【小熊慎司】立憲民主党県連代表が語る【民主党政権】「総括と反省」(立憲民主党研究②)

【小熊慎司】立憲民主党県連代表が語る【民主党政権】「総括と反省」(立憲民主党研究②)

 立憲民主党県連は5月25日、郡山市で定期大会を開き、新しい代表に小熊慎司衆院議員(56)=4期、福島4区=を選んだ。任期は2年。岸田文雄内閣、自民党が政治資金の裏金問題で支持率を落とす中、国民からは政権交代を望む声が徐々に高まっているが、一方で「野党には任せられない」との懸念も少なくない。背景には12年前に幕を閉じた民主党政権への失望がある。当時の政権運営に対する総括と反省がなければ、有権者から真の信頼は得られない。小熊新代表は総括と反省をどう考えるのか。シリーズ・立憲民主党研究の2回目は、小熊氏へのインタビューを通して同党の進むべき道を模索する。(佐藤仁)

「ウケ狙いの内閣批判はやめるべき」

 小熊氏は1968(昭和43)年生まれ。会津高校、専修大学法学部を卒業後、新井将敬衆院議員、斎藤文昭衆院議員の秘書を経て会津若松市議を1期(99~2003年)、県議を2期(03~09年)務めた。新井・斎藤両氏が自民党だったように、小熊氏も県議時代は同党所属だった。

 2009年に自民党を離党し、10年の参院選にみんなの党から比例区で初当選すると、12年には日本維新の会の結党に参加。同12月の衆院選に福島4区から立候補し、選挙区では自民党の菅家一郎氏に敗れたが比例復活で初当選した。

 その後も菅家氏とは3回激突しているが(互いに4期連続当選)、その間、小熊氏は維新の党、改革結集の会、民進党、希望の党、国民民主党を経て立憲民主党と所属政党が目まぐるしく変わった。それだけ野党が離合集散を繰り返してきたわけ。

 2020年10月に立憲民主党福島県連が設立されると、小熊氏は代表代行に就任。今年5月の同県連定期大会で金子恵美衆院議員が初代代表を退き、2代目代表に選ばれた。

 本誌のインタビュー(6月3日実施)に、小熊氏は代表就任の抱負をこう述べる。

 「まずは代表を退かれた金子さんに感謝を申し上げたい。福島県は野党が混乱し続ける中でも『福島型連合』と言われる反自民非共産の枠組みを堅持してきた。二大政党のモデルとも言うべき『福島型連合』を全国に広めるのが、新代表の私の使命と強く感じています」

 福島県は、知事選や国政選挙で立憲民主、国民民主、社民の各党県連と県議会第2会派の県民連合、連合福島でつくる5者協議会で推す候補者が自民党の候補者と相対する構図が長く定着している。共産党とは一線を画すが、候補者調整することで野党同士の票の奪い合いを避けてきた。この反自民非共産による「福島型連合」を、二大政党の全国モデルに据えたいのが小熊氏の考えだ。

 「政権交代可能な二大政党制の実現」は、小熊氏が会津の地盤を引き継いだ渡部恒三元衆院副議長の口癖でもあった。

 政権交代――は現実味を帯びつつある。4月28日に投開票された衆院3補欠選挙は自民党の全敗。補選直後の政党支持率は自民23・4%、立憲10・2%(JNN世論調査、5月5日速報)とその差が縮まった。

 小熊氏は衆院3補選の時、島根1区の応援に入ったが、竹下登元首相らを輩出した「保守王国」でも政治の地殻変動が起きていることを実感したという(当選したのは立憲の亀井亜起子氏)。ただし、それは「自民がダメだから立憲」という二大政党制を意識させるものではなかった。

 「政治全体への不信感をひしひしと感じた。地元の会津を回っていても同様です。今回の裏金問題は自民党だけが悪いという話ではない。私も政治資金規正法に則って活動しているが、収支報告書の書き方については正直甘さを感じていた。国民がインボイス制度で大変な思いをしているのに『政治家は何だ!』と憤るのは当然です」

 事実、衆院3補選の投票率はどこも2021年衆院選より低下。「自民党はダメだが野党も期待できないから選挙に行かない」有権者が増えていることを物語っていた。

 小熊氏は「結果は立憲民主党の全勝だったが、党内では『ぬか喜びしてはダメ。冷静に分析すべきだ』と戒める空気感の方が強い」と冷静に受け止める。

 ただ「世論調査の結果に変化が起きているのも事実」とも言う。

 「これまではどの世論調査を見ても『内閣は支持できないが政権担当能力があるのは自民党』という結果だった。ただ最近は、野党に甘めの世論調査ではあるが『政権交代を望む』という結果が出始めている」

 自民党の裏金問題が国民の怒りを買い、政権交代を望む声に変わっていることがうかがえる。

 ところがその矢先、立憲民主党の大串博志選対委員長と岡田克也幹事長が政治資金パーティーの開催を予定していたことが判明する。折しも同党は、国会にパーティー全面禁止の政治資金規正法改正案を提出。にもかかわらず、両幹部は「法案成立までは制限されない」「法律が通ればやらない」などと政権交代の雰囲気に水を差す発言を繰り返した。

 結局、世論の反発に大串氏と岡田氏は開催中止を決定したが、党内で公然と批判したのは小沢一郎衆院議員だけで、泉健太代表も

「違和感がある」と述べるにとどまるなど「身内への甘さ」は相変わらずだった。

 「パーティー全面禁止の改正案を提出しているのに、その法案に寄り添わない行動をすれば党の本気度が見えなくなってしまう。『幹部の先輩方、世間の感覚とズレてるんじゃないですか?』と感じたのは私だけではないと思います」

イメージと実態の乖離

 政治資金をめぐっては、政治家が自ら代表を務める政党支部に寄付し税控除を受けていた問題もある。朝日新聞県版(5月31日付)によると県内関係の自民、立憲、公明、共産の国会議員14人全員が党の県組織に寄付し税控除を受けていたことが判明。小熊氏も同紙取材に「自分が代表を務める団体への寄付に対しての控除は受けない」と述べている。

 「実は党内でも、自分が代表を務める団体には寄付していないが、県連代表として県連に寄付している同僚が大勢いた。そこで、党の政治改革推進本部で今後の方針を協議してもらった結果、県連への寄付は『政治家個人の団体ではないので代表が寄付しても問題ない』となったが、個人的には代表でいるうちは県連への寄付はどうなんだろうと思っているので、さらに検討して最終的な結論を出したい」

 慎重に対応しなければ国民の評価は即一変する。事実、6月のJNN世論調査を見ると、内閣支持率は前月から4・7㌽減の25・1%だったのに、政党支持率は自民が同0・4㌽増の23・8%、立憲が同2・9㌽減の7・3%。立憲民主党への期待は一瞬で薄れた。

 なぜ、立憲民主党の支持率は上がらないのか。それは、12年前に幕を閉じた民主党政権への失望が大きく影響している。国民の「自民党には任せておけない」との意見はもっともだが、だからと言って立憲民主党に政権を委ねられるかというと「本当に任せて大丈夫か」と不安視する国民が少なくないのだ。

 そこで気になるのが、前出の大串氏や岡田氏をはじめ、野田佳彦氏、枝野幸男氏、安住淳氏、蓮舫氏、福山哲郎氏、玄葉光一郎氏ら当時政権の中枢にいた人たちが多く所属する立憲民主党は民主党政権の総括と反省をどう考えているのかである。そこが明確にならないと、あの時の二の舞を恐れる国民は安心して政権運営を任せられない。

 「民主党政権の負のイメージがついて回っているのは事実だが、一方で、イメージと実態の乖離も強く感じる。例えば、立憲民主党は批判ばかりして対案を示さないと言われがちだが、実際は政府与党が出した法案の8割前後に賛成しており、独自の法案は何十本も出している。しかも、議員立法の場合は与党と違って官僚を使えないので、独自に調査しているのです」

 立憲民主党の「批判ばかり」というイメージは、その部分だけを切り取って報じるメディアにも大きな責任があろう。しかし小熊氏は、それを嘆くのではなく、イメージを払拭する努力が必要と語る。

 「地方議会は執行部のチェック機関と言われるが、チェック機関が批判するのは当たり前。これを国会に置き換えると野党が政府与党のチェック機関になるが、今までのチェックが弱かったから政治が酷い状態になったと考えれば、野党の批判はむしろ甘かったのかもしれない」

 野党が「批判=チェック能力」を高めないと政府与党を暴走させ、結果、政治不信を招いてしまう、と。

 「イメージ払拭には行動で示す以外ない。分かり易く言うと、メディアが飛び付くような『ウケ狙いの批判』はやめるべき。地道な取り組みだが、パフォーマンス抜きの厳格な批判・チェックを心掛ける。そんな姿勢が求められると思います」

カギは世代交代

選挙制度改革の必要性を訴える小熊氏
選挙制度改革の必要性を訴える小熊氏

 数年前、小熊氏は自身の会報紙に泉代表との対談記事を掲載し、その中で「どうすれば立憲民主党のイメージは良くなると思うか」と質問したところ、泉代表は「たたずまい」と答えたという。

 「常日頃のたたずまいを国民に見せていくしかない、というのが彼の見解だった。地道かもしれないが、それが早道なんでしょうね」

 信頼を築くのはコツコツと時間がかかるが、崩れるのは一瞬――民主党政権を知る国会議員ほど、この言葉を深く心に刻むべきではないか。

 もっとも小熊氏によると、立憲民主党には衆院議員が97人いるが、5割未満の人は民主党政権を経験していない。参院議員も38人中6割が未経験なので、党全体では実に半分の国会議員が政権運営の経験を持たない。小熊氏も未経験者の一人だ。

 にもかかわらず、立憲民主党が民主党政権の負のイメージを引きずっているのは、当時政権の中枢にいた前出の人たちが未だに前面に立っているからではないか。裏を返せば人材不足、新陳代謝が進んでいない党の姿を表している。

 小熊氏も「フレッシュさを出さないとイメージは変わらない」と認めるが、併せてこうも言う。

 「政権交代を果たした時、民主党政権の未経験者が多い状況は心配だし、政権を運営するには心許ない」

 東京新聞は6月3日付配信記事で

 《税金や国債などを積み立てて中長期的な政策を進める国の基金を巡り、残高約17兆4000億円のうち、少なくとも約7兆4000億円は国庫返納の必要があるとする試算を衆院調査局がまとめたことが分かった。政府は4月、基金の見直しで2024年度末までに5466億円を国庫返納する方針を示したが、更なる不要額がため込まれている可能性があり、再点検が急務だ》

 と報じた。発覚のきっかけは立憲民主党の城井崇衆院議員が基金の調査を依頼したことだったが、

 「当時の民主党政権なら『これだけ財源があれば税金を上げなくていい』と判断したかもしれないが、一度失敗を経験した人は『7兆4000億円は一つの財源に過ぎない』と同じ轍を踏まない。あるいは、政権運営の未経験者なら『この財源で新しいことにチャレンジしよう』と考えるかもしれないが、経験者は『そのチャレンジは失敗の恐れがある』と冷静な判断が下せる。そういうアクセル役とブレーキ役が混在すれば政権運営は上手くいくと思う」

 理想は、泉代表や小熊氏といった若手が政権の中枢を担い、政権運営を経験したベテランは裏方に回って未経験の若手を支える形なのだろう。すなわち、世代交代が進むかどうかが負のイメージを払拭するカギになる。

 「もちろん、政権交代を果たしたら『この大臣はベテランが務めた方がいい』という話も出てくる。そこは硬軟織り交ぜたベストミックスを党が示せるかどうかが重要だ」

 小熊氏が政権運営を経験した人たちに話を聞くと、返ってくる答えは軒並み「あれは間違いだった」「政権を奪取して浮かれていた」などの反省の弁だという。世間的には負のイメージを払拭できていないが、党内では当時の経験が強い戒めになっていると小熊氏は見る。

 「もとは優秀な人ばかり。政権交代を果たしたら、失敗を糧にできると信じている」

 民主党政権と言えばもう一つ、官僚と対立したイメージもある。「脱官僚」「政治主導」という言葉に、官僚たちは「そこまで言うならお手並み拝見」とそっぽを向いた。これも、政治家と官僚は立場が違うが、目的は同じ「国を良くすること」と考えると、社会の公器である官僚の能力を最大限引き出すことが政治家に求められる役目と小熊氏は指摘する。

 「ただし、政治判断の場に官僚を入れてはいけない。官僚がすべきは正しい政治判断が下されるよう、彼らの能力を以って政治家に充分な材料を提供することだ」

 自民党の裏金問題を機に民主党政権が誕生するきっかけとなった「政権交代可能な二大政党制の実現」を目指す動きは再び起きるのか。

 「二大政党制は手段であり目的ではありません。大事なのは政権交代可能な政治状況をつくることだ。では、なぜ政権交代が必要なのか。それは一党支配が長く続くと権力を腐敗させるからです」

 そうなると、踏み込むべきは選挙制度の改革だと小熊氏は言う。

二大勢力による政治状況

5月の県連大会でがんばろう三唱する執行部
5月の県連大会でがんばろう三唱する執行部

 今の選挙制度のままでは一党で過半数を取るのは難しく、連立政権は避けられない。ただ、連立に参加する政党が増えれば増えるほど、その政権は不安定になる。

 政党として認められる要件は▽現職の国会議員が5人以上▽選挙での得票率が2%以上――のいずれかを満たす必要があるが、諸外国のように5%以上にすれば少数政党の乱立は避けられるかもしれない。そうは言っても政党数が大きく減ることはないだろうから、連立型の二大勢力による政権交代も考える必要がありそう。完全比例にして死票を少なくする方法も考えられるが、個人型の選挙が染み付いた日本で政党型の選挙は馴染まない。現在の小選挙区制をかつての中選挙区制に戻すべきという意見もある――選挙制度はまさに「これだ!」という解がない。

 「日本の政治風土に合っていて世論がきちんと反映される政権交代可能な選挙制度をゼロベースで考える時期に来ているんだと思います。少なくとも、有権者数の二十数%の得票率で一強多弱になってしまう政治状況は避けるべきだ」

 それには選挙制度もさることながら、有権者に「誰に投票しても、どうせ何も変わらない」と思わせないことが重要になる。

 「まずは政治家個人が有権者と日頃から接し、信頼を勝ち得ることです。その先に、福島県で定着している政党の枠を超えた連合型の選挙が全国で展開されれば、一強多弱の政治ではなく、二大勢力による政治状況が生まれると思う」

 政権交代が起きた時、民主党政権の総括と反省を生かした立憲民主党がどんな「たたずまい」を見せるか注目される。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

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