JR福島駅東口で進む官民連携の再開発事業は、目玉の複合ビルのテナントとして見込んだホテルの誘致が叶わず、福島市営のコンベンション施設が入る計画にとどまった。開業は早くて2029年度。片や郊外のイオン福島店隣ではイオンタウン㈱(千葉市)が27年に商業施設を開業する計画を発表した。県北地方では工事延期で開業予定が26年にずれ込んだイオンモール福島北(仮称)と合わせてイオン系3店舗が半径40㌔商圏の買い物客を一手に吸い上げる。賑わう郊外に対し駅前が一層寂れていく中、市民が納得できる再開発事業の意義付けが必要だ。
「駅前忌避」で民間活力は郊外へ
福島駅東口で進む再開発事業は地権者でつくる「福島駅東口地区市街地再開発組合」(加藤真司理事長)と市が連携し、2020年に閉館した百貨店の中合跡地に商業施設とシティホテルを兼ね備えた複合ビルを造る計画だった。市が複合ビルの保留床を再開発組合から買ってコンベンション施設を整備し、工事費は国や県の補助金で賄う仕組みだ。
ところが再開発組合と市は昨夏、資材・人件費高騰を理由に完成延期を発表。高騰分が賃料に跳ね返り、商業テナントを集められず、目玉のホテルも誘致が叶わなかった。木幡浩市長と再開発組合が考えた苦肉の策が、市が入居するコンベンション施設部分を商業施設と分けて「公共棟」とし、市が買い取る保留床の金額に合わせてコンベンション施設を縮小することだった。
市は老朽化で閉館した公会堂の代わりになる施設が必要な点と、再開発組合が破綻して福島駅前に「塩漬け」の土地ができる最悪の事態を避ける点から、少しでも早く建物を造ることに方針を転換。民間事業がうまくいかなくなり、公金で県庁所在地の駅前の風格を何とか維持しようとしている状態だ。
東北地方で商業施設を営むある経営者は、大手小売りをテナントに呼び込もうと出店担当者と交渉を重ねてきた。厳しい交渉の現実を話す。
「大手は各商圏の人口や世帯構成など出店の基準となるデータを積み上げている。あるアパレルは条件に達しないと分かると会ってもくれませんでした。地方では駅前はなんだかんだ一等地と考えがちだが、フランチャイズの出店担当者は『この沿線のこの駅なら可能だが、それ以外は無理』と容赦ない。1日当たりの乗降客数10万人以上が駅前出店の基準と言われ、北日本で満たすのは札幌市と仙台市がギリギリという。車社会なので、ロードサイドへの出店一択だ。幹線道路沿いでも2階以上の入居だと断られる」
福島駅の1日当たり乗降客数は、過去10年間で最も多かった2015年でも約3万5000人。再開発組合が臨んだ交渉の厳しさは推して知るべし。本誌19年10月号掲載記事「福島駅前再開発の拭いきれない不安要素」では、市内の商業関係者のコメントを紹介した。
《「現段階で入居するホテルが決まらず苦戦している」という。「ホテル用のスペースはそれほど広くなく、披露宴などを開くのは難しいとみられている。そうなると、ビジネスホテル型のホテルを誘致する形になるが、大都市並みの強気の賃料に設定しているため、どこも様子を見ている状況です。》
大手小売りが地方への出店を控える一方で、全国に大型ショッピングセンターを展開するイオンタウン㈱が、福島市郊外のイオン福島店の隣接地に商業施設を出店することが5月に明らかになった。2027年春の開業を目指す。市が近隣住民の要望を受け、市有地を商業地に利用する条件でイオンタウンに売却する。事業者選定の公募型プロポーザルが行われ、3応募者(事業共同体を含む)で優先交渉権を争った。次点交渉権者は㈱カインズリアルエステート(埼玉県本庄市)で、ホームセンターを展開する㈱カインズと㈱ワークマン(東京都)の共同企業体。
市が公表した「南矢野目市有地の公募審査結果」によると、100点中イオンタウンが80・6点(事業点54・8点、価格点25・8点)、カインズが79・3点(事業点49・3点、価格点30・0点)で僅差だった。
イオンタウンの勝因は、配点の高い事業点(70点満点)で優位に立ったため。審査委員5人には地域住民2人が入っている。住民からは図書館や体育館など公共機能を求める声があり加点要素だった。イオンタウンはイベント広場や民営の子ども図書館を計画に盛り込んで応じた。土地購入に関わる提示価格はイオンタウンが20億円、カインズリアルエステートが23億3000万円で後者の方が高かったが、住民に寄り添った前者に軍配が上がった。
イオンの出店発表は駅前再開発が頓挫したタイミングで、「住民の意見が反映され活気づく郊外」と「住民の期待が叶わなかった中心市街地」を象徴した。市の都市計画のちぐはぐさも際立った。
イオンを結ぶ幹線
イオンは既に福島店があり、伊達市ではイオンモールの出店を計画している。そこに加えて3店目を出す理由は何か。県北地方のある不動産鑑定士は、福島市北部と伊達市西部、桑折町の交通アクセスの良さに着目する。
「大震災後に復興事業の一環で東北中央道・相馬福島道路が急ピッチで整備され、福島市が核となる県北地方は相馬市や米沢市(山形県)を商圏に組み込むようになった。半径40㌔から50㌔以内は、遠方ではあるが高速道路を使えば伊達市のイオンモールの商圏となる。相馬市、米沢市、白石市(宮城県)を抱えることになる」
渋滞緩和のため、国道13号福島西道路を南北に延長して東北中央道伊達桑折IC付近と県立医大付近をつなげ、国道4号のバイパスにする計画が進められている。南部分は工事が進み、2026年度に開通予定。北部分はまだ計画段階で、住民にアンケートが行われた。
本誌は福島西道路を北に延ばし、伊達桑折IC付近につなげる経路を予想した(別掲の地図参照)。計画中のイオンタウンとイオンモールを直接結ぶような大動脈になるのは確実。北部分の沿線にはロードサイド型の店舗が並び、特徴のない「地方都市の景観」になるだろう。
福島市郊外や伊達市西部はイオン進出に伴うさまざまな恩恵に与れるが、福島市中心市街地はその間隙に沈む。中心市街地で進む再開発事業への関心が薄れていくのは必至。だが、既に市は多大な支出をしている。何のために県庁所在地の駅前を再開発するのか、市民の理解が得られるよう再定義する必要がある。