国内には12のプロ野球チーム(球団)があり、各球団には親会社が存在している。それら親会社(関連会社を含む)の業種は実に幅広い。プロ野球が好きな人も、そうでない人も、知らず知らずに各球団の親会社が提供する商品・サービスなどを購入・利用しているものと思われる。むしろ、プロ野球の親会社が提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいのではないか。それは地元球団がない福島県でも例外ではない。そこで、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」という仮説のもとで検証してみた。
地元球団がない県内でも商品・サービス多数
今年は3月にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催され、日本代表・侍ジャパンが世界一に輝き、大きな盛り上がりを見せた。それに牽引されるように、プロ野球(セ・リーグ、パ・リーグの公式戦全858試合)の観客動員数は約2507万人(1試合平均約2万9000人)で、前年度を400万人ほど上回った(数字は日本野球機構=NPB発表に基づく)。
もっとも、2020年から2022年は新型コロナウイルスの影響で入場制限などがあったから、「前年比400万人増」というのは参考外。コロナ前の2016年から2019年を見ると、年間観客動員数は2500万人前後で推移している。つまり、2023年は完全にコロナ前に戻ったことになる。
いずれにしても、年間800以上の興行で、1興行当たり約3万人を動員できるのだから、国内屈指のコンテンツと言っていいだろう。そのほか、直接球場に行かなくても、近年はネット配信で試合を見ることができ、その利用者やプロ野球関連のSNSなどの投稿・閲覧数もかなりの数に上る。
そんな〝キラーコンテンツ〟と言えるプロ野球だが、広い視点で見ると、何気ない普段の生活でも何かしら関係している可能性が高い。というのは、プロ野球チームにはそれを運営する会社(球団)があり、その上に親会社が存在しているのだが、それらが提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいからだ。
別表は、チーム、球団(運営会社)、親会社をまとめたもの。
プロ野球12球団の親会社(2023年の順位順)
セントラル・リーグ
チーム名 | 球団名 | 親会社 |
---|---|---|
阪神タイガース | 阪神タイガース | 阪急阪神ホールディングス |
広島東洋カープ | 広島東洋カープ | マツダ(※本文注) |
横浜DeNAベイスターズ | 横浜DeNAベイスターズ | ディー・エヌ・エー |
読売ジャイアンツ | 読売巨人軍 | 読売新聞グループ |
東京ヤクルトスワローズ | ヤクルト球団 | ヤクルト本社 |
中日ドラゴンズ | 中日ドラゴンズ | 中日新聞社 |
パシフィック・リーグ
チーム名 | 球団名 | 親会社 |
---|---|---|
オリックス・バファローズ | オリックス野球クラブ | オリックス |
千葉ロッテマリーンズ | 千葉ロッテマリーンズ | ロッテホールディングス |
福岡ソフトバンクホークス | 福岡ソフトバンクホークス | ソフトバンクグループ |
東北楽天ゴールデンイーグルス | 楽天野球団 | 楽天グループ |
埼玉西武ライオンズ | 埼玉西武ライオンズ | 西武ホールディングス |
北海道日本ハムファイターズ | 北海道日本ハムファイターズ | 日本ハム |
なお、広島東洋カープの親会社には自動車メーカーの「マツダ」と記載したが、正確には少し違う。同球団は「特定の親会社を持たない市民球団」という位置付け。ただ、マツダの創業者一族(松田一族)が広島東洋カープの株式の大部分を所有しており、チーム・球団名に入っている「東洋」は、マツダの旧社名である「東洋工業」から取ったもの。
各球団には「球団社長」がおり、その上に親会社のトップである「オーナー」が存在する。広島東洋カープのオーナーは代々松田一族から出ている。そういった事情から、広島東洋カープは対外的には「親会社は存在しない市民球団」とされているが、実質、マツダ(松田一族)を親会社とみなすことができる。
表を見ると分かるように、プロ野球チームは、地名、親会社名、愛称で構成されている。これに対し、サッカー・Jリーグのチームは、地名と愛称のみで親会社名は入らない。これはJリーグの方針によるもの。そこが野球とサッカーで違うところ。
12球団のうち、楽天は「東北」と称しており、東北地方のチームであることを謳っているが、福島県ではそれほど身近ではない。それ以外は北海道、首都圏、名古屋、大阪圏、広島、福岡と、大都市に集中しており、より遠い存在と言える。だが、前述したように広い視点(親会社の商品・サービス)で見ると、実は県民生活においても無視できない。
食品系は利用率高め⁉️
親会社は、いくつかのカテゴリーに分類できる。
分かりやすいのは食品系。東京ヤクルトスワローズ、千葉ロッテマリーンズ、北海道日本ハムファイターズの親会社がそれに該当する。それぞれの主力商品を挙げてみる。
ヤクルト▽ヤクルト、ミルミル、ジョア、ソフール、タフマン
ロッテ▽コアラのマーチ、パイの実、キシリトールガム、ブラックブラックガム、チョコパイ、雪見だいふく、モナ王
日本ハム▽ロースハム、シャウエッセン、豊潤、バニラヨーグルト(関連会社の日本ルナ)、ロルフ・スモークチーズ(同・宝幸)
県内のスーパー、コンビニなどどこにでもある商品で、各社の商品を一度は口にしたことがあるはず。筆者は、クルマでの移動中によくブラックブラックガムを噛む。
ヤクルトの「ヤクルト1000」は最近のヒット商品。昨年初めごろに話題になり品薄状態になった。ブームが落ち着いたころに何度か買って飲んでみたが、謳い文句の「ストレス緩和」「睡眠の質向上」に効果があったかは不明。毎日続けなければ実感できないということか。
日本ハムは、前述の商品のほか、外食産業に食肉・加工品などを卸している関連会社(北海道・東北エリアは東日本フード)があるから、それこそ知らない間に〝お世話〟になっている可能性が高そう。
次にIT・通信系。横浜DeNAベイスターズ、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルスの親会社が該当する。
ディー・エヌ・エーは、スマートフォン用ゲームの開発・配信が主業。代表作は、「ポケモンマスターズEX」(ポケモン社との共同開発)、「ファイナルファンタジー レコードキーパー」(スクウェア・エニックス社との共同開発)、「逆転オセロニア」など。このほか、関連会社にオークションサイトの運営「モバオク」がある。ゲーム好きなら利用したことがあるだろう。
ちなみに、同社創業者の南場智子氏は横浜DeNAベイスターズオーナーで、NPBオーナー会議議長、日本経済団体連合会副会長を女性で初めて務めた人物として知られる。デジタル庁デジタル臨時行政調査会構成員にも就いている。
ソフトバンクグループは子会社が1280社、関連会社が573社あり、事業範囲が膨大過ぎて把握しきれない。分かりやすいところで言うと、携帯キャリアサービスの「ソフトバンク」や、通信サービスの「LINE」、キャリア決済の「PayPay」、インターネット検索エンジンほか各種サービスを提供している「Yahoo」など。ソフトバンク携帯のシェアは約20%だが、スマホ所有者の80%以上がLINEを利用しているというから、同社のサービスを使っている人が多いのは間違いない。そのほか、前述のように、子会社・関連会社が膨大だから、知らず知らずに同社グループのサービスの世話になっている、ということがあると思われる。
楽天グループは、携帯キャリアサービスの「楽天モバイル」、国内最大級のインターネットショッピングモール「楽天市場」などのほか、「楽天ブック」、「楽天カード」、「楽天トラベル」などのサービスを提供している。筆者は地方競馬全場の馬券が買えて、レース映像が見られる「楽天競馬」を利用している。サービスの大部分は「楽天〇〇」という名称だから、利用している人はすぐにピンと来るはず。
オリックスグループの「御宿 東鳳」
読売ジャイアンツと中日ドラゴンズの親会社はメディア系という分類で括ることができる。
読売新聞グループの「読売新聞」は全国シェアではトップだが、福島県内では約6%で、福島民報(約30%)、福島民友(約20%)の地元2紙には及ばない。ただ、関連会社に日本テレビ(日本テレビホールディングス)があり、避けて生活するのは不可能と言っていいレベル。そのほか、スポーツ紙の「スポーツ報知」も発行している。福島民友、福島中央テレビにも資本が入っている。
名古屋市に本社を置く中日新聞社が発行する「中日新聞」は東海地区のブロック紙。愛知県では50%近いシェアを誇るほか、ほかの東海圏(岐阜県、三重県)でも約40%のシェアに上る。また、スポーツ紙の「中日スポーツ」を発行しているほか、「東京新聞」を傘下に加えている。福島県で生活していたら、直接的に見ることはないだろうが、ネット配信記事などを見ることはあろう。そのほか、少々強引な見方をすると、大相撲名古屋場所(毎年7月開催)は日本大相撲協会との共催になっており、名古屋ウィメンズマラソンの主催者にも名を連ねているから、テレビを通して好きな力士、選手を応援する行為が、中日新聞社の〝お世話〟になっているということもできなくはないか。
広島東洋カープのマツダは、県内各所に販売店がある。トヨタや日産、ホンダと比べるとシェアは低いが、固定ファンが存在する。知り合いのマツダユーザーは「好きな車種があるから。あとは内装がいいんだよね」とのこと。広島東洋カープに関しては、マツダのクルマに乗っているかどうか、だけのつながりか。
オリックスバファローズの親会社は、eダイレクトの預金・信託、オリックス銀行のカードローン、不動産ローンのほか、生命保険や自動車保険、オリックスレンタカー・カーシェア、ICT関連機器や医療機器のレンタル・販売、商用車・トラックのレンタルなどの事業を展開している。同社も事業範囲がかなり幅広いため、気付かない間に関わっているということがあるかもしれない。
会津・東山温泉の「御宿 東鳳」は、オリックスの関連会社「オリックス・ホテルマネジメント」が運営している。今年、オリックスバファローズは、パシフィック・リーグ3連覇を果たしたが、同温泉宿のHPを見る限り、「優勝記念特別プラン」のようなものはなかった。
関係性が薄い鉄道系
阪神タイガースと西武ライオンズの親会社は鉄道系で括れる。
阪急阪神ホールディングスは近畿地方を中心に運行する阪急電車、阪神電車の鉄道事業のほか、バス、タクシー、旅行などの事業を手掛けている。そのほか、関連会社で不動産事業や百貨店経営などがあるが、どれも近畿圏が中心。唯一、旅行業の関連会社「阪急交通社」の営業所が福島市にあるが、同社HPの同営業所の紹介では「福島営業所は常勤ではございません」、「週に1回~2回、仙台支店のスタッフが訪問します」、「営業所内にて旅行カウンターはございません」、「受付業務は行っておりません」とあり、問い合わせ番号も仙台市の番号が記載されている。福島県内に住んでいたら、最も関わりが薄い会社かもしれない。
ちなみに、筆者は阪神タイガースファンで、専門の有料チャンネルに加入しており、試合だけでなく、キャンプ情報やグラウンド外の情報なども常にチェックしている。そのため、普段の生活とは無関係でも、筆者にとっては一番身近な存在というのは余談である。
西武ホールディングスは、東京北西部と埼玉南西部を中心に「西武鉄道」を運行しているほか、ホテル、ゴルフ場、スキー場の運営などを行っている。東北地方では、仙台うみの杜水族館(宮城県)、十和田プリンスホテル(青森県)、雫石プリンスホテル、雫石スキー場、雫石ゴルフ場(岩手県)などがあるが、福島県内には関連施設はない。
西武グループは創業者の堤康次郎氏が1964年に亡くなった数年後に、鉄道部門の「西武グループ」と、西武百貨店などを運営する流通部門の「セゾングループ」に分社した。西武ライオンズは西武グループの傘下だが、西武ライオンズが優勝した際はセゾングループの西武百貨店や西友などで「優勝セール」が行われていた。そこからすると、両社が完全に無関係になったわけではない。県内では郡山市と伊達市に西友の店舗がある。
もっとも、2000年代に入り、セゾングループは解体され、中核だった西武百貨店は、同じく百貨店の「そごう」と合併して「そごう・西武」になった。その「そごう・西武」は2005年にセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入ったが、今年8月にアメリカの投資運用会社「フォートレス・インベストメント・グループ」に売却された。
西武との合併前の話だが、そごうについては、かつて郡山市に出店計画があった。駅西口再開発の目玉として、1983年にそごうを核店舗とする駅前再開発施設の建設計画があったのだ。しかし、1985年の市長選で同計画慎重派の青木久氏が当選。計画の見直しを行う過程で地権者と軋轢が生じ、これを受けそごうは出店を断念した。その後、2001年に郡山駅前再開発ビル「ビッグアイ」が開業した経緯がある。
もし、あの時、そごうが出店していたら――。開業から十数年後にそごうと西武が合併、後にセブン&アイ・ホールディングスの傘下入り……といった中で、どこかで撤退していた可能性が高い。結果的に良かったのか悪かったのかは分からないが、また違った未来があった。
最後は少し脱線してしまったが、こうして見ると、プロ野球に興味がある・ないに関係なく、地元を本拠地とする球団がない福島県で生活していても、意外と生活に関わっていることがうかがえよう。関係性の大小はあるだろうが、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」説は、〝立証〟と言っていいのではないか。