【衆院新2区最新情勢】大物同士が激しい攻防【根本匠】【玄葉光一郎】

【衆院新2区最新情勢】大物同士が激しい攻防【根本匠】【玄葉光一郎】

 1票の格差を是正するため、衆議院小選挙区の数を「10増10減」する改正公職選挙法が2022年12月に施行され、福島県選挙区は5から4に減った。各党は次期衆院選に向けた候補者調整を進めているが、新2区では自民党・根本匠氏(72)=9期=と立憲民主党・玄葉光一郎氏(59)=10期=が激突。共に大臣経験者で、全国的にも勝負の行方が注目される選挙区だ。両氏は旧選挙区時代からの地盤を守りながら、新選挙区に組み入れられた市町村の攻略に心を砕いている。

予算確保で実力見せる根本氏、郡山で支持拡大を図る玄葉氏

新春賀詞交歓会で鏡開きのあとに乾杯する来賓
新春賀詞交歓会で鏡開きのあとに乾杯する来賓

 1月4日、郡山市のホテルハマツで開かれた新春賀詞交歓会。会場内はコロナ前の雰囲気に戻り、多くの政財界人が詰めかけていたが、舞台前の中央テーブルには根本匠氏と、少し距離を空けて玄葉光一郎氏の姿があった。

 会が始まると、根本氏は舞台に上がり祝辞を述べたが、玄葉氏にその機会はなかった。根本氏にとって郡山は旧2区時代からの強固な地盤。新参者の玄葉氏が祝辞を述べられるはずもない。

 しかし、続いて行われた鏡開きの際は様子が違った。互いに法被をまとい、木槌を手に威勢よく酒樽を開けていた。そもそも旧2区時代は会場に姿がなかったことを思うと、郡山が玄葉氏の選挙区になったことを強く実感させられる。

 新2区は郡山市、須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡で構成される。旧選挙区で言うと、郡山市が旧2区で根本氏の選挙区、それ以外は旧3区で玄葉氏の選挙区。

 別表①は県公表の選挙人名簿登録者数である(2023年12月1日現在)。郡山市が全体の62・5%と大票田になっているのが分かる。

表① 選挙人名簿登録者数

郡山市266,728 人
須賀川市62,544 人
田村市29,392 人
岩瀬鏡石町10,364 人
天栄村4,572 人
石川石川町12,154 人
玉川村5,294 人
平田村4,754 人
浅川町5,103 人
古殿町4,064 人
田村三春町14,129 人
小野町7,940 人
合計427,038 人
※県公表。昨年12月1日現在。

 前回2021年10月30日に行われた衆院選の旧2区、旧3区の結果は別掲の通り。その時の市町村ごとの得票数を新2区に置き換えたのが別表②である。表中では上杉謙太郎氏が須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡で獲得した票を根本氏に、馬場雄基氏が郡山市で獲得した票を玄葉氏に組み入れている。

表② 根本氏と玄葉氏の得票数(シミュレーション)

根本氏玄葉氏
郡山市75,93764,865
須賀川市15,38621,819
田村市6,91113,185
岩瀬鏡石町2,9043,592
天栄村1,5391,880
石川石川町4,0124,554
玉川村1,6522,024
平田村1,4721,958
浅川町1,8491,788
古殿町1,3231,757
田村三春町2,7466,372
小野町2,6123,301
合計118,343127,095
※前回2021年の衆院選の結果をもとに、上杉謙太郎氏の得票を根本氏、馬場雄基氏の得票を玄葉氏に置き換えて本誌が独自に作成。

 このシミュレーションだと根本氏が11万8343票、玄葉氏が12万7095票で、玄葉氏が8752票上回る。ただ、上杉氏から根本氏、馬場氏から玄葉氏に代わった時、実際の有権者の投票行動がどう変わるかは分からない。

 票の「行った・来た」で見ると、新2区への移行は根本氏に不利、玄葉氏に有利に働いている印象だ。というのも、根本氏は旧2区の二本松市、本宮市、安達郡で馬場氏より6000票余り多く得票していたが、これらの市・郡は新1区に移行。逆に玄葉氏は、旧3区の白河市、西白河郡、東白川郡で上杉氏に500票余り負けていたが、これらの市・郡は新3区に組み入れられた。一方、上杉氏に勝っていた須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡は新2区にそのまま残った。

 「勝っていた地盤」を失った根本氏に対し「負けていた地盤」が切り離された玄葉氏。加えて根本氏は、固い地盤のはずの郡山で無名の新人馬場氏に追い上げられ、比例復活当選を許してしまった。

 「前回衆院選の結果だけ見れば玄葉氏が優勢。玄葉氏は前回まで、上杉氏を相手にいかに票の減り幅を抑えられるか守りの選挙を強いられてきた。しかし新2区では、大票田の郡山をいかに切り崩すか攻めの選挙に転じられる。これに対し根本氏は前回、地元郡山で馬場氏に迫られ、今度は玄葉氏を相手に防戦しなければならない」(ある選挙通)

派閥の問題で強烈な逆風

根本匠氏
根本匠氏
玄葉光一郎氏
玄葉光一郎氏

 根本氏も玄葉氏も、守りを固めて攻めたいと思っているはずだが、現状で言うと、それができそうなのは玄葉氏のようだ。例に挙げられるのが昨年11月に行われた県議選だ。

 定数1の石川郡選挙区は自民党新人の武田務氏と無所属新人の山田真太郎氏が立候補したが、根本氏は武田氏の選対本部長に就き、玄葉氏は連日山田氏の応援に入るなど代理戦争の様相を呈した。

 「石川郡選挙区はこれまで、玄葉氏の秘書だった円谷健市氏が3回連続当選を果たし、自民党は前回(2019年)、前々回(15年)とも円谷氏に及ばなかったが、組織的な選挙戦が行われなくても円谷氏と数百票差で競っていた。そうした中、今回は根本先生が直々に選対本部長に就き、徹底した組織戦を展開するなどかなりの手ごたえがあった」(地元の自民党関係者)

 この関係者は勝っても負けても僅差になると思っていたという。ところが蓋を開けたら、逆に1000票以上の差をつけられ武田氏が落選。すなわちそれは、玄葉氏が旧3区時代からの地盤を守り、根本氏は積極介入したものの攻め切れなかったことを意味する。

 ただ、根本氏の攻めの姿勢はその後も続いている。

 「須賀川、田村、岩瀬、石川地区を隅々まで見て回った根本先生の第一声は『ここは時が止まっているのか』だった。政治が行き届いていないせいなのか、風景が昔と変わっていないというのです」(同)

 旧3区の現状を把握した根本氏が行ったのは、徹底した予算付けだった。市町村ごとに予算がなくてできずにいた事業を洗い出し、根本氏が関係省庁に直接電話して必要な予算を引っ張ってきた。

 「当時の根本先生は衆議院予算委員長。『予算のことなら任せろ』と強気で言い、実際、すぐに必要な予算を引っ張ってきたので、市町村長や議員は『今まで要望しても予算が付かなかったのでありがたい』と感激していた」(同)

 別表③は根本氏が国と折衝し、昨年12月までに交付が決まった予算の一部である。どれも住民生活に直結する事業だが、金額はそれほど大きくないものの市町村単独では予算を確保できずにいた。政府に近い与党議員として力を発揮し、滞っていた事業を動かした格好だ。

表③ 根本氏が付けた主な予算

石川町県事業、いわき石川線石川バイパス5億円
浅川町県事業、磐城浅川停車場線本町工区1億1200万円
浅川町町事業、曲屋破石線2800万円
平田村国道49号舗装整備(520m)3億1300万円
須賀川市市道1-22号線浜尾工区(雲水峯大橋歩道整備)2億7000万円
※平田村の3億1300万円は猪苗代町、いわき市と一緒に維持管理費として交付。

 これ以外にも根本氏は▽釈迦堂川の国直轄部分の河川改修を促進(須賀川市)▽数年前から懸案となっていた県道あぶくま洞都路線の路面改良を実現(田村市)▽午前6時から午後10時までしか通行できなかった東北自動車道鏡石スマートICの24時間化を実現(鏡石町)▽もともと通っていた中学校の閉校で別の中学校に超遠距離通学しなければならない生徒に、タクシー送迎を補助対象に認める(天栄村)――等々を短期間のうちに行った。

 地元政治家として長く君臨し、民主党政権時代には外務大臣や党政策調査会長などの要職を歴任した玄葉氏がいても、これらの事業は一向に実現しなかったということか。やはり与党と野党の政治家では、省庁の聞く耳の持ち方が違うのか。そもそも玄葉氏は、根本氏のような取り組みを「おねだり」と称すなど消極的だったが、市町村や県の力で解決できない困り事を国の力で解決するのは地元国会議員がやるべき当然の仕事だ。玄葉氏は県議選で「野党の国会議員だから仕事ができないというのは誤った認識」と述べていたが、こうして見ると、期数はほとんど変わらないのに与野党の立場の差を感じずにはいられない。

 とはいえ、こうした予算が付いて喜んでいるのは市町村長や議員ばかりで、一般市民は河川改修や道路工事が進んでも、その予算が誰のおかげで付いたかは知る由もないし、関心を向けることもない。極端な話、市民が政治家に関心を向けるのは何か悪いことをした時くらい。今だと自民党派閥の政治資金パーティー問題が一番の関心事ではないのか。

 マスコミの注目は最大派閥の安倍派と二階派だが、根本氏が所属する岸田派も会長の岸田文雄首相が真っ先に解散を宣言するなど、その渦中にいる。しかも根本氏は、事務総長という派閥の中心的立場。「当然、裏のことも知っているはず」と見られてしまうのは仕方がない。

 1月12日にはアジアプレスが、フリージャーナリスト・鈴木祐太氏が執筆した「根本氏刑事告発」の記事を配信した。

 《2020年以降、事務総長を務めている根本匠衆議院議員(福島2区選出)が新たに刑事告発された。昨年12月まで会長を務めていた岸田文雄総理ら3人と合わせて、岸田派で刑事告発されたのは計4人となった》《事務総長は派閥の「実務を取り仕切っており、同会長と共に収支報告書の記載方針を決定する立場にあった」と、提出された告発補充書で指摘されている》(同記事より抜粋)

 告発状を出したのは神戸学院大学の上脇博之教授。今、解散総選挙になれば根本氏には強烈な逆風が吹き付けるだろう。

目に見えて増えたポスター

 「派閥の問題が起きて以降、郡山市内を回っていても『許せない』と憤る市民は増えていますね」

 そう明かすのは玄葉光一郎事務所の関係者だ。

 「刑事告発の報道が出た翌日、根本氏は会合で釈明したようだが、その場にいた人たちは『だったらきちんと説明すべきだ』とシラけていたみたいですね」(同)

 玄葉氏としては、ここを突破口に根本氏の地盤である郡山に深く切り込みたいところ。しかし、現実はそうもいかないようだ。

 「玄葉は1年前から郡山を中心に歩いており、留守がちの地元・田村は本人に代わって奥さんと娘さんが歩いている。この間、郡山で回れる場所は何度も回ってきました」(同)

 一見すると、挨拶回りは順調そうに見えるが

 「これまで業界団体の会合に呼ばれたことは一度もない。ずっと根本氏を支えてきた人たちですから、当然と言えば当然です。市の中心部も思うように歩けておらず、現時点では(郡山市内に)事務所を構える見通しも立っていない」(同)

 長年かけて築かれてきた相手の地盤に切り込むのは、簡単ではないということだ。

 昨年秋以降は、郡山市虎丸町に事務所を置く馬場雄基氏と連携を強めている玄葉氏。1月下旬からは、自身と接点の薄い地域は馬場氏が先に単独で回り、そのあとを玄葉氏が回るなど、作戦を練りながら市の中心部に迫ろうとしている。

 その成果が表れつつあることは、郡山市内の立憲民主党関係者の話からもうかがえる。

 「ポスターの数が目に見えて増えている。以前は増子輝彦氏(元参院議員)のポスターが貼られていた場所も玄葉氏のポスターに変わっている。一番驚いたのは室内ポスターが増えていることだ。家や事務所の中に室内ポスターが貼ってあるということは、その人に投票するという意思表示でもある。馬場氏のポスターは、道路端ではよく見るが室内ポスターを見かけることはない。玄葉氏も『郡山は回れば回るほど(票が)増える』と言っていますからね。玄葉氏が確実に郡山に食い込んでいることを実感します」

 ただし、こうも付け加える。

 「今の自民党はダメだから、受け皿として玄葉氏に票が集まるのは自然な流れ。しかし、玄葉氏に投票した人が立憲民主党を支持しているかというとそうではない。自民党の支持率は下がっているのに、立民の支持率が上がらないのがその証拠。そもそも玄葉氏は党代表候補に挙がったことがないし、党のあり方を本気で語ったこともない。要するに、玄葉氏に投票する人たちは『玄葉党』の支持者なのです」(同)

 旧3区でも市町村議や県議は自民党候補を応援するが、国会議員は玄葉氏に投票する人が大勢いた。郡山でもそうしたねじれ現象が見られるかもしれない。玄葉氏は田村出身だが、郡山の安積高校卒業なので同級生が頼りになる。岳父の佐藤栄佐久元知事は郡山出身で、栄佐久氏の支持者が健在な点も郡山にさらに食い込む材料になりそう。

 もっとも、これらの材料は我々のような外野が思っているほど当事者は有利に働くとは考えていない。前出・玄葉事務所関係者の話。

 「安積高校卒業は根本氏もそうだし、栄佐久氏の支持者はずっと根本氏を支持してきた。周りは『同級生や岳父がいる』と言うが、その人たちが玄葉が来たからといって急に根本氏から鞍替えするかというと、そうはなりませんよ」

知事選を気にかける経済人

 郡山で着々と支持を広げる玄葉氏だが、そこには衆院選と同時に知事選の話も付きまとう。

 本誌昨年8月号でも触れたが、玄葉氏をめぐっては、一度は政権交代を果たしたものの野党暮らしが長くなっているため、支持者から「首相になれないなら知事に」という声が上がっている。玄葉氏も本誌の取材に、そういう声を耳にしていることを認めつつ「今後どうしていくかはこれからの話。いずれにしても、まずは次の総選挙です。選挙区で勝たないと、自分にとっての次の展望はない」と語っている。

 郡山の経済人には、根本氏を支持しながら玄葉氏と個人的な関係を築いている人が結構いる。そういう経済人からは「知事選に出るなら出ると態度をはっきりさせてほしい」との本音も漏れる。

 「このまま解散せず任期満了まで務めたら衆院選は2025年秋。一方、次の知事選は26年10月ごろ。そうなると仮に玄葉氏が衆院選に勝っても、1年しか務めずに知事選の準備をしなければならない。そんなのは現実的ではないし、幅広い支持層を取り込もうとするなら根本氏と真っ向勝負をして反感を買うのは得策ではない」(経済人)

 ただ、内堀雅雄知事が4期目も目指すことになれば、内堀氏を知事に推し上げた玄葉氏が次の知事選に立候補する可能性はほぼなくなる。自分の思いだけでなく、環境も整わないと知事転身に踏み切れない以上、今は目の前の衆院選に全力を注ぐしかない。

 元の地盤を守りながら未知の市町村を攻める根本氏と玄葉氏。前記・シミュレーション通りにはいかないだろうが、どちらが当選しても(あるいは比例復活で両氏とも当選しても)国会で仕事をするのは当然として、地元住民の生活に資する仕事をしてもらわないと住みよい県土になっていかないことを意識していただきたい。

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