一般質問2人だけの大熊町議会

一般質問2人だけの大熊町議会

(2022年8月号)

 大熊町議会(定数12)6月定例会において、一般質問に登壇したのはわずか2人だった。福島第一原発の立地自治体である同町は、廃炉作業や中間貯蔵施設の行方、汚染水海洋放出、帰還者・移住者増加など課題が山積しているが、いま一つ議論が盛り上がっていない。

課題山積なのに議論低調のワケ

大熊町議会 令和4年第2回定例会 第2日目(2022年6月9日)

 6月9日、大熊町議会6月定例会の一般質問を傍聴に行った同町民から、次のような電話が寄せられた。

 「福島第一原発や中間貯蔵施設、汚染水問題に関する議論を期待して、わざわざ同町大川原地区の役場まで足を運んだのですが、当日質問したのはわずか2人で、当たり障りのない質問だった。開始から1時間も経たずに散会になり、各議員は足早に帰っていったので呆れました」

 同町議会ホームページに公開されている動画によると、6月定例会の一般質問に登壇したのは西山英壽町議(1期)、木幡ますみ町議(2期)。質問時間は2人合わせて24分だった。同町議会事務局によると、持ち時間は特に設定していないという。

 質問内容は西山町議が「人間ドックなどの受診費用一部助成の提案」、「読書活動推進について」、木幡町議が「町ホームページの活用について」。同議会では「一括質問一括答弁方式」を採用しており、再質問は3回まで認められている。だが、西山町議は1回再質問しただけで質問を終え、木幡町議は再質問せずに終了した。他市町村の議会では、約1時間の持ち時間をフルに使って質問する議員がほとんどだ。

 「議論の低調さに呆れた」と話す町民の声を議会はどう受け止めるのか。吉岡健太郎議長(5期)は次のように話した。

 「6月定例会は年度が始まって間もないこともあって、例年質問者が少ないが、他の定例会では5、6人質問しています。全員協議会や国・県関連事業の担当職員によるレクなど、議論や質疑応答をする場が増えすぎて、一般質問であらためて質問することがないという事情もあると思います。時間が短いのは、一括質問一括答弁方式を採用していることも大きいです」

 ちなみに、ここ1年の定例会一般質問の質問者数・時間は以下の通り。

 21年6月=2人、34分

 21年9月=6人、55分

 21年12月=5人、52分

 22年3月=5人、1時間9分

 6月定例会以外は確かに5、6人が質問しているが、一人当たりの時間は10分程度。通告済みの質問と、町職員が考えた町長答弁を互いに読み上げ、再質問したところで終わる。「議論を尽くしている」と主張する吉岡議長だが、これでは〝活発な議論〟が行われているとは言えまい。

 たとえ全員協議会や国・県関連事業のレクではしっかり議論していたとしても、それらは動画などで公開されているわけではなく、町民は目にする機会がない。一般質問の場で議論を尽くすことに意味があろう。

 こうした意見に対し、吉岡議長は「全員協議会を公開する意味があるのか、という問題もある。本町議会の議会だよりには、全員協議会の様子を紹介するページも設けている」と主張し、どうにもかみ合わない。「議会を多くの人に見てもらう」という意識が抜け落ちている印象だ。

 同町の町議は別表の通り。同町議会をウオッチしている事情通によると、「期数が若い町議が果敢に質問しようとすると、『その質問はここでする必要があるのか』と議長やベテラン議員に細かく指摘されるらしく、すっかり萎縮している。そのため『義務教育学校整備の是非』など分かりやすい論点があるとき以外は一般質問に登壇する議員が少ない」という(吉岡議長は「期数の若い議員にアドバイスすることはあるが、質問自体を否定するようなことは言っていない」と述べている)。

 ある町議は「一括質問一括答弁方式だと、再質問の回数が制限され、町政課題について掘り下げられない。担当課長に自由に質問できる全員協議会やレクの方が、議論しやすいのは事実」と本音を明かした。

 別の町議は「お祭りや会合などで地元の支持者に会って、いろんな声を聞き、それを一般質問で執行部に質すのがわれわれの仕事だった。原発事故を機に住民が全国に避難してしまったため、それができなくなったのが大きい」と話した。

 ちなみに、双葉郡内の他の町村議会の6月定例会一般質問での質問者数は以下の通り。

 広野町=8人(定数10)

 楢葉町=4人(定数12)

 富岡町=3人(定数10)

 川内村=4人(定数10)

 双葉町=4人(定数8)

 浪江町=4人(定数16)

 葛尾村=1人(定数8)

 広野町、双葉町以外、過半数を割っていることが分かる。

 質問者1人だった葛尾村の議会事務局担当者は次のように語った。

 「震災・原発事故直後は村予算が数倍に膨れ上がり、新規事業も多かったので、質問者、質問項目ともに多かったですが、復興が進むにつれてどちらも減りつつあります。大熊町同様、全員協議会や担当職員レクで議論を尽くしていることも少なからず影響していると思います」

 双葉郡全体で一般質問の〝形骸化〟が進んでいる格好だ。

「住民不在」のひずみ

「住民不在」のひずみ【大熊町大野駅 避難解除直後】
大熊町大野駅 避難解除直後

 そもそも、公選法では選挙区内に3カ月以上住んでいなければ地方議員の被選挙権がないといった「住所要件」が定められているのに、原発被災自治体の議員に限っては特例的に認められてきた(本誌2019年7月号参照)。そして、多くの住民が帰還していない中、文字通り「住民不在」の議会として運営することが許されてきた。そのひずみがいま現れているということだろう。

 100年かかるとも言われる福島第一原発の廃炉作業、放射線量1マイクロシーベルト毎時の場所がざらにある環境、除染廃棄物の県外搬出の見通しが未だ立っていない中間貯蔵施設、溜まり続ける汚染水の海洋放出問題、原発被災自治体同士の合併、町内居住推計人口929人(町に住民登録がない人も含む)なのに大規模に進められる復興まちづくり……町は多くの課題に直面している。

 6月30日には、JR大野駅周辺を含む特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された。今後は復興拠点以外の帰還困難区域の扱いが大きな議論になるだろう。そうした中、町民に見える場で、本質的な議論をできない議会は役割を果たしていると言い難い。

 7月20日の同町議会臨時会では、義務教育学校「学び舎 ゆめの森」(整備費用27億2300万円)の完成が遅れているのに伴い、町執行部が仮設校舎整備費用の教育費1億2000万円を盛り込んだ一般会計補正予算案を提出した。だが、「費用が高すぎる」などの理由で賛成少数で否決され、補正予算案を一部変更する修正動議が可決された。同校は会津若松市で今年4月に開校し、来年度町内の新校舎に移る予定だが、同施設への入園・入学を希望しているのは約20人だという。

 執行部に対し、議会が住民代表としての意思を示した格好。こうした対応ができるのなら、一般質問の在り方も見直し、改善を図るべきだ。

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