【自民党裏金疑惑】福島県政界への影響

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 自民党派閥の政治資金パーティー収入を巡る裏金疑惑。疑惑の背景や本県への影響、さらには野党が台頭できない理由などについて、東北大学大学院情報科学研究科准教授で、政治学が専門の河村和徳氏に解説してもらった。(志賀)

河村和徳東北大准教授に聞く

河村和徳東北大准教授に聞く
河村和徳東北大准教授

 裏金疑惑が表面化した発端は、2022年11月にしんぶん赤旗日曜版が掲載した調査報道記事と、それを受けて独自調査を行った上脇博之・神戸学院大教授の告発状だった。

 自民党5派閥が政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に過小記載していたとする内容で、今年11月には東京地検特捜部が担当者への任意の事情聴取を進めていることが報じられた。

 その後、5派閥の中でも最大会派である安倍派の2021年政治資金パーティーの収入額が著しく少ないこと、さらには議員ごとにパーティー券の販売ノルマが設定されており、ノルマを超えた分の収入を議員側に還流(キックバック)していたことが報道により明らかにされた。

 政治資金収支報告書に記載されず〝裏金〟と化した金額は5年間で5億円に上り、議員ごとの金額は数千万円から数万円と差があるものの、所属議員の大半が受領したとみられている。12月14日には岸田文雄首相が安倍派所属の閣僚4人、副大臣5人を事実上更迭した。

 県関係国会議員のうち、安倍派に所属するのは衆院議員の亀岡偉民氏(5期、比例東北ブロック)、上杉謙太郎氏(2期、比例東北ブロック)、菅家一郎氏(4期、比例東北ブロック)、吉野正芳氏(8期、旧福島5区)、参院議員の森雅子氏(3期、県選挙区)。ちなみに衆院議員の根本匠氏(9期、旧福島2区)は岸田派、参院議員の佐藤正久氏(3期、比例)は茂木派、星北斗氏(1期、県選挙区)は無派閥。

 自民党県連会長の亀岡氏は12月16日、自身の連合後援会会合で、「自民党所属の県関係国会議員に疑惑について聞き取りをしたところ、確認が取れた議員全員が『裏金はやっておりません』としっかり返事していた」と話したという(福島民報12月17日付)。確認が取れた議員数は「9割程度」とのことで、自らの疑惑も否定した。

自民党県連会長を務める亀岡偉民氏
自民党県連会長を務める亀岡偉民氏

 安倍派の衆院議員・宮沢博行氏(比例東海ブロック)は派閥から〝かん口令〟が出されていることを明かしていたが、亀岡氏は「口止めはないと思う」と答えた。「安倍派所属議員の大半が受領した」という情報は誤りなのか。12月19日には東京地検特捜部が安倍派と二階派の事務所の家宅捜索を行い、複数の議員秘書や受領したとされる議員にも取り調べを行っているというので、今後新たな情報が出てくる可能性もある。

 政治学の専門家は現在進行形の疑惑についてどう見ているのか。東北大学大学院情報科学研究科准教授の河村和徳氏は次のように語る。

 「国民はインボイスやマイナンバーカードへの対応を迫られているのに、国会議員が不透明な手書きの政治資金収支報告書を使い続けていいという話はない。多数の記載漏れがスルーされていたことを踏まえ、この機会にデジタル化に踏み切るべきだと考えます。お金の出し入れがあった時点で自動的に記録される仕組みにすれば、記載漏れは起こりえない。マスコミなどでの検証もやりやすくなるので、チェック体制が整えられると思います」

 「安倍派重鎮の森喜朗元首相の力が大きすぎたため、所属議員のタガが外されたのではないか」と指摘し、本県関係国会議員が裏金を受け取っていたかどうかは「今の段階では何とも言えない」としながらも、「次期衆院選への影響はとてつもなく大きいだろう」と分析する。

 「亀岡氏は福島新1区で対決する立憲民主党の金子恵美氏(3期、旧福島1区)になかなか勝てていないし、根本氏は福島新2区で玄葉光一郎氏(10期、旧福島3区)と激突することになり、正念場を迎える。菅家氏は立憲民主党の小熊慎司氏(4期、旧福島4区)に勝ったり負けたりを繰り返しており今一つ。吉野氏は健康状態に不安を抱える。彼らが裏金を受け取っていないのか判然としませんが、県議選の時点ですでに岸田政権・自民党への逆風ムードが漂っていたことを考えると、次期衆院選はかなりの苦戦を強いられると思われます」

 時事通信が12月8~11日に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は17・1%で、2012年12月の自民党政権復帰後の調査で最低を更新した。内閣支持率2割台以下は政権維持の危険水域とされる。自民党議員にとって、大きな逆風となりそうだ。

 加えて裏金疑惑が地方議会レベルにも波及する可能性を指摘する。

 「中選挙区時代、国会議員と地方議会議員はギブアンドテイクの関係で戦っていた。その名残は小選挙区比例代表並立制となった今も残っている。実際、元新潟県知事で衆院議員の泉田裕彦氏(比例北陸信越ブロック)が衆院選に立候補時、自民党県議から献金を要求されたことが話題になりました。国会議員の懐に入った裏金の使い道を考えるうえで、地方議会議員や県連に対する寄付を疑うのは自然なこと。裏金疑惑が騒動になり、全国の県連、県議が慌てて政治資金収支報告書をチェックし、訂正しているところです。福島県も他人事ではないと思います」

 この言葉通り、12月20日には自民党宮城県連に所属する県議4人が県連から受け取った寄付金を政治資金収支報告書に記載しておらず、報告書を訂正していたことが分かった。同県連によると、寄付金は安倍派と同様の構図で、同県連が開いた政治資金パーティーの収入からキックバックしたものだという。

 本県においても、自民党県連が2022年分の政治資金収支報告書について、20万円を超える政治資金パーティー券を購入した4団体の名前の記載漏れがあったとして、県選挙管理委員会に訂正を届け出た(12月12日付)。パーティー券購入団体からの指摘を受けて不記載が判明したもの。政治資金規正法では政治資金パーティーについて20万円超の収入は支払者の氏名などを収支報告書に記載するよう定めている。ただ、全体の収支金額は変わらないという。

追及しきれない野党

【追及しきれない野党】玄葉光一郎氏
玄葉光一郎氏

 報道を通して伝わってくる自民党の内情にはただただ呆れるばかりだが、それ以上に驚かされるのは、それを追及しきれない野党の存在感の無さだ。

 東京地検特捜部の捜査やそのリークを基にしたマスコミのニュースは大きく話題になる一方で、事ここに及んでも、岸田首相退陣、さらには「自民党には任せておけない」という機運が盛り上がっていないように感じる。

 河村氏はその理由を「前述した政治資金収支報告書のデジタル化など、具体的な制度の変更を野党が発信しないからだ」と分析する。

 「政府・与党で不祥事が発覚したとき、野党がきちんと改革案を出せるかがポイントになる。なぜなら、改革案を出さないと『野党も実は自民党と同じようにキックバックで裏金を作っていたんじゃないの』と有権者に見られてしまうからです。特に一番危機感を持つべきなのは、小沢一郎氏(18期、比例東北ブロック)など自民党経験者で、自民党のノウハウを継承しているとみられる政治家たちでしょう。玄葉光一郎氏だって県議時代は自民党に所属していたわけだから、何も発言しなければ〝同じ穴のムジナ〟と見られてしまいます」

 野党の存在感の無さの象徴として河村准教授が指摘するのは、調査力の弱さだ。優秀な政治家は独自の調査組織を持ち、企業関係者や大学教授などのブレーンを抱えている。

 ところが、現在の野党は降って湧いた週刊誌・新聞ネタを追随して追及するばかり。だから「与党の揚げ足取り」というイメージを払しょくできない。

 「特に玄葉氏は30年以上議員をやっているが、政策提言する『チーム玄葉』のような形が見えてこない。最近では、元外相としてテレビで解説する姿を目にするようになっており、これでは過去の政治家と見られてしまう。一方、日本維新の会は価値観的には自民党とそんなに変わらないが、改革路線を打ち出し、40~50代の現役世代が党の主要ポストに就いている点が支持されている。かつてこの世代の受け皿になっていたのは旧民主党でしたが、所属メンバーが年齢を重ねたことでこの世代の共感を得にくくなっていると考えられます。若手の育成ができなかったのが、いまになって響いているのではないでしょうか」

 玄葉衆院議員に関しては数年前から知事転身説が囁かれている。本誌2023年8月号で、玄葉衆院議員は次のように語っている。

 「確かに皆さんのところを回っていると『首相になれないなら知事選に』と言われます。ただ、今後どうしていくかはこれからの話。いずれにしても、まずは次の総選挙です。選挙区で勝たないと、自分にとっての『次の展望』はない。選挙区で必ず勝つ。そうでないと『次の展望』もないと思っています」

 周囲から知事転身を勧められていることを認めつつ、明確には言及しなかったわけだが、仮に知事選に転身することがあればかなり苦労するのではないか、というのが河村氏の見立てだ。

内堀県政の限界

内堀県政の限界

 「福島県は原発事故をめぐって、国との交渉の機会が多い。現知事の内堀雅雄氏は副知事時代も含め、当時の経緯をすべて知っているので、国に対してファイティングポーズを取りつつ国と交渉できるタフネゴシエーターです。名護市辺野古への新基地建設問題をめぐって政府と対立した沖縄県のような、決定的な亀裂は生じさせない。属人的な仕事ぶりで国との交渉を乗り切ってきたと言えます。仮に国会議員や県議が後釜に就いたところで、『あなたは内堀氏ほど仕事ができますか?』という問いを突き付けられることになる。野党の国会議員となると、なおさらでしょう」

 一方で、内堀県政についてはこのようにも話す。

 「元自治・総務官僚ならではのバランスの良さ、手堅さは評価されるが、それは一部からの批判を受けるかもしれない大胆な提案はなかなかしないことと裏腹と言える。例えば、浜通りを舞台につくば市のスーパーシティ特区のような大胆な取り組みをやってもよかったですよね。でも、そうすると『浜通りにばっかり力を入れて』と批判されることになる。そういう意味で、県議や県民からアイデアを募り競争させ、県の振興につなげる仕組みを仕掛けるべきかと思います。行政頼みの福島再生に陥らないようにするのが内堀県政の最大の課題かなと感じます」

 自民党の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑とともに幕を開けた2024年。9月には自民党総裁選が控えている。

 支持率が低迷する岸田氏が総裁選に出馬できるのか、それとも断念するのか。裏金問題で大量の辞職者が出て、全国のあちらこちらで補選が行われることも考えられる。

 もちろん、衆院が解散される可能性もある。東京地検特捜部の今後の捜査の展開や政治資金関係の改革の状況によって、福島県政界にも影響は及びそうだ。

この記事を書いた人

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志賀哲也

しが・てつや 1980(昭和55)年生まれ。福島市出身。 大手食品スーパーで勤務後、東邦出版に入社。 【最近担当した主な記事】 南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き(2023年7月号) 相馬市の醤油醸造業者が殊勲(2023年5月号) 趣味はラジオ鑑賞、SNSウオッチング

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