3・11の頃から福島に住んでいて、山下俊一氏の名を知らない人は少ないだろう。原発事故の直後に県庁から依頼されて県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任。その後各地で講演を行い、数々の発言で物議をかもした。「100㍉シーベルト以下は安全」、「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ない」、「何もしないのに福島、有名になっちゃったぞ。これを使わん手はない。何に使う。復興です」など。これらの発言に怒っている福島県民は一定程度いる。そんな山下氏について、新たな人事情報が発表された。以下は5月9日付の福島民報である。
《福島国際研究教育機構(F―REI)は8日、経団連副会長の南場智子氏、福島医大理事長特別補佐・副学長の山下俊一氏を「理事長特別顧問」に委嘱すると発表した。外部有識者によるアドバイザー体制の一環で、特別顧問の設置は初めて》
新聞にニュースが載って間もなく、市民団体「『原発事故』後を考える福島の会」代表世話人の根本仁氏から皮肉たっぷりのメールをもらった。
《政権に寄り添う科学者の典型的な人生航路とでもいうのでしょうか? 「ミスター100㍉シーベルト」の異名をもつ長崎の政治的科学者・山下俊一氏の新たな旅立ちです》
山下氏をなぜ新しい組織の顧問格に迎えるのか。筆者は福島国際研究教育機構の担当者に聞いてみた。「山下氏は放射線医療研究の第一人者であり、県立医大や量子科学技術研究開発機構などさまざまな組織で要職に就かれた経験があります。研究環境へのアドバイスや各種研究機関との調整役になることが期待されています」と担当者は話した。
しかし、筆者が「山下氏にはさまざまな評価があるのはご承知のはずだ。原発事故直後の『100ミリシーベルト以下は安全』という発言はかなり批判を浴びた」と指摘すると、担当者は「私は来たばかりで存じ上げませんでした」と驚きの答えが返ってきた。後で追加の電話があったが、「私以外の職員の中には山下氏への評価について聞き知っている者もいたが、それと今回の人選との関連でお答えする内容はない」との回答だった。
(牧内昇平)