【国見町長に聞く】救急車事業中止問題【ワンテーブル】

【国見町長に聞く】救急車事業中止問題

 国見町が高規格救急車を所有して貸し出す事業は今年3月に受託企業ワンテーブル(宮城県多賀城市)の社長(当時)が「行政機能を分捕る」と発言した音声を河北新報が公開し、町は中止した。執行部は検証を第三者委員会に委嘱。議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置し、執行部が作った救急車の仕様書はワンテーブルの受託に有利な内容で、官製談合防止法違反の疑いもあるとみて証人喚問を進める。引地真町長と同事業担当の大勝宏二・企画調整課長に11月6日、仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた。(小池航)

仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた

 ――救急車の仕様書を作成する根拠となった資料の提出を町監査委員会が執行部に要求した際、ワンテーブルが提供した資料以外は「処分した」と執行部は説明しました。処分した文書はどのような方法で、どの部署の職員が入手したものか。

 大勝企画調整課長「企画調整課の担当職員がインターネットで閲覧してプリントアウトした資料です。町としては、個人が職務上必要と考えてネットから印刷した文書は参考資料であり、公文書には当たらないと解しています」

 ――職務上必要な資料は公文書では?

 引地町長「参考資料とは、例えばネットから取得するだけではなく、本から見つけてコピーするものもありますよね。それは単なる資料でしかなく、公文書には当たらない。公文書とは、その資料をもとに行政が作成したものという解釈です」

 ――国見町の文書管理規則では、公文書の定義を「職員が職務上作成し、又は取得した文書及び図画をいう。ただし、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されるものを除く」としている。個人が取得した資料とはいえ、職務上得た文書では?

 大勝課長「解釈はいろいろあると思います。職員が自己の執務のために保有している写しが即公文書に当たるかというと、議論を呼ぶところだと思います。メモ程度のものが公文書に当たるかどうかという議論です。町としては(処分した)資料は、仕様書を作る段階で集めたものという解釈で、それは個人が集めた資料です。その資料に基づいて、町の意思決定に何か反映させたことはないと判断しています。職員が参考程度に集めたものだったので、行政文書には当たらないと考えています。

 参考資料を得た経緯を説明します。職員が町の仕様書を作る際、各消防組合などがネットに上げている仕様書を閲覧し、必要な部分だけを印刷しました。1冊分を印刷すると膨大になります。参考のつもりで閲覧し、公文書として保存を前提に集めたものではありません。担当職員が知識を得た段階で、それらの資料は残してはいませんでした」

 ――担当職員が各企業の救急車の仕様書をネットで閲覧し、仕様書を作ったという解釈でいいか。

 大勝課長「そのように説明してきました。ワンテーブルからは他町の仕様書の提供を受けたので、それも参考にしました」

 ――どうしてワンテーブルが提供した資料だけが残っていたのか。

 大勝課長「1冊丸々提供を受けたからです。残すつもりで残したわけではなく、破棄するつもりがなかったというか、たまたま残ったのだと思います」

 ――受託したワンテーブルが示した参考資料以外に何社の救急車の資料を参考にしたのか。

 大勝課長「はっきりとは言えません。部分的に参考にしたものもありますし、振り返ってネットで検索したものもあります」

 ――引地町長に聞きます。ワンテーブルの巧妙だったと思う点はありますか。

 引地町長「何が巧妙だったかという質問に町は答える術を持っていません。前社長の考えは報道や音声データで見聞きしたが、あの発言をした事実はあるものの、そこには出てきていない思いもあるはずで、それについて我々は知る術がない。だから何が巧妙だったのかという質問には本当に答えられない。

 ワンテーブルと国見町の関係は高規格救急車事業で唐突に始まったわけではなく、前町長在任時の2018年に元経産省職員の紹介を受けて接点ができました。翌19年には防災パートナーシップ協定を結び、20年には企業版ふるさと納税945万円の寄付を受けました。前社長は総務省から『地域力創造アドバイザー』認定を受けていました。そういった下地があるので、その経過を持って彼らのやり口が巧妙だったかというと我々は判断する術がない。

 役所は何かしら困り事を抱えていたり、地域の課題解決に意見を持っている人が訪れます。そういった人たちを、我々行政は疑ってかからないスタンスを取ります。まず対面してから話が進む。例えば目の前にいる町民を、最初から『悪いことを考えているのではないか』とは疑いません。困り事があって役所に来ているわけだから。そういう姿勢で我々は仕事をしてきました。

 我々はワンテーブルを国見町と協力する数ある企業の一つと捉えていました。震災後の13年間、町は他の民間企業とも連携して復旧・復興、風評対策を進めてきた経過があります。官民連携でまちづくりを進める延長線上にあったのが高規格救急車事業でした。巧妙だったかという質問には本当に答えにくい。前社長が、あの発言のような考えを持ちながら当初から国見町とやり取りをしてきたのか、それは分かりません。町長として教訓というか思うところはありますが、第三者委員会の結論が出るまでは話すべきではないと考えます」

原因究明の陣頭指揮

 ――高規格救急車事業について町民に伝えたいことは。

 引地町長「同事業は契約を解除し、住民説明会を14カ所で行いました。ワンテーブル前社長の不適切な発言で事業継続が困難になったのは本当に残念です。同事業は議会に諮って進めてきました。出来上がった救急車は議決を得て町が取得し、必要な自治体や消防組合に譲与していきます。当初町が考えていた事業と着地点は違いますが、地域の防災力向上や医療・救急業務の充実に活用してもらいたいです」

 ――町執行部に不信感を抱いている町民に伝えたいことは。

 引地町長「町に関する報道で心配を掛けてしまい申し訳ありませんでした。住民説明会や議会では『最終的な責任は私にあり、責任回避はしない』と説明してきました。ただ、それで完結する話ではない。町への非難と私の身の処し方といった議論に終わらせず、果たさなければいけないのは、原因を究明し問題の所在を明らかにすることです。その陣頭指揮を執るのが町長の責任だと思います。『最終的な責任は引地にある』と言葉だけで済ませようとは思っていません。上辺だけで済ませれば、また同じ過ちが繰り返されます。その意味で第三者委員会は大きな意味を持っています。検証の結果を待ち、原因を指摘してもらい、再発防止に向けた意見を客観的に出してもらう。その上で、町執行部で必要な対策を行い、町政への責任を果たしていくことが大切なのだと考えます」

 ※以下は11月13日に送った質問への文書回答。

 ――第三者委員会の委員2人が辞任しました。検証の半ばで過半数の委員が辞任したことについて、受け止めを教えてください。検証への影響も教えてください。

 「誠意をもって対応し、委員におかれましては直前まで委員会へ出席の意向でしたので、突然の辞任で驚いています。辞任の理由は分かりません。検証への影響は、今回委員会が中断してしまったので、検証が遅れる影響があったと考えます。速やかに後任を人選し、対応しています」

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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