本誌3月号の特集で「原発事故 追加賠償の全容 懸念される『新たな分断』」という記事を掲載した。
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は、昨年3月までに7件の原発賠償集団訴訟で判決が確定したことを受け、原発賠償の基本的な枠組みとなる中間指針の見直しを進め、同年12月20日に「中間指針第5次追補」を策定した。
それによると、「過酷避難状況による精神的損害」、「避難費用、日常生活阻害慰謝料及び生活基盤喪失・変容による精神的損害」、「相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害」、「自主的避難等に係る損害」の4項目の追加賠償が示された。そのほか、事故発生時に要介護者や妊婦だった人などへの精神的損害賠償の増額も盛り込まれた。
これまでに判決が確定した集団訴訟では、精神的損害賠償の増額や「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められている。それに倣い、原賠審は賠償増額・追加項目を定めたのである。
同指針の策定・公表を受け、東京電力は1月31日に「中間指針第五次追補決定を踏まえた避難等に係る精神的損害等に対する追加の賠償基準の概要について」というリリースを発表した。
3月号記事はその詳細と、避難指示区域の区分ごとの追加賠償の金額などについてリポートしたもの。なお、今回の追加賠償はすべて「精神的損害賠償」と捉えることができ、そう見た場合の追加賠償前と追加賠償後の精神的損害賠償の合計額、区分ごとの金額差は別表のようになる。
この追加賠償を受け、現在係争中の原発裁判にも影響が出ている。地元紙報道などによると、南相馬市原町区の住民らが起こしていた集団訴訟では、昨年11月に仙台高裁で判決が出され、東電は計約2億7900万円の賠償支払いを命じられた。これを受け、東電は最高裁に上告していたが、3月7日付で上訴を取り下げたという。
そのほか、3月10日の仙台高裁判決、3月14日の福島地裁判決2件、岡山地裁判決の計4件で、いずれも賠償支払いを命じられたが、控訴・上告をしなかった。
中間指針第5次追補が策定されたこと、被害者への支払いを早期に進めるべきこと――等々を総合的に勘案したのが理由という。
こうした動きに対し、ある集団訴訟の原告メンバーはこう話す。
「裁判で国と東電の責任を追及している手前、追加賠償の受付がスタートしても、まだ受け取らない(請求しない)方がいいのではないかと考えています」
一方、仙台高裁で係争中の浪江町津島地区集団訴訟の関係者はこうコメントした。
「東電がどのように考えているかは分かりませんが、われわれは裁判で、原状回復と国・東電の責任を明確にすることを求めており、その姿勢に変わりはありません」
中間指針第5次追補との関連性は集団訴訟によって異なるだろうが、追加賠償(中間指針第5次追補)が決定したことで、現在係争中の原発賠償集団訴訟にも変化が出ているのは間違いない。