4月号に「市長選に現れた『第4の候補者』」という記事を載せた。
7月23日告示、同30日投開票で行われる会津若松市長選は、現職で4選を目指す室井照平氏(67)、新人で市議の目黒章三郎氏(70)、新人で元県議の水野さち子氏(60)が既に立候補を表明しているが、そこに上野文彦氏(49)も名乗りを上げようと準備していることを伝えた。
地元紙が「前向きに検討中」と報じ、本誌も本人から「出馬表明はもう少し先」と聞かされていた。
それから1カ月余り。上野氏は関係者と協議を重ねた結果、立候補を見送ることを決めた。この間、何があったのか。
上野氏は会津大学の1期生で、同大在学中にソフトウェア開発のベンチャー企業㈱シンク(会津若松市)を創業し社長、会長を務めた。昨年5月、会津若松商工会議所副会頭の栗林寿氏に所有するシンクの全株式を譲渡し、同社退職後は市内の自宅と和歌山県の南紀白浜を行き来する充電生活を送っていた。現在の肩書きは会津大学非常勤講師。
上野氏は4年前の市長選で室井氏に敗れた元県議の平出孝朗氏(66)を支援。選対本部の中枢に入り平出陣営を取り仕切った。今回の市長選では、その平出氏から支援を取り付け、当時の選対関係者もバックアップする方向で調整が済んでいた。
地元衆院議員の自民党・菅家一郎氏(67、4期、比例東北)と立憲民主党・小熊慎司氏(54、4期、旧福島4区)とも連絡を密にしていた。
「菅家氏は元自民党県議の室井氏を支持してきたが、4期目は支持する考えがないことを明かしていた。小熊氏は現職に複数の新人が挑むのは避けるべきと水野さち子氏に出馬を考え直すよう働きかけたが、水野氏は受け入れず、現在の三つ巴の構図になった」(ある選挙通)
そうした中で上野氏が名乗りを上げれば支持層が更に割れ、現職有利に働くが、それでも菅家・小熊両氏が上野氏を「魅力的な候補者」と位置付けていたのには理由があった。
「上野氏は、室井市長が進めるICTのまちづくり自体は評価しているが、進め方に疑問を感じている。大手コンサルのアクセンチュアに事業とお金が集中し、ICTオフィスビル『スマートシティAiCT』も中央の企業が複数入っている割に十分機能していない。一方で、せっかく身近にある会津大学を生かせず、地元のベンチャー企業や既存企業とも関係が薄い状況に、上野氏は再考の余地ありと考えている」(同)
室井氏がアクセンチュアと親密な関係にあるのは周知の通りだが、上野氏は「地元のデジタル資源」がほとんど生かされていない状況に違和感を持っていたわけ。
つまり上野氏には、市長選に立候補する大義名分があったが、問題は室井・目黒・水野3氏に比べ知名度が圧倒的に低いことだった。投開票まで日数が迫る中、無名の新人が市民に顔と名前を浸透させるのは至難の業。菅家・小熊両氏もそこをネックに感じ「負け戦に挑むのは避けるべき」となったようだ。
最終的に上野氏本人から「今回は見送ります」と筆者に連絡が入ったのが4月17日。その判断をどう見るかは人それぞれだが、筆者は「冷静に分析した結果の潔い撤退」と評価したい。
ただ、そんな上野氏には新たに、今秋行われる県議選に、両親の出身地(会津美里町)である大沼郡選挙区(定数1)から立候補の打診が寄せられている。自民党・山内長県議(1期)の対抗馬として小熊氏が熱心に誘っているが、本誌は市長選とは異なり、上野氏の県議選立候補には大義名分が見当たらないため賛成できないことを付記しておく。
もっとも、上野氏本人もその点は十分認識しており「出馬は一切考えていません」とのこと。その冷静な判断も併せて評価したい。
上野文彦氏が会津若松市長選出馬を見送ったワケ
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