震災題材の映画を撮った伊達市出身20歳女性【ふくしまの夢中人】遠藤 百華さん 

 東京の大学で映像制作を学ぶ伊達市出身の若者が震災をテーマにした映画を自主制作し、学生映像コンテストでグランプリを受賞した。震災・原発事故当時、子どもだった若きクリエイターは、どんな思いを込めて映画を制作したのか。

自主制作映画『3月11日』

遠藤 百華さん
遠藤 百華さん

 6月21日、東京・神田のワテラスコモンホールで学生らによる自主制作映画『3月11日』の上映会が催され、クラウドファンディング支援者や関係者など約50人が参加した。

 物語は2024年3月11日、被災地出身で東京在住の男性・赤倉魁(かい)が砂浜に埋めた〝大事なもの〟を探すシーンから始まる。被災地で出会う人や娘・宙(そら)と交わされる会話を通して、赤倉は震災・原発事故との向き合い方を見つめ直す。

 言うまでもなく「3・11」は多くの命や住宅、生活環境が失われた忌々しい日だ。ただ、「3・11」を機に新たな人生を歩み出したり、運命的な出会いを果たした人もいるから忘れたくない――。こうした被災者にしか分かり得ない複雑な心情が約30分の物語にまとめられている。

 同作は経済産業省令和5年度「福島12市町村学生アート制作プロジェクト」採択事業の1つ「学生映像コンテスト」の〝今と未来〟部門でグランプリを受賞した。映画制作にかかる予算はクラウドファンディングで協力を呼びかけ、予定金額90万円を上回る98万円7000円(支援者数約117人)が集まった。

 「これからもこの作品をもっといろいろな人に知ってもらえるように頑張りたいと思います」

 上映後、こうあいさつしたのは、この映画の監督・脚本を担当した遠藤百華(ももか)さん(20)。伊達市出身で、福島高卒業生だ。

 映像制作に興味を持ったきっかけはささいなことだったという。高校2年生のとき、新型コロナウイルス感染症の影響で文化祭が中止になり、代わりにクラスごとに映像作品を発表する映画祭が催された。軽い気持ちで監督を引き受けたら、これまで味わったことのない楽しさを覚えた。

 「それまでは特にやりたいこともなく、漫然と日々を過ごしていたが、自分を表現することに興味を持ち、油絵を描くようになった。その後は絵だけでは思いが表現しきれないと感じ、映像制作に興味を持ち始めました」(遠藤さん)

 周囲が難関大進学を目指す中、遠藤さんは映像・デジタル分野のカリキュラムに特化したデジタルハリウッド大学(東京・御茶ノ水)に進学。2年生のうちから商業映画の美術部・制作部にインターンシップとして参加するなど、現場での経験を積んできた。

 そんな遠藤さんが、初監督作品となる映画のテーマに「3・11」を選んだのは「震災について、自分が以前から抱えていた考えを映画で表現することで、同じように思っている人や震災・原発事故を経験していない人にも伝わりやすくなると考えた」からだという。

 「私が6歳のときに震災・原発事故が発生し、小学校の6年間を避難先の大阪で過ごしました。そうした経験からか、自分が生きる意味や人との向き合い方について考えることが増え、おのずと心の奥底にある悲しみ・苦しみはストレートに表現しなくなっていました。ただ、そうした思いをありのまま表現することにも意味があると考え、映画で表現することにしたのです」(同)

「震災を忘れてほしくない」

1月に県内で行われたロケの様子(クラウドファンディングのサイトより)
1月に県内で行われたロケの様子(クラウドファンディングのサイトより)

 クラウドファンディングへの協力を呼びかけるページには遠藤さんが次のように記している。

 《震災が起こったことで、私の人生がどう変わったかは分かりません。

 震災が起きなかった世界線に生きることはもうできないからです。

 ですが、自分が震災を経験したということに意味があると、今は思っています。震災を経験しなければ、命や時間の大切さに、こんなに早く気がつくことは無かったと思います。今回の映画「3月11日」は震災を経験した自分だからこそ作ることのできるものだと思っています。

 震災が起こったという事実を無かったことにはしたくないです。忘れてほしくないです。だから映画として、目に見える形で残したいと思っています》

 いつか形にしたいと構想を練っていたところ、コンテストが開かれることを友達から教えられた。原発事故で避難区域となった12市町村でアート制作を行う学生をサポートする国の企画の一環で、〝今と未来〟を描く映像を募る――頭の中で描いていた構想はコンテストの趣旨にぴったり当てはまっていた。

 友達や知人に「一緒に映画を撮りましょう」と声をかけ、出演者やスタッフを集めた。今年1月には、いわき市や浪江町でロケを行った。体温を奪う浜風、天候の急激な変化、ロケ地のダブルブッキングなど想定外のトラブルに見舞われたが、臨機応変に対応して何とか撮影を完了した。編集作業を進め、6月に完成。上映会にこぎ着けた。

 「映画は準備段階から撮影、編集と完成まで長い期間がかかる。その期間、自分の思いと何度も向き合うことになるので、新しい気付きがあったし、当初のテーマを深く掘り下げることもできました」(同)

 映画のラストシーン、被災地の砂浜で、娘・宙が放った再訪を約束する一言は未来につながる言葉だった。これこそ遠藤さんが作品に込めたメッセージだったのだろう。

 映画はクラウドファンディングの支援者向けの〝リターン〟として限定公開される。その後の上映は未定とのことだが、県内でも上映してほしいという声があがりそうだ。

 上映会の後に行われたトークショーでは、出演した俳優やスタッフから「遠藤さんの熱意におされて協力した」という声が相次いだ。自分の頭の中にある構想を伝え、協力を得ながら形にしていく才能があるということだ。上映会が終了したいま、頭の中にはどのようなアイデアが生まれているのか。本県出身の若きクリエーターの今後にいまから期待が集まる。

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