2022年6月中旬、浪江町副議長の山本幸一郎氏(54、4期)に関する疑惑を綴ったメールが本誌編集部に寄せられた。山本氏が町議の立場を利用して、家業の建設会社の仕事を得ている――とする内容。山本氏に真偽のほどを聞いてみた。
家業の建設会社〝急成長〟に疑惑の目
メールは匿名で送られてきた。受信日時は6月18日。ポイントは以下のようなもの。
〇浪江町議会副議長の山本幸一郎氏は、妻が平成建設の社長を務めているが、本人がいまも実質的な社長業を行っている。
〇町役場内で議員の立場を利用し、町工事や復興事業関係の入札情報を入手して仕事を得ている。
〇大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめる行為が目立っている。
〇業界の鼻つまみ者だが、副議長であることや、浪江町長選で当選確実の吉田栄光氏(※編集部注・7月10日投開票の同町長選で6339票を獲得して初当選した)の威光もあり、大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている。
〇役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている。復興事業で突然成金になった輩が「もっと金儲けさせろ」と守銭奴のごとく迫っているようで気持ち悪さがある。
〇浪江町にはいかがわしい議員がほかにもいる。町の政治をクリーンで適切なものとするため、こうした勘違い議員をただしていく必要があるのではないか。
公職選挙法第92条の2では、自治体議員がその自治体から仕事を請け負う会社の役員に就くことを禁じている(兼業禁止)。山本氏は家業の建設会社の役員から退いたものの、実際は副議長の立場を利用して多くの仕事を得ており、会社は急成長を遂げている――と指摘しているわけ。
山本氏は1968年4月生まれ。双葉高卒。2007年に平成建設社長に就任。2009年、浪江町議選に初当選したのに伴い社長を退任し、現在は同社社員として勤務。2021年4月の改選で4選を果たし、副議長を務める。山本氏の父・幸男氏も、同町議を8期務め、議長経験もある。
平成建設は1989年3月設立。資本金1000万円。従業員数24人(役員4人含む)。もともと牧場を経営していた幸男氏が立ち上げた(初代社長は幸男氏夫人のシヅ子氏)。所在地は、同町末森(すえのもり)地区だったが、原発事故で帰還困難区域に指定されたため、拠点を南相馬市原町区に移し、2018年に同町小野田地区に再移転した。
大手ゼネコンの下請として浪江町内の戸建て住宅建築や建物の解体工事、除染作業を手掛けているほか、一般顧客の整地工事や個人住宅の造成工事なども請け負っている。
役員は、代表取締役社長が山本氏の妻・山本博美氏。取締役が山本シヅ子氏、山本正幸氏、監査役が川村香代子氏。
民間信用調査機関によると、業績は別表の通り。震災・原発事故前の売上高は1億2000万円前後だったが、近年は数億円規模になり、2020年12月期には1億円超の当期純利益を計上した。
メールによると、町議の立場を利用して浪江町発注工事や復興事業に関係する入札情報を入手し、大手ゼネコンの下請に入っている、という。
相双建設事務所で同社の工事経歴書を閲覧したところ、業績が一気にアップした2019年から2021年にかけて、確かに大手ゼネコンが手掛ける被災建物の解体撤去工事や除染工事の下請に入っていた。
例えば2021年は安藤・間が元請の農地除染(請負金3億2470万円)と被災建物解体工事(同4500万円)を受注していた。
また、町発注工事に関しても、2020年に農業用施設保全整備(同1億2200万円)、2021年に小野田取水場造成工事(同1億7800万円)を元請で受注していた。
町議の立場を利用したかどうかは分からないが、復興事業や町発注工事を受注していたのは確かなようだ。
「業界の鼻つまみ者」、「大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている」という点が事実かどうかは確認できなかったが、「役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている」という記述に関しては、町役場に出入りしている人物が次のように証言した。
「役場内で職員に大声で質問しているところを何度も見かけた。別のフロアにいてもその声が聞こえてきたほど。少なくとも第三者からは怒って話しているように見えました」
町内の事情通がこう解説する。
「〝導火線〟が短いタイプで、担当者などの回答が要領を得ないと大声になり、言葉遣いもすぐ荒くなる。いまの役場職員は震災・原発事故後に入庁したり、国・他市町村から応援で入っている人が大半で、地域事情をよく理解していないことが多いので、そうなりやすいのかもしれません。議会でも執行部とのやり取りの中で言葉遣いが荒くなり、何度か注意を受けていると聞いた。本人は自覚がないかもしれませんが、周りの受け止め方は違う」
いささか厳しい批判メールについて、当の本人はどう受け止めるのか。7月下旬、山本氏の自宅敷地内にある同社を訪ね、直接話を聞いた。
山本氏を直撃
――平成建設の実質的な社長業を山本氏が務めていると記されていた。
「厳密に言えば、この間実質的に経営を担ってきたのは私の父です。ただ、半年前に脳梗塞で倒れてしまったので、いまは私が〝金勘定〟を担当しています。もちろん、(公選法で禁じられているので)役員には就いていません」
――議員の立場を利用し、町工事や復興事業に関係する入札情報を入手して仕事を得ているのでは、という指摘をどう受け止めますか。
「議員活動をしていれば、確かに予算策定の段階で次年度の事業について情報を得やすい。ただ、それらの情報は広報されており、誰でも入手できるもの。そもそも近年出ている町発注工事は規模が大きいものばかりで、入札参加資格がB、Cクラスのうちが応札できるものは少ない。(前出の)小野田取水場造成工事はうちの近所で、何としても取りたかったので、かなり〝叩いた〟金額で応札して取れましたけどね」
――「大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめている」という一文もあった。
「実際は大手ゼネコンから浪江町復興事業協同組合に打診があり、複数社で請け負っています。うちの会社が立地していた末森地区は特定復興再生拠点区域となっており、除染や建物解体工事が行われるということで、そこの下請には入れていただきました。地の利を生かせるということで、少し多めに(担当エリアを)配分していただいたと思いますし、危険手当分なども加味されているので割高な請負金になっています。ただ事情を知らない人には、議員の立場を使って仕事を取り、好条件な請負金を受け取っているように見えるかもしれません」
――「議員として役場内で職員を恫喝している」という意見については、第三者からも証言を得ている。
「農業委員など地域のさまざまな役職を務めているので、2日に1度は役場に足を運び、担当課の職員と話をしています。ただ、事情が分からない職員も多く、怒ってしまうというか、つい大きな声でやり取りしてしまうのは事実です。建設課には町発注工事を受注している関係で確認のため訪ねることがありますが、それ以外で行くことはないです」
――差出人に思い当たる節は。
「関係あるかどうかは分かりませんが、少し前に業界関係者とちょっとしたトラブルになったことがあり、(メールの内容と)同じようなことを指摘されたことがありました」
――吉田栄光氏との関係にも触れられているが、これについては。
「父と付き合いがあり、私は中学生のときから何かとお世話になっているので、『他社より仕事を多くもらえているのではないか』とよく揶揄されていますが、さすがに県議の立場の方がそんなことはしません。町長選では吉田栄光氏の選対幹事長を務めました。町長選も意識して送信したのかもしれませんね」
疑惑のメールに対し、事実と異なる部分を丁寧に訂正し、同社の役員から退いているので公選法には抵触しない、と主張したが、「職員を恫喝」という指摘に関しては、そう疑われる行為をしていたと自ら認めた格好だ。町職員が町議から厳しい態度で詰められれば、立場の強さを利用したパワハラと受け取られかねない。まずは職員に対する姿勢を見直すべきだろう。
なお、町建設課にも確認したところ、「議員活動の一環として、事業の進捗状況などについて問い合わせがあれば説明することもあるが、未確定の情報について教えるようなことはない」と説明した。
言動を改めるべき
それにしても、誰がどんな目的でこのようなメールを送ったのか。
考えられるのは、年々町内での存在感を増す山本氏に対し敵意を抱く人物だろう。町議会副議長に就任し、家業の平成建設は復興需要で業績を伸ばしている。親密な関係の吉田栄光氏は新町長に就任する。そんな山本氏を疎ましく思う人物が悪評を綴ったのではないか。
そもそも山本氏の父・幸男氏からして、3回も議長不信任案が出されるなど議会のトラブルメーカー的存在だった。
本誌では2008年5月号に「違法墓地経営の浪江町議会議長に産廃不法投棄の仰天事実!!」という記事を掲載している。
県の相双地方振興局に「平成建設が山林に大量の建設廃棄物を不法投棄している」と通報が入った。現地を確認すると、建設廃棄物が野積みされ、埋められたものも確認できたため、同社に改善指導を行っていた。
2000年に建設廃棄物の分別解体と再資源化を義務付けた建設リサイクル法が定められていたが、当時同社の社長を務めていた山本氏らは同振興局に対し、「リサイクル法を知らなかった」と答えたという。
当時の本誌取材に幸男氏は「廃棄物は現在のように廃掃法が厳しくなる以前のもの」、「息子(山本氏)は『土の中から出て来た廃棄物は昔に埋めたもので、今は法律に基づいて適正に処理している』と説明した」、「掘り起こした廃棄物は(廃掃法の対象になるので)県の改善指導を受けて適正に処理した」と答えていた。
複数の町民によると、町長選には当初議長の佐々木恵寿氏(6期)が意欲を示していたが、「対立候補が出たとき、割れる可能性がある」という判断から候補者を調整し、議会を挙げて吉田栄光氏に頼み込んで、立候補を決意させた。その調整役を担ったのが山本氏とされる。
前述の通り、吉田氏は6339票を獲得し、会社社長の高橋翔氏に5895票差を付けて初当選を果たした。選対幹事長を務めた山本氏の存在感はますます大きくなると思われるが、それに伴い、過去の〝しくじり〟や職員への言動が蒸し返される機会が増えそう。「大堀地区で土地を取得し始めたが、何をするつもりなのか」(ある町民)など新たなウワサも聞こえてくるが、これまで以上に周囲の目を意識した言動を心がけなければ、再び同じような批判メールが出回ることになろう。