9月30日の任期満了に伴ういわき市議選が同1日告示、8日投開票の日程で行われる。定数37に対し45人前後が立候補する見込みだ。県議選での議席獲得の勢いを背に、初めて議席を得ようとする日本維新の会やれいわ新選組、そして元市職員3人が現職を脅かす。例年地元の後援会と自民党支部が応援して議員を1人出してきた遠野地区では、現職が自民党遠野支部長を辞任し、地元からの支持が宙に浮く異例の事態となっている。(小池航)
遠野地区では自民現職が失態で支部長辞任
現在のいわき市議会の構成は自民党系の2大会派が多数を占める。前市長の清水敏男氏と距離が近かった半面、内田広之市長とは距離を置く一誠会(9人)と、前回市長選で内田市長支援に動いた志帥会(8人)だ。
志帥会は2022年時点では12人と最大会派だったが、清水前市長に近い小野邦弘議員(5期)=平北目町=と佐藤和美議員(6期)=常磐湯本町=が離脱し一誠会に加わった(詳細は本誌2022年11月号「いわき市議会「保守系最大会派」で分裂劇」参照)。
志帥会には、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)会員の小野潤三議員(3期)=湘南台=が所属していたが、岸田文雄首相が自民党議員に対し「旧統一教会とは今後一切の関わりを持たないようにする」との通達を出し、地方議員も対応を迫られたため離脱。小野潤三議員は現在1人会派「正論の会」を立ち上げている。今度の市議選では自民党の推薦を得られなかった。
さらに志帥会は、昨年10月の県議選(いわき市選挙区)に木村謙一郎氏(市議3期)=久之浜=が市議を辞職して立候補し当選したため、さらに1人減り、最大会派を同じ自民系の一誠会に明け渡した。
一方、内田市長と距離を置く一誠会でも、遠藤崇広議員(1期)=内郷小島町=が離脱して1人会派「いわき市議会市民の会」を立ち上げたため1人減っている。第三の会派、創世会は非自民の無所属や立憲民主党、国民民主党、社民党の議員らからなる。会派は他に公明党、共産党、労組系のつつじの会と続く。
次ページに5月下旬時点で立候補が取り沙汰される人物の所属を地盤となる地区ごとに図示した。本稿では変動がある現職や新顔のみ紹介する。
地域別有権者(単位:人)
平 | 72560 |
小名浜 | 63544 |
勿来 | 39886 |
常磐 | 26611 |
内郷 | 19949 |
四倉 | 11325 |
遠野 | 4351 |
小川 | 5309 |
好間 | 9955 |
三和 | 2380 |
田人 | 1206 |
川前 | 862 |
久之浜・大久 | 3831 |
現職は創世会の樫村弘議員(11期)=平赤井=が引退の見込み。共産の高橋明子議員(9期)=平愛谷町=も引退し、同じ平地区の新人、塩京子氏が引き継ぐ。共産では他に山田町在住の四家智之氏が立ち、現職と合わせて3人当選を目指している。 ある選挙ウオッチャーによると、樫村氏(平赤井)や県議に転出した木村氏(久之浜)の地盤では後継者を擁立する動きがあるが、候補者名を明かせる段階ではないという。
自民系の会派の支援を受けて立候補するとウワサされているのが草野大輔氏(郷ケ丘)。現職議員が強固な地盤を築いていない小川町の出身を打ち出す。民間企業、県職員を経て3月までいわき市職員を勤めた(本人のブログより)。
内田市長に近い志帥会のバックアップを受けて立候補するのが書道家であり、内郷綴町で書道用品専門店を経営する鹿中剛志氏(平北神谷)。地元紙「いわき民報」5月13日付によると、12日に行われた事務所開きには内田市長や木村謙一郎県議が駆け付け祝辞を述べた。
平二町目の司法書士、佐川俊輔氏は後援会を立ち上げ、いわき市議選立候補者が代表を務める資金管理団体として1月28日付で指定を受けている(県報号外2月20日付より)。前出の選挙ウオッチャーによると、元参議院議員の岩城光英氏が主宰する塾の塾生という。
同日の県報号外には、他に泉玉露の引地正伸氏が後援会を設置したと公告されている。フェイスブック上に後援会のアカウントがある。それによるとサラリーマンランナーで、市民ランナー有志の団体に所属し活動している。
いわき市は、昨年10月の県議選で日本維新の会所属の鳥居作弥氏とれいわ新選組の推薦を受けた山口洋太氏が当選した。新興政党が入り込む余地のある地域だ。
県議選勝利で勢いづく維新とれいわ
日本維新の会福島県総支部の山口和之幹事長によると、立候補の意思を示している元市職員の小野光貴氏(好間町下好間)と会社経営の井出雅恵氏(好間町川中子)の2人を公認するという。6月上旬に記者会見を開くとのこと。
小野光貴氏は後援会のポスターによると、磐城高校卒業後、東北大医学部医学科に入学。東日本大震災を機に進路を考え直して中退し、市職員となった。保健福祉部の地域介護を担当する部署に勤め、今年3月に退職した。
井出氏は磐城女子高校卒業後、昭和薬科大薬学部(東京)に進学し中退。司法試験や資格試験対策を教える塾の社員、取締役を経て独立した。本人によると、母が独り暮らしになったのを機に2019年ごろにUターンしたという。現在、いわき市と東京の2拠点で経営者や講師向けのセミナーなどを開く。
れいわ新選組からは、平木恒男氏(平地区)が公認ではなく推薦や支持といった形で出馬すると取り沙汰されている。本人のnoteによると、平地区の沿岸部出身で父親は漁師という。福島高専を卒業後、素材の研究業務や製造業の技術者を40年近く務め、現在は飲食店経営。前出のウオッチャーによると、人気ラーメン店だという。
遠野地区で立候補に前向きな姿勢を示しているのが元市職員の佐藤不二夫氏だ。市役所遠野支所長を務め、農林水産部次長を最後に今年3月に退職した。現在は同地区でスクールバスの運転手をしている。地元タブロイド紙「いわき経済報」1月号で立候補が報じられた。5月中旬に本誌が自宅を訪ねると、「無所属で出馬する方向で調整している」と言う。
同じく遠野町の元職伊藤浩之氏は今年5月中旬に「出馬する方向で考えている」と答えた。伊藤氏は過去に共産党に所属し、市議を4期務めた。幹部役員の公選法抵触への対応や広報紙の誤報問題がきっかけとなり、党県委員会や幹部役員との信頼関係が失われたとして離党。前回2020年の市議選では無所属で立候補したが、1485票の次点で落選した。現在は地元に伝わる遠野和紙の保存活動に携わっている。
遠野地区は人口規模から、地元選出の議員を輩出するのはせいぜい1人、多くて2人だ。元市職員の新人と前回市議選で次点だった元職が立候補に前向きな姿勢を示しているが、既に自民党現職で一誠会に所属する平子善一氏がいる。
収支報告書未提出でみなし解散
当然、支持基盤を築いている現職が有利と思われたが、5月に入って事態が変わった。きっかけとなったのは地元紙「いわき民報」の5月13日付記事だ。以下はその引用。
《平子善一市議(40)=1期、遠野町大平=の後援会組織が、2年連続で政治資金収支報告書を提出せず、政治団体の法的資格を失う「みなし解散」の状態であることが、13日までに分かった。平子氏は自民党遠野支部長。市議会最大会派・一誠会の所属で、同会の政調会長。2020(令和2)年9月の市議選で初当選した。現在は政策提案検討委員会副委員長などに就いている。
みなし解散となったのは「平子善一後援会」で、平子氏は会計責任者となっている。県いわき地方振興局によると、収支報告書は毎年の提出が義務付けられているが、平子善一後援会は2022年、23年の2年間にわたって出してなかった。未提出の場合には文書で通知が行くという。
政治資金規正法ではみなし解散になると、一切の政治活動を行うことができず、寄付や支出も禁止されている。今後は改めて2年分の収支報告書を出した上で、解散する必要がある。なお同名の団体を再び立ち上げることは妨げない。
収支報告書は収入・支出がゼロ円であっても提出が必要で、翌年の3月31日までが期限と定められている。
こうした状況に対し、平子氏は「忙しかったため提出できずにいた」とコメントした。
また後援会組織には政治活動用の立て札・看板に対し、市選挙管理委員会(市選管)から6枚の証票が交付されるが、正式に解散するまでは有効とされている》
平子善一後援会のみなし解散は4月16日付の県報で県選挙管理委員会が公告している。同後援会を含め13団体がみなし解散の措置を受けた。福島、郡山、会津若松の現職市議や引退した議員、首長の名が見える。平子議員は今回選挙を控えるため、特に注目が集まった。
今回みなし解散となった政治団体は、まず2022年分の収支報告書を23年3月末までに提出しなかった。県選管によると、期限の3月31日を過ぎても未提出の場合には、翌年の1月中に未提出を告げる通知を政治団体が登録する事務所に送るというから、今年1月に「22年分が未提出」との通知が届いたことになる。無視した団体は直近の23年分も今年3月末までに提出せず、みなし解散となった。
本誌は経緯を聞こうと、5月18日に平子善一後援会の事務所を訪ねた。事務所は市内遠野町の「中根の湯」の敷地にあり、「たいらこ善一選挙事務所」と書かれた看板には青い薄手のビニールが掛かっていた。
平子議員に提出しなかった理由を聞くと、
「いわき民報が書いた通りです。提出し忘れた。それ以上でもそれ以下でもありません」
後援会については、
「決算処理して解散します。私ではなく会計責任者が出し忘れていたようです」
平子善一後援会の代表者は宮野由美子氏、会計責任者は平子議員で登録されている。筆者が、会計責任者が記載された4月16日付県報を見せると、平子議員は
「(会計責任者は)私になっているんですね……」
次の市議選には立候補するのか。
「私ではなく民意が決めることなので、相談して決めたい」
平子議員は自民党いわき総支部の遠野支部長を辞任したことを明かした。推薦も自ら取り下げたという。
前市議で自民系会派の一誠会に所属していた蛭田克氏(遠野町)が背景を説明する。
「私は2020年の前回市議選には立候補せず引退しました。(平子)善一君は兼ねてから立候補したいと言っており、私の後援会や選挙対策委員会を引き継ぐ形で前回市議選に臨みました。立候補は個人の自由ですが、地区の期待を受けて議員を目指す以上は地区住民との約束事が必要です。『議員として遠野地区のために働くこと』『遠野地区に居住すること』など10項目を約束しました」
蛭田氏の後釜についた平子氏は党派を超えた地元の後援会と自民党遠野支部の支援を一緒に受けることになった。二つの組織のメンバーは重複する。当選後、平子議員は自民党遠野支部の支部長に就いた。
現職は居眠り、新人は避難者に暴言
蛭田氏によると、次第に「10項目の約束が反故にされている」と遠野支部内で疑念が生じたという。蛭田氏が役員から聞いたところによると、遠野支部では役員会や総会が開かれず、今年5月上旬に支部長を務める平子議員が、役員会を書面開催した上で、いわき総支部に次期市議選での推薦願を申請する段取りに入った。
「善一君いわく、現在残っている役員7人のうち5人の承認を書面で得たそうです。いわき総支部が推薦を決める5月17日の前日(16日)に、自民党遠野支部の有志12人が連名で同総支部に異議申し立てをしました」(蛭田氏)
結果は前述の通り。いわき総支部が判断する前に、平子議員は遠野支部長を辞任し、推薦も自ら取り下げた。
遠野地区はいわき市の中山間地域で、住民は中心部から取り残されている感覚が強い。地元から議員を1人か2人出せる程度なので、議員が地区のために仕事をしているのか「監視の目」が自然と厳しくなるのだろう。平子議員は「10項目の約束を果たしていない」と見なされたことに加え、政治資金収支報告書の未提出から後援会が解散を強いられたことで住民の強い反発を受けた格好だ。
疑義の目が向けられているのは平子議員だけではない。本誌には、他の現職議員が議会中、常時居眠りしているとの情報や、新人が原発被災地からの避難者に「田舎もんは早くいわきから出ていけ」と言ったとの投書が寄せられている。現職、新人問わず候補者は、一挙手一投足が見られていると自覚し、誠意ある対応を心掛けるべきだ。