(2022年8月号)
二本松市の行政連絡員の委託料が高過ぎる――そんな投書が本誌編集部に寄せられた。〝相場〟は判然としないが、実際どうなのか。
手渡し支給は改めるべき
《私自身3~4万位かと思っておりましたが、遥か想像を絶する金額にただただ驚いておりますが、本当に今のままでよろしいのでしょうか疑問です》(原文のまま)
6月下旬、本誌編集部に届いた葉書にはそんな一文が書かれていた。
「政経東北愛読者」を名乗る人物は、葉書の中で二本松市の行政連絡員に支払われている委託料を問題視していた。同市議会3月定例会で石井馨議員が委託料に関する質問をしており「詳細は石井議員に問い合わせてほしい」とある。
ただ、2期務めた石井氏は2022年6月5日投票の市議選に立候補せず、議員を引退していた。石井氏に連絡すると
「私はもう議員じゃないし、次の就職先も決まったので取材は遠慮したい。でも、あの委託料は問題あると思うよ」
と話す。詳細は同市議会のホームページで公開されている会議録を見てほしいというので確認すると、石井氏は3月4日の一般質問で次のような質問をしていた。
①行政連絡員の委託料は均等割プラス世帯割となっているが、規定通り支給されているのか。
②委託料の額が近隣自治体と比べて高いと思われるが、市はどう認識しているのか。それを是正する考えはあるのか。
③委託料は行政連絡員に現金による一括支給となっているが、公金の支出という点を考慮すれば口座振り込みに変更すべきだ。
行政連絡員とは「市民と市政を結ぶ連絡調整役」(市生活環境課の資料より)で、行政区長が兼務しているケースがほとんどだという。市内には行政区が354あるので、行政連絡員も同人数いることになる。
行政連絡員の主な職務は▽市民との連絡に関すること、▽広報紙や市政に関する周知文書の配布、▽市が行う各種調査や加入募集事項の取りまとめ、▽その他市長が特に必要と認めること。任期は1年で再任は妨げないとしており、職務に対しては市が「委託料」を支払っている。支払い方法は安達・岩代・東和地区の行政連絡員には年1回一括、二本松地区の行政連絡員には年2回(7、2月)に分けて支払われている。
葉書の差出人は、この委託料が高過ぎると指摘しているわけだが、実際どうなのか。市生活環境課の伊藤雅弘課長に話を聞いた。
「委託料は、行政連絡員に一律4万円を支払い(均等割)、そこに世帯数に応じた金額(世帯割)を加算しています」
世帯割は7段階に設定され、①10世帯以下は2400円、②11~20世帯は1750円、③21~50世帯は1550円、④51~100世帯は1400円、⑤101~300世帯は1390円、⑥301~500世帯は1380円、⑦500世帯以上は1370円。
これだけでは分かりづらいので具体例を示そう。例えば8世帯の行政連絡員には(均等割4万円)+(2400円×8世帯)=5万9200円の委託料が支払われている。これが15世帯の行政連絡員になると(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×5世帯)=7万2750円という具合に、世帯数が多くなるにつれて委託料も高くなる積み上げ方式で算定される。
ちなみに350世帯の行政連絡員の場合は(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×10世帯)+(1550円×30世帯)+(1400円×50世帯)+(1390円×200世帯)+(1380円×50世帯)=54万5000円の委託料が支払われている。
委託料は、合併前の4市町でも均等割と世帯割を用いて算定していた経緯があり(ただし二本松と安達では委託料、岩代と東和では報酬という名称だった)、現在の算定方法も二本松・東北達地方合併協議会で複数回にわたって議論し、決定した。
同合併協議会の資料にも次のような記述がある。
《委託料については、現行の二本松市の例により新市に引き継ぎ、合併前の市町単位に算定して一括配分し、それぞれの住民自治組織等と調整して業務内容に応じて受託者等へ交付する》
前出・石井氏の3月定例会での一般質問によると、2021年度、委託料を最も多くもらっている行政連絡員は141万円。さらに80・60・50万円台は7人、40・30万円台は5人、20万円台は20人以上に上ったという。平均では12万7000円とも指摘している。
これだけ聞くと「年間141万円ももらっている行政連絡員がいるのか」と思ってしまうが、それは誤解だ。正確には、141万円の委託料が行政連絡員を通じて行政区に支払われ、その中から行政連絡員への報酬が支払われているのだ。ただし実際の報酬がいくらかは「その行政区の決算書を見なければ分からない」(前出・伊藤課長)。要するに行政連絡員は、行政区を代表して市から委託料を受け取っている(預かっている)に過ぎないのだ。
「支払っているのはあくまで委託料であり、報酬ではありません。行政連絡員の報酬額は各行政区で話し合って決めており、合併前の旧市町時代から踏襲している行政区もあるでしょうから、そこに市が『報酬はいくらにしろ』と口を挟むことはしていません」(伊藤課長)
こうなると、行政区によっては常識的な額が支払われているケースもあれば、法外な額が支払われている可能性も出てくるが、そこは各行政区が開いている総会で、委託料がきちんと執行されているか、不正が行われていないかを当該住民が監視するしかなさそうだ。
「ただ、2005年に合併して以降、委託料が不正に使われているとか、行政連絡員に法外な報酬が支払われているといった苦情が市民から寄せられたことはありません。市としては委託料が適切に執行され、報酬も常識的な額が支払われているものと認識しています」(同)
求められる住民の監視
ちなみに、市が行政区の世帯数を200世帯と仮定し、県内12市と県北管内3町1村を比較したところ、二本松市の委託料は33万7000円で、同市より高額なのは2市、同額は1村、低額は10市3町という結果だった。同市の委託料は高額の部類に入るが、だからと言って行政連絡員の報酬も高額かどうかは分からないので、葉書の差出人が言うような「同市の委託料が高過ぎる」とは断定しづらい。
しかし、支払い方法には大いに問題がある。同市は行政連絡員一人ひとりに現金で直接手渡ししているのだ。令和の時代に極めて珍しい光景と言えるが、委託料が公金であることを踏まえれば、石井氏が指摘するように口座振り込みが行われてしかるべきだろう。さらに言うと、行政連絡員の個人口座に振り込めば、着服や私的流用の恐れもゼロではないので、行政区の口座に振り込むことを徹底すべきだ。
「委託料の手渡しについては、今後改善に向けて検討していきたいと思います」(同)
行政連絡員が法外な報酬をもらっているわけではないことが、お分かりいただけただろうか。かと言って正確な報酬がいくらかは、行政区ごとに異なるため判然としない。委託料の源資が公金である以上、報酬については市に報告し、非常識な額が支払われている場合は市が指導してもいいように思われる。もちろん、当該住民が総会等を通じて監視することも求められる。