【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴

郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】市が関係6社を提訴

(2022年6月号)

 2020年7月に郡山市島2丁目で起きた飲食店爆発事故をめぐり、市は2021年12月、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。2022年4月22日には第1回口頭弁論が開かれ、6社はいずれも請求棄却を求めて争う姿勢を示したという。今後、裁判での審理が本格化していくが、あらためて事故原因と裁判に至った経過についてリポートする。

被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも

被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも【事故現場。現在はドラッグストアになっている。】
事故現場。現在はドラッグストアになっている。
爆発事故現場の地図
爆発事故現場の地図

 爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところにある。この爆発事故により、死者1人、重傷者2人、軽傷者17人、当該建物全壊のほか、付近の民家や事業所などにも多数の被害が出た。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。

 当時の報道によると、警察の調べで、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。

 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。

 それによると、以下のようなことが分かったという。

 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。

 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。

 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。

 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。

 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。

 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。

 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。

 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。

 こうした調査を経て、経済産業省は、一般社団法人・全国LPガス協会などに注意喚起を促す要請文を出している。

 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かり、管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月2日、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。

 ただ、それ以降は捜査機関の動きは報じられていない。

責任の所在が曖昧

【責任の所在が曖昧】爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真
爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真

 以上が事故の経緯だが、この件をめぐり、郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円など。



 4月22日には1回目の口頭弁論が行われ、被告6社はいずれも請求棄却を求める答弁書を提出したという。

 それからほどなく、本誌は、運営会社の高島屋商店、フランチャイズ本部のレインズインターナショナルにコメントを求めたところ、レインズインターナショナルのみ期日までに回答があった。

 それによると、「事故が発生したことは大変遺憾であり、事故原因・責任の所在に関わらず、ご迷惑をお掛けした近隣の皆様には申し訳ないと考えております」とのこと。そのうえで、郡山市の提訴についてはこう反論した。

 ①フランチャイザーの監督義務違反(民法709条)という点において、そもそもフランチャイザーがフランチャイジーを監督する義務はフランチャイズ契約にも規定がなく、また、店舗の内装造作工事・ガス管の設置方法に関して、当社から一切の指示をしていません。

 ②使用者責任(民法715条)に基づく法的責任については、使用者責任は両者間において「使用者」・「被用者」の関係にあることが必要で、フランチャイザーとフランチャイジーは独立の主体として事業活動を行うものであることから、主張に無理があると考えており、これらの主張に対して遺憾に思います。

 ③ただし、被害に遭われた方に対しては、当社の法的責任の如何に拘らず、基金による補償金の支払いを本件訴訟と併行しながら継続しています。なお、現在はお怪我をされた方の継続的な医療費の支払いがメインであり、これらの方に対し、基金として最後まで対応していきます。

 次回裁判は6月28日に開かれ、争点整理手続きを経て争点などが洗い出され、以降は本格的な審理に入っていくことになろう。その中で、同社以外の被告がどのような主張なのかが明らかにされていく。

 市によると、裁判に至る前、6社と協議をしてきたという。2021年2月19日、6社に対して、損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。3月29日までに、2社からは「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社からは「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答があった。

 これを受け、関係各所と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対し、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。

 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。2021年9月、6社に協議解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。

 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こした。

 ここまでの経過を振り返ると、警察が運営会社社長、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検したように、責任の所在が明らかにされていないことが話をややこしくしている。

 市と関係6社との協議でも、一部から「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」との回答があったように、責任の所在が明らかにされれば、損害賠償に応じる可能性もあろう。

 もちろん、刑事事件と市が損害賠償を求めた民事裁判は別物だが、今後、刑事裁判が行われ、責任の所在が明らかになってから、損害賠償請求することもできた。

いま訴訟を起こした理由

【郡山市役所】いま訴訟を起こした理由
郡山市役所

 なぜ、このタイミングで市は損害賠償請求訴訟を起こしたのか。

 市によると、1つは民法724条に、不法行為の賠償請求権の消滅時効は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」とあること。 

 今回のケースでは、損害を受けたのは明らかだが、前述のように「加害者」はハッキリしているようで、実は明確でない。そのため、消滅時効の起算は始まっていないと考えられるが、「ひょっとしたら、消滅時効の起算が始まっているとみなされる可能性もある」と、代理人弁護士からアドバイスされたのだという。

 もし、そうだとしたら、もう少しで事故発生から2年が経ち、どの時点が起算点になるかは不明だが、仮に事故発生直後とすると時効が1年余に迫っていることになる。もっとも、市の場合は、話し合い(協議)の中で、明確に損害賠償を求める意思を示しているため、それには当てはまらないと考えられるが。

 もう1つは、こんな理由だ。

 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」(市総務法務課)

品川萬里・郡山市長
品川萬里・郡山市長

 主にこうした2つの理由から、このタイミングで損害賠償請求訴訟を起こしたわけ。

 爆発事故で被害を受けた住民に話を聞くと、次のように述べた。

 「賠償は進んでいません。近く、弁護士に相談しようと思っています。すでに、いくつか裁判が始まっているとも聞いているので、そこに合流させてもらうことも視野に入れています。いずれにしても、泣き寝入りせず、納得のいく賠償を求めていきたい」

 関係各社は、市との協議で「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」といった姿勢だったから、近隣住民や事業者に対しても同様の対応だろう。

 そういった意味では、今後、刑事裁判や、市が起こした民事裁判でどのような判断が下されるかが大きな注目ポイントになりそうだ。

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