福島市「議員定数議論」を追跡

福島市「議員定数議論」を追跡

 福島市議会は昨年12月に「議員定数に関する調査特別委員会」を立ち上げ、議員定数のあり方について議論を進めている。来年6月までに委員会報告をまとめる予定だが、その経過を取材した。

今後は報酬のあり方にも踏み込むべき

今後は報酬のあり方にも踏み込むべき

同市議会は昨年7月に議員選挙が行われた。その改選前、2022年6月に、議会内の組織である議会改革検討会に、当時の議長から「議会の活性化に資する議員のあり方に関する検討について」の諮問があり、検討会は翌2023年3月に答申書をまとめた。
 その中で、議員定数についても言及されている。以下は「議会の活性化に資する議員のあり方に関する検討について」の答申書より。

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 議員定数については前回条例改正を行った平成26(2014)年12月から10年近くが経過した。

 本市においても定数を検討する指標の一つとなる人口は、この間、減少を続けているなど、前回の定数改正から様々な状況が変化していることも踏まえ、議会が主体的に適正な定数についての議論を開始する必要がある。

 一方、地方分権が進展する中で、多様化する住民の意思を市政に反映させることなど、議会の役割はますます重要性が増しており、単純に人口の減少や他市の状況にあわせ削減を前提とした議論をすべきではない。

 基本条例にあるとおり、市政の現状、課題、将来の予測や展望を十分に考慮するとともに、市民又は学識経験を有する者からの客観的な意見を参考にするなど、検討に要する時間を十分に確保し、慎重な協議を行う必要があり、東日本大震災からの復興など本市が抱える行政課題も考慮する必要がある。

 よって、本年に予定されている福島市議会議員選挙の結果も踏まえ、改選後において本市議会のあるべき適正な定数について協議を開始し、慎重に検討すべきである。

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 「議員定数のあり方を検討する」ということは、定数を削減するかどうかを検討する、ということにほかならない。人口減少が進んでいる昨今において、少なくとも、議員定数を増やした事例は聞いたことがない。

 その点を踏まえて、これまで本誌が取材してきた事例で言うと、改選の半年〜1年くらい前に議論をスタートさせ、改選に間に合うように結論を出し、条例改正(定数削減)をするというパターンが1つ。もう1つは、改選前に検討を行ったが、結論には至らず、「改選後の議会で、あらためてじっくり時間をかけて議論すべき」ということになり、改選後に再議論するパターン。

 すなわち、議員定数議論が行われるのは改選直前か改選直後が多い。

 福島市の場合は後者の事例に当てはまり、前段で紹介した改選前の議会改革検討会がまとめた答申書に基づき、「議員定数に関する調査特別委員会」を立ち上げ、議論をスタートさせたのである。

 同特別委は昨年12月議会で設置が決まり、主に定例会がない月に1回のペースで開催されている。昨年12月に第1回の委員会を開き、そこでは正副委員長を選任。以降は、1月、2月、4月、5月に委員会を開き、今後の進め方についての話し合いや、基礎となるデータ収集などが行われた。

 その中で確認されたのが、議会における基礎ルールである「福島市議会基本条例」(2014年3月施行)の規定に基づいて議論していく、ということ。議会基本条例では次のように定められている。

 《議員定数の改正に当たっては、行財政改革の視点だけではなく、市政の現状及び課題並びに将来の予測及び展望を十分に考慮するとともに、市民又は学識経験を有する者からの客観的な意見を参考にするものとする》(議会基本条例31条)、《議員定数の基準は、人口、面積、財政状況及び市の事業課題並びに類似市の議員定数と比較検討し、決定するものとする》(同2項)

 これに基づき、議論の参考資料となる類似自治体のデータ収集などを行った。議会事務局によると「人口25万人から30万人の市区のデータをまとめ、資料として提示した」という。

 これに当てはまる市区は福島市を含めて全国に20ある。別表は、その条件の全市区の議員定数などをまとめたもの。全国市議会議長会公表の「市議会議員定数に関する調査結果」(2023年版)を基にした。議会事務局の説明に倣い作成したので、委員会で参考資料にしているものと同等と思ってもらって差し支えないだろう。

人口25万〜30万人の市区の議員定数

都道府県名市名人口面積議員定数(昨年12月末時点)条例定数適用年月
青森県青森市26万7520人824.61平方㌔322022年10月
岩手県盛岡市28万0286人886.47平方㌔382011年8月
秋田県秋田市29万7316人906.07平方㌔362019年4月
福島県福島市26万7924人767.72平方㌔352015年7月
茨城県水戸市26万8843人217.32平方㌔282011年5月
茨城県つくば市25万5253人283.72平方㌔282012年10月
埼玉県草加市25万1219人27.46平方㌔282014年10月
千葉県市原市26万8517人368.16平方㌔322015年6月
東京都府中市26万0078人29.43平方㌔302003年4月
東京都港区26万6306人20.36平方㌔342003年4月
東京都墨田区28万4555人13.77平方㌔322007年4月
東京都目黒区27万9520人14.67平方㌔361999年4月
東京都豊島区29万1650人13.01平方㌔362003年4月
神奈川県平塚市25万8500人 67.82平方㌔262019年4月
新潟県長岡市25万8205人891.05平方㌔342015年4月
福井県福井市25万5936人536.37平方㌔322011年4月
三重県津市27万1000人711.18平方㌔342018年1月
大阪府茨木市28万5715人76.49平方㌔282017年1月
大阪府八尾市26万0752人41.72平方㌔262023年4月
兵庫県加古川市25万8691人138.48平方㌔312010年6月
全国市議会議長会「市議会議員定数に関する調査結果」を基に本誌作成。


 なお、全国市議会議長会の調査結果では、市域(区域)の面積は示されていなかったが本誌が追加した。当然、市域が広ければ、それに伴い課題が増える可能性があり、「市内全域に目を向ける」という観点から言うと、人口比だけでは議員定数が適正かどうかを見極めることはできないからだ。

 その点を踏まえると、関東、近畿の都市圏に近い自治体は、あまり参考にならないかもしれない。ここで挙げた中で参考になりそうなのは、青森市、盛岡市、秋田市、長岡市、福井市、津市か。その中で言うと、議員定数最小は青森市と福井市の32、最多は盛岡市の38。福島市は35でちょうどその中間に当たる。今後、委員会では、どこに「適正」があるのかを探る作業が進められることになる。

人口減少は避けられない

福島市役所
福島市役所

 一方で、「福島市人口ビジョン」によると、現在の約27万人から、2040年には22万人台になると予測されている(別表参照)。実際にどうなるかは分からないが、少なくともいまの社会情勢などを考えると、増えることは考えられない。想像(推計)以上に減るのか、何とかして減り幅を抑えられるのかは、行政の対応次第、あるいは国の政策次第ということになろう。いずれにしても、議会には人口減少に見合った対応が求められるというのが、いまの流れでもある。

将来人口推計

2015年2020年2025年2030年2035年2040年
29万4247人28万5196人27万1653人25万7586人24万2656人22万6845人
     ※2015年、2020年は実績値、それ以外は推計。市人口ビジョン(2020版)を基に本誌作成。


 ただし、例えば、福島市では前回議員定数を改定したのは2015年の議員選挙からだが、そこからこれまでの間、福島市は中核市に移行した。それに伴い、市の所管事務は増え、議会が目を光らせなければならない分野が増えたことになる。単に人口が減ったから、それに倣って議員を減らす、という発想だけではなく、さまざまな要素が絡んでくる。今後の委員会では、そういったことも加味しながら、議論していくことになろう。

 こうして、議論の進め方の整理、参考資料となるデータ収集・とりまとめを経て、7月に開催された委員会では、東北大学の河村和徳准教授を参考人として招いて意見を聞いた。これも議会基本条例にあった「学識経験を有する者からの客観的な意見を参考にする」ということに基づく対応だ。

 本誌は河村准教授に取材依頼したが、「学会報告で国外にいる」とのことで、かなわなかった。ただ、この問題は今後も追っていくので、どこかで河村准教授の意見を紹介する機会もあろう。

 本誌が聞いた限りでは、河村准教授は同委員会で「議会は地域の産業構造を反映し、住民の縮図に近くしなければならない。そのため、定数削減ありきの議論は適切ではない」といった意見を述べたという。

 8月26日には7回目の委員会が開かれ、本誌はそれを傍聴した。河村准教授への意見聴取を踏まえ、各委員が自身の会派に持ち帰り、そこで意見を集約して委員長に報告された。このほか、10月に、神奈川県横須賀市、栃木県小山市に視察に行くことが決まった。

 視察の候補地は、①比較的視察に行きやすい地域で、②自治体の規模が大きく離れておらず、③最近、議員定数の変更(削減)があり、④なおかつ、じっくりと議論して改正したところ――が挙げられ、前述の2市に決まった。

半沢委員長に聞く

半沢正典委員長
半沢正典委員長

 同日の委員会後、半沢正典委員長にコメントを求めると、次のように話した。

 「視察では、どのような議論をしてきたのか、住民の意見をどのように反映させたのかなどを聞いてきたい。前回(2014年)の定数改正から9年間で、人口が約3万人減っており、当然それは考慮しなければなりませんが、それだけでは測れない部分もあります。何人なら適正なのか、その答えはこれまで示されてこなかったので、それを示せるようにしたい。もちろん、削減という方向性が決まれば、何人に減らすのかも議論します。いずれにしても、最終的には市民の方々に胸を張って説明できるような報告書をまとめたいと思っています」

 同委員会は来年6月に最終報告をまとめる方針。筆者はこれまで県内自治体の議員定数に関する議論を幾度となく取材してきたが、その多くが検討の結果どうなったか、というものだった。今回は、過程を追いながらポイントになりそうな委員会を傍聴し、その都度、誌面で思うところを述べられればと考えている。

 最後に、今回の委員会の調査対象には含まれていないが、本来は議員定数のあり方を論じるに当たり、議員報酬の問題も切り離すことができない。福島市と東北地方の類似自治体の議員報酬を別表にまとめた。市民の多くは「高い」と感じるのではないか。人口が数千人規模の自治体だと、議員は比較的身近な存在で、行政区内に1人くらいは議員がいるから、何か相談事や行政に対する疑問点があれば、気軽に問い合わせられるが、市議会議員、特に人口10万人以上の市になると、その距離感は一気に遠くなる。結果、普段は何をしているのか分からない、ということになる。これは県議も同様。

東北地方同規模自治体の議員報酬

議長副議長議員
青森市65万8000円60万3000円58万円
盛岡市71万1000円64万5000円61万7000円
秋田市70万4000円65万5000円62万5000円
福島市68万2000円63万5900円59万9000円
全国市議会議長会「市議会議員報酬に関する調査結果」を基に本誌作成。報酬額は昨年12月末時点のもの。


 そもそも、議会の本会議、委員会などは年間数十日程度で、報酬がそれに見合っているか、という問題もある。本来はその辺も市民に示す必要があり、この部分に関しては議会内だけでなく、市民を巻き込んだ議論が求められる。定数に関する議論後は、そこにも踏み込んでほしい。

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