【いわき市議選】混迷市議選の陰で来年市長選に熱視線

【いわき市】夏選挙リポート 混迷市議選の陰で来年市長選に熱視線

 9月1日告示、同8日投開票のいわき市議選には、定数37に対し最大50人前後の多彩な顔ぶれが立候補する見込みで乱戦が予想される。一方、市議選と共にじわじわと熱を帯びているのが来年9月に行われる見込みの市長選だ。前回落選した前市長清水敏男氏(60)に動きがあり、今年春から周辺が騒がしい。前回、現職内田広之氏(52)の応援に多数が回ったいわき経済界からは「教育と同じくらい経済への注力も」という注文が付き、他候補の応援を模索する動きもある。加えて、清水氏と袂を分かった経済界重鎮が再び接近しているとの情報も出回り、市議選を経た政財界の変化が見過ごせない。(小池航)

当落を左右する経済界との距離感

 現在のいわき市議会(定数37)の構成は自民党所属議員からなる2大会派が多数を占める。前市長の清水敏男氏と距離が近かった半面、内田広之市長とは距離を置く一誠会(9人)と、前回市長選で内田氏の支援に動いた志帥会だ。

 志帥会は2022年9月時点では12人と最大会派だったが、清水氏に近い 小野邦弘議員(5期)と佐藤和美議員(6期)が離脱し、一誠会に加わった(詳細は本誌2022年11月号記事を参照)。

 志帥会には、宗教法人法に基づき解散命令請求を申し立てられた旧統一教会(世界平和統一家庭連合)会員の小野潤三議員(3期)が所属していた。旧統一教会による信者やその家族の献金被害は長年問題となっていたが、教団と政権与党の自民党の蜜月ぶりもあって近年は注目されることはなかった。

 安倍晋三元首相が演説中に暗殺されたことをきっかけに教団と自民党との関係が再び注目され、国が献金被害を調査する事態となった。これを受けて岸田文雄首相が全国の自民党議員に対し「旧統一教会とは一切の関わりを持たないようにする」との通達を出し、地方議員も対応を迫られたため小野潤三議員は志帥会を離脱。最大会派を同じ自民系の一誠会(昨年秋時点で10人)に明け渡した。小野潤三議員は1人会派「正論の会」を立ち上げている。次の市議選では、所属する自民党いわき総支部から推薦を得られなかった。

 小野潤三氏は2021年9月の市長選告示前に、内田氏を応援するチラシを配布したことが「公選法違反に当たる」と一市民から刑事告発されていた。今年7月、市議選を前にした事務所開きで小野潤三氏は、前回市長選を巡り刑事告発を受けたと説明し、7月16日付で地検いわき支部から不起訴を通知されたと報告した(地元夕刊紙いわき民報7月17日付より)。

 小野潤三氏の会派離脱は特殊な事例だが、志帥会からは他に昨年11月の県議選(いわき市選挙区)に木村謙一郎氏が市議を辞職して立候補し当選したため、さらに1人減って8人。

 一方、内田市長と距離を置く一誠会でも、遠藤崇広氏(1期)が離脱して1人会派「市民の会」を立ち上げたためさらに1人減り9人に。自民系の2大会派が拮抗している状態だ。第三の会派、創世会は非自民の無所属や立憲民主党、社民党系の議員からなる。会派は他に公明党、共産党、労組系のつつじの会と続く。

 次ページに7月11日にいわき市選挙管理委員会が行った市議選立候補予定者説明会に参加した全51陣営を地区と期数順に一覧にした。現職32人、元職1人、新人16人で、2陣営は匿名で参加。あくまで7月時点の立候補予定者に過ぎないので変動する可能性はあるが、大乱戦になるのは必至だ。

いわき市議選立候補予定者説明会の参加者陣営

小川草野大輔
好間木田都城子2期志帥会
井出雅恵維新
小野光貴維新
三和永山宏恵4期志帥会
久之浜・大久根本重和
石井敏郎8期1人会派
菅波 健5期志帥会
小野邦弘5期一誠会
小野 茂5期公明
福嶋あずさ4期創世会
大峯英之4期志帥会
西山一美3期志帥会
柴野美佳3期公明
鈴木さおり1期創世会
塩 恭子共産
鹿中剛志
佐川俊輔
佐々木孟男
箱﨑政富
平木恒男
渡部安彦
小名浜佐藤和良5期創世会
大友康夫4期つつじの会
小野潤三3期1人会派
馬上卓也2期一誠会
田頭弘毅2期一誠会
引地正伸
勿来蛭田源治5期志帥会
赤津一夫4期一誠会
上壁 充4期創世会
塩沢昭広3期公明
鈴木 演2期一誠会
長谷川貴士1期つつじの会
四家智之共産
佐々木 晃
常磐佐藤和美6期一誠会
塩田美枝子6期公明
小菅 悟1期一誠会
小竹康夫
内郷山守章二3期志帥会
狩野光昭3期創世会
遠藤崇広1期1人会派
菅野宗長1期共産
四倉坂本 稔4期創世会
川﨑憲正2期志帥会
遠野平子善一1期一誠会
伊藤浩之4期
佐藤不二夫


 市内のある選挙ウオッチャーは当確予想の難しさを語る。

 「全国的な傾向で、いわき市で行われる選挙も年々投票率が下がっている。投票率が下がれば当確ラインとなる得票数も下がるので、新人は出馬に前向きになる。過去最大規模の立候補予定者になっているのは、そのような勝算の判断が各陣営で働いているからではないか」

 もっとも、現実は甘くはない。

 「各候補者の得票数が上位から階段状に分布すると考えがちですが、たくさん得られる人とそれ以外で二極化する可能性が高い。現職と新人に関係なく、1票の差に泣く人も出てくるだろう。組織票が強く票割が徹底している公明党や共産党の候補者以外は、確かなことは誰も予想できないと思う」(同)

 新人の紹介は本誌6月号記事を参照していただきたい。本稿では前回取り上げられなかった人物に注目する。

 平地区の佐々木孟男氏は、関係者によると、地元選出の吉野正芳衆院議員の事務所に勤めていた元秘書だという。6月下旬に同事務所を辞めた。市内では、大病を患っている吉野氏が国会に長らく姿を見せず進退が注目される中、「吉野氏に追い打ちを掛ける出来事」と捉えられている。

 常磐交通労組書記長の箱﨑政富氏は、労組の支援を受け、当選した場合は同じく労組系のつつじの会に所属するとみられる。同会派はもともと3人だったが、昨年11月の県議選に安田成一氏が立候補して当選したため2人になっていた。箱﨑氏は安田氏の後釜となる。

 後継候補はもう1人いる。久之浜・大久地区を地盤とする農業経営者の根本重和氏。県議に転出した木村謙一郎氏(市議時代の会派は志帥会)の後釜となる。

 他には今年5月からいわき市に移住した佐々木晃氏。本人とみられるSNSによると、いわゆる「NHK党」を支持する発信をしている。常磐地区の小竹康夫氏は行政書士。平地区の渡部安彦氏は飲食店経営者。前回市長選で立候補を表明していたが、告示前に断念した。

市長選を戦った3陣営が遠野に集結

 最大50人前後が立候補するとみられ、乱戦必至のいわき市議選の熱気は来年9月に行われる見込みの市長選にも飛び火している。

 市職員を退職して立候補する遠野地区の佐藤不二夫氏の事務所開きには、前回市長選を戦った4陣営のうち3陣営の関係者が駆け付けた。佐藤不二夫氏の後援会顧問を務める蛭田克氏(一誠会に所属していた元市議、2020年で引退)の話。

 「不二夫氏は元市職員ということもあり、事務所開きの挨拶には内田市長と清水前市長が来ていた。同じく前回市長選に立候補した宇佐美登氏も縁戚らしく、宇佐美氏の後援会長も挨拶に来た」

 蛭田氏は「もしかしたら(前回市長選で落選した)猪狩謙二氏の関係者も潜んでいたかもしれないな」と冗談めかした。

 市議選立候補者が主役にもかかわらず、住民たちは市長選の話題を気にしている。市議選終了後、一気に市長選モードに突入するだろう。

 2021年の市長選は4候補による混戦の中、渡辺敬夫元市長(2009~13年在任)の後継と目された新人で文科省官僚・福島大理事だった内田氏が、3選を目指した現職清水氏らを破り初当選した。結果は内田広之氏4万5885票(36・3%)、宇佐美登氏2万8258票(22・4%)、清水敏男氏2万6658票(21・1%)、猪狩謙二氏2万5512票(20・2%)と続いた。

 市議会の会派と対応させると、内田氏(渡辺元市長)―志帥会ラインが、清水氏―一誠会ラインに勝利したと言える。いわき市長選・市議選は、自民党の国会議員候補の公認を巡る争いの煽りを受けて保守分裂選挙が絶えない。

 清水氏が3位で落選した要因の一つは、清水氏と同じく常磐地区を地盤とする常磐共同ガス社長(当時)の猪狩氏が立候補し、票が割れたことだ。背景には、それまで清水氏を支援していた地元経済界からの不満があった。

 猪狩氏は市長選に立候補当時、エネルギー産業集積と水素社会実現による地方創生を目指す民間組織「いわきバッテリーバレー推進機構」の副代表理事を務めていた。さかのぼること2018年の市長選では、同推進機構代表理事を務める庄司秀樹氏(東洋システム社長・いわき商工会議所副会頭)と共に清水氏を応援するなど関係は良好だった。ところが、

 「(清水氏が)水素を差し置いて風力発電事業に力を入れ始めるなど、市の方針がアベコベで、経済振興も中途半端だったため、一部の経済人らが不信を募らせた」(市内の事情通のコメント。本誌2021年3月号記事より)。猪狩氏は同推進機構の活動で表に立つ機会が多かったことから、「立候補したらいい」との周囲の声を受けて決意した。清水氏の経済対策に不満を持っていた経済人たちは、庄司氏のように猪狩氏の応援に回る者と、内田氏を応援する者に分かれたという。

 経済界は、来年9月に行われる予定の市長選でも大きな影響力を持っている。事情通によると、経済界の一部から「内田市長には教育分野以上に経済分野にも力を注いでほしい」と注文する声が出ており「清水氏と猪狩氏は次の市長選に出ないのか。出ないなら他の人はどうか」と内田氏以外の候補者を模索する動きがあるという。経済界も一枚岩ではないので、内田市政への不満がどの程度の広がりを見せているは未知数。ただ、今年に入ってその話に現実味を与えるウワサが広まった。

 「清水氏と袂を分かった東洋システムの庄司氏が再接近しているらしい。来年の市長選に清水氏が立候補する布石ではないか」

清水氏「庄司さんとは薬局で会っただけ」

 筆者が庄司氏に尋ねると、

 「清水さんと再会したのは事実ですが、薬局で偶然会っただけです。短い時間に世間話をしました。考えすぎです」

 と苦笑した。

 清水氏にも確認すると、

 「調剤薬局で偶然会いました。市長選以来、久しぶりの再会でした。お互いそれぞれの陣営で戦ったことを労い、30分ほど話しました。来年の市長選の話はしていません」

 尾ひれが付くほど2人の動きは注目されているようだ。清水氏は、市長選への立候補についての問いには「未定」とだけ答えた。

 清水氏と庄司氏によると、猪狩氏は現在、県外の企業で取締役をしているという。猪狩氏の名前をネットで検索すると2023年4月1日現在、鬼怒川ガス㈱(栃木県日光市)の代表取締役専務に名を連ねている。同社は㈱サイサン(さいたま市)の子会社で、猪狩氏がかつて社長を務めた常磐共同ガスとはグループ会社だ。ある経済人は「猪狩氏はもう市長選には出ないのではないか」と述べた。

 前回の市長選で次点だった元衆院議員の宇佐美登氏はどうなのか。本人に立候補の可否を尋ねると、やはり「未定」という。現在、宇佐美氏は医療コンサル分野で存在感を増している。医療工学者でもある宇佐美氏は今年3月、酸素を送り込むチューブを気管に入れる「気管挿管」を可視化してより安全に行える新たな技術の開発・特許取得に携わり、メディアで取り上げられた。地元の医療機器メーカー、県立医大の医師、いわき市医療センターの医師をつなぐ役回りだったという。

 最後に、再選を目指すと見込まれている内田市長に現市政の評価を尋ねると、書面で回答が寄せられた。

 独自性を発揮できた分野については、

 「市民の関心が高い医療分野の進展です。国の統計によると、2022年末の医師数は20年末と比較して21人増加し、増加率は全国の中核市中トップテン(10位)となりました。今後、もし市長を続けられれば医師数を10年間で100人は増加させたいです」

 経済界からは「教育分野と同等かそれ以上に経済分野に注力を」との声があるが……。

 「私は、経歴では教育の専門家ですが、経済・雇用にもかなり力を入れ成果を出していると思います。 例えば、工場等の新増設の届け出は、2022年1月から2024年6月末までの2年半で21件あり、合計230人の雇用創出が見込まれています。企業誘致等へのトップセールスに力を入れ、小名浜港では国際フィーダーコンテナ定期航路も4年ぶりに復活し、週2便(2社)体制で新たな物流ルートを開拓できました」

 教育分野については、小中学生の学力の課題をきめ細かく分析し、「小学校の算数は改善の兆しが見られる」とする。長期的には「眼に見える、数値で出る全国学力学習状況調査の結果の伸長」を目指すという。

 教育は短期での評価が難しく、成果を測る物差しも少ない。比べて短期的な結果が見えやすい経済界の要望をこなした上で、独自性を発揮できるかが今後、支援を得られるかどうかのポイントになりそうだ。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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