専門家が指摘【総括編】合併しなかった福島県内自治体のいま

専門家が指摘【総括編】合併しなかった福島県内自治体のいま

 昨年12月号から今年4月号まで5回にわたり、「平成の大合併」に参加しなかった県内自治体の現状をリポートしてきた。今回はシリーズの〝仕上げ〟として、これまで取り上げてきた事例を総括したい。(末永)

専門家は「合併すれば効率アップは間違い」と指摘

専門家は「合併すれば効率アップは間違い」と指摘【条件が恵まれている西郷村(写真は村役場)】
条件が恵まれている西郷村(写真は村役場)

 国は1999年から「地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立」を目的に、全国的に市町村合併を推進した。いわゆる「平成の大合併」である。県内では2004年から2008年までに13例の合併があり、90市町村から59市町村に再編された。本誌では2021年12月号から5回に分けて、合併自治体の検証を行った。

 一方で、「平成の大合併」に参加しなかった自治体もあり、その現状に迫ったのがこのシリーズ。第1回が桑折町と国見町第2回が大玉村第3回が棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村(東白川郡編)第4回が西郷村第5回が三島町、金山町、昭和村、只見町(奥会津編)と、計5回、12市町村を取り上げた。

 このうち、大玉村と西郷村は条件的に非常に恵まれている。県内で人口が増えているのはこの2村のみ。加えて、両村は働き口、高等教育、医療、日用品の調達先など、行政サービス以外で生活に必要な部分は、近隣に依存できる環境にある。逆に「奥会津編」で取り上げた4町村は、人口減少が著しく、高齢化率が非常に高い。一口に「合併しなかった自治体」といっても、その内実や地理的条件などは全く違う。

 シリーズ全回で共通して財政指標の推移を示した。

 ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。

 当初の合併の目的と照らし合わせると、合併しなかった自治体には、より一層の財政健全化の努力が求められる。記事では、同法に基づき県市町村財政課が公表している「財政状況資料集」を基に、2007年度から当時最新の2020年度までの「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」、「将来負担比率」、「財政力指数」の推移を一覧化した。加えて、近隣で合併した自治体(例・大玉村は本宮市、西郷村は白河市)の数値と比較しながら、財政指標を検証してきた。

 それで言うと、取り上げた自治体すべてで財政指標の良化が見受けられた。合併しなかった自治体は、最初から合併に否定的だったところ、合併を模索したものの、結果的に合併に至らなかったところ、国が目指す「地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立」が合併に頼らずとも可能だったところなどさまざまだが、合併しない(できなかった)ことを決めて以降は、それぞれが相応の努力をしてきたことがうかがえた。

 一方、シリーズ1回目(桑折町・国見町編)で、元福島大学教授で現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)にコメントを求めたところ、「ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善している」と話していた。

元福島大学教授で現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)
今井照氏


 「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏)

 今井氏のコメントからすると、2021年度以降はさらなる指標の良化が予想されるが、それは各自治体の努力ではなく、外的要因によるもの、ということになる。

「合併しない宣言」の影響

「合併しない宣言」の影響【真っ先に国の方針に背いた格好の矢祭町(写真は町役場)】
真っ先に国の方針に背いた格好の矢祭町(写真は町役場)

 ところで、このシリーズ「最大のハイライト」とも言えるのが矢祭町の状況だ。というのは、合併議論の最盛期に、県内で首長を務めていた人物がこう話していたから。

 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」

 そうした国の方針は、この首長経験者にとって脅しのような感覚だったようだ。要するに、「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」との強迫観念に駆られ、合併を進めたということだ。

 その点で言うと、矢祭町は2001年10月に議会が「合併しない宣言」を可決し、言うなれば真っ先に国の方針に背いた格好になる。

 以前、先進的な取り組みをしている県外自治体を取材した際、担当者は次のように証言していた。

 「メディアなどで取り上げられるたびに、国から目を付けられて(苦笑)。国の役人からは『ずいぶん勝手なことをしているようだな』、『その分だと、国からの交付金・補助金などは必要なさそうだな』と露骨に言われることもありました」

 これは15年ほど前の話だが、そんなこともあり、矢祭町も国からの締め付けなどがあったのではないかと危惧していた。

 この点について、佐川正一郎矢祭町長に見解を求めると次のような回答だった。

佐川正一郎矢祭町長
佐川正一郎矢祭町長

 「『合併しない宣言』が決議された当時、私自身はそうした情報を知り得る立場にありませんでしたが、当時を知る職員に話を聞くと、少なからず、地方交付税等の削減はあったものの、国からの締め付けは思ったほどではなく、合併をしないことによる財政的な影響は少なかったと聞いています」

 「合併しない宣言」後の大部分(2007〜2019年)で舵取りを担った古張允前町長にも話を聞いたが、「締め付けというほどのことはなかった」と話した。

 「確かに、国は合併しなかったら交付税を減らす、という方針でしたが、実際はそうでもなかったですね。それほど影響がなかった背景には、二度の政権交代(自民党→民主党→自民党)の影響もあったと思います。財政的にも、根本良一前町長の時代に組織改革が行われ、必要な部分の投資も終わっていました。ですから、財政的にすごく苦労したということはなかった。むしろ、国の締め付け云々よりも、『日本一の町長』と評された根本町長の後を受けたプレッシャーの方が大変でしたね」

 同町の事例からすると、合併議論の最盛期に、県内で首長を務めていた人物が懸念していたことは杞憂に終わったと言っていい。実際、「奥会津編」で取り上げた町村は、自主財源が乏しく財政基盤が弱い。決して条件がいいと言えない中でも、大きな問題なく存続できている。当然、関係者の努力もあっただろうが、そうした事実がすべてを物語っていると言っていいのではないか。

 前出・地方自治総合研究所主任研究員の今井氏はこう話す。

 「一般には、合併を選択すると財政が効率化し、財政環境がよくなると理解されていますが、それは誤りです。そもそも企業の合併とは異なり、自治体が合併しても面積や人口が単純に加算されるだけで、行政サービスの総量は減らないので、合併による効率化の効果はほんのわずかに限られます。合併すると、効率化以上に地方交付税などの歳入が絞られていきますので、個々の自治体にとって財政環境が悪化するのは当然です。逆にいうと、合併すれば住民への行政サービスの総量を減らさなくてはならず、中心部だけに投資を残して、周辺部への投資を薄くする傾向があります。合併すると周辺部の衰退が早まるのはそのためです」

 このシリーズで取材した自治体の住民も、合併した近隣自治体で、中心部とそうでないところの格差を見ているためか、「結果的に合併しなくて良かったと思う」との声が大多数を占めた。

 「大玉村編」では、合併議論当時の同村役場関係者の「大玉村役場内でも、一部では合併すべきといった意見もあった」とのコメントを紹介した。理由はやはり「合併しなかったら、すなわち国の意向に逆らったら、地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」といった心配があったから。ただ、この関係者は「いまになって、あらためて振り返ってみると、合併しなくて良かったと思う」と述べていた。

単独の強みを生かせ

単独の強みを生かせ

 一方で、「奥会津編」では、隣接地域の議員経験者のこんな意見を紹介した。

 「いまの社会情勢で人口減少や高齢化率上昇は避けられない中、もっと町村間の連携を強化すべき。『奥会津行政組合』のようなものを立ち上げ、ある程度縦断して行政機能が発揮されるようにすべきだと思う」

 自治体の枠組みそのものの合併はしなくても良かったと思うが、今後は1つの自治体ですべての行政サービスを賄うのではなく、行政サービスのうち、共有・連携できる部分は「行政組合」のようなものを立ち上げて対応すべきではないか、ということだ。

 国(総務省)でも、新たな広域連携について検討しているようだから、今後は本格的にその勉強・検討の必要性が出てくるだろう。

 このシリーズの取材では、対象の町村長に質問を投げかけ、文書で回答してもらった。それをあらためて見ていくと、合併しなかったことをどう強みに変えていくかや、いま当該自治体内で抱えている課題などの質問に対し、問題意識を持って回答してくれた町村長と、そうでない町村長が如実に見られた。

 ここでは、どの町村長がどうだったかの詳細は触れないが、本当に問題意識がないのか、単に取材対応が面倒なだけだったのか。いずれにしても、そのような町村長のもとに暮らす住民はハッピーとは言えないだろう。

 最後に、あらためて指摘したいのは、せっかく、単独の道を選んだのだから、もっと思い切った〝仕掛け〟をしてほしいということ。これは県内すべての市町村に言えることだが、どこかの二番煎じ、三番煎じのような事業、取り組みばかりが目立ち、何かの先進地になった事例はほとんどない。合併せず、小回りが利く規模の自治体だからこそ可能な、思い切った〝仕掛け〟を生み出していってもらいたい。

末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
合併しなかった県内自治体(6回シリーズ)
原発事故追加賠償の全容(2023年3月号)

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