「郡山の不動産王」吉村徳太郎アラジン会長

 「アラジン」と聞くとパチンコ店をイメージする県民が多いかもしれないが、近年は不動産やフィットネスなど異業種に進出。人々のより良い暮らしの実現に向け事業展開している。異業種進出のきっかけやパチンコ店経営の現状、目指す企業像などをアラジンホールディングス(郡山市、以下アラジンHDと略)の吉村徳太郎代表取締役会長兼社長(91)に聞いた。

衰退するパチンコ事業から異業種に参入

パチンコアラジン
パチンコアラジン

 テレビやラジオをつけると、若者に人気の声優を起用したロボットアニメのCMをよく見聞きする。県外では流れていないそうだが、ユーチューブの公式チャンネルでは21話の短編アニメが公開されるなど、かなりの凝り様。知らない人が見たら、これをパチンコ店が手掛けているとは想像しないだろう。

 パチンコアラジンは県内で9店舗、東京都内で1店舗を運営。会長の吉村徳太郎氏が郡山市内でパチンコ店を個人創業したのは1956(昭和31)年、アラジンの店名で店舗展開を始めたのはそれから25年後の1981(昭和56)年になる。

 「それが今では不動産とフィットネスというパチンコとは関係ない事業を手掛けているんだから、人生は何が起きるか分からないね」

 と話す吉村氏は御年91歳。紺色のジャケットに朱色のネクタイをしめて筆者の前に現れた吉村氏は、取材中も役員たちと事業に関する相談をするなど、その姿はエネルギッシュに映る。

吉村徳太郎代表取締役会長兼社長
吉村徳太郎代表取締役会長兼社長

 今回、吉村氏にインタビュー取材を申し込んだのは、アラジンHDによる積極的な異業種進出を知ったのが発端だった。

 郡山市在住の筆者が普段何気なく訪れている商業施設の多くに、アラジンHDが関わっていることを偶然知った。他のパチンコ店も不動産事業や飲食店経営など異業種に参入していることは聞いていたが、自分の身近な生活に実はアラジンが深く関与していたことに驚き、吉村氏に話を聞いてみたいと思った。

 吉村氏によると、不動産業に進出したきっかけは十数年前、新幹線の車中で読んだ週刊誌だったという。

 「香港の隠れた財閥はエレベーターもない5階建てマンションを3万戸持ち、常に家賃を稼いでいる――そんな記事が目に留まり、そういう商売もあるんだなって」

 吉村氏はこのころ、本業のパチンコ店経営に厳しさを感じ、新しい事業を始めなければならないと考えていた。不動産への関心が一気に高まった吉村氏は、役員を務める息子たちに相談。しかし「他社は店舗展開しているのに、なぜお父さんは不動産を買おうとしているのか」と異業種進出に強く反対された。

 アラジンは、2014年に坂下店(会津坂下町)を出店したのを最後に新規出店を控えていた。マーケット事情を踏まえると、これ以上の店舗展開はリスクが大きいという吉村氏の経営判断によるものだが、他社の店舗展開を意識すると、息子たちの「異業種に目を向けるのではなく本業に注力すべき」という考え方もまた正論だった。

 それでも吉村氏は、パチンコ店経営は一層厳しくなると息子たちを説き伏せ不動産業に進出。ただ、最初から成功したわけではなかった。

 「初めて買った不動産は16、7年前、福島市の飲食店ビルでした。利回りが18~20%と紹介され、3棟買った。ところが、店の出入りは激しいし、家賃を滞納したまま出て行く人はいるし、(家賃取り立ての)裁判を起こさなければならないし……」

 苦労の連続で飲食店ビルに懲りた吉村氏が、次に目を向けたのがホテルだった。

 「2008年ごろ、郡山駅西口で建設中だった『ドーミーインEXPRESS郡山』を買わないかという話があった。テナントとしてホテルが入ることは決まっているが、建物の買い手を探しているというので検討し、買うことにした」

 これが、吉村氏が郡山市内で初めて購入した物件で、この間、新型コロナで苦戦した期間はあったが、それ以外は立地条件の良さから一定の稼働率で推移し、安定した家賃収入を得ている。

 飲食店ビルとホテルの経験から吉村氏が学んだのは「貸すなら大手」と「1棟貸し」だった。

 「大手上場企業なら信用力も高いし、家賃の滞納もない。フロアごとや部屋ごとに貸すとトラブルが増える恐れがあるが、1棟貸しだと長期契約を結べばトラブルを心配しなくていい。仮に(契約先の大手上場企業)が破綻したら、運が悪かったと諦めもつきますから」

 こうしてホテルはドーミーインのほかに、郡山駅東口に「コンフォートホテル郡山」、仙台駅西口に「コンフォートホテル仙台西口」、東京都内に「スーパーホテル」の計4棟を保有・管理することになった。

 ホテル進出と同時期には仙台駅地下鉄東西線の青葉通一番町駅から徒歩圏内に駐車場を購入。今も好調な収益を維持している。

家賃収入1日1000万円

 その後、2014年に購入(信託財産引継)したのが「郡山駅東ショッピングセンター(SC)」だ。

 「きっかけはメガバンクからの紹介でした。一帯を開発した企業が破綻し、スイス銀行が不動産を所有していた。一定期間所有したあと、売却先を探していたタイミングで信託先のメガバンクからうちに打診があった。あのころは10%の利回りだったので、買うことを決めました」

 SC内にはドン・キホーテ、ラウンドワン、まねきの湯、マクドナルド、かっぱ寿司など複数の店舗が並ぶが、土地と建物は全てアラジンHDの名義で、同社が店舗を運営する各社と不動産賃貸借契約を結び、家賃収入を得ている。

 これ以外にもSCタイプは、2018年にオープンした「須賀川山寺道SC」(ドン・キホーテ、かつや、魚べい)、「喜多方市台SC」(ダイユーエイト、カーブス)、2022年に郡山市にオープンした「アラジンスクエア八山田西」(ニトリ、魚べい)を保有・管理するが、須賀川と郡山のSCに共通するのは、近隣でパチンコアラジンが営業しており、もともとは他店が進出しないよう戦略的に所有していた土地にSCを開設したことだ。

 「『その場所に出店を希望する企業があるので、そこを店子にしてうちに建てさせてほしい』という依頼がいくつか舞い込んだ。そこで、うちにとって最適なプランを選んでSCを建ててもらった。企業防衛のために所有していた土地が、思いがけずSCに生まれ変わった形です」

 2021年には郡山市虎丸町に、1、2階に富士フィルムのグループ会社が入居し、3~9階が賃貸マンションになっている複合ビル「グランディ虎丸」がオープン。このほか別掲の商業施設を保有・管理し、賃貸マンションも複数所有する。

グループ会社一覧

アラジンホールディングス(不動産賃貸)
アラジン(パチンコ事業)
ギルソン(不動産賃貸)
ベドンヘー(不動産賃貸)
光台(不動産賃貸)
Jホップ(フィットネスクラブ)
アラジン企画(遊技機の在庫管理、売却等)
スポーツクラブジャンプ(スポーツクラブ)
アラジン商事(たばこ販売、清掃)
会津土地建物(不動産賃貸)
成鍾奨学会(不動産賃貸)
協和商事(健康器具販売)

※アラジンHDのホームページより
アラジングループが所有する主な物件

郡山駅東ショッピングセンター
アラジンスクエア八山田西(郡山市)
須賀川山寺道ショッピングセンター
喜多方市台ショッピングセンター
グランディ虎丸(郡山市)
ドーミーインEXPRESS郡山
コンフォートホテル郡山
コンフォートホテル仙台西口
スーパーホテル(東京都)
極楽湯(郡山市)
ケーズデンキ相馬
カーブス安積(郡山市)
仙台一番町ビル
第一寿ビル(福島市)
第八寿ビル(福島市)
第七佐勝ビル(福島市)
スポーツクラブジャンプ(米沢市)
セントラルビル(郡山市)
アダックスビル(東京都)
仙台マックスワンパーキング
南田パーキング(郡山市)
アラジン本社

※アラジンHDのホームページより

 順調に事業を拡大していく中で吉村氏が掲げたのが「家賃収入1日1000万円」という目標だった。

 「グループ全体で、純粋に家賃収入だけで1日1000万円の売り上げを目指した。厳密に調べたわけではないが、その目標が達成できれば市内の不動産業ではトップになれるだろう、と」

 ただ、郡山は首都圏と比べて経済的キャパシティが狭く売り上げを伸ばしづらいこと、不動産事業に進出した当初より利回りが下がっていることから、吉村氏が悲願と語る家賃収入1日1000万円は「もう少しのところで届いていない」。

 アラジンが、不動産事業とともに注力するのがフィットネス事業だ。女性だけの30分健康体操教室「カーブス」のフランチャイジー(加盟店)として郡山市、会津若松市、喜多方市に計7店舗を出店。今後も店舗数を増やしていく計画だ。

 「フィットネスに目を向けたきっかけは銀行が開いたセミナーに参加したことです。新たな柱となる事業を始めたいと思っていた中、昨今の健康ブームもあり、中高年にターゲットを絞ったカーブスのフランチャイジーになることを決めた」

 カーブスだけではなく、山形県米沢市ではプールやマシンジムなどを備えた「スポーツクラブジャンプ」を関連会社が経営。フィットネス事業は欧米に比べて国内の利用率が低いこと、業界全体の売り上げ・会員数が伸びていることもあり、今後も成長が見込まれている。

パチンコ「冬の時代」

 異業種進出の成果が着実に表れていることは理解できた。では、本業のパチンコ店経営はどういう状況にあるのか。

 「一言で言えば『冬の時代』。一昔前は、レジャーと言えばパチンコが主流だったが、今は多くの人が海外旅行に出掛けるし、近年はスマホの普及で若い人が高い通信料を払うのが当たり前になっている。パチンコに回すお金なんてありませんよね」

 業界にとっては新型コロナの影響も大きく、ピーク時は全国で1万5000店舗、警察庁によると2019年は9600店舗あったが、コロナ禍を経て2022年には7600店舗、2023年には7000店舗まで減った。

 「コロナ禍には『店を買ってくれないか』という話もあちこちから来た。どこも厳しかったんだと思います。ただ、良い物件には当然、悪い物件もセットでついてくる。手を出す気にはならなかったね」

 公益財団法人日本生産性本部余暇創研が発行する『レジャー白書2024』によると、2023年のパチンコの市場規模は15・7兆円。ピーク時の30兆円から半分に落ち込んでいる。「将来やってみたい」「今後も続けたい」人の割合を示す参加希望率は5・2%で、10年前は10%前後、1990年代半ばには20%前後で推移していたことを考えると、業界の衰退ぶりがよく分かる。

 参考までに同白書によると、2023年のパチンコ参加人口は前年比110万人減の660万人、年間平均活動回数は同0・7回減の31・2回、年間平均費用は同2万0600円増の10万9000円。

 「パチンコがなくなることはないが、衰退は止めようがない。業界も時代の変化に合わせて変わる必要があるということでしょうね」

 吉村氏が例に挙げたのは任天堂だ。

 「任天堂のスタートは花札とトランプ。それが今や数々のゲーム機やゲームソフトを開発し、日本を代表するグローバル企業になった。これを同じ『娯楽』という枠でくくるなら、パチンコももっと透明性を高めて、お客様に健全に遊んでいただく業界にならないといけない」

 同業者の中には、業界に対する規制の厳しさを嘆く人も少なくない。

 「確かに厳しいかもしれない。そして厳しすぎるから刺激も面白さも失われ、お客様が離れている面もあるかもしれない。しかし、厳しいからこそ今もこうやって営業できている面もある。もし規制が緩かったら不正を働く店が現れ、それこそ健全性なんて保てませんよ」

 参考までに、民間信用調査機関調べによるアラジンHDとアラジンの直近5年間の決算は別掲の通り。パチンコ店経営(アラジン)より不動産事業(アラジンHD)の方が売上高に対する利益率が高く、グループ全体の不動産事業売上高も30億0500万円(2023年6月時点、同社HPより)に上っている。ちなみに自己資本比率は、アラジンHDが40%台後半、アラジンが80%台。

アラジンHDの業績

売上高当期純利益
2019年23億7800万円7800万円
2020年22億8600万円5億7300万円
2021年22億0800万円6億5200万円
2022年23億5500万円6億5000万円
2023年24億8300万円6億6100万円
※決算期は6月。

アラジンの業績

売上高当期純利益
2019年320億4900万円4億5900万円
2020年309億4400万円4億6000万円
2021年223億1500万円▲8600万円
2022年240億5300万円4億9300万円
2023年240億3700万円6億4300万円
※決算期は3月。▲は赤字。

 ところで、アラジンと聞いて個人的に思い浮かぶのが「福島銀行の大株主」であることだ。同行の有価証券報告書によると、今年3月31日現在53万8000株(発行済み株式総数の1・92%)を所有し、第9位に位置する。

 福島銀行の大株主になったきっかけは何だったのか。

 「郡山に初めて出店した時、お世話になったのが福銀でそれ以来の付き合い。大株主になったのは、同行でいろいろとあった際(※)に大口で(増資を)引き受けたからです」

※2001年の中間決算で自己資本比率が1.7%に低下、金融庁から早期是正勧告が出され、預金全体の20~25%に当たる1000億円超の取り付け騒ぎが起きた。これを受け、福島銀行は翌年、146億円の第三者割当増資を行った。

 今後の課題に挙げられるのが不動産の老朽化だ。必要に応じて修繕するだけでなく、経過年数によっては建て替えもしなければならない。賃貸借契約の満了で店舗の入れ替えが起きることも意識し、店子に満足な状態で入居してもらえる物件の維持が求められるが「そのために貯蓄しておくべき修繕・建て替え費用を、新たな投資に回す経営判断に迫られることもある」と吉村氏は吐露する。老朽化に備えつつ、成長を止めないための投資をいかに継続していくかがカギのようだ。

「東京に大きな物件を」

 人手不足の問題も、必要数の確保が難しければ今まで10人でやっていた仕事を8人でやり、2人分の給料を8人に上乗せするしかないと考えている。そこで吉村氏が求めるのが仕事の効率アップで「効率が上がればスキルが伴い、優秀な人材が育つ好循環が生まれる」と話す。他社から引き抜かれるくらいの従業員になれ、が吉村氏の持論だ。

 後継者はどうか。

 「経営者によっては、実子ではなく優秀な社員を後継者に据える人もいる。しかし私は『もし他人に任せて失敗したら悔しい』という考え方なので、息子(吉村圭三氏)に委ねています」

 最後に、市内の不動産業者のこんな声を紹介しておきたい。

 「仲介業者との間で、不動産売買手数料をめぐるトラブルのウワサを聞いたことがある。同時期に物件を持ちすぎた影響から、修繕・建て替え費用の負担が一気にかさむリスクもある。家賃収入1日1000万円にこだわるのも大切だが、将来の備えも怠ってはいけない」

 急成長しているからこそ背後で起きるひずみに気を付けるべき、と言いたいようだ。

 パチンコ店、不動産、フィットネスの三本柱は安定してきた。地元への恩返しとばかり、郡山市に毎年多額の寄付もしている。「将来的には東京に大きな物件を持ちたい」と野望を口にする吉村氏。アラジングループは三本柱を通じて、人々のより良い暮らしの実現を目指していく。

関連記事

  1. 【福島市】メガソーラー事業者の素顔

    【福島市】メガソーラー事業者の素顔

  2. 楽市白河に「役員使い込み」の奇妙なウワサ

    楽市白河に「役員使い込み」の奇妙なウワサ

  3. 問われる【あぶくま高原道路】の意義

    問われる【あぶくま高原道路】の意義

  4. 福島駅東口再開発に暗雲

    福島駅東口再開発に暗雲

  5. 完成した田村バイオマス発電所

    田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

  6. 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

  7. 【いわき・湯本駅前再整備】くすぶる異論 遠い合意

  8. 【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲【山形屋商店】

    【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲

人気記事

  1. 本宮市「コストコ進出説」を追う 地図
  2. 【マルト建設】贈収賄事件の真相
  3. 【福島市】メガソーラー事業者の素顔
  4. 事件屋に乗っ取られた「鹿島ガーデンヴィラ」
  5. 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論
  6. 【和久田麻由子】NHK女子アナの結婚相手は会津出身・箱根ランナー【猪俣英希】
  7. 【福島市】ヨーカドー跡にイオン進出のウワサ

最近の記事

  1. 政経東北【2025年3月号】
  2. 【安達太良山】くろがね小屋27億円再建の是非 【安達太良山】くろがね小屋27億円再建の是非
  3. 【特別対談】フリーアナウンサー【柗井綾乃】× 世界一周チャリダー【伊藤篤史】
  4. 福島市職員が病休中にゴルフ大会出場 福島市職員が病休中にゴルフ大会出場
  5. 【福島市】3月からごみ出し新ルールを適用 【福島市】3月からごみ出し新ルールを適用
PAGE TOP