原発事故被害を伝える2つのトークイベント

原発事故被害を伝える2つのトークイベント

 1月、いわき市湯本温泉「古滝屋」館内にある「原子力災害考証館furusato」で、原発事故の被害を伝え続ける人たちによる2つのイベントが開催された。

 1月9日に開かれたのが、原発被災地を撮り続けてきたフォトジャーナリスト・豊田直巳さんと、「30年中間貯蔵施設地権者会」の門馬好春会長によるトークセッション。

 飯舘村をはじめ、原発被災地を数多く取材してきた豊田さんは「原発被災地を取材する中で、誰のための復興なのか、考えることが多かった」と指摘。併せて放射能被害と向き合わず、復興を強調する大手マスコミの手口を、実例を示しながら批判した。

 門馬さんは「中間貯蔵施設の交渉を通して、国のスタンスに疑問を抱いた」として、豊田さんの意見に同調。そのうえで、除染土の再利用についての動きに懸念を示した。

考証館に展示された写真パネルの前で話す豊田さん(中央)と門馬さん(左)
考証館に展示された写真パネルの前で話す豊田さん(中央)と門馬さん(左)

 イラク・パレスチナなどの紛争地取材の経験を持つ豊田さん。その経験から、常に目の前の事象を相対的に捉え、取材時には大局的な動きや国の狙いを意識しているという。そうした視点は廃炉作業や復興政策を考える上で重要になるだろう。

 同考証館では同地権者会の取り組みや中間貯蔵施設の問題点を紹介するパネルを展示。2月末までは、豊田さんが撮影した中間貯蔵施設内などの写真展も催されている。

 1月21日に開かれたのが、「公害資料館連携フォーラム2023in福島」のプレ企画、トークセッション「福島の経験を継承する」。

公害資料館ネットワークHP:https://kougai.info/

公共アーカイブ施設担当者などの報告に一般参加者など約50人が熱心に耳を傾けた
公共アーカイブ施設担当者などの報告に一般参加者など約50人が熱心に耳を傾けた

 同フォーラムは公害教育を実施する組織・個人が交流するイベント。今年県内で開催される予定だ。原子力災害(原発事故)も公害と同じ社会的災害と捉えられることから、プレ企画として関係者のトークセッションが行われた。

 福島県立博物館、とみおかアーカイブ・ミュージアム、東日本大震災・原子力災害伝承館など、公共のアーカイブ施設の担当者に加え、個人で活動する人が一堂に会し、それぞれの活動を報告した。

 原発事故は避難指示が出され、立ち入りが制限された期間・地域がある分、資料収集が容易でない。そうした中で、各担当者はさまざまなアプローチで継承に取り組んでいる。

 この日は「文化財ではなく、一見するとごみのようなものに価値がある」、「防災教育に生かすためには他人事の災害を自分化することが必要」などの意見が出た。

 興味深かったのは、とみおかアーカイブ・ミュージアム担当者による「原発事故の教訓なんておこがましい。資料を抽出せず客観的に提示し、自由に考えてもらうことが重要」という発言。原発事故の記憶がない子どもたちや関心がない人に、当時のことを一方的に伝えても〝継承〟したとは言えない。「あえてメッセージ性を排除し、自由に考えてもらう」というのも一つのやり方だろう。

 翌日には参加者による浜通り現地見学ツアーも実施された。
 間もなく震災・原発事故から丸12年を迎える。風化は進むばかりだが、その一方で原発事故の被害を伝え続けている人もいるということだ。

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