白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

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白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠【百条委員会】

 田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。

甘かった百条委員会の疑惑追及

 この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。

 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。

 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。

 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。

 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。

 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があ
ったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。

 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。

 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。

 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。 

 最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。

両社の地域貢献策を比較

 まずは工事費から。

 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。

 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。

 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。

 ◎安藤ハザマ

 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。

 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。

 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。

 ◎鹿島

 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。

 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。

 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。

 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。

 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。

 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。

 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。

 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。

個別採点では「2位鹿島」

 とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。

選定委員7人による採点の合計点数

 上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。

 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。

 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。

 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。

7人がどういう採点を行ったかをまとめたもの


 これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。

 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。

 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。

 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。

 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。

 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。

 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。

 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。

 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。

客観的事実に基づき変更

 こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。

白石高司・田村市長
白石高司市長



 証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。

 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。

 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」

 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」

 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」

 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」

 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」

 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」

 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。

 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。

 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者)

注目される百条委の結論

 ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。

 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。

 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。

 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。

 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。

 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが

 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長)

 とのことだった。

 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。

 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。

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