衆院選の最中に浮上した自民党による非公認候補への2000万円支給問題。県内では3区からの立候補を断念した菅家一郎氏(69)と、菅家氏に代わって急きょ無所属で立候補した上杉謙太郎氏(49)が2000万円に〝触った〟可能性がある。
立候補を取りやめた菅家氏と無所属で選挙戦に挑んだ上杉氏
10月27日に投開票された第50回衆議院選挙は周知の通り、自民・公明の与党が過半数を割り、野党の立憲民主党や国民民主党が躍進した。
「10増10減」の区割り改定で選挙区数が4に減った福島県も、衆院議員の人数が小選挙区と比例代表を合わせて、選挙前は9人(自民5、立憲民主4)だったのが選挙後は6人(自民2、立憲民主4)に減った。与野党の違いはあれど、議員数が減ればそれだけ中央での発言力・発信力は低下するので、福島県にとっては痛手と言える。
自民党議員の数が大幅に減ったのは、言うまでもなく派閥の裏金問題が原因だ。問題に関わった議員が立候補した選挙区は、比例重複が認められるか否か、公認されるか否かで混乱。県内では3区が党の混乱を象徴する選挙区となった。
すなわち3区からは当初、菅家一郎氏が自民党公認で立候補する予定だったが、政治資金収支報告書に計1289万円分の不記載があり6カ月の役職停止処分を科されたことから党の公認を受けられなくなり、無所属での立候補を余儀なくされた。結局、菅家氏は公示3日前に「非公認となり厳しいと判断した」と立候補を断念し、同じく裏金問題で比例東北ブロックからの立候補を辞退していた上杉謙太郎氏が、急きょ3区から無所属で立候補した。(詳細は先月号「『候補者調整』に翻弄された上杉氏」を参照されたい)
無所属とはいえ自民党県連の全面支援を受けて選挙戦に臨んだ上杉氏だったが、結果は厳しいものとなった。
当9万6814 小熊 慎司 56 立前
6万8133 上杉謙太郎 49 無前
1万1715 唐橋 則男 63 共新
投票率56・71%
各地の非公認候補は多くが落選したが、そんな彼らにダメージを与えたのが、選挙戦の最中に起きた「2000万円支給問題」だった。
自民党は衆院選公示前、公認候補に公認料500万円、活動費1500万円、計2000万円を支給したが、公示後には非公認候補にも「党勢拡大のための活動費」という名目で2000万円を支給した。森山裕幹事長は「候補者に支給したものではない」と釈明したが、この事実を報じた「しんぶん赤旗」は「事実上の裏公認」と厳しく批判。支給された側の非公認候補も困惑した。全国ニュースでは「非常に迷惑。ただちに党に返す」と憤る非公認候補の様子も伝えられた。
「ところで、福島3区に支給された2000万円ってどうなったんですか?」
と興味津々に話すのは、会津地方の自民系議員だ。
「『党勢拡大のため』という曖昧な言い回しだと、いくらでも理由をつけて使えそうだし、そもそも使ったのか、使わなかったのか、党に返したのか、まだ手元にあるのか、誰に使う権限があるのかがよく分からない。『このままだと菅家氏が使うのではないか』と言う人もいる」(同)
「菅家氏が使う」とは、非公認となり立候補を断念した菅家氏だが、第3選挙区支部長は現在も菅家氏のままなので「2000万円を使う権限は支部長の菅家氏にあるのではないか」ということを指している。
衆院選から10日後、菅家氏に聞くと次のように答えた。
「確かに第3選挙区支部長は今も私だが、2000万円が支給されたのは出馬を取りやめたあとだから、私は見ていないし(振り込みを)確認もしていない」
菅家氏によると、2000万円は候補者個人ではなく、選挙区支部に対して支給されたものだという。
「ですから個人的理由で使うことはありません。ただ、どうせ支給するなら衆院選が終わってからにしてほしかった。選挙中に支給すれば非公認候補にも事実上公認料が渡されたと誤解されるからです」(同)
2000万円をめぐっては、党に返したという人もいれば党から返金を断られたという人もいる。ただ、福島3区の2000万円は「誰が次の第3選挙区支部長に就くか分からないし、私も上杉先生も無所属という立場だったので今後のことは全く不透明」(同)なので、次の支部長が決まらないと党勢拡大には使えないのではないか、というのが菅家氏の見解だ。
第3選挙区支部に2000万円が支給された時、3区で選挙戦に臨んでいた上杉氏にも聞いてみた。
「2000万円は非公認候補に支給されたもので、3区で言うと対象は菅家先生になります。私は、3区においては無所属の立場で立候補したので、3区の2000万円について私があれこれ発言すると菅家先生にご迷惑をかける恐れがある。言及は控えさせてほしい」
菅家氏が立候補に意欲!?
実は、2000万円は選挙区支部に対してだけでなく比例区支部にも支給されたが、上杉氏は福島県比例区第一支部長に就いている。
「比例区支部に支給された2000万円は確認中としか言えません。現在、秘書が衆院選の収支を精算しており、それが確定したら話せると思うが、こちらも正確性を期す観点から言及は控えさせてほしい」
ただ、3区の自民党関係者は「適正に党勢拡大のために使えば何ら問題はない」と言う。
「党勢拡大のための資金は、これまでも衆院選ごとに党から選挙区支部に支給されていました。支部長が個人的に使えるカネではなく、あくまで党勢拡大につなげる使い方が前提です。3区で言うと、会津若松や喜多方、白河など各支部に使ってもらい、党員数増加を目指します」
その使い方を差配するのが支部長だが、では次の第3選挙区支部長はいつ、どのように決まるのか。
ある自民党県議はこう話す。
「党本部から各都道府県連に支部長を選考するよう指示が来ます。それを受けて県連が各選挙区に『適任者を推薦してほしい』と打診。地元で調整が行われ、県連に適任者が上がってきます。県連が地元の決定を蹴ることはないので、そのまま党本部に上げて最終決定が下されることになります。ただ、選考の指示がいつ来るかは分かりません」
つまり次の支部長(公認候補)を上杉氏とするのか、菅家氏とするのか、あるいは新しい人物とするのかは地元の調整に委ねられるのだ。区割り改定で選挙区が広くなった福島3区だけに、県南の党員は上杉氏を推すだろうし、会津の党員は菅家氏か、立候補に意欲を見せる某県議を推すことも考えられ、調整は難航する可能性がある。
もっとも、前出・3区の自民党関係者はこうも言う。
「近々、党本部から選挙区支部長の選考について指示があると聞いています。3区は順当なら、無所属で一定の票を獲った上杉氏で決まりでしょう。菅家氏も『全面的に上杉氏を推す』と言っています」
実は、菅家氏は衆院選が終わった直後、次の衆院選への立候補に一瞬意欲を見せたが、結局は上杉氏の支援を明言した経緯がある。
菅家氏に聞くと
「私が次の衆院選に出るみたいな話が出回っているが、そんなことは一言も言っていない。いろいろ動き回ると『やる気だな』と勘違いされるので、今は大人しくしています。そういう事情で出馬断念の謝罪と上杉氏支援の御礼も、直接するのではなくショートメールで済ませました」
結局、2000万円の行方を知るには後日公表される政治資金収支報告書を確認するしかなさそうだが、使途を決める3区の支部長に誰が就くかにも注目が集まりそうだ。