ月後に起きた大地震により、いわき市のスパリゾート・ハワイアンズが営業を休止したほか、東電福島第一原発事故の影響で海水浴ができなくなったことなどから、夏休みの子ども会のイベントなどで、ラビスパ裏磐梯を利用するケースが増えたという。奇しくも、震災・原発事故によって認知度を高めた格好だ。
「そういった流れから、夏休みの子ども会のイベントなどで、その後(スパリゾート・ハワイアンズ営業再開後や海水浴ができるようになってから)も、ラビスパ裏磐梯を継続して使ってくれているところもあるが、夏休みにプール営業ができなくなった。かつて、ほかのところからラビスパ裏磐梯に切り替わったように、一度行き先が変わると、翌年にまた元のところに戻すのは簡単ではない。そういう意味でも大きな損失です」(前出の関係者)
ラビスパ裏磐梯は村の施設で、運営会社は第三セクターの㈱ラビスパ。同社は村が1億3000万円、村商工会が100万円を出資しており、村の出資比率は99%超。社長には遠藤和夫村長が就いているほか、議会からも役員(取締役、監査役)が出ている。ラビスパ裏磐梯のほか、道の駅裏磐梯、裏磐梯物産館の指定管理を委託されている。
同社が運営する3施設の修繕費等は村の予算から支出されており、村としてどうするか、という問題だったのである。
実際、議会では以前から「今後、ラビスパ裏磐梯を改修すべきかどうか」ということが議論されてきた。前出・関係者の証言にあったように、同施設ではボイラーの故障と、天井部分に落下の危険性があることが問題となっていたが、その後、ボイラーは修理済み。一方で、落下の危険性があるプールゾーンの天井部分を含め、老朽化した施設の改修費用には10億円ほどかかる見込みで、なかなか結論が出せず、昨年9月に行われた全員協議会では「保留」とされていた。
議会での遠藤村長の説明
ところが、昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に行われた全員協議会では「廃止」の意向が伝えられた。以下は、全協での遠藤村長の説明の要約。
「ラビスパ裏磐梯については、9月29日の議会全員協議会で、人口減少対策、子育て対策充実、住環境向上、福祉充実、観光人口拡大を優先して実行するため、大規模改修は保留ということを、議員の皆様に説明させていただきました。ただ、ラビスパ裏磐梯の当期間の経費増、営業収支のマイナス拡大から、判断を先延ばしにすることはできないと考え、12月6日、㈱ラビスパ取締役会での協議を踏まえ、ラビスパ裏磐梯の今後のあり方について総合的に検討した結果、来年(2024年)1月末日に営業を停止し、3月末日をもって廃止をするとの判断に至りました」
「廃止の理由は、①人口減少対策として、子育て対策、住環境向上、福祉の充実、観光人口拡大を最優先して実施するため、②老朽化した建物設備の修繕に多額の費用を要するため、③将来を見据えたとき、営業収支を維持するのが難しいため、というものです。今後の進め方は、㈱ラビスパ臨時株主総会を開催し、営業停止に向けた準備を12月から1月までしていきたい。(2024年)1月には㈱ラビスパの通常株主総会を開催し、1月31日をもってラビスパ裏磐梯の営業を停止します。3月には関係条例改正ということで、温泉健康増進施設条例の廃止や、温泉健康増進施設指定管理者の指定変更などを行います」
前回の「保留」から、突如「廃止」の方針が示されたことに、議員からは「ラビスパ裏磐梯の廃止を㈱ラビスパの取締役会で決めていいのか」、「議会軽視ではないか」といった指摘があった。この点については何度か問答があった後、最終的に遠藤村長から順序が逆だったことに対する謝罪があり、それで収まった。
このほか、議員からは「この2年間で、ボイラー修理や、改修に向けた調査費、設計費などで約1億円を支出している。廃止するのなら、その前に決断すべきだったのではないか。無駄な経費をかけたうえでの決断は背任行為に当たる」との指摘もあった。さらに、現在進行形で設計委託を行っており、その結果はまだ出ていない。3月までにはそれが示される予定で、「それを待ってからでも良かったのではないか」との意見も出た。
ただ、遠藤村長は「この間の経費増で先延ばしにできない」として、このタイミングで決断したことを明かし、理解を求めた。
村内ではラビスパ裏磐梯不要論も
一方で、村内では以前から「ラビスパ裏磐梯不要論」があった。例えば、2022年6月議会の一般質問では、伊藤英敏議員が「(ラビスパ裏磐梯の建設費を含めて)40億円が使われている。村の年間予算約30億円をはるかに超える金額だ。このまま継続して営業するのか。金額に見合った効果(村民の健康増進)があったのか」、「すでに40億円が使われ、今後さらに(修繕費等で)十数億円をつぎ込み、施設を継続させることが、本当に村のため、村民のためになるのか」といった質問を行った。
このほか、小椋元議員(当時)は修繕計画について質した後、「ラビスパ裏磐梯はどれだけやっても黒字にはならないのだから、再建計画はやめて、時間はかかるかもしれないが、取り壊した方がいい。村長の考えを問う」と村長の見解を求めた。
こうした質問に、遠藤村長、村当局は「(村民の健康増進等の)効果はあったと思っている」、「ラビスパ裏磐梯をよみがえらせ、多くの人に利用してもらえるよう構想を作り上げていく」、「村内にはスポーツ施設が整いつつあり、そこに温水プールの施設があってこそ、さらに人を呼び込むことが可能と考え、新たな構想を計画して、早い段階で示したい」などと答弁していた。
その後も、小椋元議員は、昨年4月に任期満了で引退するまで、議会のたびに「ラビスパは廃止すべきでは」と訴え続けた。
直近では、改選後の昨年9月議会で、遠藤春雄議員が「村の財政状況や近隣市町村との競合から見ても、工事は再度検討し、教育や子育て政策に力を入れるべきではないか」と質問した。
これに対し、遠藤村長は「ラビスパ裏磐梯の大規模改修は、目まぐるしく変化する環境下ですから、皆様と協議する場も考えながら進めていきたいと思っています」と答弁していた。
この間の遠藤村長、村当局の答弁を見ると、改修費用が10億円規模になるだけに、慎重に進める必要はあるものの、少なくとも廃止は考えていない、といった感じだった。ただ、今回、遠藤村長は前述の事情から方針転換し、廃止を打ち出したのである。今後は、1月末の事業停止後、清算業務に入り、3月末で廃止するという。
もっとも、ラビスパ裏磐梯は村の「温泉健康増進施設条例」に基づき設置されているもので、3月末の廃止に当たり、条例廃止を議会に諮ることになる。それが可決されて、初めて廃止決定となる。
民間信用調査会社によると、㈱ラビスパの売上高は、2016年から2018年までは3億5000万円で推移していたが、2019年は2億5000万円、2020年から2022年は1億8000万円に落ち込んでいる(決算期は10月)。なお、これは道の駅、物産館を含んだ㈱ラビスパ全体の売上高でラビスパ裏磐梯単体の売上高は不明。加えて、㈱ラビスパの当期純利益も不明だが、前出の関係者によると「もともと、道の駅は黒字だが、ラビスパ裏磐梯と物産館は苦戦していた。そこに今般のコロナ禍の影響で、全体的に落ち込んでいる」という。
一方で、遠藤村長は12月8日の全員協議会でこうも述べていた。
「(廃止となる)4月以降については、例えばほかの事業者等で利用したいというところがあれば、公募するというのも一つの手段かなと考えています。そういったところが出て来なければ、一定の期間を考えて、その後はまた議会の皆様と協議をさせていただきたい」
どこかが引き継いで営業してくれるなら、あるいは企業の研修・保養所などとして使いたいというところがあれば、公募して貸し出したり、売却することも1つの手法として考えたいということのようだ。
遠藤村長に聞く
12月8日の全員協議会終了直後、遠藤村長に話を聞いた。
――㈱ラビスパの会社(第三セクター)自体は存続して、道の駅裏磐梯や裏磐梯物産館の指定管理委託は継続するということでいいのか。
「そうです」
――ラビスパ裏磐梯の従業員は?
「道の駅、物産館に異動してもらうことになります」
――ラビスパ裏磐梯の土地・建物は村の所有か。
「そうです」
――議会(全協)では「どこかが引き継いで営業してくれるなら」ということを話していたが。
「そういうところがあれば、それも1つの手段かな、と」
――そういうところが出て来なければ、取り壊しということも?
「すぐに取り壊しというのは考えていません」
――村民への周知は? 村民だけでなく、例えば子ども会のイベントなどでも、ラビスパ裏磐梯を利用しているところがあったと聞く。そういったところや、旅行会社や旅行サイトなどへの周知も必要になると思うが。
「その辺はこれからです」
近年、行政(第三セクター)が運営する温浴施設が廃止されたり、民間企業に譲渡されたり、といった事例が全国的に増えている。ラビスパ裏磐梯は温浴施設にウオータースライダーを備えたプールがあり、一般的な行政系温浴施設よりも規模が大きい。村では「村民の健康増進に役立った」との見解を示しているが、費用対効果はどうだったのか等々についてはさらなる検証が必要になろう。
一方で、ある村民はこんな見解を示す。
「おそらく、ラビスパ裏磐梯の廃止については、実際に赤字続きだったことからも、議会は反対しないだろう。一方で、遠藤村長は『村の駅』を整備したいという構想を持っています。その整備費用は数億円規模に上ると見られるが、どれだけ採算性があるのか分からない。せっかく採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するとなったら、議会はどう判断するのか。それ次第では、もう一波乱あるのではないかと思います」
「村の駅」については、具体的なことは表に出ていないが、昨年6月議会の一般質問でのやり取りで、遠藤村長は「村民の生活に欠かせない生鮮食品、生活用品の販売、村民が生産した農産物を購入できる直売施設、村内の食材を利用した飲食店、村民や観光客が気軽に立ち寄れる交流施設などを備えた複合施設にしたい」と構想を明かしている。
整備地は同村南西部の北山地区を考えているようだ。同村には裏磐梯地区に道の駅裏磐梯があるが、類似施設を北山地区にもつくりたい、ということである。
昨年12月議会では、「村の駅」関連の補正予算を追加で計上しようとしたが、議員の反発があり、取り下げた経緯がある。背景には、前出の村民が語っていたように
「採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するのはいかがなものか」といったことがあるのだろう。
この村民によると、「今後の村の対応次第では、ラビスパ裏磐梯の問題と絡んで、もう一波乱あるかもしれない」とのことだが、その辺の動きも注視したい。